朝風呂で、パパと息子たちがママを助けるための作戦会議を開く 川田夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
行きつけのバーで知り合い、長い友人期間を経て結婚。川田夫婦は、元気いっぱいの5歳と2歳の2人の男の子を育児中だ。
恵美さんは次男の出産後、前職の会社を退職し、現在はフリーランスとしてマーケティング関係の仕事を担う。悟さんは塾講師をしながら塾経営を担い、帰宅は24時を超えることがほとんどという日々。
多忙な生活の中でも夫婦が毎日を楽しんでいられるのは、10歳という歳の差があって、悟さんが年下の恵美さんを優しくフォローしているからというだけではない。
一家の暮らしを機能させている、川田夫婦ならではのセブンルールを聞いた。
7ルール-1 「ありがとう」「ごめんなさい」をきちんと伝える
「ルール」と呼ぶには大げさに思うかもしれない基本のキだが、川田夫婦がもっとも大切にしているのがこのルールだ。
悟さんの帰宅が遅いぶん、川田夫婦が平日に直接会話をするのは朝の支度をしながらの30分程度。2人の息子たちを相手にしていれば、あっという間に過ぎる時間だ。
「一緒に顔を合わせて話す時間が短いので、相手への感謝や、『悪かったな』と思ったときの気持ちはきちんと伝えるようにしています」と恵美さん。
たとえば、皿洗いは悟さんの担当だが、恵美さんが代わってくれた日があれば気づいたときに「ありがとう」。仕事からの帰りに悟さんに朝食の買い出しをお願いしたら、朝確認したときに「ありがとう」。そんな日常のよくある場面で、自然に感謝の言葉を交わし合う。
「欧米人じゃないので、毎日『愛しているよ』とは言えないぶん、『ありがとう』くらいは言おうと思っています」(悟さん)
なるほど、ラブラブじゃないですか!
「ご褒美がほしいときは、私から『今日はこの家事とこの家事をがんばったよ! すごくない?』と夫にアピールします。『ありがとう』の催促ですね(笑)」(恵美さん)
恵美さんの言い方が、新婚夫婦のようで、すごくかわいい。そんな夫婦を見て、「愛してる」は言わなくても、感謝を言葉で伝えることは、本当に大事だと実感した。
7ルール-2 朝はパパの時間。お風呂も朝パパがいる時間に
悟さんは土日も出勤のことが多く、平日の夜は毎日、恵美さんが仕事のあとに子どもたちの世話をしている。「いわゆるワンオペ?」と思ったが、それでもなんとかなっているのは、「朝はパパの時間」と決めているからだ。
「夫は朝、比較的ゆっくりできるので、朝食を出したり保育園の支度をしたり、全部パパにお任せです」(恵美さん)
特に助かっているというルーティンが、朝、パパと子どもたちでお風呂に入ること。
「起きてすぐ一緒に風呂に入って、風呂で目を覚ます感じです。体を洗いながら、保育園であったことを聞いたり、転んだ怪我に気づいたり、抱きかかえなくてもいつの間にか浴槽から自分で出られるようになっていたりして成長を感じたり……。僕にとって、子どもたちの変化に気づける大切な時間です」(悟さん)
なかには習慣として「お風呂は夜に入らないと」と思う人もいるだろう。でも、「こうしなければ」にこだわって、すべてを恵美さんが多忙な夜に負担していたら、川田家の生活は早々に破綻していたかもしれない。
夫婦の形に合わせて、柔軟に考えることが共働きのパパママには不可欠だ。
7ルール-3 パパが休みの時は掃除・洗濯はパパ担当
悟さんが丸1日休める日は、月に4日あるかないか。貴重な休みは、すべて家族のために捧げている。
「歩くのが好きなので、子どもたちと一緒に散歩に行って、電車やモノレールに乗ったり、足を延ばしてスカイツリーを見に行ったり。楽しいですよ」(悟さん)
子どもたちも悟さんが休みのたびに、先生たちに「今度、お父さんお休みなんだよ!」と報告するくらい楽しみにしているという。夜はいつもいないのに、子どもたちにこんなに愛されるパパって良い。これも朝のパパと子どもたちとの密な時間の賜物だろう。
