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2022年07月08日 11:50 更新

更年期症状に効果のある漢方薬は?<ママのお悩み漢方相談室#18>

のぼせやめまい、動悸、イライラなど、更年期の症状を「年齢のせいだから」とがまんしていませんか? 18回目の今回は「更年期症状と漢方薬」について、漢方薬剤師の西崎れいな先生(KAMPO MANIA TOKYO)に教えていただきます。

この記事でお伝えすること

1. よく聞く「更年期」、どんな不調が出る?
2. 更年期症状と区別がつきにくい病気にも注意を
3. 女性ホルモンとの関係性
4. 更年期症状に対する治療
5. 更年期症状に効果のある漢方薬は?

1. よく聞く「更年期」、どんな不調が出る?

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昨年生理が終わったのですが、更年期のせいか体のほてりやのぼせに悩んでいます。
突然暑くなって、汗が止まらなくなります。数分でおさまるのですが、接客の仕事をしているため、仕事に支障が出て困っています。

女性が更年期で悩む、典型的な症状のひとつですね。更年期の症状は、日によって症状の出方が違う、なんとなく調子が悪いなど、検査をしても異常がないのになんらかの不調が続く不定愁訴(ふていしゅうそ)」の代表と言えます。この不定愁訴に対する治療は、漢方薬の得意分野のひとつなので、うまく活用してもらえたらと思います。

更年期とは閉経前後の5年間のことをいい、閉経「12ヶ月以上生理がないこと」を指します。更年期に現れる様々な不調を更年期症状といい、なかでも症状が重く日常生活に支障をきたすような状態を更年期障害と定義します。これらの症状には、他の病気に起因するものは含まれません。

更年期に起こる代表的な症状は、以下のような3種類に分類されます。
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1. ホットフラッシュ、のぼせ、発汗などの血管運動神経症状
2. めまいや動悸、頭痛や肩こり、腰痛、手足のしびれなどの身体症状
3. 気分の落ち込みやイライラ、不安感などの精神症状
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生理痛の程度や閉経のタイミングが人それぞれであるように、更年期の症状も個人差があり、非常に多様です。同じ人でも日によって症状が変わることもあります。典型的なのは、今回の相談のように環境温度や季節にかかわらず、顔や頭全体が急にカーッと熱くなって汗が止まらなくなるホットフラッシュです。心臓がドキドキするなどの症状が伴う場合もあります。これらの症状が数分続いた後、自然とおさまります。

2. 更年期症状と区別がつきにくい病気にも注意を

更年期症状は、対象の年齢であることや、現れる症状などから判断するわけですが、これらは甲状腺の病気の症状によく似ています。甲状腺ホルモンという代謝を活発にするホルモンが過剰に分泌されたり(バセドウ病)、不足したりする(橋本病)病気です。更年期は橋本病を発症する年齢にも当たるので、安易に更年期と片付けないで、まずは病院を受診しましょう。血液検査でホルモン値を測定したり、甲状腺の腫れ具合を確認したりして総合的に判断します。

また、気分の落ち込みや不安感などの精神症状はうつ病との区別が難しく、その点注意が必要です。更年期症状としては、ちょっとした失敗をきっかけにして「今まで普通にできていたのに…」と些細なことで涙が出てきてしまったり、イライラが爆発してパートナーや周りの人に強く当たってしまったり、といったエピソードはよく聞きます。

何をしても楽しくない、無気力で長時間ふさぎ込んでしまう、死にたいと考えるようになるなど、気分の落ち込みがひどい状態が続く場合は、早めに専門医にご相談くださいね。

3. 女性ホルモンとの関係性

更年期症状の主な原因は、卵巣の機能低下によってエストロゲンという女性ホルモンが以前のように分泌できず、体内のホルモンバランスが保てなくなることにより引き起こされます。

PMSの回(記事はこちら)で説明したように、女性には排卵や生理のサイクルを司る卵胞ホルモン(エストロゲン)黄体ホルモン(プロゲステロン)の二つの女性ホルモンがあります。
この女性ホルモンのひとつである「エストロゲン」は、肌をきれいにしたり、骨を健康に保ったり、女性のしなやかな体を作るために必要なホルモンです。

性成熟期の女性は妊娠のために女性ホルモンのバランスが1ヶ月周期で保たれています。ところが、閉経が近づいてくるとエストロゲンの分泌量が急降下し、不安定な状態になります。ホルモンバランスが崩れて自律神経が乱れ、血管の拡張や放熱のシステムが崩れた結果、ホットフラッシュのような不快な症状につながるわけです。

女性ホルモンの減少というと、女じゃなくなったような気がしてショックを受けてしまう人がいるのですが、加齢に伴う現象のひとつですから、過度に落ち込む必要はありません。身体の変化と上手に付き合っていきましょう。

更年期というと女性のイメージがあるかもしれませんが、実は男性にも存在します。睾丸ホルモンの減少によって似たような自律神経失調の症状や性機能不全などが現れる場合があり、女性と比べると男性は、それらの症状に気が付きにくく、状態を放置してしまう傾向があります。

4. 更年期症状に対する治療

西洋医学的な治療でいうと、ホルモン補充療法(HRT)という治療が一般的です。不足したエストロゲンをお薬で補う治療のことで、ピルのように毎日服用する飲み薬をはじめ、パッチのような貼り薬、日焼け止めクリームのように両腕の肌に塗るタイプの塗り薬など、色々な選択肢があります。早ければ1〜2週間程度で効果が現れます。

また、医療現場でも漢方治療が非常によく活用されています。三大婦人科漢方薬の当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸の3つは、それぞれの働きと患者さんの証に合わせて使用されます。

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加齢に逆らうのはさすがに難しいと思いますが、何か日常生活でできることはあるのでしょうか?

そうですね。実際のところ、先ほどご紹介した治療以外に、日常生活で更年期症状を抑える確実な方法というものはないといってもいいでしょう。だからこそ漢方薬が活躍している領域でもあります。

ただこれらの症状が、「ホルモンの減少によって引き起こされるものである」ということを知って、それぞれの症状に対して適切に対処することが大切です。
というのは、今までの自分とは違うなんとなく調子の出ない不調、精神状態が長期間にわたって続くと、そのことが不安やイライラにつながってしまい、さらにストレスとなって状態を悪化させてしまうケースがあります。

次のステージに向かうための移行期、一時的な症状だと思って、心を落ち着かせて気長に付き合っていくことも大切ですね。日常の過ごし方のアドバイスとしては、以下のようなものがあります。

① 生活リズムを整え、無理をしないこと

最近は、高齢になってもリタイアせずに働き続ける女性も増えてきました。責任のある職についている方も多く、本調子の出ない分を挽回しようと無理をしてしまいがちです。毎日の生活リズムを整え、早めに寝る日をつくるなどして、しっかり睡眠をとりましょう。

② ストレスは症状悪化の原因に。適度な運動でリフレッシュ

気、血、水の巡りをよくするために、ウォーキングや無理のない程度のジョギングなど軽い運動が効果的です。ストレスが溜まると、自律神経バランスが乱れ、疲労感が増したり精神症状が悪化したりする可能性があります。1人カラオケ、ジムなど何でも良いので、自分なりのリフレッシュ方法をみつけて、気晴らしができるようにしましょう。

③ ホットフラッシュには体温調節しやすい衣類で対応を

ほてりや発汗の症状が出た時は、涼しい場所で安静にすることが大切です。カーディガンなどで体温調節し、暑くなったら脱ぎます。冷やしタオルで首周りを冷やしたり、扇風機なども活用すると良いでしょう。最近はUSBでパソコンから給電できるものや、モバイル型の扇風機などもあり、気兼ねなく使えます。

5. 更年期症状に効果のある漢方薬は?

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更年期症状に効果のある漢方薬はどのように選んだらいいでしょうか?

女性ホルモンの変動に伴って現れる体と心の症状を「血の道症(ちのみちしょう)」と言いますが、生理痛などと同じように更年期症状にもこれに対応する漢方薬が用いられます。
また三大婦人漢方薬である加味逍遙散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸は、むくみ、冷え、貧血、生理トラブルなど、さまざまな女性特有の症状に対して使われます。

今回は、それらの漢方薬の中から3種類をご紹介します。

加味逍遙散(かみしょうようさん)

【体質、症状】体力があまりなく、のぼせやほてりが起きている方。イライラや不安感などの精神症状が強い場合に有効です。また、日々症状が移り変わって定まらない場合に用いられます。
【効能】気血の巡りを改善する代表的な漢方薬です。イライラや怒りなどの精神症状や、生理に関わる疾患に使われます。牡丹皮は血流を改善する駆瘀血作用があり、山梔子がこもった熱を取ってイライラや不眠を改善します。
【使われている生薬】柴胡、芍薬、当帰、茯苓、蒼朮、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷

女神散(にょしんさん)

【体質、症状】体力は中等度で、精神的に弱く鬱々とした症状が強い場合や、更年期ののぼせやめまいに対して用いられます。症状の変動は少なく、いつも決まった症状に悩まされている方に有効です。
【効能】のぼせやめまいなどの更年期症状に効果を発揮するお薬です。女性ホルモンの変動に伴って現れる体と心の症状、「血の道症(ちのみちしょう)」に用いられます。気血を補うと同時に、気血水の巡りも改善してくれます。檳榔子(びんろうじ)という生薬は利水作用があり、体内の水分バランスを整える他、気を巡らせて痛みをとるなどの作用をもちます。
【使われている生薬】当帰、川芎、香附子、木香、白朮、桂皮、黄連、黄芩、人参、檳榔子、丁子、甘草

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

【体質、症状】体力や抵抗力がある実証タイプで、血行不良の状態を表す瘀血(おけつ)の方に有効です。便秘、頭痛、めまい、肩こりなどの症状がある場合に向いています。
【効能】瘀血を改善する駆瘀血剤の代表的な漢方薬です。血の巡りをよくする作用がある桃仁、気血の流れを整える桂皮が含まれます。大黄、芒硝は便秘改善に用いられる生薬です。
【使われている生薬】大黄、芒硝、甘草、桃仁、桂皮

まとめ

薬剤師の先生から漢方について学ぶ「ママのお悩み漢方相談室〜不調な私の取扱説明書〜」。第18回の今回は、女性の更年期とその仕組み、更年期症状に効果のある漢方薬についてお伝えしました。閉経が近づくとホルモン量の変化の影響で不快な症状が現れやすくなります。漢方などを取り入れつつ、落ち着いた心持ちで付き合っていきましょう。

(解説:西﨑れいな)

※画像はイメージです

参考文献
症状からチャートで選ぶ漢方薬(翔泳社)
生薬と漢方薬の辞典(日本文芸社)
まずはこれだけ!漢方薬(じほう)
漢方薬辞典(主婦と生活社)
日本産婦人科学会HP
産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020
働く女性の健康応援サイト

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