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2024年03月05日 10:31 更新

「子どもの頃は勉強なんて嫌いでした」笑い飯・哲夫さんのお守りだった、おばあちゃん先生の言葉/インタビュー【2】

M-1グランプリ王者にも輝いた人気芸人コンビ「笑い飯」の哲夫さんは、2014年に大阪で補習塾「寺子屋こやや」を立ち上げました。哲夫さんが感じていた、子どもを取り巻く社会の問題点とは。

「子どもの塾代が高すぎる」と嘆く声を聞いて……

笑い飯 哲夫
「子どもの居場所になる、激安の学習塾を作りたかった」

——哲夫さんが「寺子屋こやや」を立ち上げたきっかけを教えてください。

哲夫さん(以下、哲夫) きっかけは事務所の社員さんが「子どもの塾代が高い」と嘆いていたことからなんです。もちろん塾にもよるとは思いますが、小学生でも月6~7万円もかかると聞いて、これでは今は一部の裕福な家庭の子どもしか塾に行けないのでは? と思いました。もっといろんな家庭の子が通える塾があったらいいのに、と考えるようになりました。

——学生時代に塾講師のバイト経験もあったんですよね。

哲夫 大学時代は塾講師や家庭教師、教職課程の単位をとって勉強をしていたので、ずっと教育には興味を持っていました。そこで同じような志を持つ友人に声をかけ、どんな家庭の子でも通える激安の塾を開こうという話になりました。現在は小学校3年生から中学3年生までの子どもが通っていて、後輩芸人にも手伝ってもらいながら経営しています。

——小学生は3500円/月から、中学生は通い放題でも最大20,000円/月という価格設定は確かに激安だと感じます。「寺子屋こやや」はどんなスタイルの学び舎なのでしょうか?

哲夫 一般的な塾のように、集団で決まった時間に授業をしているわけではありません。授業や宿題などでわからないところを、その場にいる大人に聞いて個別に理解していくというスタイルの学び舎です。生徒一人ひとりが苦手な科目を克服する場、と思ってもらえたら想像しやすいと思います。

「あんたはもともと賢い子やのに、なんで勉強せぇへんの?」

笑い飯 哲夫
「子どもの頃は勉強なんて嫌いでした(笑)」

哲夫 僕自身も小~中学生のころ、学校が終わってから近所のおばあちゃん先生に月3,000円で勉強を教えてもらっていました。そこでは家族や学校以外の大人に叱られたり、褒められたりという、貴重な経験をしました。

——哲夫さんは子どものころ、勉強が好きでしたか?

哲夫 嫌いでした(笑)。あるとき、おばあちゃん先生に「あんたはもともと賢い子やのに、なんで勉強せぇへんの?」と言われました。そのときは「だって勉強嫌いやもん」と答えたことを覚えています。勉強をするようになったのは中学に入ってからですね。どうしても高校でサッカーの強豪校に進学したくて、そこからスイッチが入り、猛勉強しました。

——小学校の時に出会ったおばあちゃん先生は、哲夫さんがスイッチさえ入ればものすごく頑張れるということを見抜いていたのかもしれませんね。

哲夫 どうでしょうね(笑)。でもあの言葉は、僕にとっては自信につながるものでした。その言葉をお守りにして、学生時代は勉強に向き合えていたんだと思います。

——学校や家庭に心地よい居場所がなく、生きづらさを感じている子どももいます。そうしたお子さんにとって、まったく別の人間関係を築ける塾は第三の居場所になり得ますよね。「寺子屋こやや」もそうなっていると思いますか。

哲夫 そうですね。思春期の子どもにとって、学校が終わってからの自分の居場所があることは大事だと思います。子どもはそういう場で社会経験を積んで大人になっていきますから。それにね、夜の時間に、堂々と家の外で友達や大人と過ごしているって、ちょっと冒険っぽくてワクワクすることだと思いませんか? これからも「寺子屋こやや」が子どもたちにとって、“親に認められた冒険の場所”であってほしいと思っています。

「いじめはダサイ」という空気が必要

笑い飯 哲夫
「自分ではあまり覚えてないんですが……ヒーローだったらしいです(苦笑)」

——春から一番上のお子さんが小学生になります。哲夫さんが日本の教育現場に望むのはどんなことですか。

哲夫 とにかく“いじめ”がなくなったらいいなと思います。今も昔も先生たちも本当に忙しいと思うので四六時中、子どもを見守ることは難しいと思います。でも、相手は子ども、先生は大人ですからクラスでは受け皿の存在でいてほしいです。そのためにも先生たちの労働環境はもっと向上させるべきだと思いますし、きちんと子どもを叱れるように保護者の側にもある程度の寛容さが求められると思います。
 それともうひとつ、教員側、学校側の「いじめを容認しない」という態度はもちろん重要ですが、子どもたちの側もそうであってほしいです。僕は、いじめをやめさせるには、「イケてるやつ」が空気を変えることが必要だと思っています。

ーー「イケてるやつ」が、ですか?

哲夫 どういう意味かというと……これは自分の子どもの頃の話なんですけどね。小学校6年生のとき、クラスに女の子が転校してきたんです。今でも覚えていますが、可愛らしい子でした。次第にクラスの目立つ女子グループに目を付けられ、陰口を言われるようになってしまいました。まあいじめですよね。
 さて当時の僕はサッカーが一番上手で、学年1のイケイケだったんですが……

ーー学年で一番イケている哲夫さんが……

哲夫 その集団に向かって、「女子、おもんないことすんなよ!」って言ったそうなんです。それがきっかけでいじめがなくなった、と聞きました。

——「言ったそう」「聞きました」ということは……哲夫さんは当時のことをあまり覚えていないんですか(笑)?

哲夫 そうなんです(苦笑)。実はこの話は大人になってから、その転校生と再会したときに聞きました。「哲夫くんのあの時の言葉に私は救われた、ありがとう」と御礼まで言われてしまったんです。
 当の本人は「そんなこと言ったっけ」な状態ですけど、たしかに当時の僕はイケイケでした(笑)。だからいじめ問題が勃発したら、イケてるやつが正論を言うと、空気がガラッと変わり、「いじめ=ダサい」となるんじゃないかなと思っています。だから自分の子どもも、空気を変えられるイケてるやつになってくれたらいいなって思います。

笑い飯 哲夫(わらいめし・てつお)

1974年奈良県生まれ。2000年に西田幸治さんと漫才コンビ「笑い飯」を結成し、2010年には『M-1グランプリ』で優勝。2014年より小・中学生に向けた格安補習塾「寺子屋こやや」の運営をスタートし、教育分野にも積極的に関わっている。著書に『がんばらない教育』(扶桑社)、『えてこでもわかる 笑い飯哲夫・訳 般若心経』(ワニブックス)など。0歳、3歳、6歳の3児のお父さん。

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(取材・文=安田ナナ)

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