復職後に妻が家出! 「心身の健康が第一」という考えに至った高木夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
大学で新入生のサポート団体に所属する先輩・後輩として出会った2人。先輩でしっかり者の香さんが、陽気で賑やかな一方ちょっと不器用な後輩の耀司さんを気にかけているうちに交際に発展し、27歳で入籍した。
その後、第2子妊娠中に耀司さんが単身赴任となるが、出産を終えた香さんは大好きな仕事を退職し、耀司さんと一緒に暮らすことに。現在は1歳と3歳の未就学児2人を育てながら、時短勤務で新しい仕事を始めている。
忙しい日々だが、「何より家族一緒で、心身が健康であることが一番」とうなずく高木夫婦。それは、先天性疾患をもって産まれ、1歳で手術も経験した長男を育てる中で、夫婦の心に強く刻まれた想いでもある。
そんな夫婦の、家族が健康でいるためのセブンルールを聞いた。
7ルール-1 ありがとうをちゃんと言う
実は第1子を出産して仕事に復帰したころ、一度「家出」をしたという香さん。
「初めての育児に家事に仕事にと奮闘して、本当にいっぱいいっぱいになってしまって。『もうやっていられない』と思って、海を見に行きました。ザザーン、ザザーン、と波が打ち寄せるのを、ひたすら眺めていたんです(笑)」
「今日は遅くなります」。朝、自宅に残されていた置き手紙を見て、慌てたのは耀司さんだ。平日のことで、とりあえず子どもを園に預けたが、「どうしたらいいのかわからなくてパニックになり、園の先生や役所にも電話で相談しました」と耀司さん。
それまでも耀司さんは家事育児に協力的だったが、平日は帰りが遅く、土日出勤も多いため、どうしても香さんに任せきりになっていた。
「ひとりで子どもの食事を用意したり、お風呂に入れたりと本当に大変で、『香にものすごい負担をかけてしまっていたんだな』と心から反省しました」(耀司さん)
夫がいるとはいえ、「小さい子どもを置いて急に家を出るなんて」と思うかもしれない。だが、責任感の強いしっかり者のママであるほど、「ちゃんとしなきゃ」と追いつめられてしまうのだ。話を聞きながら、香さんは本当にギリギリの状態だったのだろうな、と共感した。
そんなショッキングな出来事もあって、このルール1は生まれた。耀司さんはそれまで以上に積極的に家事育児に関わるようになり、お互いに相手の苦労を理解しているからこそ、「ありがとう」という感謝の気持ちをきちんと伝える。
7ルール-2 教育を押し付けない
高木夫婦の共通の趣味は、よさこいだ。香さんは、今は多忙で休んでいるが、耀司さんはときどき運営の手伝いなどで関わっている。
「よさこいのように好きになれるものがあったから長く付き合える友だちもいますし、拠り所がある。好きなものがひとつでもあると人生が幸せになると知っているので、子どもたちがそれを探す手伝いはしたいと思っています」(香さん)
たとえばアイドルの推し活でも、爬虫類でも、なんでもいい。子どもが自分で興味を広げられるよう、「体験はたくさんさせますが、選ぶのは本人たちにさせたいです」と香さん。
「好きなものを見つけることに最大限の時間を使ってもらいたい」からこそ、世間で話題になっては消えていくさまざまな教育方法を押しつける気はないという。
ただ与えるのではなく、自分らしく楽しみながら、好きなことを見つけてほしい。それが子どもたちへの夫婦共通の想いだ。
7ルール-3 家事を楽にするツールには投資する
耀司さんがより積極的に家事育児をするようになったとはいえ、それからさらに子どもが増えている。香さんは時短勤務とはいえ通勤時間がかかるため、大変であることは変わりない。
そこで、夫婦を助けてくれているのが、家事ラクツールだ。
2人目の出産後に仕事に復帰したときには、電気圧力鍋の「クックフォーミー」を購入。「肉じゃがとか煮込み系の料理を、材料を切って入れて、放っておけるのがありがたいですね。その間に子どもをお風呂に入れたりできますから」と香さん。
買い物の負担を減らすために生協の宅配も利用し、水・木曜は生協のミールキット、月・火曜はクックフォーミー、足りないときはレシピサイト「つくりおき食堂」のレシピから簡単なものを選んで作り、金曜はサボってお惣菜の日というルーティンで回しているという。
