【医師監修】化学流産の症状と原因は? 妊娠検査薬陽性判定と発生時期の関係
妊娠検査薬で陽性判定が出たにもかかわらず、産婦人科で妊娠が確認されず、生理も始まった――。こんなケースで考えられるのは「化学流産」です。ここでは化学流産の原因と症状、次の妊娠への影響などについて解説します。
化学流産の原因と症状はどんなもの?
妊娠検査薬で「陽性」と判定されたにもかかわらず、産婦人科で妊娠が確認されなかったり、その前に生理が始まってしまったり――。こういうケースで考えられるのは、「化学妊娠・化学流産」です。専門的には「生化学的妊娠(Biochemical pregnancy)」と呼ばれています。
妊活や不妊治療中の人にとって、妊娠検査薬での陽性判定から一転し妊娠に至らないことが分かるというのはつらいもの。落胆も大きいかもしれません。
ですが、多くのカップルがこうした経験をしているとのデータもあります。正しい知識をもつことで、心の負担を軽減することもできます。ここでは、化学流産が起こる背景などについてみていきたいと思います。
化学流産とは|着床したが妊娠に至らなかった状態
■化学流産ってどんな状態?
化学流産とは「尿中あるいは血液中にヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が一時的に検出されたあとで、超音波検査で胎囊を認める段階には至らず、妊娠が終結してhCG が陰性化する状況」(日本産婦人科医会)と定義されています。
分かりやすくいうと、「受精卵が子宮内部でいったん着床したものの、そこから成長できず、流れてしまった状態」ということ。
妊娠していれば、妊娠5週には多くの場合で胎囊が超音波検査で確認できる[*1]ので、この段階で胎囊が確認されなければ化学流産の可能性が高いといえます。ちなみに、胎囊を確認したあとの流産を「臨床的流産」といいます。
■化学流産は起こる頻度
化学流産は決して珍しいことではなく、健康な男女のカップルでも30~40%という高い頻度で起こっているといわれています[*2]。そもそも化学流産が多くの女性に知られるようになった背景には、市販の妊娠検査薬の普及や、不妊治療を試みる人が増えたことによる影響が大きいといえるでしょう。
妊娠検査薬は、尿のなかに一定以上の濃度でhCGが含まれるかどうかを調べることで陽性・陰性を判定します。hCGは、受精卵が子宮内膜に着床した後、のちに胎盤となる絨毛で作られるホルモンで、これが検出されると受精卵が着床したというサインになります。昨今の妊娠検査薬は感度が高く、少量のhCGでも判定できるため、早いタイミングで妊娠を知るケースが増えています。
また不妊治療では、例えば胚移植の後、早期に血液中のhCGを確認するので、不妊治療を受ける人の増加とともに、それまでは意識されていなかった超初期の妊娠(いわゆる化学妊娠)が認識される機会も増えたと考えられています。
化学流産の原因|受精卵の染色体異常など
なぜ、いったん着床したにもかかわらず成長できなくなる場合があるのか、その原因はまだよく分かっていませんが、受精卵の染色体異常が影響しているケースが多いといわれています。
なお、受精卵の40~70%は成長途中に失われ、その多くは着床早期までになくなっているという試算があります[*6]。
化学流産の症状|出血のほか、自覚症状がないことも
化学流産の症状では、普段の生理(月経)と同じ程度、あるいはそれより多い出血がみられます。ただし、症状から化学流産に気付くことはほとんどないといわれています。
化学流産の治療|とくに異常がなければ治療は不要
妊娠検査薬で陽性判定となって産婦人科を受診した場合、その時点で超音波検査で胎囊が確認できなければ、もう少し様子をみることになります。
通常は、1週間後に再受診することになり、そこでも胎囊が認められなければ、化学流産の可能性が高くなります。ただ、その場合は受精卵が消失していることが多く、一般的な流産後の処置である掻爬手術などを行うことはありません。
検査薬結果の変化|陽性から陰性へ。陽性が続くなら検査を
化学流産した時、いつまで妊娠検査薬で陽性反応が出るかが気になる人も多いようです。当初は妊娠検査薬での陽性反応が出ていても、化学流産となった場合はしばらくすると妊娠判定は陰性になります。
ただし、hCGによる妊娠反応が陽性であり続けているにもかかわらず、子宮内膜に胎囊がない場合は、子宮外妊娠(異所性妊娠)も考えられるので、血液検査によるhCG値の観察や、超音波検査を再度行うことになります。
化学流産と普通の流産の違い
着床まで至ったけれど胎囊を作るまで成長できなかった化学流産は、その後に起こる流産(臨床的流産)とは異なるのでしょうか。
専門家はどう考えているのかというと、これについては、現在、国によって考え方が違っています。
例えば、アメリカの生殖医学会(ASRM)は、化学流産は一般的な妊娠に含めないというスタンスをとっています。
日本も、アメリカと同じ考え方です。
一方、欧州生殖医学会(ESHRE)の初期妊娠に関する研究グループは、「画像で確認できない化学流産も流産に含めるべき」としています。
これらの学会が念頭に置いているのは不育症の診断のときにどう考えるかですが、こうして意見が分かれていることからも分かるように、まだ化学流産の扱いについて明確な答えはでていません。今後の研究の結果が待たれるところです。
化学流産はいつ起こる?
まずは受精から病院で妊娠していると判断されるまでの流れを確認しましょう。
・受精・着床の時期
通常、精子と卵子が出会って誕生した受精卵は、細胞分裂を繰り返しながら、5日ほどかけて子宮に到達し、受精後約1週間後に子宮内膜に入り込み始め ます。これを着床といい、週数でいうと妊娠3週のころに起こります[*3] 。
・妊娠検査薬を使えるようになる時期
hCGは受精卵が着床を始めたころから分泌され始めますが[*4]、尿で検出できるくらい分泌量が増えてくるのは妊娠4週ごろ(妊娠していなかったら、ちょうど次の生理が始まる予定のころ)です。
ただ、この時期には個人差があります。十分な量のhCGが尿に出ていないと正確な結果が判定できないため、通常の妊娠検査薬は生理予定日の1週間後、つまり妊娠している場合、妊娠5週からの使用が推奨されています(妊娠4週ごろに使用できる早期妊娠検査薬もあります)。
・胎嚢を確認できるようになる時期
妊娠3週ごろに着床を開始した受精卵は2週間近くかけて胎芽となりますが 、妊娠4週後半には約80%、妊娠5週にはほぼ100%の妊婦さんで、受精卵の外周が胎囊で包まれる様子が超音波検査で確認できるようになります[*5]。この胎囊が超音波検査で確認できれれば、妊娠(臨床的妊娠)が成立したということになります。
化学流産が起こる時期|妊娠3週ごろ〜4、5週のあたり
化学流産では、いったん着床した受精卵が「妊娠検査薬で陽性が出たあと~超音波検査で胎嚢を確認する前」までの間にそれ以上育つことができなくなってしまいます。つまり理屈の上では「着床(妊娠3週ごろ)~超音波検査で胎嚢を確認(妊娠4、5週ごろ以降)するまで」の間に起こるということになります。
ただし、妊娠検査薬の使用時期や超音波検査で胎嚢を確認してもらう時期によって、化学流産していたことに気付く時期は多少ずれます。
化学流産をしたら次の妊娠への影響
化学流産をした場合、その後の妊娠に影響はあるのでしょうか。
次の妊娠への影響はあるの?
一度、化学流産をしたからといって、次もまた化学流産するとは限りません。先にも紹介しましたが、着床できなかったり、着床しても胎囊を作るまで育たなかったりする原因の多くは、受精卵にあります。
もともと受精卵の約30%、受精3日後には約50%に染色体異常があると言われています[*7]。染色体異常がある受精卵は、運良く着床できたとしても出産に至ることは非常に少なく、成長途中で流産や子宮内で亡くなってしまうことがほとんどです。
つまり、化学流産をしたときは、たまたま成長していくことができない運命の受精卵だったということです。また、最初に紹介したとおり、化学流産は若く健康なカップルでも高い頻度で起こっています。化学流産をしていたことがわかったからといって、あまり深く思い詰めないようにしましょう。
妊活を再開するタイミングは?
化学流産の後、生理が1回くれば、妊娠ができる体に戻っていると考えられますので、すぐに妊活を始めても問題ありません。
「流産後は妊娠しにくい」という話を聞いたことがある人もいるかもしれませんが、科学的にみて「流産から次の妊娠までの期間の長さ」と「次回妊娠の成功率」には関連性がないとされています。ですので、流産後に妊娠を希望する場合は長期間、避妊する必要はないでしょう。
それよりもむしろ、年齢が上がるほど妊娠しにくく、流産の頻度は上がってしまうので、早めに妊活を再開した方がよいかもしれません。
とはいえ、妊活は夫婦がともに進めるもの。お互いに話し合って、再開は女性の心身の回復をみながら、無理のない範囲にしましょう。流産した女性の80%が、流産後5年以内に出産しているという報告もあります[*8]。
繰り返す場合はどうしたら良いの?
化学流産を繰り返していると、「もしかして私、不育症?」と不安に思う女性もいるかもしれません。
化学流産と不育症の関係はどうなっているのでしょうか。
一般的に、臨床的流産を2回以上繰り返すことを反復流産、3回以上繰り返すことを習慣流産といいます(死産や早期新生児死亡は含めません)。不育症は、こうした反復・習慣流産があったり、生後1週間以内に死亡する早期新生児死亡が続いたりした場合、診断されます。
繰り返す化学流産も、不育症に含まれるのでははないかという議論がないわけではありませんが、今のところ同じメカニズムが働いているのかどうか分かっておらず、結論は出ていません。
化学流産があってもなくても、妊活を続けているにもかかわらず1年以上経っても妊娠が認められない場合は、不妊症や不育症(反復・習慣流産)の可能性があります。心当たりがあったら、一度、産婦人科で相談してみてもいいかもしれません。
まとめ
受精卵が成長しないまま着床後に消失する化学流産。
タイミング法やART(生殖補助医療)などの不妊治療をきっかけに、その存在を知る人も多いのではないでしょうか。
ただ、化学流産はどんなカップルにでも起こる可能性があるもの。過度に不安にならず、ゆっくりと赤ちゃんを待つという姿勢が大事です。化学流産を繰り返すようなら、一度、産婦人科医に相談してみましょう。
(文:山内リカ/監修:齊藤英和先生)
※画像はイメージです
[*1]日本産科婦人科学会編:産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版, p230, 2018.
[*2]日本産婦人科医会:1.生化学的妊娠(Biochemical pregnancy)の扱い方
[*3]病気が見えるvol.10産科 第4版, p19, メディックメディア, 2018.
[*4]NEWエッセンシャル産科学・婦人科学 第3版, p279, 医歯薬出版, 2004.
[*5]日本産科婦人科学会監修:Baby+改訂第2版, p9, リクルートホールディングス, 2016.
[*6]標準産科婦人科学 第4版, p326, 2011.
[*8]公益社団法人 日本産科婦人科学会, 公益社団法人 日本産婦人科学会, 産婦人科診療ガイドラインー産科編2017, CQ202
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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