【山本ゆりさんインタビュー前編】身近な材料で簡単に作れると大人気!支持され続けるレシピはこうして生まれる
どこにでもある材料で誰もが作れる料理を提案してきた、料理コラムニストの山本ゆりさん。このほど、大人気のレシピ本シリーズの最新刊を上梓した山本さんにインタビュー。前編と後編でお届けします。前編では、多くの人に支持されるレシピを生み出す山本さんの料理の原点や、料理本に対する思い入れについて、詳しくうかがいました。
お話をしてくださった方
山本ゆりさん(料理コラムニスト)
子供の頃に母から教わった「焼き飯」と「卵焼き」が今でも定番料理
――山本さんは子どもの頃から料理をされているそうですが、子ども時代からたびたび作ってきた定番料理はありますか?
山本ゆりさん(以下、山本) 「焼き飯」と「卵焼き」です。ほとんどの料理は本で覚えたんですけど、この2つは小学校低学年のころ、母から教えてもらいました。
小学校の頃に作っていた焼き飯は「卵、ミックスベジタブル、ポールウインナー」入り。その後、だんだん自分好みの具材、作り方に変えていって、今では材料も味付けも何もかもほぼ全替えしてるんですけど(笑)、ずっと作り続けているといえばコレです。
あとは、ほんだしと水が入った卵焼き。巻き方や分量は替えていますが、材料は同じでお弁当の定番です。
――2つとも世代を問わず喜ばれるメニューですね。お子さんとも一緒に作ったりしますか?
山本 子どもたちは料理にほとんど興味がなく、ほぼ料理しないです。ただ、焼き飯だけは教えました。上の子2人はほかにもオムレツを巻くとか、卵を炒めるとか、おにぎりとか、そのぐらいなら作れます。小さな時は結構一緒にお菓子を作ったりしたんですけどね(涙)。
――簡単なものでも、いくつか料理ができるのは頼もしいですね! お子さんがきっかけとなって生まれたメニューはありますか?
山本 『syunkonカフェごはん 4』の「フライドにんじん」や、『syunkonカフェごはん 8』の「フライドたけのこ」は、あんまり食べない野菜を子どもたちにモリモリ食べてほしくて生まれました。
『syunkonカフェごはん 7』の「くっついてるポテト」は、長女の友達が遊びに来ていた時がきっかけです。フライドポテトを出した後、しばらくしたらポテト同士がくっついてしまったんですけど、友達が「くっついてるポテトが美味しかったからまた作って」て言ってくれたことで、わざとくっつけるようになりました(笑)。
――思いがけないきっかけから料理が生まれることもあるんですね!
日常で出会った料理や昔のレシピ本がレシピのヒントに
――レジ横チキン(コンビニのレジの横で販売されているチキンのこと)のレシピを初めて拝見した時は、あのチキンを自分で作れるんだ!とびっくりしました。コンビニやスーパーなどのお総菜などを見るたび、レシピを考えられるのでしょうか?
山本 いつもではないですけど、美味しかったり面白いと感じたら、自分でも作ってみようと思います。コンビニやデパ地下をふらついてアイデアをもらうことも多いですし、外食の時にはメニューを色々と見て参考にしたり。
あと、昔のレシピ本も参考になります。分量が多かったり、今では手に入れにくい材料を使っていたりもするので、そのまま作ることはできないですが、「こんな組み合わせあるんや!」みたいに新鮮だったりします。
――1つのレシピを生み出すのにどのくらいの時間や手間がかかりますか?
山本 レシピによってバラバラなので一概に言えないんですが、作りたいものが決まったら、まずレシピを紙かワードに書いて、実際作ってみて、味見しながら分量を修正して、っていう感じです。
1回でレシピが決まる時もありますが、たとえばレンジのお菓子だと10回、20回作り直すことも。レンジ調理は作ると簡単やけど、途中で止めたり足したりできないし、5分×2回と10分1回では状態も変わるので、何度もやり直しになる。分数や分量を決めるのは、実際に料理するよりも圧倒的に時間がかかります!
――著書に収録されたレシピの中で、ご自宅でもよく作られるものはありますか?
山本 syunkon4と8のレンジキーマカレー、syunkon8のひき肉ピーマンライスとレンジ豚丼、ブリトー、syunkon7の大分の鶏めしと肉みそ天津飯ですね。あと、syunkon3のカルボナーラうどんと、『レンジで絶品レシピ』のレンジ肉じゃが。
炭水化物ばっかり! でもたいていはレシピ本にない、豚汁とか、名もなき肉野菜炒めが多いです。
料理本は眺めているだけで幸せな気持ちになる
――たくさんの料理本を出版されていますが、山本さんご自身も料理本がお好きだそうですね。山本さんにとって、「料理本の良さ」とは何でしょう?
山本 料理本の良さは、見てるだけで美味しそうで幸せな気持ちになるところです。
幼い頃から、レシピ本は実用書としてじゃなく娯楽として読んでいて。100冊以上持っていますが、1品も作ってない本がほとんどです。それでも、写真の雰囲気とか、文章とか、スタイリングや本のデザインを見るのが楽しくて。
――ネットでレシピを探すのとは違う楽しみがあるんですね。
山本 情報として出てくるスマホと違って、遊びがあったり自由度が高いので、楽しみながら作れるというか、作る時の義務感が少なく感じるような気はします。
何を作りたいか決まってない時、ネットだとあまりに情報が多すぎて逆にしんどくなるし、何かしらジャンルを決め込んで検索をかけないといけないけど、本だとパラパラ見ながら「あ、これ作ろう」みたいな出会いもある。そこも本の良さかなと思います。
――ちなみに、ネットでレシピを探すこともありますか?
山本 「これが作りたい」「この材料で何か作りたい」と決まってる時は圧倒的にネットが便利なので、ネットを利用しています。ネットのレシピと料理本は、カラオケのデンモク(曲探し機能)と歌本(カラオケ曲の一覧)みたいな感じです。歌いたい曲が決まってる時と、何が歌いたいかわからんからパラパラ見て決めたい時とで使い分けるのに近いです。って最近歌本なんてほぼ置いてないですけどね!(笑)デンモクの中の「履歴」みたいな感じでしょうか。必然の出会いと偶然の出会い。
――子どもの頃から本を読むのがお好きだったそうですね。愛読されている料理本とその他のジャンルの本を教えてください。
山本 母が持っていた『可愛い女(ひと)へ。お菓子の絵本』という本が、一番よく読んだ思い出の1冊です。レシピに写真がなく、とにかく本格的で、材料も多くて難しい! シュークリームやタルトに挑戦し、何回失敗して大泣きしたかわかりません。
タルトの生地、パートシュクレやパートブリゼなどを覚えたのもこの本です。ただ卵黄をたくさん使ったり、バターもたっぷりなので、小学校のお小遣いではかなり厳しく、何度も作って少しずつ自分好みの作りやすい材料に改良していきました。最近知ったのですが辻調理師専門学校が出している本だったみたいで。そら難しいわと思いました(笑)。
同じシリーズなのかはわかりませんが、『赤毛のアンの手作り絵本 1~3』も大好きで、毎晩のように読んでいました。工程が写真つきで載ってる『お菓子大好き Rayレシピノート』という本は、誕生日に買ってもらった本です。これでスポンジケーキを焼けるようになりました。
ケンタロウさんの本『ケンタロウのめし 汁 おかず』、栗原はるみさんの『私の贈りもの とっておきのレシピをあなたに』も大好き。持っているレシピ本は150冊以上あり、話し出すと止まらなくなります(笑)。
『syunkonカフェごはん』シリーズのタイトルに込めた思い
――山本さんご自身の料理本の中で、特にお気に入りだったりおすすめの本はありますか?
山本 もちろん最新刊の『syunkonカフェごはん8』です。巻を重ねるごとに、より使いやすく色々改善していってますし、レシピもどんどん美味しく作りやすくなってるので、最新刊から遡っていく順番におすすめしたいです。
ですから、最新刊の次におすすめなのは『syunkonカフェごはん7』、その次は『syunkonカフェごはん レンジでもっと! 絶品レシピ』ですね。
――ブログ名や本のタイトルに入っている「syunkon」は高校時代のバスケットボール部の部旗やTシャツに書かれていた言葉で、「春魂、根性」という意味とのこと。どんな思いからずっとこの言葉を入れているのでしょうか?
山本 ブログを始めたのが大学時代でまだ青春を引きずっていまして(笑)、メルアドとかに全部「syunkon」を入れてたので、深く考えずにブログ名にもつけてしまった感じです。高校時代にしんどくても乗り越えたこととか、友達とかをずっと大切にしようと当時は思っていたのかもしれません。
今でも時々ブログに、同じ高校に通う学生さんから「春魂の後輩です」みたいなコメントが来たりすることがあります。
――「カフェごはん」という言葉も、山本さんの料理本のタイトルにずっと入っていますね。最初に「カフェごはん」という言葉を使い始めたきっかけは何ですか?
山本 ブログを始めた2008年ごろ、カフェとかカフェ飯、おうちカフェがすごく流行ってたんです。当時私は大学生で、カフェに行けるお金はない分、憧れが強かったので、家にある材料や安い食材を使いながら盛り付けの工夫でカフェっぽくするのにハマってました。ワンプレートだったり、英文字の器に親子丼を盛ってみたり、小皿にちょこちょこと色々盛ってトレーに載せたり。
なのでブログでは、毎日作って食べている適当なご飯とは別に、趣味としてのカフェごはんを作って1~2人分で紹介するようになり、そのままタイトルにつけました。
『syunkonカフェごはん1』も、デザイナーさんが当時流行っていたゴチャゴチャしたタグとか英字新聞とかがついてるような、カフェっぽいテイストにしてくださいました。
――今も新刊のタイトルには「カフェごはん」という言葉が入っていますね。
山本 実はシリーズやからついてるだけで、そろそろタイトルから外したいと宝島社さんも私も思ってます(笑)。最近のカフェやお店では家庭料理っぽいものを出していたりするし、見た目のかわいらしさよりも「味、ボリューム、どーん!ハイ美味しそう!!」みたいなレシピや、健康的で現実的なレシピが求められていたり。人気料理の方向性も時代によって変わっているのを感じます。
そのせいもあって『syunkonカフェごはん7』以降は、表紙の「カフェごはん」の文字めちゃめちゃ小さくしてて、カフェごはんちゃうで……ってひそかに伝えてます(笑)。
(解説:山本ゆり、取材・文:大崎典子)
『syunkonカフェごはん8 読むとやる気が出る簡単絶品レシピ』(宝島社)
山本ゆりさんにとって11冊目となる本書は、4年間の人気レシピがたくさん掲載されています。手に取るとその分厚さに驚くかも!? ページ数もレシピ数もシリーズ最大、切り離して使える特別付録もある、豪華な一冊です。