生理不順に効果のある漢方薬は?<ママのお悩み漢方相談室#16>
生理周期が不安定なのに、何となく放置してしまっている……そんな人いませんか? そして生理不順は漢方で改善できるのでしょうか? 16回目の今回は、意外と多い悩みの「生理不順」について、漢方薬剤師の西崎れいな先生(KAMPO MANIA TOKYO)に教えていただきます。
この記事でお伝えすること
1. 「正常な生理周期」っていったいどれくらい?
2. 生理不順の原因とその治療は?
3. 日常生活で気をつけることは?
4. 産婦人科を受診した方がいい基準は?
5. 生理不順に効果のある漢方薬は?
1. 「正常な生理周期」っていったいどれくらい?
生理の周期が不安定です。
数週間来ないのは当たり前、2ヶ月くらい来ないこともあり、タイミングがわからないのでいつも外出先で慌てています。
ざっくりした時期すらわからないと、旅行の計画も急な生理で台無しになったりして、困りますよね。
ただ、誰しも数日程度はずれることがありますし、いわゆる「不順」ってどこからなの?と思う方もいると思うので、まずは正常な生理周期について確認しておきましょう。
生理周期は生理の初日から次の生理開始の前日までの期間のことをいい、正常な周期は25日〜38日の範囲内で、変動は6日以内とされています。生理不順や無月経の定義は、この基準から以下のように区別されます。
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原発性無月経:18歳を超えても生理が始まらないこと(乳房の成長などのいわゆる二次性徴が始まらない)
続発性無月経:90日以上生理が来ないこと
頻発月経:24 日以内の周期で生理が繰り返されること
稀発月経:39 日以 上生理が来ないこと
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生理不順の原因とその治療は?
「生理痛と漢方薬」の記事でお話したように、生理がくることは、妊娠が起こらなかった証拠でもありましたね。卵巣の中で卵胞が育ち、その後排卵します。生理が起こるまでの一連のプロセスは、女性の体が分泌するエストロゲン(卵胞ホルモン)と、プロゲステロン(黄体ホルモン)の増減によって起こります。
これらの女性ホルモンは絶妙なバランスで成り立っていて、ストレスや栄養不足などの負荷が加わるとそのバランスが崩れ、生理がストップしてしまう場合があるんです。
エストロゲンは骨や筋肉を作ったり、肌をキレイに維持したり、丸みのある体を作ったりして、女性らしい体を作るホルモンです。これが不足すると、肌や髪のトラブルが増えたり、骨粗しょう症の原因となって骨折しやすくなるなど、健康と美容に支障をきたす場合があります。エストロゲンの分泌量は加齢とともに減少していきますので、30代以降になって生理が不安定になる方も多いです。
生理が止まったり、遅れたりする原因として主なものは、以下のようなものです。こちらに挙げた妊娠や授乳、薬剤など原因がはっきりしている場合を除き、ストレスや栄養不足といった生活上の負荷がかかっている場合は、それを取り除くことが大切です。
妊娠、授乳中
環境の変化やストレス
過剰な運動を行なっている
摂食障害や過度なダイエットによる栄養不足
睡眠障害や精神安定に使用する特定の薬剤
生理不順の治療は、まずこのような生活習慣の改善が第一にあって、次にホルモンを補充する治療が行われます。
まだ妊娠を望まない若い世代の方に一般的な低用量ピルは、ホルモンがバランスよく含まれたお薬です。お薬の周期がちょうど4週間ごとに区切られていて、3週間はホルモンの入ったお薬をのみます。そのうち1週間は休薬期間といって、お薬を飲まない期間があり、この時に生理がきます。
※飲み忘れを防止するために、成分の入っていない錠剤を飲み続けるタイプのお薬やしばらくの期間は薬を飲み続けて、年間の生理回数を少なくするお薬もあります。
これを繰り返せば継続的にホルモンが補充され、乱れていたホルモンバランスが整い、生理の周期はほぼ28日で整います。
閉経が近づくと、更年期に伴う不調の改善のためにホルモン補充療法が主流です。40代以降はピルの血栓症などのリスクが増えてくるため、ハンドクリームのようなジェルタイプの塗り薬やパッチのような貼り薬など、ピル以外の選択肢で対応します。閉経が近くなってきて、加齢に伴う生理不順に加えてほてりなどの症状が出てきた場合は、これらの治療も視野に入れていただくといいかもしれません(更年期障害については、また別の回でお話します)。
3. 日常生活で気をつけることは?
