【弁護士監修】離婚前に別居するリスクとメリットを徹底比較! 失敗しないための注意点とは?
夫と喧嘩したり、許せないことがあったとき、離婚したいと思ったとき。離婚の前にまずは別居しようと思うことも多いはず。うまく使えばとても有効な手段である反面、失敗すると思わぬ結果を招くことも! 女性からの離婚相談を広く受ける弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の代表弁護士、中里妃沙子先生に離婚前の別居についてお聞きしました。
- 離婚の前に別居はアリ? そもそも夫婦にとって「別居」とは?
- 法律上、夫婦は「同居」しなければならない
- 合意がある別居は、夫婦の「同居義務違反」にはならない
- 勝手に別居しても夫婦の「同居義務違反」にならないケースは?
- 離婚の前に別居する5つのメリット
- 同居しているから発生する苛立ちから離れて冷静に
- 離れたからこそ、わかることもある?
- 離婚を拒む夫とも離婚しやすくなる
- 生活費をもらいながら、離婚した後のシミュレーションができる
- 子どもの環境変化への影響を、若干は抑えられる
- 別居にはリスクもある? 5つのデメリットと注意点
- 夫婦関係をやり直すことが難しくなる
- 相手からの離婚請求に対抗できなくなる
- 相手の財産を把握したり、浮気の証拠集めがしにくくなる
- 離婚時の財産分与に、別居中の期間は含まれなくなる
- 子どもと一緒に国外脱出。ハーグ条約に注意!
- いざ別居したとき、受けられるサポートは?
- 離婚? 別居? 悩んでいる女性たちへ、弁護士からのアドバイス
- 【まとめ】離婚前に別居するといいケース、しないほうがいいケース
離婚の前に別居はアリ? そもそも夫婦にとって「別居」とは?
夫と離婚したいほど思い詰めていても、「お金のこと」「子どものこと」、それ以外にもいろいろ事情があって、すぐには難しいケースは多いもの。
やっぱり離婚へのハードルって高い。そんなとき、「まずは別居しようかな」と考える人は多いハズ。別居のメリットとそのリスクについて、考えてみましょう。
法律上、夫婦は「同居」しなければならない
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない
夫婦は同居する義務がある――。民法にはそう定められています。
結婚すれば「同居」が当たり前だろうけど「法律で定められている」と聞くと「じゃあ別居って違法行為なの⁉」とびっくりしてしまいますよね。
実は、別居していると「同居義務違反」とみなされる場合があるんです。でも、単身赴任や里帰り出産など、事情があって別居している夫婦は、世の中にたくさん存在しているような……? まずは、そのちがいを見てみましょう。
合意がある別居は、夫婦の「同居義務違反」にはならない
別居について夫婦間で合意がある場合は「同居義務違反」にはなりません。
単身赴任、親の介護、子どもの進学等の事情により、夫婦が共に暮らせないケースはよくあること。合意の上で夫婦が別居生活を送る、いわゆる「別居婚」も、問題ありません。
そうでないケース、合意なく片方が家を出ていき、勝手に別居となった場合には、出て行った方が原則として「同居義務違反」に問われます。裁判所に訴えられたら、出て行った先の家に配偶者を住まわせる命令が出たり、慰謝料を請求されたりするケースも出てくるのです。
ただし、これはあくまでも原則。例外があります。
勝手に別居しても夫婦の「同居義務違反」にならないケースは?
合意のない別居、たとえば、夫がいない間に妻が勝手に家を出た、といったケースでも、「同居義務違反」にならないのは、こんなときです。
夫からのDVなど「婚姻を継続しがたい重大な理由」
たとえば、夫からのDV被害に遭っている場合。「夫の同意がないから、法律違反になる」と躊躇する必要はありません。むしろ、一刻も早く逃げ出すべきです。
DVを代表として「婚姻を継続しがたい重大な理由」があれば、配偶者の合意なく別居をしても「同居義務違反」には問われません。夫が子どもへ暴力をふるっている場合も同様です。むしろそのような夫とは、自分や子どもの心身の安全のためにすぐにでも距離を置くべきです。
夫婦喧嘩で家を飛び出したら……?