土日の料理は耀司さんの担当だ。コロナ禍の在宅ワークがきっかけで料理に目覚めた耀司さんは、むしろイチから作りたいタイプで、ハンバーグやカレーなど子どもが好きなものを調味料からこだわって作る。
ちなみに家事代行も「絶対使う!」と決めていたそうだが、会員登録まではしたもののまだ試せていないという。「家事代行を呼ぶために家事をしなくてはいけない気がして……」と香さん。
高木家には、家事代行よりも家事ラク家電が合っていたようだ。
7ルール-4 お互いの得意技を活かして役割分担をする
オンラインでの行われた今回の取材。香さんと私たちが話している間に、耀司さんが段ボール箱に乗った子どもたちを箱ごと引っ張る、飛行機遊びをしていた。子どもたちは大喜び。とはいえ、大人はかなり体力が奪われそうだ。
「もともと子どもと体を使って遊ぶのが好きなんです。妹に先に産まれた子どもが5人いて、実家に行くとよく遊んでいたので、遊びのネタは豊富ですよ。保育園ごっこやお医者さんごっこもよくします」(耀司さん)
一方、香さんは絵本が好き。世界を広げてくれる絵本にたくさん親しんでほしくて、子どもたちが赤ちゃんのころから読み聞かせを続けている。
「図書館で目についた本を借りて、寝る前によく読んでいます。3歳の長女は読まないと納得してくれません(笑)。あとはパズルやお絵描きに付き合うのも私ですね。インドア系担当です」(香さん)
遊ぶ方を得意分野で分担することのメリットは、そのほうが負担にならないこと。愛しい我が子といっても、苦手な遊びに付き合うのはしんどいものだ。私自身、息子の虫取りには付き合うけれど、プラレールは結構つらい。部屋の中を延々と走るN700系に、ロマンを感じられるタイプではない。
子どもは結構敏感で、ママが食いついていないことを察していたりする。
「お互いに好きな遊びで分担すれば、得意分野で活躍できるし、ストレスも少なく子どもと遊べるので一石二鳥です」(香さん)
ストレスを考えれば、シンプルだが結構大切なことかもしれない。
7ルール-5 お互いの挑戦を尊重・応援する
高木家の子どもたちは今、1歳と3歳。ベビーではないにしろ、まだまだ、めちゃくちゃ手のかかる時期である。
だが、香さんは副業としてデザインの仕事を、耀司さんは資格取得に挑戦中だという。
「私は平日の朝や土曜日の午前中をもらい、夫には夜や土曜の午後を提供しています。うまく時間のやりくりをしながら、お互いやりたいことを応援しています」(香さん)
平日の夜、香さんは子どもと21時半に就寝。朝は4時45分に起き、一緒に起きてしまう子どもが再び寝るのを待ってから、5時から7時ころまで副業の仕事をする。
「夫が転勤族なので、どこに住んでも仕事ができるようにしたくて、まずは実績を作りたいんですよね」と香さん。耀司さんは耀司さんで、夜帰宅してから深夜まで2種類の資格取得を目指して勉強中だ。
2人とも努力家で頭が下がる。
ただ、「仕事を増やし過ぎないことは今から意識しています」と香さんは言う。
「あれもこれもとがんばり過ぎて余裕がなくなり、子どもにきつく当たるのは避けたい。一度『家出』した身ですから、同じことを繰り返さないように、バランスを見極めないといけません」(香さん)
共働きで忙しいと、私を含め「無理をしては爆発して」を繰り返し、騙し騙しやっている人も多いなか、香さんは真剣に仕事と家庭のバランスを見極めようとしていることが伝わってきた。育児の早い段階で、一度自分の限界を知っておくことは重要なのだろう。
7ルール-6 【夫】心身の健康が何より大事
現在1歳の息子さんには、尿が出にくい先天性の疾患があった。幸い命に関わる疾患ではなかったが、コロナ禍で手術の予定が2回延期されたのち、全身麻酔で手術をした。
「やはり心配でしたし、いろいろ考えさせられました。健全な精神は、健康な肉体に宿ります。まずは健康に生きてこそだと強く思うようになりました」(耀司さん)
子どもたちのためにも、自分の体を気遣うようになった。耀司さんはお酒の量を減らし、休みの日は長男を抱っこ紐で抱っこしながら散歩する。仕事中もできるだけ歩くことを意識するようになってから、3、4kgは痩せたという。
