「家事は残業したほうがする」仕事も家事も育児も“夫婦イーブン”を実現するためのルールとは? #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、今回の企画はスタートした。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
もともと大学の同級生だった2人。長く友人関係だったが、東北出身の華さんが東日本大震災で精神的に不安定になったとき、雄二さんが寄り添ってくれたことをきっかけに付き合い、30歳で結婚。
その後、雄二さんが勤め先の社費留学でアメリカへ。華さんは会社にかけ合って休職を勝ち取り、同行した。そして32歳のとき、現地で長女を出産する。
帰国して数年を経て、現在は夫婦ともにベンチャー企業で実力を発揮する日々。お互いに「仕事をするならきちんとコミットして成果をあげたいだろうし、評価されるべき人」だと認め合っているからこそ、「いかに家事・育児を公平(イーブン)に負担するか」を追求してきた。
そんな松川夫婦ならではのセブンルールは、仕事も育児もしっかりがんばりたい現代の共働き夫婦にとって、とても参考になるものだった。
7ルール-1 残業したほうが家事をする
アメリカから帰国後、華さんは娘さんが生後5ヶ月のときから保育ママに預けて復職。その後、認証保育園、さらに認可保育園へと転園しながら、現在はフルタイムで勤務している。華さんはSNSマーケティングのディレクターとして、雄二さんはインターネットに接続した状態でソフトウェアをユーザーに提供するサービスSaaS(サース)のベンチャーで新規事業開発に取り組み、それぞれに奮闘中。お互いに週の半分は残業となる。
「2人とも仕事が好きですし、やりたいことを仕事にしているから、手を抜きたくないんですよね」と華さん。雄二さんも「残業しない日は焦りも強くて」と頷く。
だからこそ、園のお迎えや夕食のお世話を相手に任せて仕事ができる日は、「残業させてくれてありがとう」という気持ちで、残業したほうが洗濯や皿洗いなどの家事をする。
「はじめからそうではなかったのですが、そのほうが、自分が子どもを見ている日にラクなので、今の形に落ち着きました」と雄二さん。
育児を担当するほうが娘さんと一緒に就寝。華さんが残業をした日は、23時頃に帰宅して、入浴するときに洗濯機を回す。その後、ゆっくりと晩酌を楽しみ、寝る前に皿洗いをする。
「早く家事を済ませて子どもを寝かさないといけない、という焦りがないから、ストレスなく家事ができます。それに結構、自分の時間も持てるんですよね」(華さん)
雄二さんは残業後にお酒を飲み過ぎて、家事をせずに寝てしまうこともあるが、「できるだけ朝早く起きてつじつまを合わせています(笑)」とのこと。
お互いに感謝して、納得しているから、このルールは松川家ではとてもうまく機能している。
7ルール-2 保育園の送りは一緒に
ただし、ルール1には課題もあった。
平日はほぼどちらかのワンオペになるため、夫婦2人で話す時間が少ないのだ。スケジュールはiCloudカレンダーで共有していたが、入力したつもりが入っていないなど、「言った」「言っていない」のすれ違いが生まれることもしばしばだった。
「お互いにピリピリして、『もういい、それなら全部自分でやるわ』なんて、よくないムードの時期がありました」と雄二さん。
それを解消するために生まれたのが、このルール2。朝の保育園の送りを夫婦一緒にすることだ。
「保育園まで送っている時間は娘も含めて家族一緒に過ごせますし、保育園から駅までの道では、夫婦だけで直近の予定や仕事のことを話せます。休みの日でも、子どもがいるとなかなか夫婦でゆっくり会話することが少ないので、すごく貴重な時間になっていますね」(華さん)
たとえば一時期、華さんが忙しくて、当然のように週3で残業をしていたことがあった。しかし、朝の時間を共有することで、雄二さんの仕事の状況を知り、「お互いに忙しいのだから、公平に残業を取ろう」と話ができたという。
「日常的に状況を伝え合うことで、『自分だけが忙しい』という思い込みがなくなって、自然に補い合えるようになりました」(雄二さん)
