眼精疲労に効果のある漢方薬は?<ママのお悩み漢方相談室#20>
目の酷使で頭痛や肩こりにまで悩まされている現代人は少なくありません。記念すべき20回目の今回は、パソコン仕事や、毎日のスマホ生活による眼精疲労の悩みについて、漢方薬剤師の西崎れいな先生(KAMPO MANIA TOKYO)に教えていただきます。
この記事でお伝えすること
1. 現代人の目の疲れとそのメカニズム
2. あなたの眼精疲労はどのタイプ?目の不調にひそむ病気とは
3. 目を疲れさせないようにするには?
4. 眼精疲労におすすめの漢方薬
1. 現代人の目の疲れとそのメカニズム
事務職をしています。
毎日デスクワークで、ほぼ終日パソコンで表計算ソフトを使用しているのですが、コンタクトレンズのせいもあるのか夕方になるとかすみ目がひどく、作業を苦痛に感じています。
疲れ目や眼精疲労は、スマートフォン(以下スマホ)利用やパソコンでのお仕事が一般化した現代では、多かれ少なかれ皆さんが抱えている問題だと思います。
たかが目の疲れ、と思っている人も多いかもしれません。1日仕事をして目を酷使した夕方以降にかすみ目や目がしょぼしょぼするといった経験は誰にでもあると思います。たいていの場合は十分な睡眠をとることで翌朝には解消されます。ところが、疲れ目を放っておくと寝ても目の疲れがとれない状態になってしまい、目の痛みやまぶしさといった目の症状に加えて、頭痛、肩こりや吐き気のような、全身の症状を伴う「眼精疲労」につながってしまいます。
私たちの目は、物を見るとき、レンズの役目である水晶体の厚さを変化させることでピントを合わせます。その調節をしている筋肉が毛様体筋です。近くを見るときは毛様体筋が緊張(収縮)してピントを合わせ、遠くを見るときは緩みます。
パソコン作業などで長時間にわたって近いところを見続けていると、この筋肉の緊張状態が続き、目が疲れてきます。そのうちピント調節がうまくいかなくなり、かすみ目や目の奥の痛みを感じるのです。また、スマホの画面など手元を見るときは、目が内向き、つまり寄り目の状態になるために、目の外側の筋肉をよく使います。そう考えると、パソコン、スマホ社会の現代は、目は疲れて当然ですよね。
実際、パソコンやスマホ、テレビなどのディスプレイ画面をVDT(Visual DisplayTerminals)といい、これらを注視する作業を続けることによって生じる目の疲れや肩こりなどの不調は「VDT症候群」といわれています。
また、最近はよく知られるようになった「ドライアイ」も同じようにVDT作業が原因の一つと言われています。じっと見ているとまばたきの回数が減って、目を保護している涙の供給量が減ってしまうからです。
2. あなたの眼精疲労はどのタイプ?目の不調にひそむ病気とは
眼精疲労の原因は様々で、以下の5種類に分類されます。
調節性眼精疲労 目がピントを合わせるために目の周囲の筋肉が疲れることで起こるもの。
筋性眼精疲労 目の周囲の筋肉の異常(病気)で起こるもの。
不等像性眼精疲労 左右の目の視力が違うことによって起こるもの。
症候性眼精疲労 結膜炎や緑内障などの目の病気がきっかけで起こるもの。
神経性眼精疲労 精神的な緊張などの要因によって起こるもの。
なんとなく想像がつくかもしれませんが、調節性眼精疲労や、不等像性眼精疲労といったタイプは、目の「ピント調節」がうまくいっていないことが原因です。これらの理由で起こっている眼精疲労の場合は、自分に合った眼鏡やコンタクトレンズを使って視力を矯正し、ピントがうまく調節できるようにすることで回避できます。
筋性眼精疲労や症候性眼精疲労は、原因となっている病気の治療が必要です。斜視により眼精疲労が引き起こされている場合、適切な治療によって改善することもあります。
どんな状況にしても、数日寝ても回復しない疲れ目、明らかに目の充血や痛み、かゆみが伴うような場合は早めに医療機関を受診し、矯正視力の確認や検査を受けることをおすすめします。
ここまで、目の疲れのメカニズムと原因についてお伝えしてきましたが、かすみ目や見え方が「突然」変わった場合の、注意が必要な病気についてお話しましょう。
ひとつは、急性緑内障発作といって、眼圧(眼球内を満たし循環している液体の圧力)が突然上昇する病気です。眼痛・充血・目のかすみのほか、頭痛や吐き気といった全身症状が突然現れます。
次に、網膜中心動脈閉塞症という急性疾患です。これは目の動脈にできた血栓によって血液の流れが低下し、視細胞が機能しなくなる病気です。急に視力が低下して目の前がぼやけたり、視野の一部が欠けて見えたりするようになります。
これらの病気の症状は、「突然、発作的に」現れるのが特徴です。場合によっては失明に至ることがあります。
なるほど、疲れ目の場合は、体の疲れと違ってきちんとした視力の矯正や病気の治療が先なのですね。
3. 目を疲れさせないようにするには?
スマホやパソコンが疲れ目の原因になりやすいことはわかったのですが、現実問題、それら抜きで日常生活を送るのは不可能ですよね。
目のために気をつけた方がいいことはありますか?
そうですね。現代社会では、パソコンの電源を切っていたとしても、普段のスマホ生活や、店舗や電車で、どこにいても広告などのディスプレイに晒されているし、目を酷使するのが当たり前になっていると思います。
やはり大切なのは、適切な視力矯正と睡眠、それから、目にとって負担になる行動を避けることです。
① 生活リズムを整え、質のよい睡眠を
目が休まる時間というのは、寝ている時しかありません。体と同じように、睡眠中は目にとっても筋肉が緩んだ状態になり、角膜の修復を行うための大切な時間です。
起床と入眠の時間を出来るだけ一定にし、寝る前のスマホ操作やカフェインを避けるなど、質のよい睡眠をとれるように工夫しましょう。
蒸しタオルなどで目の周囲を温めると筋肉が緩んで疲れ目の解消につながります。もちろん、コンタクトレンズをつけっぱなしで寝ないように注意してくださいね。
② 眼鏡やコンタクトレンズの度数は合っている?定期的にチェック
もうお分かりかと思いますが、近視や乱視、老眼などが進行してくると、ピント合わせのために目が無理をするようになり、眼精疲労の原因になります。ピントの調節機能は加齢によっても変動してくるので、眼鏡やコンタクトレンズを使っている人は、装着した状態の視力矯正を定期的にチェックしましょう。
特に40代を過ぎてくると、緑内障や白内障などの目の疾患が増えてきます。視力検査と一緒に行われる眼圧検査などの定期検診で、緑内障などは早期発見、治療につながります。
③ 長時間のパソコン作業はNG。1時間に1回程度、適度な休憩を
近いところを長時間にわたって注視し続けることが目にとって負担になります。タイマーをセットするなどして適度に休憩をとるようにしましょう。遠くを見たり、お茶を飲んだり、お散歩したりしてリラックスすれば、気分転換にもなりますよね。また、少しでも身体を動かすことで血流を促して腰痛や肩こり対策にもなります。
目が乾いたと感じたら、こまめに涙液タイプの目薬をさすのも有効です。
④ 作業環境に注意。モニターの位置や照明は適切に
パソコン作業をする場合は、ディスプレイも目より数cm高い位置にし、目との距離は40〜50cmあけましょう。近すぎるディスプレイは姿勢が悪くなり、目だけでなく背中や腰にも負担になります。
ディスプレイの明るさと周囲の明るさはなるべく差がないようにします。ブラインドを使って直射日光を避けたり、ディスプレイはマットなタイプのものにしたりしてまぶしさを防止することもおすすめです。
4. 眼精疲労におすすめの漢方薬
疲れ目や眼精疲労におすすめの漢方薬にはどのようなものがありますか?
はい、漢方医学では、目を酷使することで「血」が消耗し、目に栄養が行き届かないことで疲れ目やかすみ目が起こると考えます。また、五臓の「肝」と目は深い繋がりがあり、肝の乱れによって様々な目のトラブルを引き起こします。
疲れ目や眼精疲労に用いられる代表的な漢方薬は杞菊地黄丸です。飲む目薬とも言われるこの漢方薬は、血を補いながら熱をとり、五臓の肝と腎を補います。
他にも、目の症状におすすめの漢方薬をご紹介していきましょう。
杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)
【体質、症状】長期にわたって症状が続いている方、加齢に伴って症状が悪化している方。
疲れ目やかすみ目、口の乾き、むくみやほてり、視力の低下などの症状に用いられます。
【効能】疲れ目に使われる代表的な漢方薬。六味地黄丸の処方に、目の不調に使われる生薬である菊花と枸杞子(くこし)を加えたものです。菊花は清熱(せいねつ)作用といって、熱をとるはたらきがあり、目を酷使したときの充血に力を発揮します。
【使われている生薬】地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、枸杞子、菊花
八味地黄丸(はちみじおうがん)
【体質、症状】体力がなく疲れやすい、疲れ目やかすみ目の他に、冷えや腰痛、排尿障害などがある方。
加齢に伴い、症状が悪化する場合に用いられます。
【効能】加齢により引き起こされる、様々な症状に効果的です。泌尿器系トラブル、毛様体筋のピント調節機能の衰えに用いられます。杞菊地黄丸との使い分けは冷えがあるかないか。附子には体をあたためる作用や痛みをとる作用があります。
【使われている生薬】地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子末
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
【体質、症状】体が冷えて普段から疲れやすい方、食欲不振で下痢をしやすいなど消化機能が低下している方におすすめです。
【効能】体を動かすエネルギーとなる気、女性が不足しがちな血を補う代表的な漢方薬です。黄耆や人参で全身の機能を高め、当帰や地黄で血を補ってからだの栄養状態を整えます。
【使われている生薬】黄耆、地黄、当帰、川芎、芍薬、蒼朮(または白朮)、茯苓、人参、桂皮、甘草
まとめ
薬剤師の先生から漢方について学ぶ「ママのお悩み漢方相談室〜不調な私の取扱説明書〜」。記念すべき第20回の今回は、疲れ目の仕組みと関連する目の病気、眼精疲労におすすめの漢方薬についてお伝えしました。疲れ目を放置すると睡眠を取っても回復せず、頭痛や肩こりなどの全身症状を引き起こします。そんな眼精疲労の症状を感じ、なかなか回復しないなどがあれば医療機関を受診しましょう。また、漢方薬の中には疲れ目や眼精疲労に効果があるものがありますので、生活の中で気をつけながら上手に漢方も取り入れてみてください。
(解説:西﨑れいな)
※画像はイメージです
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