
【医師監修】経産婦の出産兆候、初産との違いは? 分娩が近いことを知らせるサインとは
一度体験済みとはいえ、出産を控える身としてはいろいろ気になることも多いもの。「2人目はスピード出産」といわれることもあるように、上の子の時と2人目以降の出産では兆候やお産の進み方で初産とは異なる点があるのでしょうか? 2人目以降を妊娠中の人が安心して出産に臨めるよう、経産婦と初産婦のお産の違いについて解説します。
初産婦と経産婦、出産の時に何か違いはあるの?


「出産は初産だと大変で、経産婦だと早く終わる」という話を聞くことがありますが、それは本当なのでしょうか? また初産婦と経産婦では、お産の兆候に何か違いがあるのでしょうか? 出産経験の有無がお産に及ぼす影響について確認してみましょう。
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※初めて妊娠・出産を経験する女性のことを、初産婦(しょさんぷ)といいます。一方、経産婦(けいさんぷ)は妊娠・出産経験のある女性のことですが、正確には「妊娠22週以降の胎児を1回以上出産した経験のある人」と定義されています[*1]。どれほど間隔が空いていようと、一度でも妊娠・出産経験があれば「経産婦」に該当します。
出産の兆候|出産経験よりも個人差が大きい
お産を知らせるサインとして、おしるし、前駆陣痛、破水などがありますが、これらについて初産婦と経産婦で違いがあるかというと、じつはそういうことはなさそうです。
例えば「初産婦にはおしるしがあるが、経産婦ではっきりしたおしるしがある人は少ない」といわれることもありますが、必ずしもそうとは言い切れません。おしるしのある経産婦もいますし、おしるしのない初産婦もいます。出産経験の有無よりもむしろ、個人差によるほうが大きいでしょう。
どのようなお産になるかは、その時のママと赤ちゃんの状況によって変わってきます。同じ人であっても、そのときそのときのお産で異なる。そう考えておくのがよいでしょう。
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出産兆候について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎臨月に陣痛の前兆はある?胎動の様子は?知っておきたい分娩前の変化
予定日|経産婦だから予定より早く生まれるわけではない
経産婦のほうが予定日と比べて実際のお産が早めだったり、遅くなったりするといった傾向はあるのでしょうか。
結論から言うと、お産の時期については、経産婦と初産婦で違うというよりも、毎回異なると考えていた方がよさそうです。出産予定日は胎児を超音波検査で調べ、その測定値から何週かを計算して推定されますが、そもそも出産予定日通りに生まれる子のほうが少ないようなのです。
自然の経過にまかせた出産のうち、出産予定日に生まれた赤ちゃんは6.3%しかいなかったという医療機関もあるそうです[*6]。また、日本産科婦人科学会による2010年の統計では、分娩週数でもっとも多いのは妊娠39週でした[*7]。
出産予定日から前後しても、妊娠37~41週の間であれば正期産と呼ばれる正常なお産の範囲内ですが、それよりも早くなると早産、遅くなると過期産になり、それぞれ特別な対応が必要になります。
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出産予定日について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎出産予定日を超過しても陣痛がこないときは?リスクと対応
かかる時間|経産婦のほうがお産の進むスピードが速い
出産の兆候で初産婦と経産婦に明らかな違いはなさそうですが、一方で明確に異なることもあります。それは「お産の進むスピード」です。
分娩時期が近づくと胎児は下降し、頭を母体の骨盤内に固定させます(児頭降下)。初産婦の場合、この児頭降下が起こるのは分娩開始の数週間前ですが、経産婦の場合はお産開始の間近になってから起こることが多いといわれています。
赤ちゃんの頭が下がってくると、子宮底による圧迫から解放されるので胃がすっきりししたり、逆に赤ちゃんの頭で圧迫されるために頻尿になったり、恥骨が痛んだりすることがあります(こうした変化がない人もいます)。経産婦は初産婦に比べ、こうした体調の変化があってから分娩開始までの時間が短い傾向にあります。
また、分娩のトータルの所要時間も、経産婦のほうが初産婦より短いのが一般的です。初産婦の分娩所要時間の平均は分娩開始から12~15時間ですが、経産婦の平均は5~8時間と初産婦の半分程度です[*4]。なお分娩の経過にはかなりの個人差があり、平均より短いこともあれば長いこともありますが、初産婦で 30 時間、経産婦で15時間までは正常なお産の範囲内とされています[*4]。
以上のことから判断するに「経産婦だと出産が早く終わる傾向にある」というのは「本当」と考えてよいようです。
ちなみに経産婦は子宮頸管や会陰が初産婦と比較して軟らかいため、子宮口が開きやすかったり会陰が伸展しやすかったりする傾向があり、そのことも分娩の進むスピードが速いことに関係していると考えられます。妊婦さんの多くが気になるであろう会陰裂傷が比較的起きにくいのも、経産婦のお産の特徴のひとつです。
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出産にかかる時間について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎出産にかかる時間はどれぐらい? 難産になったらどうするの?
出産後|経産婦は後陣痛が強い
そのほか経産婦のお産の特徴として「後陣痛がより強力で痛い」こともあげられます。
後陣痛(こうじんつう)とは分娩が終わった後、子宮を妊娠していない時の状態に戻す作業=子宮復古を促すために起こる、不規則な子宮の収縮のことです。分娩の直後から始まり、産後2~3日までみられます[*5]。
経産婦や多胎妊娠、羊水過多などの場合、一般的な初産の妊娠よりも子宮が伸びているため、元に戻すには強い収縮が必要となります。その結果、より強力な後陣痛が起こる傾向にあるといわれています。
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後陣痛について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎後陣痛の痛みはいつまで続く?辛さを軽減する5つの方法
「もうすぐ出産!」お産の兆候、3つのサイン
お産が近いことを知らせる兆候はいくつかあります。しかしその現れ方については、かなりの個人差があります。代表的な出産の兆候に「おしるし」「前駆陣痛」「破水」の3つがありますが、代表的といわれるこの3つもすべてが全員に認められるわけではなく、現れるタイミングもお産ごとに異なります。


1. おしるし|少量の出血があることも
おしるしとは血の混じったおりもののこと。医学的には「産徴」(さんちょう)といいます。
出産が近づくと、妊婦さんの身体は分娩に適した状態に変化していき、それに伴って子宮の出口である子宮口も少しずつ開いていきます。その変化に伴って、赤ちゃんと羊水を包む薄い膜=卵膜(らんまく)と子宮下部の壁がはがれ出血することがあり、それがおしるしの正体です。
「おしるしがあるとお産が近い証拠」というのは、たしかにその通りですが、おしるしがないまま分娩が開始する人も少なくありません。また、おしるしがあってから実際に分娩が始まるまでに1週間以上かかることもあります[*2]。
代表的な出産兆候のひとつではあるものの、これだけで「どれくらいお産が近づいているのか」を知るのは難しいといえます。
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おしるしについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎おしるしはどのくらい続くの? 陣痛がこないときの対処法もチェック
2. 前駆陣痛|陣痛とは違う、不規則なお腹の張り・痛み
陣痛は、赤ちゃんを産み出すために子宮が収縮することで起こる痛みです。お産が始まる前には「前駆陣痛(ぜんくじんつう)」と呼ばれるものが起こることもあります。
前駆陣痛は分娩のときに起こる陣痛よりも痛みの程度が軽く、間隔も持続時間も不規則です。前駆陣痛からそのまま出産に入る人もいますが、多くはいったん痛みがおさまり、後日、真の陣痛が来ます。
痛みが1時間に6回以上(10分間隔)、規則的な間隔で継続的に起こるようになってきたら、真の陣痛が始まったサインといえます[*3]。
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前駆陣痛について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎前駆陣痛はいつから? 本陣痛までの期間や陣痛との違い
3. 破水
赤ちゃんを包んでいる卵膜が破れて羊水が流れ出ることを、破水といいます。一般的に破水が起こるのは子宮口が全開になってからですが、「前期破水」といって分娩が始まる前に起こることもあります。これは決して珍しいことではありません。
破水の仕方もさまざまで、「パチン!」という音や何かはじけたような衝撃を感じると共に大量の羊水が出ることもあれば、尿漏れのように少量ずつ、じわじわと染み出てくることもあります。
破水により赤ちゃんを守っていた羊水がなくなると、赤ちゃんが腟から入ってきた細菌などに感染するリスクが高まります。破水したかもと感じたら、すぐに産院に連絡してください。
濡れた下半身をすっきりさせたいからと入浴したくなるかもしれませんが、感染のリスクがあるので湯船につかるのはやめ、お産が急に進む場合もあるのでシャワーで手早く済ませましょう。
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破水について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎破水とは?早期破水・前期破水の違い&主な2つの原因と症状
出産兆候が見られたら


お産の進みが早いといわれる経産婦。出産の兆候が見られたらどのように対応すればよいのでしょう。
経産婦の場合、早めの連絡が指示されていることも
産院からは、陣痛の間隔がどれくらいになったら連絡すればよいか、あらかじめ指示が出ているはずです。
例えば初産婦なら10分以内、経産婦なら15分以内の陣痛を感じたら電話してくださいなど、医療機関によって多少の違いはありますが、具体的な指示が出ていることと思います。陣痛の起こる間隔に注意して、かかりつけの産院に適切に連絡しましょう。
なお、場合によってはそのまま入院になることもあるので、入院準備は事前に済ませておきましょう。
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陣痛間隔について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎陣痛が5分間隔だけど我慢できる痛み…これは陣痛?お産の始まり〜出産の流れ
まとめ
妊娠や出産については初産婦と経産婦で傾向が変わることもあれば、個人差による影響のほうが大きいこともあります。どんなお産になるかは、赤ちゃんとママの状況で変わるので、ひとつとして同じお産はありません。傾向を把握しておくことも必要ですが、そればかりにとらわれず、自分と赤ちゃんにとって安心できるお産を目指してください。
(文:山本尚恵/監修:浅野仁覚先生)
※画像はイメージです
[*1]経妊婦/経産婦-よくわかる用語辞典|赤ちゃん&子育てインフォ
[*2]メディックメディア「病気がみえる Vlol.10 産科」(第4版)p.243
[*3]メディックメディア「病気がみえる Vlol.10 産科」(第4版)p.240
[*4]メディックメディア「病気がみえる Vlol.10 産科」(第4版)p.251
[*5]メディックメディア「病気がみえる Vlol.10 産科」(第4版)p.368
[*6]AllAbout 河合蘭:出産率が高いのは何週?出産予定日に生まれる確率は?
[*7]日本産科婦人科学会 周産期委員会, 日産婦誌64巻 6 号, 2012.
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます