疲れやすさに漢方薬はきく?疲労の対処法紹介<ママのお悩み漢方相談室#23>
日々の家事や育児は大変で、休みがありません。そこに仕事も入ると、本当にくたびれてしまいますよね。疲れやすさの対処法や疲労回復に働く漢方薬について、漢方薬剤師の西崎れいな先生(KAMPO MANIA TOKYO)に教えていただきます。
この記事でお伝えすること
1. なぜ疲れやすい?
2. 病院に行くべき疲れやすさは?
3. 疲れやすい体質はある?
4. 体質別の疲れやすさ対処法は?
5. 疲れやすさの種類ごとに効果がある漢方薬は?
なぜ疲れやすい?
家事・育児で毎日クタクタです。どうすれば疲れにくくなりますか?
ママさん達の疲れやすさの原因として多いのは、栄養不足(特に鉄分不足による貧血)と睡眠不足です。特に、タンパク質・ビタミン・ミネラルなどの栄養素を十分にとり、睡眠時間を確保することが大切です。
栄養に配慮したミールキットや宅食をうまく利用し、家事や育児で人に任せられる部分は任せて、しっかり睡眠をとりましょう。
ビタミンやミネラルのサプリメント、プロテインを活用しても良いですね。
病院に行くべき疲れやすさは?
疲れやすくなるような病気はあるのでしょうか?
疲れやすくなる病気にはいろいろあります。特に子育て世代の女性に多いのは、橋本病とバセドウ病です。
橋本病は、甲状腺に慢性炎症が起こる病気です。体の新陳代謝を司る甲状腺ホルモンを産生する組織であるため、この病気になると、代謝機能が落ちて疲れやすくなり、寒がりになり、無気力になります。他にも、顔がひどくむくんだり、甲状腺が腫れて喉に違和感が出たりすることもあります。
バセドウ病は、甲状腺の機能が亢進し、甲状腺ホルモンが過剰分泌される病気です。新陳代謝が活発になりすぎるので、何もしていなくても体がフルマラソンをしているかのように疲れます。頻脈になり、汗かきになり、食欲があるのに体重が減ります。手が震えたり、不眠になったりもします。
どちらの病気も血液検査ですぐわかります。体の様子がおかしいを感じたら、まずは病院でしっかり検査してもらいましょう。採血するだけでも体のいろいろなことがわかるので、症状がひどくない場合でも、定期的に検査することが大切です。
疲れやすい体質はある?
昔から疲れやすいので、もとから疲れやすい体質な気がしています。どうすればいいですか?
人によって体力は異なります。漢方では、疲れやすい体質は主に3つあり、それぞれ症状や対処法が異なります。
漢方から見た疲れやすい体質は、
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・気虚(体を動かすエネルギーが足りない)
・陽虚(気虚が進んで体の機能が低下している)
・血虚(鉄欠乏性貧血に限らず、血液に含まれる栄養が不足している)
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の3つです。
気虚だと、以下の特徴があります。
・顔色が白く黄色っぽい
・無気力
・倦怠感
・声に力がない
・息切れ
・汗がダラダラでる
・食欲がない
・下痢や軟便
・むくみ
・痩せている(太っていても水太りで筋肉に締まりがない)
陽虚だと、以下の特徴があります。
・顔色が白い
・体が冷える
・筋肉がたるむ
・抜け毛が多い
・お腹や胸が冷えて痛む
・腰痛
・下痢
・関節が冷えて痛む
・むくみ
・尿もれ
血虚だと、以下の特徴があります。
・顔色が蒼白
・唇の色が薄い
・めまい、立ちくらみ
・物忘れ
・皮膚や目の乾燥
・爪が薄く弱い
・睡眠が浅い(夢をたくさん見る)
・便秘
・生理周期が長く出血が少ない(月経不順)
また、これらの体質が複合することもあります。
体質別の疲れやすさ対処法は?
疲れやすい体質があることがわかりました。どうすれば改善しますか?
体質別の対処法とおすすめの食材をご紹介します。ぜひ参考にしてくださいね。
気虚の場合|睡眠不足と冷えを避け、消化にいいものを食べて
よく眠ること、体を冷やさないこと、消化に良いものを摂ることが基本です。
サウナのように大量に汗をかいて、体力を消耗するようなものは向いていません。そのため運動も、ハードな筋トレよりもストレッチやヨガなど体を伸ばしてじんわり汗をかくものがおすすめです。
摂り入れて欲しい食材は、白米、もち米、じゃがいも、山芋(長芋)、豆腐、納豆、アスパラガス、えんどう豆、かぶ、かぼちゃ、きのこ類、アボカド、ぶどう、いわし、鮭、かつお、サバ、マグロ、肉(牛・豚・鶏)などです。
気虚の人は消化機能が落ちていることが多いので、よく火を通した、消化にいい温かい食事を心がけましょう。食事量を増やしたいけれど一度に食べられない場合は、1日3食にこだわらず、回数を増やして少しずつ食べるといいでしょう。
陽虚の場合|温度変化に注意!温かい食べ物を選んで
体を冷やさないこと、温度変化が少なく快適な場所で生活すること、消化にいい温かい食べ物を食べることが重要です。睡眠もしっかりとりましょう。運動は気虚の人同様に、気持ちよく汗をかく程度で続けていきましょう。
陽虚の人は、気虚にいい食べ物に加えて、体を芯から温める食べ物を摂るといいでしょう。摂り入れて欲しい食材は、ニラ、エビ、栗、レバー、シナモンなどです。
また、陽虚の人は気虚が進行した状態でもあるため、生活上のアドバイスは重なる部分が多いです。消化にいい温かいものを食べて、胃腸に負担をかけないことがポイントです。
血虚の場合|睡眠を確保し、無理なダイエットに注意!
夜更かしは状態を悪化させます。十分な睡眠時間を確保しましょう。
また、無理な食事制限や減量はしないように。
タンパク質・ビタミン・ミネラルなどの栄養素を意識しつつ、漢方で血を補う食材とされる、黒豆、黒キクラゲ、ほうれん草、にんじん、イカ、マグロ、カツオ、鮭、サバ、鶏肉、牛肉、レバー類、鶏卵などを摂り入れましょう。
女性は特に、毎月の生理や妊娠・出産で大量の血を消耗します。
血を増やす養生を毎日コツコツ続けていくことが大切です。
疲れやすさの種類ごとに効果がある漢方薬
疲れに効く漢方薬はありますか?
体質によって、疲労回復に働くおすすめの漢方薬は異なります。
気虚におすすめなのが六君子湯と補中益気湯、陽虚で下痢がひどい場合におすすめなのが人参湯、陽虚でむくみがある人におすすめなのが真武湯、血虚もしくは血虚と気虚の複合(気血両虚)におすすめなのが十全大補湯と人参養栄湯です。
番外として、夏バテにいい清暑益気湯も紹介します。
六君子湯(りっくんしとう)
胃腸の吸収力を高め、ぜん動運動を活発にする漢方薬です。食欲がなく、すぐ胃がもたれる人に向きます。全身の栄養状態を回復させて、体を元気にします。
体力をつけて胃腸を元気にする人参と白朮(ビャクジュツ)をメインに、胃の動きをよくする陳皮(チンピ)や生姜、半夏(ハンゲ)が含まれています。
胃腸がかなり弱っている場合、陳皮と半夏を六君子湯から抜き、消化器官に力を付けることだけを目的にした四君子湯の方がいいこともあります。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
食欲がなく倦怠感が強い、元気が出ない時に使われる漢方薬です。元気が出ない上に、やや神経質でイライラしがちな人に向きます。
体の内部に力をつける人参、体の表面に力をつけて肌を丈夫にする黄耆(オウギ)をメインに、血を補い血行をよくする当帰(トウキ)、精神を安定させる柴胡(サイコ)などを加えて、体の各部を補うような漢方薬です。
補中益気湯には胃もたれを起こすことがある生薬が含まれているので、まずは1〜2週間ほど様子を見ながら服用すると良いでしょう。六君子湯をしばらく続けて胃腸の機能を取り戻してから、飲み始めるのもおすすめです。
人参湯(にんじんとう)
お腹が冷えて下痢をする時によく使われる漢方薬です。胃腸の冷えにより、全身の機能が低下している人に使われます。
胃腸の機能を高めて体を温める人参と乾姜(カンキョウ、干した蒸し生姜)をメインに構成されています。
慢性的に下痢が続いている人には、人参湯+体の内側を強力に温める生薬の附子(ブシ)を足した附子理中湯(ぶしりちゅうとう)がいいこともあります。
真武湯(しんぶとう)
むくみやめまいに使われますが、体を温めて水分代謝をよくする漢方薬なので、陽虚による体のだるさにもおすすめの漢方薬です。
体を温める附子と生姜、余分な水を体から抜く白朮や茯苓(ブクリョウ)が組み合わせられています。
十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)
体力を補う生薬に、血を補う生薬を組み合わせた漢方薬です。気虚かつ血虚の人に向きます。
体力をつける人参や黄耆に、当帰や地黄(ジオウ)、芍薬(シャクヤク)など血を補う生薬の組み合わせで構成されています。さらに、それらの働きをサポートするような生薬も配合されていて、体の各部分を補う漢方薬です。
十全大補湯には胃もたれを起こすことがある生薬が含まれているので、まずは1〜2週間ほど様子を見ながら服用しましょう。六君子湯で胃腸の機能を取り戻してから飲み始めるのもおすすめです。
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
十全大補湯と似た生薬の組み合わせの漢方薬ですが、精神安定に効く生薬を含むので、気虚と血虚に加えて、気疲れがあったり眠れなかったりする人に向いています。
人参養栄湯には胃もたれを起こすことがある生薬が含まれているので、まずは1〜2週間ほど様子を見ながら服用しましょう。六君子湯で胃腸の機能を取り戻してから飲み始めるのもおすすめです。
清暑益気湯(せいしょえっきとう)
補中益気湯と似た生薬の組み合わせの漢方薬ですが、体の熱を取り除きながら、汗で出た潤いを補う生薬を含むため、夏バテによく使われます。
食欲不振に加え、口や喉が乾く、腹痛や下痢の症状が出ている場合におすすめです。
まとめ
薬剤師の先生から漢方について学ぶ「ママのお悩み漢方相談室〜不調な私の取扱説明書〜」。第23回の今回は、疲れやすさの対処法と、疲れやすい体質別の漢方薬についてお伝えしました。生活の基本となる食事、睡眠、適度な運動に加え、時には漢方薬を活用して体力を十分に回復させ、家事や育児、仕事と楽しんでいきましょう。
(解説:西﨑れいな)
※画像はイメージです
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、薬剤師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます