保育園には入れずに行政の「ファミサポ」制度を活用して働く 工藤夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
ともに35歳で出会ったときから、みさきさんと結婚することを決めていたという健司さん。交際半年で健司さんからバラの花束と指輪と手紙でプロポーズし、結婚。さらに子どものことは早い方がいいだろうと、すぐに不妊治療を始めて6ヶ月後に妊娠し、みさきさんは36歳で出産した。
「お互いに考え方が似ている」という2人は、里帰りはせず、健司さんが3ヶ月半の育休を取得して、産後の育児を2人で乗り切ることを選んだ。
この世に生まれたばかりの乳児期の我が子に向き合うことができた育休期間は、「楽しかった」と健司さん。一方のみさきさんは、産後の疲れから些細なことでイライラすることもあったが、前向きに育児を担ってくれた健司さんに感謝し、「改めて、この人と結婚してよかったと思いました」と振り返る。
そんな仲良し夫婦は現在、1歳2ヶ月の男の子を抱え、あえて保育園に入れない共働きスタイルを選択している。どのように家事・育児と両立し、円満な家庭を築いているのか、夫婦で作ってきたセブンルールについて聞いた。
7ルール-1 家事、育児の役割分担は決めない
みさきさんはフリーランスでナレーターや司会の仕事を担っている。フリーランスの人にはあるあるだと思うが、仕事を休めばお金が入らず、感覚は鈍るし、依頼元にも忘れられる。みさきさんもそんなわけで、条件の良い仕事が決まったことをきっかけに、産後1ヶ月で仕事復帰した。
当時は健司さんがまだ育休中だった。この時期にワンオペを経験したことが、今につながっていると健司さんは言う。
「育児を全部ひとりでやらなければいけない状況にならないと、やっぱりどこか妻に頼ってしまうんですよね。それからは当たり前になんでもできるようになったので、この時期に経験できてよかったです」(健司さん)
夫婦どちらも平等に家事・育児を担えるからこそ、今も分担は決めず、お互いの心身の状況を思いやり、状況に応じてできるほうが動くようにしている。
正式に分担を決めないことで、自分ができないときはフォローしてもらえるという安心感があるため、負担に感じにくいというメリットも。とはいえ、自然と「これはどちらかがよく担う」といった暗黙の分担はもちろんあるそう。
「私が膝を傷めていて、長い時間抱っこができないので、抱っこで寝かしつけるのは夫がするようになりました。息子もパパの抱っこのほうが落ち着くみたいです。それから、夫は日中いないので、息子とコミュニケーションをとるためにお風呂も入れています」(みさきさん)
料理はほぼみさきさんが担当。トイレットペーパーのストックやシャンプーの詰め替えなど、補充系はすべて健司さんが担う。健司さんはよく気がつくほうで、感性も細やかなので「育児も問題なく任せられます」とみさきさん。
お互いの家事育児スキルを信頼しているからこそ、成り立つルールといえるだろう。
7ルール-2 保育園には入れずに、行政の子育てサポート制度を活用
みさきさんは、多ければ月の半分近く仕事が入ることもある。とはいえ、日数的にはもう少し少なくなることもあり、子どもとの時間を大切にしたいという思いもあった。
そんなとき、健司さんの会社に、行政のファミリーサポート制度やベビーシッターを使った場合、月20万円までの補助が出る制度があることを知る。
「会社の補助があるなら、3歳になって保育料が無償になるまでは、入園させずにファミリーサポートを使ったほうが金銭的な負担が少ないことがわかりました。それなら、とファミサポを活用することにしたのです」(みさきさん)
自治体でファミリーサポートに登録し、サポートしてくれる人と事前に面談をする。現在、メインで預かってもらっているのは、自宅から歩いて3分ほどのご近所さんで、小学生の男の子が2人いる家庭の30代後半のママだ。
「息子さんが赤ちゃんの面倒を見たいと希望したことから始めたそうで、息子さんたちがうちの子の相手をしてくれているようです。うちの子も楽しく過ごしているようで、とても助かっています」(みさきさん)
「育児についてちょっと気になることをお話しして、『人それぞれですよ』などと言ってもらって安心することもあります。息子が人見知りしないのも、早くからファミサポを利用していたからかもしれません」(健司さん)
今のところファミサポで乗り切っているが、これからイヤイヤ期が激しくなれば保育園も考えるかもしれない、とみさきさん。
「実はもうすでに、息子の機嫌が悪かったりすると『保育園に預けられたらいいのにな』と3歳が待ち遠しくなることもあります(笑)。家事分担と同じように、これも絶対に入園させない、と決めるのではなく、状況次第で考えたいと思っています」(みさきさん)
7ルール-3 『ぴよログ』で育児記録を共有
工藤夫婦は2人ともマメなタイプだ。育児では、子どもが生まれてから1歳2ヶ月の現在まで、毎日欠かさず夫婦で共有できるアプリ『ぴよログ』で育児記録をつけている。
「育児系のYoutuberで育児記録をつけている人がいて、夫と『いいね』ということになり、私が登録して始めました。記録があることで、ミルクや離乳食をあげる時間の間隔を判断するのに助かっていますね。なぜ泣いているのか、時間を見て推測できるので気分的にも少しラクになるんです」(みさきさん)
健司さんは会社の休憩時間にアプリを開き、「さっきごはんを食べたんだな」など確認してほっこりしているそう。それを知っているから、ひとりで育児をしているときもみさきさんが孤独を感じにくいというメリットもありそうだ。
7ルール-4 タンパク質多めの離乳食
工藤家は離乳食のあげ方も丁寧だ。毎食、栄養バランスを考えて、炭水化物、タンパク質、野菜(ビタミン、ミネラル)の量をデジタル計量器で測っているという。
「離乳食は平日の午後にまとめて作ることが多いのですが、そのときに鶏ミンチをゆでたり、炒めたりしたものを20gずつ分けて冷凍しています。野菜も最初は作っていたのですが、最近はパルシステムの冷凍離乳食を使うようになりました。裏ごししたにんじんや刻んだ小松菜など種類が豊富で、とても便利なんですよ」(みさきさん)
現在は離乳食後期の分量を目安にしているが、健司さんは筋トレが趣味ということもあり、タンパク質は推奨量よりも多くなりがちだという。
「今の時期では、タンパク質は推奨15gですが、鶏むね肉20g+全卵1/3(20g)くらいあげています。妻が用意したものに、僕が卵を足す、という感じです。タンパク質が多すぎるのも腸に良くないので、おなかの調子も見ながら調整していますね」(健司さん)
必ずしもタンパク質多めが「ルール」というわけではないが、栄養バランスはしっかり考えているのが工藤家流。そのおかげもあって、息子さんは今のところ、順調に育っているという。
7ルール-5 クレジットカードの使い分けで、食費をざっくり管理
生活費は健司さんの収入でまかなうようにしているという工藤夫婦。クレジットカード2枚を使い分けることで、支出をおおまかに把握しているそう。
「妻と共有できる家族カードを作って、1枚目は食費用、2枚目は固定費や日用品、旅行などの支払い用にしています。分けることで、ざっくりどれくらい食費に使ったかがわかるんです」(健司さん)
支出を把握したからといって、子どもが小さい今から細かく調整することは考えていない。ざっくりでも把握できてさえいればいい、というのが健司さんの考えだ。
ただ、「もしかして赤字じゃないよね……?」と心配になったみさきさんの提案で、家計簿アプリ『マネーフォワード』も導入するようになったという。
「結果として赤字でした(笑)」とみさきさん。マネーフォワードはそうしたトータルの収支を把握するのには便利だが、「自動分類されない項目の分類分けが面倒で、あまり活用できていません」と健司さんは言う。
ジュニアNISAや積み立てNISAもそれぞれ始めているそうだ。
7ルール-6 【夫】土日の午前中は妻に寝てもらい、育児を独り占めする
健司さんの株が否応なしに上がってしまう、素敵なルールである。
健司さんの会社は土日休みなので、午前中は子どものお世話を引き受けて、みさきさんにはゆっくり休んでもらっているという。もともと、子どもが生まれる前からみさきさんは朝が弱く、健司さんのほうが朝方だったことから、自然に今のルールとなった。