夫婦喧嘩の結果「家を飛び出してしまった」など、夫婦間のトラブルに対し、冷静になるために行った一時的な別居についても、「同居義務違反」を問われることは、ほぼありません。
ポイントは「悪意の遺棄」があるかどうか
別居が同居義務違反になるかならないかのポイントは、「やむを得ず家を出なくてはいけないような理由がなく、自分がいなくなると相手が困ることがわかっているのに、相手を放り出した」場合です。
配偶者との間に特段のトラブルもないのに勝手に別居を決行し、今まで家計に入れていた生活費などを一切渡さなくなると、残された側は生活できなくなってしまいます。
そんなときは、出て行った側がわざと配偶者を「置き去りにした」、つまり「悪意の遺棄」と判断され「同居義務違反」に問われることがあります。
離婚の前に別居する5つのメリット
夫婦関係がうまくいかなくなり、お互いに離婚しようかと思い始めたとき「まず別居から始めてみよう」と考える夫婦は少なくないでしょう。
離婚の前に別居をすることには、どんなメリットがあるのでしょうか。
同居しているから発生する苛立ちから離れて冷静に
夫への不満が募り「顔を見るだけでもイラついてしまう」「箸の上げ下ろしまで気にいらない」という人も、バラバラに暮らせば気にならなくなります。夫と暮らすことによるイライラ、苦痛が軽減されることは間違いありません。
夫と離れて心の落ち着きを取り戻せば、将来を考えるような余裕も出てくることでしょう。「夫の顔を見なくて済む」、これが別居におけるもっとも大きなメリットと言えるかもしれません。
離れたからこそ、わかることもある?
離れて初めて、その存在の大切さに気がつくことってありますよね。
別居することで、普段あなたがどれだけ家族のために尽くしてきてくれたのか、夫が気づいてくれるかもしれません。また、夫が自分を見つめなおす時間をもつことで、「自分の言動で、妻を傷つけていたのでは……」と考えてくれるかも。
それは妻であるあなたも同様です。 普段は言い争ってばかりだったけれど、そんな夫があなたにとってかけがえのない人だったと、改めて感じられるかもしれません。
「人間は感情の生き物」と言われることがあります。別居することで、高ぶっていた感情がクールダウンしたら、夫婦関係に変化が現れる可能性もあります。
離婚を拒む夫とも離婚しやすくなる
離婚裁判になって、あなたがどんなに「性格の不一致」を訴えても、夫が同意しなければ、裁判所は離婚を認めません。
裁判で離婚理由として認められるのは、原則として次の5つです。
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる
一 配偶者に不貞な行為があったとき
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
この5つの条件に当てはまらない理由で離婚したいとき、実は「別居」が有効な手段になります。
別居をすれば、裁判所がその長さに応じて「もはや婚姻関係が継続しているとは考えられない」と、離婚を認めてくれる可能性が高いからです。
ただし「別居したら即、婚姻関係の破綻」とは考えにくいので、別居期間は長い方が有利。また婚姻期間が長ければ長いほど、別居期間も長期化していないと、離婚が認められにくい傾向があります。
離婚が認められる別居期間はどれくらい?
中里弁護士によると、
20~40代夫婦の離婚の場合:3年ほど
50代以上、熟年離婚の場合:6~7年ほど
これくらいが、離婚が認められる別居期間のめやすになる、とのこと。
別居の事実があれば、夫が首を縦に振ってくれなくても、裁判所が「婚姻生活の破綻」を認定し、あなたの門出の後押ししてくれるというわけです。
別居したい理由と別居スタートの年月日は明確に!
一方的な別居は場合により「同居義務違反」にとられかねない、というのは、前述の通り。できれば、相手からも別居の合意をとって、書面に残しておくのが無難です。
ただ、それができるくらいなら、別居なんてしない、というケースも多いですよね。
夫の同意なく別居する場合、少なくとも自分が「悪意の遺棄」で別居をするのではなく、「一緒に暮らすことが困難と感じていること」と「なぜ困難に感じるのか」という理由を配偶者に伝えてから別居するようにしましょう。別居の意志が記してあれば、直接伝えなくても、置手紙やSNSなどにメッセージを残すので構いません。
また、別居期間を正確に算定するために、別居の開始年月日を明確にして記録しておくことが大事です。
生活費をもらいながら、離婚した後のシミュレーションができる
離婚はしたいものの、あなたが専業主婦だったり、働いていても収入が少なく、経済的な不安があるとしましょう。そんなときは、離婚の前に別居することで、自立するための準備ができます。
別居中の生活費に困る、とお思いかもしれませんが、結婚は継続しているので、あなたの収入が夫より少ない場合、「婚姻費用」として、生活費や未成年の子ども学費をうけとることができます。「婚姻費用」については、後でくわしく解説しますね。
また、いざ離婚したあと、それがあなたの望んだことであったとしても、孤独や脱力感など、少なからず精神的ダメージを受けるかもしれません。そのシミュレーションに、別居期間を使うのもいいでしょう。
子どもの環境変化への影響を、若干は抑えられる
両親の離婚で、子どもたちに影響が出ることは忘れてはいけません。
子どもへの影響が極力少ないタイミング(たとえば、学校の卒業・入学のタイミング、受験が終わるまで、など)まで離婚を待つために、まずは別居を選択するのもアリでしょう。
別居にはリスクもある? 5つのデメリットと注意点
夫婦関係を維持したまま、別居することは決して「いいこと尽くし」ではありません。どんなデメリットや注意点があるのかも、合わせて理解しておきましょう。
夫婦関係をやり直すことが難しくなる
別居によって夫婦が一時的に離れることで、お互いに冷静になり、夫婦関係を見つめ直せることもある一方で、距離を置いたことによって、お互いの必要性を感じなくなってしまうこともあります。
もし、あなたが「本音では離婚したくないんだけど……、夫が頭を冷やすきっかけになればいいわ」くらいの気持ちで、別居に踏み切ろうとしているなら要注意!