そして、「妻のストレスを発散させることも大切です」と耀司さん。
「日々、子どもたちと向き合って戦っている彼女は本当に大変です。妻の気持ちをできるだけ受け止めてあげたいし、やりたいことは応援してあげたいと思っています」(耀司さん)
一方の香さんは、「夫がよくできた優しい人なので、私は今生きています」と静かに語る。聞けば、2人目の産後も大変だったそうだ。産後多くのママが悩む乳腺炎や腱鞘炎を経験し、産まれたばかりの息子がRSウイルスで緊急入院。
夫の単身赴任で子どもたちと3人暮らしだったこともあり、「産後うつ病の一歩手前までいきました」と振り返る。
「上の子がいるので、産まれたばかりの下の子に100%気持ちを注げないのがつらくて。どうバランスをとったらいいのかわからなくなりました。誰にも相談できずに不眠になって、下の子を産むという判断が間違いだったのではないかとさえ悩みました」(香さん)
最終的にかかりつけの産婦人科に心療内科を紹介してもらい、授乳中も飲める薬を処方してもらうことで落ち着いたという。
「ただ、お医者様からは『もう少し診察が遅かったら産後うつ病になっていたかもしれない』と言われ、『無理してはいけない』という気持ちが芽生えました。今は2人の子どもを産んで本当に良かったと思っています」(香さん)
7ルール-7 【妻】 恥は捨てる!
下の子が産まれたころ、赤ちゃん返りもあって上の子のイヤイヤ期がひどかったという。
「下の子も見ないといけないのに、上の子からジュースをかけられたり、お皿を投げられたり。『もうママをやめたい』と私が大泣きすることもしょっちゅうありました」(香さん)
親世代の子育てでは、「親は泣かない、完璧なもの」だった。
「私も最初はそう思っていたのですが、無理でした。産後のホルモンバランスの乱れもあるのに、イヤイヤ期に笑顔で優しく接し続けるなんてできません。子どもの前で泣いて、それを見た子どもたちも全員泣いて、家の中がカオスになることもありました(笑)。そんなとき、ストッパーとなってくれたのが夫です」(香さん)
泣いたあとは、上の子とお互いに「ごめんね」と言い合い、しばらくしてから仲直りする。今では上の子のイヤイヤ期もようやく終わりを見せている。
「やっとホルモンバランスが落ち着いたのか、どうしてあんなに泣いてしまったのかわからないくらい。でも今も、喜怒哀楽はわかりやすく出ていると思います。親だって完璧じゃなくていい。私の場合は溜め込み過ぎるのではなく、弱みも見せながらやっていくしかないと思っています」(香さん)
恥は捨て、周囲に頼る。イヤイヤ期について園の先生に相談し、「イヤイヤ期が激しい子は、思春期のときの反抗期の分まで今来ていると思うといいですよ」と言われて心が軽くなったこともあったという。
もちろん、子どもたちへの愛情もストレートにたっぷり注ぐ。
「『大好きだよ』、『かわいいね』、『うれしいよ』という言葉をたくさん言うようになりました。夫に素直に感謝するようになったのも、出産を経験してからですね」(香さん)
彼らの7ルールを一言で言うと……?
心身の健康を第一に、無理はせず、お互いに助け合い、感謝し合う。
高木家のルールは、すべてここにつながっている。
家事・育児と仕事の両立、夫の単身赴任、イヤイヤ期と下の子の出産が重なったこと、子どもの病気と妻の心のバランスが崩壊しかけたこと。
壮絶な日々を家族で乗り越えてきたからこそ、シンプルだがすべての家族にとって欠かせない「感謝」や「助け合い」のルールが深く根付いた。
育児中の夫婦のセブンルールは子どもの成長や仕事の状況によって変わるものだが、高木夫婦のルールの芯は変わることはないだろう。
そのくらい大切で、基本的な、家族の根本的なあり方を教わった気がした。
そして、私も影響されて新しい家事ラク調理家電を導入。家事育児と仕事の両立に教科書はない。こうして人の話も参考にし、泥くさく試行錯誤しながら、夫婦や家族にとってベストなルールを模索していくしかないのだ。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)