休日は家事もする。ゴミ捨てから洗濯、掃除。片付けが苦手な恵美さんの代わりに、冷蔵庫の中の物を整理したりすることもある。「パパが休みの日は、家事もとことん甘えます」と恵美さんはにっこり。
43歳にして、たまの休みも家事・育児三昧なんてすばらしい体力だが、これは悟さんの努力の賜物でもある。時間を取ってトレーニングする余裕はないが、普段から1、2駅歩いて帰宅するなど体力づくりを心掛けているという。
悟さんは取材ではあまり多くを語らない人だったが、当たり前のようにさらっと、すごいことをやってのけている。
7ルール-4 お互いの家事のやり方に口を出さない
悟さんのすばらしさを支えている、というよりむしろプロデュースしているのが恵美さんだ。前に書いたように、悟さんへの「私がんばったよ、ほめて」アピールの仕方が、かわいらしい。さらに、悟さんが家事をして、気になることがあっても責めたりしない。
「洗濯物を干してくれて、『おもしろい干し方だなー、でも、あれでは乾かないなー』と思っても、『ま、乾いてなかったもう1回干せばいいか』と考えるようにしています。お皿の洗い残しに気づいても、自分でやり直すとストレスになるので、スッと洗い場に戻しておいたり(笑)」(恵美さん)
どうしても気になることがあれば、「ダメじゃん!」と攻撃的に言うのではなく、「こうしたほうが効率良いかもよ?」と提案する。
「無理にどちらかのやり方に合わせるのではなくて、『それぞれできることを、できるようにやろう』というスタンスです」と悟さんも納得している。
7ルール-5 子どもたちのエピソードはメールで共有
園の先生に聞いた子どもたちのおもしろい話や連絡事項は、随時SMSで悟さんに共有しているという恵美さん。
LINEではなく、SMSというのがポイントだ。
「夫はあまりメッセージがまめではないタイプ。さらに、生徒の前という手前、塾でスマホをチェックすることはほとんどありません。そういうこともあって、そもそもLINEのアカウントを持っていないんです」(恵美さん)
LINEと違ってSMSなら「既読ストレス」はない。「一方的に送りつけている感じですが、そのうち見てくれることはわかっているので十分です」と恵美さん。
メッセージもSMSの性質上ごく短文で、恵美さんからのメールは「保育園でこういうことがあったので協力お願いします」「帰りに牛乳とパンを買ってきてください。よろしくお願いします」といった、業務連絡をしている雰囲気。それに対して、悟さんは「了解」とだけ返信したり、黙って頼まれたものを買ってきたりしている。
一方、「そろそろどこかに出かけますか?」と、家族で遊ぶ提案をSMSですることもある。無機質な業務連絡のように見えてそうではない、夫婦ならではのやり取りだ。
ちなみに、子どもたちの写真は写真共有アプリ「家族アルバム みてね」を通して共有しているとのこと。これも「既読」が気になってしまうLINEでメッセージを送ることを控えるためのひと工夫だ。
7ルール-6 【夫】妻の好きなものをお土産に
悟さんは、生徒からの修学旅行のお土産など、仕事関係でもらった菓子類に恵美さんの好きなものがあった場合、必ず持ち帰って妻と一緒に味わっている。
さらに、おやつやプリン、チョコレートなど、恵美さんの好きなスイーツを買って帰ることもあるという。
「昔からコンビニの新しいスイーツに目がなくて。でも、子連れだとコンビニに入って新しいスイーツをゆっくりチェックする、って結構ハードルが高いんですよね。それを察してか、夫が買ってきてくれるようになりました」(恵美さん)
もちろん、買ってきてもらったら「ありがとう」を欠かさない。悟さんは自らの言葉でアピールこそしないが、これも悟さんから恵美さんへの「ありがとう」の催促なのかもしれない。
最近では「この前のアレ、すごくおいしかった。私好み」と感想を伝えることも忘れない。すると悟さんは、単に新商品というだけでなく、暗に「コレ、好きでしょ?」という買い方をしてくる。
ゆっくり会話をする時間が少ないぶん、コンビニスイーツも夫婦のキャッチボールのひとつとなっているようだ。
7ルール-7 【妻】 しんどいときに無理して家事をしない
ここまでいい話が多かったが、「夫は毎日深夜帰りで土日も出勤、自分も仕事をしながら毎晩2人の育児をひとりでこなす」という恵美さんの状況は大変であることに間違いはない。
特にひとり目の産後は、初めての育児に手一杯で家事まで手が回らず、一方的にイライラして悟さんに強く当たることもあったという。
そこで恵美さんが取り入れたのが、自分の想いをノートに書くことだ。家のあちこちに気に入ったノートを用意して、心が乱れたときに感じたことを書きなぐる。
「書いていると冷静になるんですよね。『イライラしているのは、お茶を飲んで話したりする時間がないからだ』とわかったら、友人と会うための時間を確保できるよう夫にスケジュール交渉をするなど、解決策が見出せます」(恵美さん)
「しんどいときは無理をして家事をしない」というマイルールが決まったのもこのノートがきっかけだ。
「家に私と子どもたちだけでいるとき、私がイライラしていると子どもたちに逃げ場がなくなるんです。家の中の空気がピリピリして、これでは『子どものために』と家事をがんばっても逆効果なんじゃないかと思うようになりました。それなら、優先すべきは自分が機嫌よくいられることだと、ノートに書いていて気づいたんです」(恵美さん)
家事のなかでは特に水回りの掃除にストレスを感じていることがわかり、月に2回ほど、お風呂とキッチン、洗面所、トイレの水回りの掃除を家事代行の会社に頼んでいる。2人目の出産祝いに、実家から家事代行サービスのギフトカードを贈ってもらったことがきっかけだ。
「無理せず、まわりにしてほしいことは遠慮せずに素直に言うようにしています。それで、やってもらったら心からお礼を言う。そういえば、昔から『恵美は“やってあげがい”がある』とまわりの人に言われていました(笑)」(恵美さん)
彼らの7ルールを一言で言うと……?
印象的だったのは、「ママが機嫌良くいられることが、結局一番家族のためになる」ということだ。そして自分が機嫌良くいられるために、恵美さんは日々ノートに想いを綴り、どうすべきか分析している。
「ジャーナリング」という書き出すことで気持ちを落ち着かせる手法を取り入れながら、そこから分析して解決方法を見出そうと努力するあたり、さすが恵美さんはマーケティング畑の人だ。
「夫からも、物理的にいないときはしかたなくても『どうしてほしいか言ってくれたらするから』と言われて、それなら自分の想いをできるだけ明確にしようと思ったんです。人によっては、『言われないとわからないなんて』と思うのかもしれないですが、私は『そうか、言ったらやってくれるんだ!』と前向きに捉えました」(恵美さん)
悟さんも子どもたちも、恵美さんが無理をせずに元気でいることが家族にとっていかに重要かを知っている。
「妻の体調が悪いときにもはっきりそう言ってくれるので、フォローしやすいですね。そういう日は朝の入浴時間に子どもたちと『今日はママの元気がないからいい子でいようね、そしたらきっとすごく喜ぶね』とか『ママは疲れているから、僕たちだけで出かけて休ませてあげよう』と、作戦会議をすることもあります」(悟さん)
「子どもたちも夫がフォローしてくれるのを見ているので、『ママ、今日はしんどいなら僕たちのごはんはマックでいいよ』と、食べたいものをリクエストしてくることがあります(笑)」(恵美さん)
ママが機嫌良くいられることが一番だとわかっていても、なかなか自分を優先できないママが多い中、恵美さんのあり方は潔く、合理的といえる。
目の前のことに忙殺されがちな育児中だからこそ、家の中のあちこちにノートを置いておいて、思ったときに書き出すという方法も効果がありそうだ。
取材後、さっそく書くのが楽しくなりそうな素敵なノートを検索している自分がいた。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)