別居した夫婦が離婚へと進むケースは非常に多いため、逆効果になってしまう可能性もあります。別居は長くても数日にとどめて、早めに家に戻ったほうがよいでしょう。
相手からの離婚請求に対抗できなくなる
夫に「浮気の疑い」があったとしましょう。
そんなとき、夫の愛情を確かめたくて、あるいは、単に夫を許せなくて、別居を始めようとしているなら、くれぐれも注意してください。あなたが家を出て行ったことにより、夫の不貞行為とは関係なしに「夫婦関係が破綻している」とみなされ、夫から離婚の申し立てをされてしまうリスクがあるからです。
もし、本当に夫が浮気をしていたとしたら、有利に交渉することができる立場です。夫が離婚を望んだとしても、それを拒むことができ、また、それをテコにして有利な条件を引き出すこともできるのです。
そのあなたが、別居によって逆に夫に離婚理由を与えてしまうというのは、なんともやるせない状況です。
相手の財産を把握したり、浮気の証拠集めがしにくくなる
裁判になったときに、大事なのは証拠があること。別居や離婚の大きなきっかけとなるのが「配偶者の浮気」や「金銭問題」ですが、これらの証拠は、別居してしまうと、つかみにくくなります。
郵便物や給与明細、通帳のチェック、相手の素行を確認するなど、「証拠を集める」ためには、同居しておいた方が有利なのです。
また金銭トラブルがない場合でも、離婚時の財産分与に関わってくるので、別居前には、相手の収入や貯蓄を、できるだけ正確に把握しておきましょう。
離婚時の財産分与に、別居中の期間は含まれなくなる
婚姻関係にあった期間に築いた財産は、離婚時に半分もらう権利があります。ただし、別居を始めて以降に各自が築いた財産は、夫婦が共同で築いた財産とは認められません。
万が一、別居期間中に夫が大きな財産を築いたとしても、それは財産分与の対象にならないのです。別居を始めるのは「夫の口座にボーナスが入ったことを確認してから」という人もいるくらいです。
もちろん、これらは、夫のほうが多く財産を築いている場合の話。あなたがひとりになってから頑張って築いた財産を夫に持っていかれなくて済む、という側面もあることは、お忘れなく。
子どもと一緒に国外脱出。ハーグ条約に注意!
子どもを連れて国境を渡ると「ハーグ条約」違反になることがあります。
配偶者の了承なく、子連れで国境を越えてしまった場合、子どもを元の居住国に戻すことを求められる場合があるので、気をつけた方がいいでしょう。
とくに、あなたが国際結婚をしている場合。たとえば、アメリカで育った子どもを、別居をきっかけに「わたしの母国だから」と日本に連れ帰ってしまうと、誘拐とみなされてしまうケースがあります。
ハーグ条約とは?
国際結婚の増加を背景に、国境を越えた子の連れ去りに対処するため「子を元の居住国へ返還することが原則」や「親子の面会交流の機会を確保」など、子の利益を守るために定められた世界的な条約です。加盟国同士で有効になります。
いざ別居したとき、受けられるサポートは?
いろいろ考えて「別居」を決意。でも、夫のような稼ぎは自分にはないし、実家にも帰れない。「明日から子どもを抱えてどうしよう……」なんて不安を抱えているあなた。
別居中に受けられるサポートにはどんなものがあるのか、あらかじめ知っておけば安心です。
夫から生活費を受けとれる「婚姻費用」
あなたの収入が夫より少ない場合、お金が原因で別居をためらうケースもあるかもしれません。
しかし、民法には、夫婦は、お互いに助け合う義務があると定められています。
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する
別居中でも離婚していない以上、夫婦は夫婦。同居していたときと同じように、収入の多い側が、少ない側の生活費を分担することになります。これを「婚姻費用の分担」と言います。
この費用は、離婚が決まるまでの間、調停中や訴訟中であっても受けることができます。未成年の子どもがいれば、その学費も請求できますので、別居しても、子どもとあなたの生活費を夫からもらうことは可能なのです。
ちなみに、調停や裁判で「婚姻費用」の支払いが決まったにも関わらず、それらが支払われない場合には、強制執行により夫の給与から月々天引きするという手段があることもお忘れなく。
婚姻費用はどれくらいもらえるの?
