<子どもの性被害の実態>子ども以外の証拠がなく、逮捕や起訴に至らないケースが大半を占める
弱者である子どもを狙った卑劣な行為といえる、子どもへの性加害や性虐待。昨今は報道も増えてきている印象ですが、社会的な関心はまだ十分とは言えないでしょう。これまであまり広く知られてこなかった背景には、事件化の難しさという問題もあるようです。児童相談所や弁護士などの声を集めた、子ども支援センターの調査から考えます。
全国の児童相談所および弁護士会に調査
「特例認定NPO法人子ども支援センターつなっぐ」は、性被害や性虐待を受けた子どもたちを支援し、一緒に乗り越えていくことを目的とした団体です。「子どもの性被害への対応に関する実態調査」は、性的被害、性的虐待を受けた子どもの実態を広範かつ客観的に把握するため、全国の児童相談所の相談員および弁護士会所属の弁護士を対象に行われました。本記事では、この調査の中から、被害のうちで逮捕や起訴が行われたケースはどのくらいか、その実情をお伝えします。
なお、今回の調査では138件の回答が得られています。被害児童の性別は女子128人、男子7人、不明4人と、女子が圧倒的に多いという結果でした*。
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*実質回答数138に対し、被害児童の性別が139件であるのは、被害児がきょうだいであったケースが含まれることによる。
■被害の日時が特定できたケースは約3割
被害の実態把握のためには、いつ被害を受けたかを明らかにすることが重要なポイントになってきます。しかし、具体的な日時を特定することはなかなか難しい現状があるようです。
子どもの供述を分析した結果、被害時の日時の特定ができたケースは43件と全体の30.7%にとどまり、できないケースが70件で50.0%でした。
特定できた理由としては、「本人が覚えていた」、「記憶しやすい日であった」、「被害から時間が経っていない」などが多く挙がっています。また、「生活サイクルの一環での行為」や「客観的な証拠の存在(スマホや防犯カメラなど)」という回答も一部、見られました。
一方、特定できなかった理由で最も多かったのは「時期のみの回答で特定できなかった」でした。さらに、「記憶が曖昧」「本児の年齢や知的能力による制約」といった回答もありました。また、若干ですが「本児が被害内容を語らない」という理由も見られます。
■約7割で子どもの供述以外の証拠が見つからず
次に、供述以外の証拠の有無に関するデータを見てみます。すると、証拠があるケースは20件(14.3%)にとどまり、証拠がないケースが99件(70.7%)で大半を占める結果でした。子どもの供述以外の証拠を得るのが困難である実態がうかがえます。
同様に告訴状や被害届の有無に関するデータを見ると、提出されたケースが12件(8.6%)とわずかだったのに対し、提出されていないケースが99件(70.7%)と、やはり、両者に大きな開きがありました。そもそも被害の訴え自体が少ないことが明らかとなったかたちです。
なお、供述以外の証拠としては、「スマホのメッセージや撮影データの存在」が圧倒的に多く、次いで「被害児童の衣服や下着、加害に使用した道具類の存在」 や「病院受診による医師所見、DNA鑑定結果」などが挙げられています。
■逮捕・起訴できたケースはそれぞれ2割程度
では、実際に逮捕に至ったケースはどのくらいなのでしょうか。
逮捕の有無を尋ねた結果を見ると、逮捕されたケースは全体の2割にあたる28件でした。92件(65.7%)は逮捕されていません。また、起訴等処分の有無を見ても、起訴されたケースは22件と2割未満(15.7%)で、不起訴になった33件(23.6%)よりも少ない結果でした。なお、「不明」は79件で56.4%を占めています。
起訴できたケースの理由としては「検察・警察と連携し、スピーディーに起訴してもらうことができた」、「物的証拠がない状況だが、司法面接の内容をもとに起訴に至った」、「最初に開示を受けた児童福祉司と事後の精神科医による聴取結果を組み合わせて、起訴までできた」などが挙げられています。
一方、起訴に至らなかったケースの背景としてあったのは、「加害親、非加害親が警察から聴取されたが、証拠もなくこれ以上の捜査は困難であると打ち切りになった」、「本児は処罰感情を有していたが、証拠が得られず、事件化できなかったことは残念だった」、「警察、検察としては、証拠が乏しく、本児や兄の供述は曖昧で事実の特定が困難であり、事故として親の管理不足を指導し終結」、「加害者が事実を否認し、 具体的な日時や状況が特定できないことから、不起訴処分となっている」などで、証拠が不十分で起訴できなかったケースが多かったようです。
まとめ
今回の調査結果から、子どもの性被害の事件化が難しい実態が明らかになりました。こうした現状は、被害の存在が一般に知られにくいことにもつながっていると思われます。
たとえ逮捕や起訴が難しくても、別の方法で加害者と被害児童が接触しないようにすることが強く望まれるでしょう。調査報告書には「事件化を基準とする刑事司法機関と、児童の最善の利益を基準とする児童福祉機関との間に若干の目的の齟齬がある」との記述もあります。加害者に対して刑事罰を与えることも重要ですが、子どもの身の安全を図ることが何よりも優先されなければなりません。
(マイナビ子育て編集部)
調査概要
■子どもの性被害への対応に関する実態調査/特例認定NPO法人子ども支援センターつなっぐ
調査対象:全国(都道府県・政令市)の児童相談所、弁護士会
調査時期:2022年10月~12月
有効回答数:138