「僕はむしろ、子どもの世話をできるのがうれしいんですよね。平日は一緒にいる時間が短いから、1週間あけば子どもが好きなことや反応も変わっていて、いろんな発見があるんです。もちろん、午前中のうちに家事もしっかり対応します」(健司さん)
平日、ワンオペ育児と仕事を両立しているみさきさんにとって、この時間が非常に貴重だ。
「1歳を過ぎてからは少し落ち着きましたが、0歳のうちはずっとかまってほしくて泣くので、離乳食を作ったりすることも思うようにできなくて……。『もうだめ、病みそう』というくらい疲れても、土日に遅ければ昼まで寝ていられることで、かなりリフレッシュできました」(みさきさん)
ちなみに、子どもがキッチンに入れないように安全柵をつけていたが、子どもは柵があることでママと離されて大泣き。むしろ柵なしで子どもには自由に動いてもらい、自分が安全に気をつけるようになった今のほうが、ストレスが少ないそう。
「本当に大変なときは、テレビ東京の赤ちゃん向け番組『シナぷしゅ』頼みです」とみさきさん。
健司さんは週末の午前中に限定されているからこそ、みさきさんに代わって育児を存分に楽しめるのだろう。午前中のたった数時間、と思うかもしれないが、その数時間を休めることが、みさきさんにとってはまさに死活問題なのだ。
7ルール-7 【妻】些細なことでも相談し、思いを共有する
平日は物理的にはみさきさんがひとりで子どものお世話をしているが、工藤家では常に「夫婦2人で」育児をしている。
それを継続するためにも、みさきさんは何でも健司さんに相談する。
「先日は、モンテッソーリ教育の考え方では部屋に鏡があるといいらしいと聞き、夫に『壁に鏡を貼ってもいいかな?』と相談しました。離乳食の内容を変えるタイミングなど、小さなことでも必ず相談するようにしています」(みさきさん)
結婚前から、「このドアは開け放しになっているけど、わざとそうしているの?」と尋ねるなど、何でも聞くようにしていたそう。
「育った環境や考え方は人それぞれ違うので、自分の中の当たり前を相手に押し付けないようにしています。育児の相談も、その延長ですね」(みさきさん)
同じ意識から、相手にしてもらったことに対しては小さなことでも「ありがとう」をきちんと伝えるようにしているそう。
「お皿を洗ってくれたり、週末の朝に寝かせくれたりしたときにも『ありがとう』と伝えます。夫も、もともと言ってくれるほうなので、それに合わせているというのもありますね」(みさきさん)
感謝は伝えるが、家事のやり方で自分と違うところがあっても文句は言わない。
実は健司さんのほうは、専業主婦だった実母との皿洗いの仕上げ方の違いをみさきさんに指摘してしまったことがある。みさきさんがちょうど0歳児育児に疲弊していたタイミングだったのもあり、「だったら自分でやってよ!」と反論。今は反省しているそう。
「自分の意見を押し付けるより、妻に快適に過ごしてほしいと思っています」(健司さん)
日ごろからお互いを気遣っているから、それ以来夫婦間で喧嘩をすることはないという。
彼らの7ルールを一言で言うと……?
工藤夫婦の7ルールに一貫しているのは、「思いやり」だ。
役割分担を決めずに、相手への思いやりをもって、できるほうがする。
何でも相談し、記録して共有することで離れているときも相手を思いやり、一緒に育児をする。
自分の常識を押し付けるのではなく、まず相手の考えに耳を傾ける。
健司さんは週に1、2回は夜にジムに通っているが、「大事なストレス解消の時間だと思うので、深夜であっても『行っていいよ』と言っています」とみさきさん。
健司さんも、みさきさんにとって重要な友達との連絡や食事はできる限りサポートしているという。
子どもに対しても「自分たちがやってほしいことではなく、息子のやりたいことをさせてあげたいと思っています」とみさきさん。
夫婦間にも、親子間にも、思いやりは大切だ。保育園に入れない共働きスタイルがうまくいっているのも、思いやりがあってこそ。
お互いへの深い思いやりなしに「工藤家ではできているのに、なぜうちではできないの?」なんて、絶対に言ってはいけない――。改めて、そう実感したインタビューだった。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)