婚姻費用は
・夫婦双方の年収
・自営業か、給与所得者か
・子どもは何人いるか
によって、最高裁判所の示す算定表[*1]に従って決まります。たとえば、次のようになります。
▼ケース1:共働きの場合
・妻の年収が250万円、夫の年収が450万円
・夫婦はどちらも、自営業でなく、給与所得者
・妻が子ども1人を養育する場合
→夫が妻に支払うべき婚姻費用の相場は、1ヶ月あたり6~8万円
▼ケース2:妻が専業主婦の場合
・妻は収入なし、夫の年収が700万円
・夫は、自営業でなく、給与所得者
・妻が子ども2人を養育する場合
→夫が妻に支払うべき婚姻費用の相場は、1ヶ月あたり16~18万円
別居中でも「児童扶養手当」を受けとれる場合がある
離婚しておらず別居の状態であっても、条件を満たせば行政から「児童扶養手当」を受けとれます。
「児童扶養手当」はもともと、ひとり親家庭の生活の安定や自立促進と、児童の福祉の増進を目的としたものです。
「母が裁判所からDV保護命令を受けている」など、別居の場合の支給対象は限定的ではありますが、子育てに関する金銭的な問題で困っているなら、一度市区町村の窓口に相談に行くといいでしょう。
「生活保護」は、離婚してなくても受けられる?
原則として、別居中は配偶者からの「婚姻費用」で生活費を確保しますが、夫がそれらを払うことができず、ご自身も病気やけがで働けないなどの事情がある場合には、「生活保護」を受けられる可能性があります。こちらも窓口は市区町村です。
相談すべきは「行政」の窓口
別居してみて困ったときには、まず行政の窓口に相談に行きましょう。
とくに、DVや児童虐待などの事情で別居した場合、「住民基本台帳事務におけるDV等支援措置」という保護を受けることができ、加害者が夫(父)であっても、住民票の開示制限などを行ってくれます。夫に別居後の住所を知られないようにできるわけです。
このほかにも、DVシェルターを紹介してくれるなど、市区町村ごとにさまざまな支援策があります。弁護士による無料相談窓口が開かれている場合も。
日本は意外とセーフティネットが充実しています。困ったら、まずは行政を頼ってみましょう。
離婚? 別居? 悩んでいる女性たちへ、弁護士からのアドバイス
この記事の執筆にあたり取材・監修に協力いただき、女性の離婚相談に数多く乗っている中里弁護士から、夫との離婚、その前の別居を考えている女性に向けて、アドバイスをいただきました。
【まとめ】離婚前に別居するといいケース、しないほうがいいケース
別居をしないほうがいいのは「本当は離婚したくない。でも相手の気持ちを試したい」という場合。ご紹介したとおり、別居をすると、どちららかというと離婚する方向に動いてしまう可能性が高いからです。
一方で、別居をしたほうがいいのは「離婚に迷いがある人」と「離婚したいのに夫が同意してくれない人」。
別居しなくても「離婚の同意はとれている」「離婚してもやっていける自信があり、迷いはない」という人は、わざわざ別居期間をとる必要はないでしょう。
離婚を考え始めたときは、あなた自身が変わりたいと思っているサインかもしれません。どうして婚姻生活を続けるのがつらくなったのか、この機会に考えてみてください。そのうえで、夫婦にとって理想の婚姻生活がどんな形か話し合ったり、ときには弁護士の力を借りたりして、お互いに心地よく暮らせる方法を模索してみてはいかがでしょう。
離婚は大きな決断です。その手前で、いったん別居すると決めたなら、あなたの人生にとって大きな転機となる可能性が高いです。
別居の時間を上手に活用し、これからの自分が毎日を楽しく生きていくことができるよう、役立てていってくださいね。
(文:取材・文:暮らしのチームクレア 川口裕子/監修:中里妃沙子弁護士/漫画:ぺぷり
※画像はイメージです
[*1]最高裁判所「養育費・婚姻費用算定表」https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/index.html
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、弁護士に取材、および、その監修を経た上で掲載しました
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