日常の生活習慣が原因で生理不順になることもあるんですね。
具体的には、どのようなことを心がけるといいのでしょうか。
はい、そうなんです。生理は妊娠の不成立を意味しますが、同時に、体が妊娠できる状態を保っていることとも考えられます。体が栄養不足の状態に陥ると、妊娠して赤ちゃんを育てるどころではありませんから、視床下部という脳の司令塔が、ホルモンの分泌をしなくなるのです。
例えば、将来的に妊娠を望んでいるのであれば、
1. 規則正しいリズムで生活をする
まずは生活のリズムを一定に整えることが大切です。お休みの日も普段と同じ時間に起きて、同じ時間に寝る生活ができるようにリズムを整えていきましょう。
2. 適正な食事と運動、適正体重の維持
これは一番大切なことです。ダイエットや過食で過度な体重の増減があると、生理が止まることがあります。栄養バランスの良い食事をしっかり摂って、適正な体重になるよう心がけましょう。たまにダイエット目的で糖質や脂質を過度に制限する人がいますが、これらが生理不順や肌荒れの原因になっている場合があります。適正な糖質や脂質、たんぱく質は女性の体を作る大切な栄養素です。
また、栄養摂取と運動強度のバランスも考えることが必要です。生理が止まってしまうアスリートは、フィギュアスケートや体操選手など、体重制限と強度の高い運動の両方を必要とする種目の方が多いです。健康でしなやかな体をつくるために、必要な栄養はしっかり摂り、適正な運動をしましょう。
昼間に活動するためのエネルギーを回復する意味でも、良質な睡眠で体をゆっくり休めて、疲れをとることは大切です。不眠の回でもお話したような、うまく入眠できるような工夫をして、自分に合った睡眠時間を確保するようにしましょう。
3. ストレスの軽減
例えば、「妊娠したかどうか不安になると、余計に生理が遅れる」という話は、女性なら誰もが聞いたことがあると思います。家事・育児やお仕事の負担が大きい場合は、周囲の人と相談して工夫する、精神的ストレスが原因となる場合には、カウンセリングなどもうまく活用していきましょう。
改めて言われてみると、ごく普通のことがとても大切なんですね。
4. 産婦人科を受診した方がいい基準は?
自分は生理不順だと自覚した場合、具体的にはどんなタイミングで産婦人科を受診した方がいいのしょうか?
まず、続発性無月経、つまり前まで普通にきていた生理が止まるということは、よほど体に負荷をかけているんだという認識が広まってくれるといいなと思います。
妊娠を望まない場合、3ヶ月に1回くらい生理が来ていれば、薬物治療などを行わず経過を観察していく場合もあります。というのは、生理の周期が定まらないこと自体は、まだ体が成熟しきっていない10代から20代前半の女性にはよくあることで、性行為がなくて妊娠の可能性がない場合は、様子をみることが多いです。
ただ、いざ赤ちゃんを考えたいと思ったときに「妊娠のチャンスが少ない」「ホルモンバランスの異常があるせいで排卵がない」場合があって、妊娠が難しくなってしまうんです。そういった意味で、妊娠を望む方にとっては、生理が順調にくることはとても大切なこと。生理不順の方が妊娠を望む場合は排卵を誘発するお薬を使って治療を行います。
ホルモン治療を行っているわけでもないのに無月経の状態が長く続くと、閉経と同じような症状、ホットフラッシュ(ほてり)や膣の乾燥、骨密度低下などが起こる場合があります。
生理が少ないと楽だという理由で放置してしまう人もいるのですが、妊娠の可能性がないのに生理が3ヶ月以上に渡って止まった時は、早めに産婦人科の受診をおすすめします。子宮に腫瘍があったり、脳の機能が働いておらず、ホルモンを分泌することができない病気だったりする可能性もあるからです。産婦人科では、子宮内膜の厚みや卵胞の発育などをみることによって排卵の有無やこれらの病気の可能性を調べることができます。今は必要なくても、将来妊娠を望んでいる人で生理不順の場合は、早いタイミングで一度産婦人科に足を運んでみた方が良いでしょう。
また、アスリートの方で生理が止まってしまう場合がありますが、これはエネルギー不足と過度な運動負荷が原因でエストロゲンの分泌が不十分になることで起こる症状です。スポーツに関わる専門的な知識も必要なので、可能ならアスリート専門外来のある産婦人科に相談することをおすすめします。
5. 生理不順に効果のある漢方薬は?
まず、漢方医学で女性ホルモンの変動により起こる様々な症状を「血の道症(ちのみちしょう)」といい、生理不順をはじめとした生理の異常は、血のめぐりが悪くなる瘀血(おけつ)、血の不足である血虚(けっきょ)などが主な原因と考えられています。また、ストレスなどで気の巡りが悪くなる気滞(きたい)、体のエネルギー不足である気虚(ききょ)も同時に改善の必要があるケースが多いです。その治療には、気血を補ったり、巡りをよくしたりして、ホルモンバランスを整える漢方薬を使用します。代表的なものをご紹介しましょう。
温経湯(うんけいとう)
【体質、症状】生理が安定せず、唇や皮膚が乾燥してカサカサしている方。めまいや立ちくらみといった貧血症状を抱える場合も。
【効能】生理不順や更年期障害の治療に使用される代表的な漢方薬です。体をあたため、ホルモンのバランスを整える働きがあり、肌のカサつきなどの皮膚症状にも有効です。
【使われている生薬】麦門冬、半夏、当帰、甘草、桂皮、芍薬、川芎、人参、牡丹皮、呉茱萸、生姜、阿膠
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
【体質、症状】痩せ型で体力がない、水分の巡りが悪くむくみやすい。生理不順に加えてめまいや冷えを伴う方、血の不足である血虚(けっきょ)の方に向いています。
【効能】当帰や川芎は血の巡りをよくして体を温める働きがあります。茯苓の利水作用で滞った水の流れをよくするためむくみにも効果が期待できます。産婦人科の三大漢方薬のひとつで、女性のさまざまな不調に効果があるお薬です。
【使われている主な生薬】当帰、川芎、芍薬、茯苓、蒼朮、沢瀉
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
【体質、症状】血行不良の状態を表す瘀血(おけつ)の方で、下半身の冷え、肩こりやむくみがある方に向いています。
【効能】瘀血を改善する駆瘀血剤(くおけつざい)の代表的な漢方薬です。血の巡りをよくする作用のある桃仁、牡丹皮を含み、茯苓で水の巡りを改善します。
【使われている主な生薬】桂皮、芍薬、桃仁、茯苓、牡丹皮
加味逍遙散(かみしょうようさん)
【体質、症状】生理不順の他にほてりやのぼせ、頭痛を伴い、不安やイライラなどの精神症状が強い場合に有効です。また、更年期障害など、女性特有の症状に向いています。
【効能】当帰芍薬散、桂枝茯苓丸と並ぶ産婦人科の三大漢方薬のひとつで、女性のさまざまな不定愁訴に用いられ、イライラなどの精神症状にもよく使われる漢方薬です。
【使われている主な生薬】柴胡、芍薬、当帰、茯苓、蒼朮、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷
まとめ
薬剤師の先生から漢方について学ぶ「ママのお悩み漢方相談室〜不調な私の取扱説明書〜」。第16回の今回は、生理不順の定義、産婦人科を受診する目安、効果のある漢方薬についてお伝えしました。
生理不順の原因には、病気のほかストレスや栄養不足も関わってきます。生活リズムに加え、食事や体重のコントロール、ストレス軽減を心がけましょう。そして、将来妊娠を望んでいる場合は特に生理不順を放置せず、受診するようにしましょう。
(解説:西﨑れいな 先生<KAMPO MANIA>)
※画像はイメージです
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、薬剤師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます