【医師監修】妊娠中のセックス(性行為)は大丈夫?妊娠初期やおなかが張った時は?
妊娠中のセックス(性行為)って、どうすれば良いの? しても大丈夫? と人知れず悩んでいる妊婦さん、実は多いのでは? 今回は、他人に聞きづらい「妊娠中の夫婦の営み」について、そのリスクにも触れながら、気になるポイントをご紹介します。
妊娠中のセックスは大丈夫?
妊活や出産後のセックスについては情報がたくさんあるのに、妊娠中のセックスはあまり話題にあがりません。妊娠中のセックスが安全かどうかについての情報が少なく、しても良いのかどうか、不安を抱いているカップルは少なくないのではないでしょうか。
基本的には問題なし。気になるなら健診で相談
妊娠中のセックスの安全性について、米国産科婦人科学会(ACOG)は「産科医などの医療従事者からとめられていない限り、妊娠期間を通じてセックスをしてもよい」との見解を示しています[*1]。
また、米国有数の大規模医療機関であるメイヨー・クリニックも、胎児は子宮内の羊水と強い筋肉で守られており、「早産のリスクや胎盤の問題などの合併症がない限り、妊娠中の性行為は胎児に影響を与えないでしょう」と説明しています[*2]。
日本産科婦人科学会が監修している『Human+Baby+お医者さんがつくった妊娠・出産の本』でも、「安静が必要な場合でなければ、セックスは基本的にかまいません。つわりで体調がすぐれない、おなかが張る、痛みを感じるなどの症状があれば無理せず、しばらく休んで様子をみましょう」としています。
まとめると、流産や早産などのリスクが低ければ、妊娠中のセックスの安全性について過剰に心配する必要はないようです。一人(または夫婦)で悩んでいるより、妊婦健診の際などに、主治医や助産師さんに相談してみてはいかがでしょうか。
途中でもお腹の強い張りを感じた時はストップ!
セックスの途中でお腹の張りや痛み、腟からの出血や分泌物など異常な症状があった場合は、セックスを中断して医療機関を早めに受診しましょう。
セックスの後も下腹部(子宮あたり)に違和感や痛みを感じる、お腹を触ると固くなっている、お腹の張りが続いている場合も、早めに診察を受けましょう。
妊婦に負担のない体位を
妊娠中のセックスで一番良い体位が何かということも気になりますが、女性が快適であれば、ほとんどの体位は問題ないとされています[*2]。
なお、少し古い研究ですが、日本人の夫婦25組を対象に妊娠中の性生活を調べた報告研究[*3]によると、妊婦さんの悩みとして妊娠中期・後期になると「体位がワンパターン」が増えています。妊娠が進むにつれてお腹が大きくなるため、パートナーと協力して、妊娠の時期に応じて負担のない心地よい体位を探す工夫してみてください。
妊娠中でもコンドームは必要?
妊娠中のセックスが赤ちゃんに影響するのではと心配な人もいるでしょう。一方で、妊娠中は避妊具が必要ないと思っているケースも。
胎児は羊膜と子宮の強い筋肉によって守られており[*4]、また性交中に陰茎が胎児と接触することはありません。しかし、赤ちゃんを守るためにはコンドームを付ける必要があります。
オーラルセックスは避けコンドームを使用する
『赤ちゃんとお母さんの感染予防対策5ヵ条」(日本周産期・新生児医学会、日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、2013年)』では、妊娠中に感染症が母体から赤ちゃんにうつる可能性もあるため「妊娠中の性生活では、コンドームを着用し、オーラルセックスは避けましょう」としています。
感染症予防のほかにも、分娩を引き起こす物質が精液に含まれているため、コンドームを使用したほうが良いということも知られています。コンドームを着けないでセックスをするとこの精液中に含まれる物質のために頸管が早期に熟化して、早産につながるおそれがあると言われているからです[*5]。
このように、妊娠中は避妊の必要がなくても、感染症と早産予防のために必ずコンドームを使用するようにしましょう。また、感染症予防の点から、オーラルセックスだけでなく、肛門性交もリスクがあると言えるので避けた方が良いでしょう。
セックスを控える必要があるケース7つ
妊婦さんの状態によっては妊娠中のセックスを控える必要があります。具体的には以下に該当する場合です[*2]。
(1)過去に流産したことがある、あるいは流産のおそれがある
(2)過去に早産した(37週未満の出産)または早産リスクが高いことを示す徴候がある(例えば、早期子宮収縮)
(3)原因不明の腟出血・分泌、または激しい腹痛がある
(4)羊水の漏れがある
(5)前置胎盤(胎盤が子宮下部、特に内子宮口にまたがるように付着する異常)
(6)子宮頸管無力症(子宮頸部が弱くなり、早期に子宮口が開いてしまい、流産や早産のリスクが高まる疾患)
(7)多胎(双子、三つ子など)
これらに当てはまる妊婦さんはとくに、事前に医療機関でよく相談しておいたほうが良いでしょう。
妊娠初期の性行為について
妊娠がわかって間もないころは特に何かと不安になるものです。それでは妊娠初期のセックスについてはどうなのでしょうか。
流産の主な原因は性行為とは無関係
セックスをしたことで流産を引き起こさないのか?と心配する女性は少なくないと思います。
米国で小児の健康医療サービスを提供する非営利団体ヌムール財団が運営するサイトKidsHealthでは、リスクの低い正常な妊娠であれば、セックスは流産や子宮の収縮を引き起こさないとしています[*4]。
また、メイヨー・クリニックでは「妊娠中のセックスで流産が起こることはなく、流産の多くは胎児が正常に発達していないために起こる」と説明しています[*2]。日本でも、流産の約8割は妊娠12週未満に起こる早期流産であり、その主な原因は赤ちゃん自身の染色体異常などによるものとされています[*6]。
妊娠初期のセックスが心理的負担につながることも
妊娠中のセックスで大切なポイントは無理をしないことです。特に流産しやすい妊娠初期はできればセックスを避けることをお勧めします。
妊娠初期に起こる早期流産の原因で最も多いのは赤ちゃん側の異常ですが、妊娠初期にセックスをしていた場合、それが流産の原因ではないかと思い悩み、本人やパートナーが自分や相手を責めるなど心理的負担につながることも考えられます。
セックスをするときは妊婦さんと赤ちゃんがいまどんな状態かを考えて、くれぐれも無理をしないことが大切です。
臨月に入ってからも注意が必要
出産を控え、お腹が大きくなった臨月でも注意が必要です。
前出のKidsHealthでは、性交中やオルガスム後に感じる子宮の収縮は、分娩時の収縮とはまったく異なるものであるとしています 。ただし、精液の中に子宮の収縮を促す物質が含まれているため、医師や助産師は通常、万一に備えて、すべての妊婦に対して、だいたい臨月に入ったらセックスをしないように勧めているとのことです[*4]。
変化する「妊婦の性欲」 乗り気じゃない時は?
妊娠中はいろいろな要因によって性生活が変わります。その1つは妊娠した女性側の性欲の変化です[*4]。
個人差はあるかと思いますが、倦怠感、食欲不振・吐き気・嘔吐などつわりの症状、乳房の張り・痛みなどが現れる妊娠初期では、セックスする気になれない妊婦さんは多いでしょう。妊娠中期に入るとこれらの症状が軽減するので、性欲が高まる女性もいます。その後、お腹が大きくなり、出産の現実味が増してくる妊娠後期になるとふたたび性欲が減退する傾向にあるようです。
ではパートナーの性欲は? 男性の性欲も妊娠期間に強くなったり弱くなったりする傾向があり、妊婦となったパートナーにより親近感をもつ男性もいれば、父親になることへの不安、母体と胎児の健康が気になって性欲が落ちる男性もいます。また、女性を母親として見るようになり、性的パートナーとみなすのが難しくなる男性もいて、男性によっていろいろなようです。
お互いに妊娠中は性欲が変わりやすいことを知っておき、セックスに限らず親密さを深めるコミュニケーション方法について、できるだけオープンに話し合うことでこれらの問題にうまく対応していきましょう。
気分が乗らない時に無理は禁物!
妊娠中にセックスをしたくない場合、パートナーの期待に応えようと無理にセックスをする必要はありません。妊娠中は性欲が変化しやすく、お腹が大きくなるにつれてセックスを不快に感じる妊婦さんも多いのです。
お互いのニーズや問題、悩みを共有しながら、セックスが難しいときは、キス、愛撫、抱擁など、愛情を表現する他の方法を試してみましょう。
まとめ
妊娠中は母体と赤ちゃんへの感染を予防するために、コンドームを着用し、心身に負担のない範囲でセックスをするようにしましょう。ただし、性的な親密さはセックス以外の手段でも深められます。パートナーとよく話し合ってお互い理解することで、この時期をきっかけに今まで以上に愛情のある仲良しを楽しめるようになるでしょう。
⻑いようであっという間に訪れる赤ちゃんとのご対面まで、楽しい夫婦生活を送ってください。
(文:小林晋三/毎日新聞出版MMJ編集部/監修:浅川恭行先生)
※画像はイメージです
[*1]米国産科婦人科学会ウェブサイト
[*2]MAYO CLINICウェブサイト
[*3]平山ら、東京医科大学病院看護研究集録,16,98-103 (1996-03-00)
[*4]Kids Healthウェブサイト
[*5]寺尾. 日本産科婦人科学会雑誌. 1996;48:660-665
[*6]公益社団法人 日本産科婦人科学会「流産・切迫流産」
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます