「会社の前例になって」と夫に1ヶ月の育休取得を無茶ぶり! ひと悶着を何度も解決してきた下村夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
ともに29歳のころ、マッチングアプリで出会い、交際して4ヶ月で同棲。お酒と野球という共通の趣味があり、「一緒にいて楽しくて」と半年後に結婚した。現在は1歳9ヶ月の息子さんを育てながら、良助さんは専門商社の営業、香織さんは人材サービス企業の制作ディレクターとして働く忙しい日々を送っている。
気の置けない同志のような仲良し夫婦だが、お互いに譲れないこともあるという。たとえば妊娠が分かった後、「ひとりで育てるのは嫌だし不公平だ」と、良助さんに育休取得を希望。「うちの会社では育休は1週間で、それ以上は前例がない」と抵抗する良助さんに、「だったらあなたが前例になればいい」と譲らず、ついに1ヶ月の育休を取ってもらったそうだ。
「会社に申請するときには緊張しましたが、社会的に男性育休を奨励する風潮がある中、社員の育休取得実績にもなるため、意外とすんなり認めてもらえました。言ってみるもんですね」と良助さん。乳児期に夜間も夫婦交代で起きて育児をしたことで、「パパひとりでも問題なく育児を担えるようになったことは大きな収穫だったと思います」と香織さんは満足そうに話してくれた。
おかげでスタートから平等な育児分担ができたと話す下村夫妻が、ときにぶつかり合いながら、お互いを尊重し合い、幸福に暮らしていくために築き上げたセブンルールを聞いた。
7ルール-1 生活費は折半する
お互いが納得感を得られるように、お金や仕事・家事育児の時間に関してはきっちり数字で出している下村夫妻。
もともと仕事面では、「趣味やプライベートも楽しめるよう、ほどほどに働きたい」という良助さんに対し、香織さんのほうが向上心が高かったそう。
そのため、「なるべく自分の稼いだお金は自分で使えるようにすることで、お互いにストレスのない生活を送れるように、そしてどちらかに何かあっても家計を守れるように」と、家計を50%ずつ負担していた。
「住居費込みの生活費を予め30万円ほどに設定して、半分ずつ負担し、レジャー費用はその場で折半。たまに行く旅行などは、家計の貯金から出していました」(香織さん)
そのほか、子どもの学費として児童手当の貯金と保険で積み立て、老後については各自で賄えるよう、各々でつみたてNISAや保険を用意している。
ただし、香織さんの育児休業中の生活費については、ひと悶着あったそう。
「私の育児休業手当と夫の給与がほぼ同額だったので、夫から『育児休業中も生活費はこれまで通り折半でいいよね』と言われたのですが、それはおかしいと思ったんです。私は長期の育休を取ることで収入が7割ほどに減ってしまうのに、同じというのは納得がいかなくて。そこで、育児休業による損失分(本来なら私が稼げてたはずのお金)である3割の1/2を夫に多く負担してもらうスタイルに切り替えました」(香織さん)
育休によってボーナスもなくなるため、その分も良助さんに多めに入れてもらったとのこと。
「僕はそこまで深く考えずに『今まで通りで』と言ったのですが、妻の意見はもっともだと思って同意しました。実際のところ、妻は育休中にハードだった前職を辞めて、オンラインでプログラミングの勉強をし、育児と両立できる、より条件の良いところに再就職しました。すごくがんばっていると思います」(良助さん)
家計負担で納得がいっていないと、仕事へのモチベーションを下げることにもつながりかねない。不満を隠さずに話し合えたことに、お互いに納得しているようだ。
7ルール-2 時短家電は迷わず購入する
家計を折半する下村家では、ほしいものがあれば相手を説得した上で購入する。産後は、香織さんの希望で調理家電を購入することが増えたという。
「うちでは料理まわりは私、掃除は夫という大まかな家事分担をしているのですが、育児を始めてみたら、料理をする時間がないんですよね。そこで、料理の時短ができるシャープの『ヘルシオ ホットクック』や、東芝のオーブンレンジ『石窯ドーム』を購入しました。週に1回、安いスーパーで食材をまとめ買いして冷凍し、子どもを寝かしつけたりしている間にささっと調理しています」(香織さん)
調理家電を増やしたことで、時間だけでなく心の余裕も生まれたという。今後は良助さんが担当する掃除の時短のために、ロボット掃除機の「ルンバ」と「ブラーバ」も購入したいと考えているそうだ。
7ルール-3 育児はなるべく2人で一緒に
香織さんが良助さんに1ヶ月の育児休暇の取得を勧めたのは、育児負担が偏らないようにすることだけが目的ではない。出産後の生活を想像してみて「やることが多そう、というのもあるけれど、1秒も気を抜ける時間がないのがつらそうだなって思ってました。きっと私は、24時間ひとりでずっと子どもを見ている日々が続くと、精神的に追い詰められてしまう」と漠然と不安に感じていたからだ。
実際我が子が生まれてから、1歳9か月になる今まで、本当に大変なことの連続だ。だからこそ、今も「育児をなるべくひとりに任せない」ことを意識している。土日は家族一緒に過ごすようにしているのもそのためだ。
「平日は子どもを保育園に預けているし、仕事で忙しかったりするので、土日は家族で近くの動物園に行ったり、一緒にゆっくりご飯を食べたりして過ごしています。午前中はお互いに交代で趣味の時間を作ってリフレッシュして、午後から子どもとおでかけというのが定番ですね。今度は息子が好きな『トミカ博 in TOKYO』に行く予定です!(編集部注:イベントはすでに終了)」(香織さん)
もともと友人と遊びに出かけたり飲みに行ったりするのが好きな香織さん。土日にひとりで出かけることもたまにはあるが、「その場合も、家事はあらかた済ませてから出かけるようにしています」(香織さん)。
良助さんが平日に趣味の筋トレのためにジムに行くときも、決められた日以外は保育園のお迎えや寝るまでの子どものお世話を香織さんと一緒にしたあとに出かけているという。
お互いに気遣えるのも、良助さんがスタートから1ヶ月の育児休暇を取得して、自分ごととして育児を担ってきたからだろう。
7ルール-4 月1回はデートする
そんな夫婦の円満の秘訣といえるのが、このルールだ。
子どもが生まれると生活するだけで精一杯で、夫婦でゆっくり会話をする時間がなくなってしまう。そこで、月に1度は香織さんの実家に息子を預けて、夫婦の時間を取るようにしているという。
「実家に子どもだけ預けてみたら、両親が思った以上に喜んでくれた、というのも続けられている理由です。この日だけは、夫と野球の試合観戦や映画に行ったり、夏にはビアガーデンに行ったりと、小さい子どもといるとできないことを楽しんでいます」(香織さん)
話題はお互いの趣味の話から仕事の話題、時事問題など多岐にわたるが、子どもの写真を見ながら「あのときはこんな感じだったね~」と盛り上がることも多いそう。
「子どもの話をするにしても、子どもがその場にいないことで気持ちに余裕があるんですよね。妻とはもともと飲み友だちのような関係から始まったので、そのころに戻ったような感じがして、新鮮です」(良助さん)
7ルール-5 家事・育児はできるほうがやる
お金のルールでは50%だが、家事・育児では半々にこだわらないのが下村家流。「だいたいの分担はありますが、そのときできるほうがやり、多く負担したほうに自由時間をあげるように調整しています」と良助さん。
現在の分担は、香織さんの担当が朝の登園準備と週3回程度のお迎え(うち1回は夜のワンオペ)、料理、備品類の買い出しなど。良助さんは、ゴミ出し、香織さんが対応できない日の登園準備、日々の掃除、週2回程度のお迎え(うち1日は夜ワンオペ)、子ども用品や衣類の洗濯を担っている。
朝が苦手な良助さんの代わりに、朝の準備は基本的には香織さん。掃除が苦手な香織さんの代わりに、掃除は良助さんが負担するというように、お互いに苦手なことをフォローし合うスタイルだが、自宅勤務の香織さんのほうがどうしても負担が多くなりやすい。「そのため、夫のスケジュールを考慮しつつ、週に1、2回は友人と飲みに出かけたり、残業をしたりと、夫より自由にさせてもらっています」と香織さん。
「朝の登園準備は妻」など、決めつけすぎず、できるときに負担するという緩やかな分担が夫婦にはしっくりきているようだ。
7ルール-6 【夫】仕事終わりの直ジムは週1まで
以前までは、良助さんは週2回、残業または仕事帰りにジムに直行してOK、香織さんは木曜日の夜に加え、場合によって土日に自由時間を持ってOKということにしていたそう。
ただ子供が成長して体力がつくにつれて、親もお世話に体力を消耗しがちになってきた。そのため、香織さんが良助さんに「週1回のジム直行+一度帰宅してお世話が終わってからのジム」に変更して欲しいと頼むと、「話が違う」とケンカに発展してしまった。
「そんなに飲みに行ったりするほうではないので、ジムの時間だけは確保したくて。もともとは週2回行っていいことになっていたのに、急にだめと言われてこちらもカチンと来てしまったんですよね」(良助さん)
香織さんには、「週2直ジムがOKだったときは、今ほどお世話に体力を使わなかったので大丈夫だったのですが、状況が変わったんです」という言い分があったが、お互いに反省もあったそう。
「自分の言い分や正論で相手を論破するのではなく、お互いに納得して、気持ち良く分担できることが大切だと気づいたんです。そのために、現状を洗い出し、必要に応じて問題を数値化すること、反発の本質をさぐり、お互いに譲れない点をはっきりさせて落としどころを見つける努力をするようになりました」(香織さん)
結果、お互いに週1だけは平日夜に自由にして良いということに落ち着き、良助さんは「週1直ジム&お世話終わりのジム」が基本に。しかし、残業や接待でお世話ができなかった場合にも、週1回は「直ジム」に行っていいこととした。その場合は、朝のお世話を多めにする、香織さんが土日に自由時間を持てるようにするなど、香織さんの負担も軽減させることで合意した。
「帰宅後に子どもの世話をしてからジムに行きたい日は、子どもの寝る支度までなるべく早く終わるように考えて動いています。率先して世話をすることのモチベーションにもつながっていますね(笑)」(良助さん)
最初はきついと思っても、納得してルール化することで、その中でいかにうまく行動できるか考えるようになる。そのためにも、お互いに意見をぶつけ合い、一緒に落としどころを見つけていく時間が下村夫婦には欠かせないようだ。
7ルール-7 【妻】 子どもの動画を毎日撮影し、写真共有アプリにアップする
香織さんは各々の両親に成長記録を見せるため、家族アルバムアプリの『みてね』を使用している。忙しく、コロナ禍もあり、特に離れて暮らす良助さんの両親にはなかなか会えない日々が続いたことから始めたという。
「『みてね』のいいところは、コメント欄で会話もできること。少しでもお互いの家族がコミュニケーションできる場があればと思い、がんばって更新しています。近くに住む祖父母も、『かわいい姿が見たいからぜひ会いたい、お世話したい!』と言ってくれて、助かってます」(香織さん)
写真と動画はアプリからいつでもダウンロードできるため、手元のスマホからは潔く削除できる点もメリットに感じているそうだ。
彼らの7ルールを一言で言うと……?
下村夫婦が意識しているのは、「お互いに気持ちよく分担すること」だ。
不満は溜めずに言い合いつつ、どうすれば自分や相手が納得できるかを一緒に考え、落としどころを見つけていく。
「できるだけ不公平をなくしながら、自分と同じことを相手に求めるのではなく、相手が何を求めているかを考えます。お互いに違う人間であることを理解し合うことが必要だと思っています」(香織さん)
良助さんも、「子どもが生まれると育児が中心の生活にはなりますが、妻とこれからも仲良くしていきたいという想いは変わらないので、しっかり向き合っていきたいですね」とうなずく。
確かに、平等であることだけがすべてではない。偏りがあってもなくても、お互いに納得できていて、相手を思いやる関係であることが重要だろう。つまり、夫婦のセブンルールが正しいかどうかではなく、問題はそれがふたりにとって心地よいかどうかなのだ。
だからこそ、仕事と育児の両立でどんなに忙しい日々でも、夫婦のコミュニケーションを後回しにしてはいけない。「これからは子どもにできるだけ多くの経験をさせてあげたい」と笑顔で語り合う下村夫婦から、大切なことを教わった気がした。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)