忙しくて「今日は先に行くから送りはお願い」という朝もあったが、やはりこの時間は家族にとって必要だと実感。今ではできるだけ一緒に送るようにしているという。
7ルール-3 タクシーは迷わず使う
そんな多忙な日々を送るなか、夫婦で「やめることを考えよう」と話し合ったことがあった。そうして出た結論の一つが「タクシーを我慢するのはやめよう」ということだ。
小さな子どもを連れて歩くのは大変だ。ただでさえオムツやミルク、着替えなどで荷物が多い上に、疲れてぐずった子どもを抱っこしたり、トイレを探して走ったり。時間も労力も大人だけで歩くときの倍はかかる。
「旅行や帰省の帰りに東京駅から自宅までの道のりや、繁華街まで出て娘も疲れ切っているとき、雨の日の習い事の送り迎え。そこをがんばることでものすごい疲労感とストレスがかかるんですよね」(華さん)
それほど頻繁に旅行をするわけでもないし、都心住まいで走行距離は短い。我慢せずにタクシーを使っても、多い月で1万円もいかないくらいだ。それなら、「ストレス・レスをお金で買おうと相談しました」と雄二さん。
昔はたまにタクシーを使うだけでも罪悪感があったが、夫婦の間でルール化したことで、「もはや迷うのも無駄と考えるようになりました」と華さん。
ただし、友人たちといるときは、簡単に「タクシーを呼ぼう」と言うと贅沢をしているように思われてしまうかもしれないので、注意しているとのこと。
このルールには共感しかない。子連れの移動で苦労したことがある人なら、決して贅沢ではないことがわかるはずだ。
7ルール-4 同じことを同じレベルで2人ができるようにする
仕事も家事・育児も、夫婦でイーブンに。この松川家の方針には前提がある。夫婦どちらもが、同じことを同じレベルでできることだ。
「どちらも同じレベルで家事・育児ができるようにすると、ワンオペもあまり苦にならないんです」と華さん。松川家の場合、子どものころから家事を手伝っていた雄二さんのほうが、家事スキルが高かった。
「洗濯物を取り込んだらすぐ畳まないとシワになっちゃうよ、とか、細かいところが気になって。同じレベルでやらないと、気になったほうがやる、ということになりかねないです」と雄二さん。
華さんは結婚当初こそ「注意されると押しつけにも聞こえたし、『なんでそんなに怒っているんだろう』とも思っていました」と言うが、子どもが産まれてから考えが変わった。
娘さんが産まれたとき、雄二さんは留学中で家にいる時間が長かった。そのため、2人で同等の育児スキルを身につけ、アップグレードしてきた。
「同じレベルでできるからこそ、お互いにストレスなく分担することができるんですよね」と華さん。オムツ替えもミルクも、お互いが自分の担当分をきっちりまかなえれば、どちらかが後からフォローする必要がない。
「育児でそれを感じたので、家事でもまずは言われたことをやってみて、いいことは取り入れるようになりました」と華さん。
「苦手だから」で済ますのではなく、努力して成長する。この姿勢が、元は他人同士である夫婦関係にはとても重要なのだ。
7ルール-5 二日酔いにはやさしくする
ここまで完璧な2人だったが、もちろん弱点(?)もある。
「2人ともお酒が大好きで。つい遅くまで飲み過ぎて、二日酔いで翌日使い物にならないことがあるんです」と雄二さん。
「相手がそうだとイラっとしがちですが、お互い様なんですよね。だから、そういうときは大目に見てフォローします。自分が助けてもらったときにも、心から感謝しますしね」(華さん)
それほど頻度が高いわけではないので忘れてしまいがちだが、「あえてルールにすることで『お互い様』であることを意識できるようになり、気にならなくなりました」と華さん。
ルール化することで、たまには心置きなく飲めるようにもなったという。
「子どもが小さいころから、わざわざベビーシッターさんに預けて会社の飲み会に参加することもありました。同僚には『松川さん、1万円払って飲みに来てるんだってね(笑)』とか言われていましたが、私たちには息抜きも必要なんです」(華さん)
たまの飲み会も、夫婦で公平に楽しむ。普段は自分の担当分は責任を持って果たすが、二日酔いにはやさしくする。
やさしくて、愛があって、とてもよいのではないだろうか。
7ルール-6 【夫】写真をたくさん撮って家族用の写真フォルダにあげる
お互いに時間のないなかで、「仕事もしたいし、娘との時間も作りたい」という思いを共有している松川夫婦。
そこで、雄二さんが提案したのが、写真共有ツールを使った娘さんとの写真の共有だ。
「うちでは『みてね』というサービスを使っています。最初は祖父母との共有用に使い始めたのですが、夫婦間の共有のためにも使うようになりました」(雄二さん)
何気ない日常の写真であっても、夜寝る前にその日の娘さんの写真を見ると、ほっとする。華さんが残業した日、晩酌しながら眺めるのもそうした写真だ。もちろん、華さんが育児を担当した日は、華さんが娘さんとの写真を撮ってアップする。
「『今日、あんなことがあってね』とゆっくり話す時間はなくても、写真から妻と娘がどんな時間を過ごしたのかが伝わってきます。あとで娘と一緒に写真を見返して話をするのも楽しいですね」(雄二さん)
7ルール-7 【妻】 日曜日の夜は家で晩御飯を作る
華さんは料理が好きで、雄二さんは華さんの料理を食べることが好きだ。
とはいえ、忙しい平日は、週に2回は保育園で夕食のサービスを受け、大人は簡単なもので済ます。その他、育児担当が華さんの日は食品宅配の「Oisix(オイシックス)」の料理キットを使い、雄二さんが担当の日は帰りにスーパーで惣菜を買う。
「ほとんど家族のために手をかけることがないので、せめて日曜の夜だけは、と思ってあれこれ料理を作り、家族団らんしています。料理は好きなので、週1だといい感じにストレス解消になりますね」(華さん)
エビフライに餃子にカレー。1時間以上かけて5、6品は作ることもあるという。メニューは「大人が食べたいもの」だ。以前は娘さんのために手をかけて作っていたが、「それで食べてくれないと勝手にガッカリしちゃって。でもそれって、ひとりよがりだったのかもしれませんよね。だから、週末の楽しい団らんのときは、気にしないことに決めました」と華さん。
「今は大人が食べたいものを食べて、その中に1、2品でも娘が食べられるものがあるといいな、と思っています」(華さん)
日曜は外出しても16時には帰宅して、華さんの料理で食事をする。大人はゆっくりお酒も楽しむ。「だから、自然と土曜は外食が多くなりました」と華さんは言う。
作るほうも食べるほうも楽しい、家族にとって大切な時間となっている。
彼らの7ルールを一言で言うと……?
松川夫婦のルールに共通するキーワードは、「イーブン」と「ストレス・レス」だ。
どちらかが我慢を強いられたり、しわ寄せがきたりしないように、夫婦両方が同レベルで家事育児を担えるように努めている。そして、タクシーを使ったり、総菜や食品宅配サービスを駆使したりして、力を抜けるところは迷わず抜けるように工夫している。
取材をして感じたのは、そこに向けた夫婦の意識がぴったりと合っていることだ。
その理由は、2人が大学の同級生で、子どもを持つずっと前からお互いの性格を知り尽くしていることや、お互いに仕事が好きで、その想いを尊重していることが大きいだろう。
そして決定的だったのはおそらく、親として初めての産後育児を2人で一緒にスタートしたことだ。“どちらかが主で、どちらかがサポート”なのではなく、当事者として同時にスタートしてアップグレードしてきたことが、現在の「イーブン」な立場につながっている。
だからこそ、「男性はぜひ、1ヶ月でもいいから育休を取るべきです」と華さん。「同じレベルで一緒に育児をすることで、マインドセットが変わりますよ」と確信する。
この連載の取材をしていても、夫婦の家事育児負担が本当に公平なことは少ない。事情は家族それぞれだが、やはり育休や時短勤務を選択するのは女性、ということがまだまだ多い気がする。
我が家もそうだが、そうこうしているうちに、子どもがママを求めてきたり、同じようにはできないことがあったりして、どんどん公平から遠ざかってしまう。
イーブンを求めるなら、ぜひ、男性も育休を取って同時にスタートを切ってほしい。そして、それが可能な社会や環境がもっともっと整ってほしいと、改めて強く感じたインタビューだった。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)