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2024年02月23日 09:10 更新

宮沢賢治「よだかの星」のあらすじ|どうして僕は嫌われるんだろう…悲しみの末に空の星になった、優しい鳥のお話

親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は宮沢賢治の「よだかの星」を取り上げます。宮沢賢治の童話がお好きな親御さんも多いのではないでしょうか。宮沢賢治の作品には動物が登場するものが多いですが、よだか(ヨタカ)とは鳥のことです。よだかの見た目が物語のポイントにもなっています。

「よだかの星」を子どもに聞かせよう!

「よだかの星」は宮沢賢治の代表作です。ご存じの方も多いでしょう。「銀河鉄道の夜」などもそうですが、情景描写の美しい作品となっており、子どもの豊かな想像力を掻き立ててくれますよ。

「よだかの星」のあらすじ

見た目や名前で嫌われる、よだか

よだかの星

よだかという鳥はとても醜く、顔はまだら模様、口は平たく耳まで裂け、足はよぼよぼで一歩も歩けませんでした。そのため、ほかの鳥はよだかを見ると嫌な顔をしたり、悪口を言ったりしました。

もしよだかがただの鷹ならば、ひばりなどの小さな鳥はその名前を聞いただけでもぶるぶる震えて隠れたはずです。しかしよだかは鷹の兄弟でも親類でもありません。かわせみや蜂すずめの兄でした。鉢すずめは花の蜜、かわせみは魚、よだかは羽虫を食べます。

鷹のような鋭い爪もくちばしもありません。しかし、羽の力強さと鳴き声の鋭さは鷹にそっくりでした。このことを鷹は嫌がっていました。

ある夕方、とうとう鷹がこう言います。

「おい、まだお前は名前を変えないのか、恥知らずめ。お前と俺では格が違うんだ。たとえば俺は青い空をどこまででも飛んで行く。お前は曇って薄暗い日か、夜でなくちゃ出て来ない。何より俺のくちばしや爪を見ろ、そして自分のと比べて見るがいい」

「鷹さん、私の名前は私が勝手につけたのではなく神様がくださったのです」

「いいや、俺の名なら神様からもらったのだと言えるが、お前のは俺と夜の両方から借りてるんだ、さあ返せ」

「鷹さん、それは無理です」

「無理じゃない、俺が市蔵という名を考えてやった。お前は首に市蔵と書いた札をぶら下げて、みんなのところを回るんだ」

よだかは出来ないと答えますが、鷹は「いいや、出来る。俺は明後日の朝早く、鳥の家を一軒ずつ回る。一軒でもお前が来なかったという家があったら、お前を掴み殺してやる」と脅します。

「あんまりじゃありませんか。そんなことをするくらいなら死んだ方がましです」

よだかの言葉は無視して、鷹は「改名するか俺に殺されるか、よく考えろ」と言うと、大きな羽を広げて帰って行きました。

\ココがポイント/
✅よだかは醜い姿のためにほかの鳥に嫌われていた
✅ある日、鷹がよだかに「名前を変えろ」とやってきた
✅鷹は「改名しなければ殺す」とよだかを脅した

遠くへ行くことを決意するよだか

よだかは目をつぶって考えました。

(僕はなぜ皆に嫌がられるのだろう。僕の顔は醜いからなあ)

あるとき、赤ん坊の目白が巣から落ちていたのでよだかは巣へ連れて行ってやったことがありました。そしたら目白はまるで盗人から取り返すように赤ん坊を引き離して、よだかのことを笑ったのです。よだかはそれを思い出しました。

(それに今度は市蔵だなんて、首へ札を掛けるなんて、辛い話だなあ)

辺りが薄暗くなって、よだかは巣から飛び出しました。それから口を大きく開いて、羽を真っ直ぐに張って矢のように空を横切ると、小さな羽虫がたくさん口の中に入りました。

そして、一匹のカブト虫がよだかの喉に入ってきたので、よだかはすぐにそれを飲みこみましたが、何だか背中がぞっとしたように思いました。

雲はもう真っ黒く、東の方だけ山焼けの火が赤く映って恐ろしい様子です。よだかは胸がつかえたように思いながら再び空へのぼると、また一匹のカブト虫が喉に入りました。そしてよだかの喉を引っ掻いてばたばたするのです。よだかはそれを無理に飲み込むと、急に胸がどきっとして、大声をあげて泣き出しました。

(カブト虫やたくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そして今度は僕が鷹に殺される。ああ、もう僕は遠くの空の向こうに行ってしまおう)

山焼けの火は水の様に流れて広がり、雲も赤く燃えているようです。よだかは真っ直ぐに弟のかわせみのところへ飛んで行きました。綺麗なかわせみも、ちょうど起きて遠くの山火事を見ていたところでした。よだか「僕は遠いところへ行くから最後に会いに来たよ」と言います。

「兄さん、行っちゃいけませんよ」
「もう仕方ないんだ、何も言わないでくれ。そしてお前も、どうしてもとらなければならない時のほかは、いたずらにお魚を取ったりしないように、ね。じゃあ、鉢すずめにもよろしく言ってくれ。さよなら」

\ココがポイント/
✅夜になって空を飛ぶよだかの口の中には虫がどんどん入っていく
✅自分が虫たちを殺し、その自分が鷹に殺されることを思ったよだかは、遠くへ行こうと決める
✅よだかは兄弟のかわせみにお別れを言いに行く

よだかは太陽や星々に自分を連れて行ってほしいと頼む

よだかの星

よだかが泣きながら自分の家へ帰ると、巣の中を片付けて綺麗に体中の羽や毛を揃えました。そしてまた巣から飛び出した時、ちょうど太陽が東から登りました。よだかは眩しさを堪えて矢のように太陽の方へ飛んで行きます。

「お日さん、どうぞ私をあなたのところへ連れてってください、焼けて死んでもかまいません。私のような醜い身体でも焼ける時には小さな光を出すでしょう」

しかし、どんなに行けども太陽は近くならず、逆にだんだん小さく遠くなりながら太陽が言いました。「星にそう頼んでごらん。お前は昼の鳥ではないのだからな」

よだかは急にぐらぐらして野原の草の上に落ちてしまいました。

夜露が顔に落ち、よたかは目を開きました。空は青黒く、一面の星が瞬いています。よだかは空へ飛び上がりました。今夜も山焼けの火は真っ赤です。そして、よだかは思い切って、西の空の美しいオリオンの星の方に真っ直ぐに飛びながら叫びました。

「西の青白いお星さん、どうか私をあなたのところへ連れてってください。焼けて死んでもかまいません」

しかしオリオンはよだかを全く相手にしませんでした。よだかは泣きそうになりましたが、何とか堪えて南の大犬座の方へ真っ直ぐに飛びながら叫びました。

「南の青いお星さん、どうか私をあなたのところへ連れてってください。焼けて死んでもかまいません」

けれども、大犬の答えは「馬鹿を言うな、お前はたかが鳥じゃないか。お前の羽でここまで来るには、億年兆年億兆年だ」でした。

よだかはがっかりして、今度は北の大熊星の方へ真っ直ぐに飛びながら叫びました。

「北の青いお星さま、どうか私をあなたのところへ連れてってください。焼けて死んでもかまいません」

大熊星は静かに言います。「余計なことを考えるな、氷山の浮いている海の中へ飛び込んで頭を冷やすんだな」と。

よだかはがっかりしてもう一度、東から今登った天の川の向う岸の鷲の星に叫びました。

「東の白いお星さま、どうか私をあなたのところへ連れてってください。焼けて死んでもかまいません」

すると鷲はこう言うのでした。「話にならん、星になるにはそれ相応の身分でなくちゃいかんし、たくさんの金もいるのだ」

\ココがポイント/
✅よだかが太陽のもとへ行くと、お前は夜の鳥だから星に頼めと断られた
✅しかし、どの星もよだかの願いを受け入れてくれなかった

星になったよだか

よだかはもうすっかり力を落してしまって、羽を閉じて地に落ちて行きました。もう少しで地面という時によだかは狼煙のように空へ翔び上がり、まるで鷲が熊を襲う時のように、身体を揺すって毛を逆立てると、キシキシキシッと高く高く叫びました。

その声は鷹のようだったので、眠っていたほかの鳥は目を醒まして震えながら星空を見上げました。

よだかはどこまでも真っ直ぐに空へ登って行きました。寒さのために息は胸の前で白く凍ります。空気が薄いので羽を忙しく動かさなければなりません。それなのに星の大きさは少しも変わらないのです。寒さや霜が剣のようによだかを刺しました。羽もすっかり痺れてしまいました。

もう、よだかは落ちているのか登っているのか、逆さになっているのか上を向いているのかもわかりません。けれども、心は穏やかでした。そうです、これがよだかの最後でした。

それからしばらくして、よだかは自分の身体が今、燐(りん)の火のような青く美しい光になって、静かに燃えているのを見ました。となりにはカシオペア座があり、天の川がうしろにありました。そしてよだかの星は燃え続けました。今でもまだ燃えています。

(おわり)

\ココがポイント/
✅よだかはどこまでも空を上って行った
✅空の上で力尽きたよだかは、最後に燃え続ける星となった

子どもと「よだかの星」を楽しむには?

その醜い見た目からほかの鳥たちに嫌われていたよだか。遠くへ行きたいと思い、太陽や星々を頼りますが、手を貸してくれるものはなく、最後はひとりきりで空を上っていき、星となりました。巣から落ちた目白のひなを助けたり、虫を食べて殺してしまうことを悲しんだり、よだかの優しさにも胸を打たれますね。

お子さんには、
・よだかとお友だちになれそう?
・名前を変えろと脅されたらどう思う?
・星になったよだかはどんな気持ちだったと思う?

などと聞いてみると良いでしょう。

まとめ

見た目を理由にだれかを嫌ったり、いじめたりすると、その人はとても悲しい思いをするんだと教えてくれる、「よだかの星」。また、命というものは他の命のおかげで存在している、ということを考えるきっかけにもなる作品です。よだかの気持ちを想像して聞いてみようね、と話してみてもよいでしょう。

(文:千羽智美)

※画像はイメージです

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