妻の4度の転職を経て夫婦で辿りついた「人生一度きり」という考え方 伊藤夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
共働き育児が当たり前の世の中になったとはいえ、誰もが育児と仕事をうまく両立できるとは限らない。「両方常に100%!」というわけにはいかず、よりよい環境を模索する人も少なくない。
伊藤麻美さんもその一人だ。大学時代に知り合った宏之さんが地方に赴任し、遠距離恋愛に。結婚・引っ越しに伴い麻美さんは総合商社の正社員を退職。地元企業に契約社員として再就職した。翌年、第1子を出産すると、宏之さんの転職に伴い首都圏に戻ることになり、麻美さんは再び転職活動を行うことに。育児中ということもあってなかなか思うような仕事に就けず、合計4度の転職を経て、現在はようやく希望の仕事で正社員として働いている。
この経験を経て、麻美さんが思うのは「子どもを保育園に預けて働くなら、仕事も妥協したくない」というもの。子どもを預けている時間に、自分が楽しいと思えない仕事をしていると、子どもに申し訳ないし、何より自分が残念に感じてしまう。それなら、たとえ負担が増えたとしても自分が本当にやりたい仕事を探すべきだ――。
そんな想いを叶えるために道を模索してきた麻美さんと、自らも転職を経験し、同じように感じている宏之さん。7歳と3歳、ふたりのお子さんを育てながら、家族それぞれが充実して生きるためのセブンルールを聞いた。
7ルール-1 どちらも主体的に動く
結婚当初、宏之さんは帰宅時間が日付を超えることや土日出勤することが多く、家事はほとんど麻美さん担当だったそう。だが、宏之さんが転職したことで以前よりもワークライフバランスのよい環境になり、家事育児はどちらも「できる人が、できるときに動く」というのが基本的なルールとなった。
とはいえ、宏之さんはひとり暮らし歴が長く、器用になんでもそつなくこなすタイプ。そのため、お互いにフルタイム勤務の現在は、宏之さんいわく10対0(麻美さん目線では6対4)で、宏之さんが家事を担当しているという。
「子どもの世話や寝かしつけを妻がしてくれることが多いので、その間に僕が料理をしたり、掃除・洗濯をしたり。料理は僕がしたいと思ってやっていますし、部屋が散らかっているのも僕のほうが気になるほうなので、自然と僕がやることが増えますね」(宏之さん)
麻美さんは、「1人目を出産して地方にいた頃は、私がほとんど家事をしていたんですよ。でも、子どもが2人になると、家にいるときは子どもの世話だけで手一杯で……。だんだん夫の家事分担が増えていって、今に至るという感じです(笑)」と振り返る。
子育ては麻美さんに頼り切りなのかというとそんなことはなく、宏之さんも手が空いたときや休日にはたっぷり子どもたちの相手をしている。子どもたちもパパが大好きだという。
「私のほうが育児でストレスをためやすいタイプなのかもしれません。私が子どもたちを叱ると、夫がなだめにくることが多いですね」と麻美さん。
役割分担を決めすぎず、できるほうが動く。そうすることで、今は家事負担が宏之さんのほうが多くても、子どもの成長とともにまた状況は変わる。その共通認識があればお互いに(ある程度)納得できるのだろう。
7ルール-2 料理はできるだけ手作り
子どもが小さい共働き家庭では、時短のために料理キットや冷凍食品、お惣菜を活用する場合が多い。
と、読者の共働き夫婦の皆さんのハードルを上げないように前置きしたのは、伊藤夫婦がむしろ例外だから。
「僕が手作りのものを家で食べるのが好きなので、なるべく手作りするようにしています。週末に食材をまとめ買いして、ホワイトボードに1週間分のメニューを書いておくんです。それで、週末のうちにある程度下ごしらえをして、前日の夜にあとは焼くだけ、味噌汁の味噌を溶くだけ、というところまで作っておきます。当日の仕上げは仕事が早く終わったほうがしますが、妻が仕上げをするときも、ホワイトボードにメニューを書いているので何をしたらよいか迷うことはないようです」(宏之さん)
これを聞いて、「夫は器用なタイプ」という麻美さんの言葉が理解できた。私だって、まとめ買いもホワイトボードのメニュー表も作り置きも、試したことがある。でも、続かなかった。できる人が家族にいるなら、健康面でも家計面でもいいルールなのは間違いない。
「たまに週末のランチがテイクアウトや外食になりますが、あっても2週に1度くらい。もっと増やしてもいい気もしますが、夫が手作りにしたいと思っていて、夫自身が台所に立って作ってくれるので、私としては問題ないですね」(麻美さん)
料理をしないほうが「子どものために手作りを」と言うのは許されないが、自分でやるならよし、ということだろう。
7ルール-3 お財布はひとつ
共働き夫婦ではお財布はそれぞれが管理している場合も多いが、伊藤家では夫婦共同。結婚当初から、家や子どもに掛かる費用をひとつの口座から一括管理しているという。口座を管理しているのは麻美さんだ。
いわゆる「おこづかい制」だが、「『おこづかい』という言葉には抵抗があるので、自分の分は『給料』だと思っています」と宏之さん。
「妻は貯金が趣味なんですよ。僕は投資もしたほうがいいと思うのですが、妻の性格的に僕に勧められたらやる、というタイプではなくて、自分がいいと思って調べて納得しないと始めない人なので、静観しています(笑)」(宏之さん)
教育費は、毎月固定で他の口座に分けているとのこと。投資については「少し落ち着いたら、ですね」と麻美さん。宏之さんは、家計に影響のない自分の分の「給料」で個人的に株式を購入しているそうだ。
7ルール-4 休日は休養第一
「休日は子どもとの時間を大事にしたいので、動画やテレビを見せるのも1日30分ずつ、朝と晩のみ。大人も日中は基本的にスマホやテレビは見ないで、子どもと遊んだり話したりすることを大切にしています」(宏之さん)
朝は子どもと同じ時間帯に起き、朝食のあとは家族そろって公園へ。その後、家に帰って宏之さん手作りのランチを食べ、下の子が昼寝をしている間に親のどちらかが買い出しに出かけたり、長女とのんびり過ごしたりする。
「子どものリクエストがあれば出かけることもありますが、基本的には休日は家族皆が休養することを大切にしています。無理して出かけると、子どもが体調を崩してしまう心配があるので。遠出をするときにも、土日どちらかだけで、1日は休養に使っています」(麻美さん)
土日は充電期間と決めた上で、だらだらとスマホを見るのではなく、子ども中心に過ごす。夫婦ともにフルタイムで働いているからこそ、このルールが重要になる。小さい子どもは急に体調を崩すことも多いが、土日にしっかり休めていれば「無理をしなければよかった」と後悔することもないだろう。
7ルール-5 お互いのキャリア目標を伝える
「夫も私も仕事が好きなので、どちらかにしわ寄せがいったり、一方的に我慢したりすることはしたくない。お互いに仕事を楽しめるよう、定期的に仕事の状況やビジョンを話すようにしています」(麻美さん)
麻美さんがこう思うようになったのは、結婚退職して宏之さんの赴任先に行ったのに、宏之さんの突然の転職によって、再び転職しなければいけなくなった経験があるため。
「『それじゃあ、私が仕事辞めた意味がない』と揉めましたね。子どもがいたら、正社員として再就職するのは簡単ではないのに」(麻美さん)
宏之さんは、「結婚したころから頭のどこかに『今の会社では自分がやりたいことはできないかもしれない』という思いがあったのですが、まだ具体的には考えていなかったので妻には何も話せていませんでした」と言う。
仕事をしていれば、そういうこともある。麻美さんもその気持ちがわかるからこそ、「今どんなふうに思っていて、これからどうしたいか」ということを、日頃から夫婦で話し合っておくことが大事だと感じている。
「私自身、実際に転職してから『もっとこういうことがしたい、自分のキャリアをしっかり形成したい』という思いが出てきたんです。夫も、結婚した当初は私がそれほど仕事を大切にしているとは思っていなかったみたいです」と麻美さん。
お互いの仕事に対する気持ちを共通認識として持っておくため、新しく年が変わるタイミングでそれぞれの目標設定を伝えるようにしているそう。
「自分のキャリアビジョンは、子育てにも関わってくることなので、妻にも伝えるべきだと思っています。僕の今の目標はマネージャーになることで、そのために英語の勉強中です。妻もマネージャーを目指しているので、お互いに次のステップに進もうとしているときですね」(宏之さん)
お互いの仕事を尊重するのはもちろん、ビジョンを伝え合うことで、より家事育児でもきめ細かくサポートし合えるようになるのかもしれない。
7ルール-6 【夫】 愛情をもって、子どもたち目線で向き合う
宏之さんは、子どもたちと過ごすときには、子どもたち以上に自分も全力で楽しみながら過ごす。子ども目線で一緒にふざけたり、走り回ったりもする。
「正直、妻に言われるまでそんなつもりはなかったのですが、確かにそうかもしれませんね。昔、野球をしていたということもあって、自分も動いて楽しみたいほうなんです」(宏之さん)
大縄跳びでも、子どもたちのために縄をまわしてあげるだけでなく、子どもたちに「今度は〇〇たち(子どもたち)がまわして」と言って自分も跳ぶ。そんな姿勢は、宏之さんには当たり前だが、麻美さんには新鮮に映ったようだ。
「夫も一緒になって楽しんでいるのが、子どもたちにも伝わっていると思います。だからなついているんでしょうね」と麻美さんが笑顔で話してくれた。
7ルール-7 【妻】1日1日を全力で過ごす
これはルールというより、麻美さんの共働きの母として生きる上でのポリシーだ。
「育児中だからといって、仕事量を減らしても納得がいかず、楽しめませんでした。自分の人生ですし、せっかく子どもたちを預けて働くなら、自分で納得がいく働き方や仕事内容で成長したい。そのために、仕事も子どもたちと過ごす時間も、全力で楽しみたいと思っています」(麻美さん)
未就学児を含む2人の子どもを育てながら、フルタイムで働くのは大変だ。それでも、納得のいかない仕事でストレスをためるより、仕事も育児もやりたいように全力でがんばったほうが、体は疲れるけれど楽しめる。
個人的にはとても共感するが、これが正解というわけではない。大切なのは、「自分はどうしたい」ということを見つけられることだと思う。
そして次に重要なのは、それを家事育児のパートナーである配偶者にも理解してもらうことだ。伊藤夫婦には、これができている。だから2人とも、すがすがしい表情をしていたのだろう。
彼らの7ルールを一言で言うと……?
「人生は一度きり」。
伊藤家のルールに共通する軸は何かと聞いてみたら、宏之さんがこう答えてくれた。一度きりの人生だから、仕事も、育児も、あきらめない。
「子どもに手作りの料理を食べさせてあげたいな、と思ったら、そう思った人が料理をするし、子どもとの時間を楽しみたいから、土日は子ども中心に過ごす。自分のためにがんばっているのだと思います(笑)」(宏之さん)
仕事と家事・育児に追われていると、自分のことが二の次になりやすい。だからこそ、一度きりの人生だということを忘れないように過ごしたい。伊藤家の場合は、毎年、夫婦で目標設定を話したりする中で、お互いの存在が自分の人生を見つめ直すきっかけとなっているようだ。
一度きりの人生だからこそ、がんばり過ぎないことが重要になる人もいるだろう。そこの価値観は人それぞれ。私も、自分が仕事と家事・育児を両立する中で何を大切にしていきたいのか、改めて考え直してみたくなった。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)