
【医師監修】妊婦の正常値は? 妊娠中の血圧変化と高血圧・低血圧のリスク
妊娠すると体型はもちろん、ホルモンバランスや血圧など体内のさまざまな変化も次々におこります。特に妊婦健診のたびに測る血圧は、高くなると妊娠高血圧症候群も疑われるため注意深くみていくことが必要です。血圧の正常値や妊娠中の変動の仕方、高血圧、低血圧のリスクについて知り、妊娠中の体調管理をしっかりしていきましょう。
- 妊娠中の血圧は普段と違う?正常値は?
- 妊娠中の血圧変化について
- 妊婦の血圧の正常値とは?
- 妊娠高血圧症候群とは?診断と症状、リスク
- 妊娠高血圧症候群とは?
- 妊娠高血圧症候群と診断されるのはどんなとき?
- どんな人がなりやすいの?
- 発症するとどんな症状が現れる?
- 発症した場合の母体へのリスクは?
- 発症した場合の赤ちゃんへのリスクは?
- 妊娠高血圧症候群の予防・治療
- 妊娠高血圧症候群にならないためには?
- 妊娠高血圧症候群になってしまったら?
- 妊娠前から高血圧だった妊婦さんは?
- 妊娠高血圧症候群の診断について
- 薬の服用について
- 妊娠高血圧症候群の出産と産後について
- 出産方法は?
- 今後の体調への影響は?
- 低血圧でも問題になる?影響と症状、改善・予防方法
- 赤ちゃん、出産への影響は?
- 体への影響は?どんな症状が現れる?
- 低血圧を改善・予防するには?
- まとめ
妊娠中の血圧は普段と違う?正常値は?


血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のことをいいます。血圧には上下の値がありますが、心臓が収縮して血液を押し出す時の値を「上の血圧(収縮期血圧)」、心臓が拡張するときに流れる値を「下の血圧(拡張期血圧)」と言います。妊娠すると、この血圧の値が変動しやすくなります。
これまで正常値だった人も妊娠中は高血圧になることがあり、また一方で低血圧気味になるケースもあります。自分の体、そしてお腹にいる赤ちゃんのためにも血圧の変化やそれによる影響を知っておくのはとても大切なことです。
妊娠中の血圧変化について
妊娠期のなかでも、初期、後期など時期によって血圧の状態も変わってきます。
妊娠中には女性ホルモンが増えますが、この女性ホルモンには血管を広げる作用があります。そのため、妊娠初期から中期にかけては、血圧が普段より低くなることが多いようです。その後、出産に向けてゆるやかに上昇していき、妊娠前の血圧に戻ります。
妊娠中期から後期にかけては、赤ちゃんの成長とともに子宮が大きくなる時期。とくに妊娠後期に仰向けになると骨盤の中の血管が圧迫されることで血流が悪くなり心臓から送り出される血液が減ることで低血圧が起こりやすくなるので注意が必要です(仰臥位低血圧症候群)。
ただ、妊娠中の血圧の変化でもっとも注意したいのは高めの血圧が続くときです。妊娠高血圧症候群の可能性があり、産婦人科医に相談のうえ適切な治療が必要になることもあります。
妊婦の血圧の正常値とは?
日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン」[*1]では、成人の血圧の正常範囲を3種類に区分しています。
「正常血圧」:収縮期血圧が120mmHg未満かつ拡張期血圧が80mmHg未満。
「正常高値血圧」:収縮期血圧が120~129mmHgかつ拡張期血圧が80mmHg未満
「高値血圧」:収縮期血圧が130~139mmHgかつ(または)拡張期血圧が80~89mmHg
「正常血圧」は理想とされる範囲で、脳卒中や心筋梗塞などを発症するリスクが最も低いとされています。一方で「高値血圧」は正常範囲ではあるものの血圧が高めなため、高血圧予備軍とされています。生活習慣に気を付け、定期的に血圧を測定し続けるとよいでしょう。
また「高血圧治療ガイドライン」では「高血圧」の値も定められています。血圧が収縮期で140mmHg以上、かつ(または)拡張期で90mmHg以上の場合を高血圧と定義しています。
なお、上の値は、診察室で測った場合の血圧です。血圧は診察室で測ると、家庭で測るより高くなることが多いため、家庭で測る場合は上記より5mmHg低い値を目安にしてください。
妊娠高血圧症候群とは?診断と症状、リスク
妊婦の約20人に1人の割合で起こると言われる「妊娠高血圧症候群」。高血圧とはこれまで無縁だったという人も、妊娠をきっかけに「妊娠高血圧症候群」と診断され、戸惑うこともあるようです。誰にでもなりうる病気である自覚を持ち、重症化する前に適切な対応をとれるようにしておきましょう。
妊娠高血圧症候群とは?
以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていましたが、さまざまな研究の結果、現在は呼び名を変え「妊娠高血圧症候群」と言われています。実は根本的な原因などはまだよくわかっていません。
妊娠初期に胎盤の血管が通常とは異なる形で作られてしまった結果、お母さんから赤ちゃんへ酸素や栄養がうまく届かなくなってしまった状況で、赤ちゃんの成長が止まらないようできるだけ多くの栄養や酸素を流そうとするために高血圧が起こるのではないかと考えられています。
早発型と言われる妊娠34週未満で発症した場合でとくに重症化しやすく、より注意深く観察や治療が必要になります。
妊娠高血圧症候群と診断されるのはどんなとき?
妊娠20週以降、産後12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に加えてタンパク尿が出ている場合に、妊娠高血圧症候群と診断されます。ただし、妊娠前から高血圧がある人が妊娠した場合にはまた別の診断があるため、後述します。
どんな人がなりやすいの?
妊娠高血圧症候群になるリスクが高いのは、もともと糖尿病や高血圧、腎臓の病気などの持病がある人です。また、肥満や高年齢、特に40歳を超えての妊娠、逆に15歳以下のとても若い段階での妊娠、双子などの多胎妊娠、初産、家族に高血圧の人がいる人、以前妊娠高血圧症候群になったことがある人も発症しやすいと言われています。
肥満では、もともと太っている場合はもちろん、妊娠して急激に体重が増えた場合にも危険性は高くなります。また、遺伝性の要素もあり、母親が妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)だったという人は注意が必要です。自分に当てはまる項目がある場合は、発症のリスクが比較的高いということを知り、意識して気をつけるようにすることが大切です。
発症するとどんな症状が現れる?
妊娠高血圧症候群が発症すると、疲れやすくなったり目眩(めまい)が生じたり、むくみがひどくなったりすることがあります。しかし、自覚症状がなく、妊婦健診で異常が見つかるまで、自分では気がつかないことも多いです。妊娠中は血圧に気をつけるとともに、妊婦健診は必ず受けるようにしましょう。
発症した場合の母体へのリスクは?
妊娠高血圧症候群を発症すると、痙攣(けいれん)やひどい場合は脳出血、赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれてしまう「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)」などが起こることがあります。また、肝臓の機能障害、さらに溶血と血小板減少が生じることも。この状態は、HELLP症候群といい、母児ともに非常に危険な状態になりますので、緊急入院治療が必要です。
発症した場合の赤ちゃんへのリスクは?
妊娠高血圧症候群を発症した場合は母体だけでなく、お腹の赤ちゃんにも悪影響が及ぶことがあります。高血圧があると、子宮や胎盤の血液の流れが悪くなり、赤ちゃんが酸素不足、栄養不足になり、十分に育たなくなったり、体重が少ないまま生まれてしまったりします。最悪のケースとしては、お腹の中で赤ちゃんが亡くなってしまう場合もあります。
妊娠高血圧症候群の予防・治療
妊娠高血圧症候群の予防や、万が一なってしまった場合の治療方法について知っておきましょう。
妊娠高血圧症候群にならないためには?
妊娠高血圧症候群にならないための決定的な予防策は、実は未だ確立されていません。しかし、かかりつけの産婦人科医で定期的な健診を受け、体重管理や血圧チェックなど適切な周産期管理をすることは、早期発見や予防につながります。もちろん、太り過ぎや塩分の取りすぎなどはよくありません。しかし、過度なカロリー制限や塩分制限も危険です。自己判断せず、かかりつけの産婦人科医の指導のもと管理を続けるようにしましょう。
妊娠高血圧症候群になってしまったら?
妊娠高血圧症候群になってしまった場合には、その程度に応じた経過観察や治療が行われることになります。比較的症状が軽い場合は、自宅で安静に過ごし、毎日血圧を測定し、通常よりも健診の回数を多くして状態を細かく観察していきます。また食事は、野菜や魚中心にしてカロリーと塩分の過剰な摂取を避けます。
症状が重い場合には、入院してけいれん予防や血圧を下げるための薬を投与するなどの治療を行います。母体や赤ちゃんの状態によっては、誘発分娩または帝王切開により分娩を早めることもあります。
妊娠前から高血圧だった妊婦さんは?
妊娠前から高血圧の場合、妊娠高血圧症候群のリスクが通常よりも高くなります。できれば、妊娠前から産婦人科医に相談するといいでしょう。
妊娠高血圧症候群の診断について
妊娠前から高血圧やタンパク尿の診断を受けている場合には、高血圧合併妊娠や腎疾患合併妊娠という診断になります。さらに出産後12週までの間に高血圧合併妊婦に尿タンパクが生じたり、腎疾患合併妊婦に高血圧が加わった場合には、「妊娠高血圧症候群(加重型妊娠高血圧腎症)」と診断されます。
薬の服用について
降圧剤を服用している場合でも、適切な管理のもと比較的順調に妊娠生活を送り、出産することは可能です。また、妊娠初期~中期では、薬を服用しなくても正常血圧で過ごせる場合も少なくありません。妊娠中は高血圧にともなって起こりうる臓器障害などがないか、血圧やタンパク尿、血液検査の所見、自覚症状などがないかなどをきめ細かくみていくことが大切です。ただし、高血圧の薬の中には妊娠中は服用できないものもあります。
一般的には妊娠中は降圧剤としてメチルドーパやαβブロッカー、Caブロッカーが使われることが多く、一方でアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬、β受容体拮抗薬(ブロッカー)などを使用している場合には即座に中止し、変更してもらう必要があります。高血圧の持病があって妊娠を希望していたり、妊娠に気づいた場合は、かかりつけの医師と十分に相談するようにしましょう。
妊娠高血圧症候群の出産と産後について
妊娠高血圧症候群となった場合の出産方法は何か特別な方法があるのでしょうか。また産後はどう過ごしたら良いのでしょうか。
出産方法は?
妊娠高血圧症は、重症であっても、帝王切開にならず、経腟分娩になるケースもあります。出産方法は、母体の状態、赤ちゃんの状態、病院の体制によって決まります。また、いったん経腟分娩と判断されても、経過によっては途中で帝王切開に切り替わることもあります。
今後の体調への影響は?
産後は症状が良くなることが多いです。一般的には出産後12週までにはほぼ妊娠前の状態に戻ると言われています。ただし、重度な妊娠高血圧症候群であった人は産後も高血圧やタンパク尿が続くことがあり、経過観察や症状に応じた対処をしていく必要があります。
一度、妊娠高血圧症候群になってしまうと、産後数十年後に、生活習慣病や腎疾患などが見つかる頻度が高いという報告もなされています。出産後も自分の血圧は随時把握するようにし、バランスのとれた食生活や規則正しい生活など、健康管理への高い意識を持つことは必要といえるでしょう。
低血圧でも問題になる?影響と症状、改善・予防方法
高血圧によるさまざまなリスクがある一方で、低血圧でも何か問題があるのでしょうか。低血圧による影響、予防方法などをみていきます。
赤ちゃん、出産への影響は?
低血圧の定義は、一般的に収縮期血圧が100mmHg以下のことを指します。特に妊娠初期は低血圧に陥りがちですが、妊娠中に低血圧になり、直接的に母体やお腹の赤ちゃんに悪影響を及ぼすということはありません。しかし、起立性低血圧でめまいやふらつきが起き、転倒してお腹をぶつけてしまうなどの危険はありますので注意しましょう。
体への影響は?どんな症状が現れる?
一般的に低血圧の人は朝起きるのが苦手だったり、日常的な倦怠感やめまいがあると言われます。そのほかにも、肩こり、動悸、息切れなどを感じる人もいます。一方で、低血圧にもかかわらず自覚症状がないという人もみられます。
低血圧を改善・予防するには?
長時間同じ姿勢をしていたり、長風呂をしたりすると低血圧が生じやすくなります。なるべく体勢を変えたり、お風呂の時間を短めにするなどを心がけると良いでしょう。また、低血圧の予防にはタンパク質、ミネラル、ビタミンの豊富な食事をバランスよくとりましょう。
まとめ
妊娠高血圧症候群は、誰にでも起こりうる症状から始まるケースが多く、それが妊娠による一般的な変化なのか、異常なのか自分では判断しにくいものです。しかし、その症状を放置したままにすると、母子ともに危険な状態になりかねません。自覚症状が乏しいからこそ、妊娠をしたら定期的な健診に必ず行き、医師や助産師による適切なアドバイスを受けることが大切です。いつもと違うと感じることがあれば、些細なことでも相談するようにしましょう。少しでも早いタイミングで妊娠高血圧症候群の兆候を見つけることが、大事なポイントになります。
※この記事は 医療校閲・医師の再監修を経た上で、マイナビ子育て編集部が加筆・修正し掲載しました(2018.05.28)
※記事の修正を行いました(2019.06.07)