カメルーンと日本で国際結婚、家事分担が平等でなくても不満が出ない理由とは? スミス夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
国際交流パーティーで知り合い交際をスタートするも、亜美さんが海外勤務となり、1万キロを超える遠距離恋愛を3年間経験。結婚式にはウィリアムさんの母国であるカメルーンやその他各国から家族や友人を250人以上招いて、盛大にお祝いしたそうだ。
翌年に第一子を出産。その後、2年おきに下の子を出産し、現在は共働きをしながら0歳児を含む3人の保育園児を育てている。
私も3人育児中なので、全員が小さいころの楽しくも目まぐるし過ぎる日々を思い返し、「大変ですね!」と声をかけたが、意外にも夫婦そろって「いえ、そんなに大変ではないんですよ」と言う。
聞けば、「お互いが大変にならないように、ルールを決めているんです」とウィリアムさん。俄然、興味がわいてきたところで、さっそくスミス家のセブンルールを伺った。
■7ルール-1 言わなきゃ絶対にわからない
ウィリアムさんの実家は、一夫多妻制でお母さんが2人いる。また、親戚も含めて家族のつながりが深く、大切にする。生まれ育った環境が違えば、夫婦や家族の形も違うのだから、考えていることが違って当たり前だ。
「だからこそ、とにかくなんでも話すんです。子ども、お金、宗教、家族、仕事……。どんなことがあって、どう思い、どう行動したか、もし相手が自分ならどうしていたか、徹底的に話し合う時間を大切にしています」(亜美さん)
特につき合い始めたころは何度もぶつかり、お互いについてはある程度理解することができたという。
「今はお互いのことよりも、家庭のこと、子どものことを話すことが多いですね。最近妻から言われたのは、子どもに対して『ちょっと厳しすぎない?』ということです。カメルーンでは本人の自立を促すためにも、愛情をもって厳しくしつけるのが当たり前なので、うちでもそうしています」(ウィリアムさん)
「私はもともと自分の感情を表現するのが苦手だったのですが、国際結婚だと言わなければ絶対にわからないので、そこは自分を変えていきました。でも、言ったからといって必ずしも相手を変えたいわけではないんです」(亜美さん)
この考え方も、結婚前にさんざん2人で話し合う場を設けたからこそたどり着いたものだ。どちらが正しい、間違っている、ということではなく、「自分はこれが嫌だった」と伝えたうえで、できるときは軌道修正し、できない場合も許容し合う。
ただ、初めての育児では言語化が追いつかないこともあったそう。
「長男が生まれたころ、亜美がひとりでずっとイライラしていたことがありました。どうしたのか聞いてみたら『家事・育児が大変で疲れている』と言っていて。それを聞いてびっくりして、『だったら俺に頼めばいいじゃん! どうして早く言わないの』と言ったんです」(ウィリアムさん)
「『そうか、言えば良かったんだ』と思いましたね(笑)。夫は頑固なのでなかなか謝りはしないのですが、私が嫌だと言えば反省して努力してくれます(笑)。夫をコントロールしたいと思っているわけではないので、それでいいんですよね」(亜美さん)
我が家を振り返ってみると、相手を察しているつもりで見当違いなことを考えていることがしばしばある。日本人同士の夫婦でも、はっきり意見を言い合うことの大切を改めて感じた。
■7ルール-2 共働きだからといって「イコール」を求めない
亜美さんは、第一子の産育休中に大学院で修士号を取得。海外出張のある仕事だったため、第二子の育休明けに新卒から10年勤めてきた職場を退職し、異業種に転職した。3社目の現在は、フルタイムだが在宅勤務ができる日が週に2回あり、17時までに退社して保育園に子どもたちを迎えに行く。帰宅して料理をし、子どもたちに食べさせて寝かしつけたあと、自宅で深夜まで仕事をすることも少なくない。
一方ウィリアムさんは、外資系企業でITコンサルタントとして勤務している。朝の保育園への送りはウィリアムさんの担当で、18時には帰宅し、子どもたち3人とお風呂に入るのが日課だ。
このほか、食器洗いやゴミ出し、洗濯物を畳んでしまうこと、休日のガーデニングのお手入れなどもウィリアムさんが担っている。だが、ウィリアムさんは年に一度、1週間から1ヶ月間の海外出張があるため、その間は亜美さんのワンオペになる。
「全体で見れば家事を多くしているのは私かなと思いますが、共働きだからといってイコールじゃないといけないとは思っていません。彼は彼で、私が料理をしている間に子どもたちの相手をしてくれたり、子どもたちの体調が悪ければ病院に連れて行ってくれたりしているので、それでいいと思っています。ご近所さんや友人たち家族と遊ぶときに、率先して動いてくれるのも彼なので、そこは感謝していますね」(亜美さん)
ウィリアムさんも、「夫婦の家事分担は平等でなくてはいけない」とは思っていない。
「夫婦も、家族や友人づきあいでも、これをしてもらったらこれを返さなきゃいけない、とは考えていません。試合じゃないんだから、そのときに平等であることより、パートナーシップを築く中で、自分は自分にできることで貢献していけばいいと思うんです」(ウィリアムさん)
イコールを求めることが悪いわけではなく、平等にすることでうまくいく夫婦もいる。だが、スミス家では、むしろイコールを求めず、お互いがしてくれたことに対して素直に感謝することでお互いに納得している。夫婦それぞれに、心地良い分担の仕方を見つければいいのだろう。
■7ルール-3 疲れたときには無理をしない
「夫婦どちらかの仕事が忙しくなればお互いにカバーして、2人ともしんどくなりそうなときは外食やお惣菜にする、掃除はしなくても生きていけるという感じで、とにかくミニマムに生活しています」とウィリアムさん。
大切なのは衣食住の最低限を満たすこと。「こうじゃなきゃいけない」というルールは作らず、常に臨機応変を心がけているという。
たとえば、疲れているときの外食やお惣菜では過度に栄養バランスを考えすぎず、短時間でも家族が楽しく過ごせることを大切にしている。
「最近のブームはモスバーガーのテイクアウトですね。私が遅くなりそうな日に注文しておいて、夫に子どもたちを迎えに行った帰りにピックアップしてもらいます。週に一度は必ずコープのミールキットも注文していますね。キットなら夫でも作れるので、私が遅い日に重宝しています」(亜美さん)
余裕がある日には、亜美さんがカメルーン料理を作ってホームパーティーをすることもある。
「『できるときにできることを』というのが私たちの考え方で、無理せず柔軟に対応しているので、つらくならないんだと思います」と亜美さんが笑顔で話してくれた。
■7ルール-4 家族の最小単位はあくまでも夫婦
子どもとの時間も大切だけど、お互いの自由な時間も、夫婦の時間も大事にする、というのがスミス夫婦のルールだ。
「そのために、我が家では親子別床を長男が生まれたときから貫き、夫婦で過ごす場所と時間を確保するようにしています。結婚記念日には子どもたちを両親にみてもらって、結婚式を挙げたホテルに行って夫婦で食事をするのが定番ですね」(亜美さん)
もう一つ、夫婦で楽しみにしているのが月に一度の「ムービーナイト」だ。
「2人とも映画が好きなのですが、今はなかなか映画館に行けません。だったら家で一緒に観ようと、毎月第2土曜、子どもたちを寝かしつけたあとにムービーナイトをすると決めました」(ウィリアムさん)
「奇数月は彼が好きなアクションもの、偶数月は私が好きな政治ものやコメディを一緒に観ています。好みは違いますが、それはそれで面白いですよ」(亜美さん)
夫婦だけでの食事の時間を作るのもいいが、どうしても話題が子どもや家庭に偏りがちになる。映画という共通の話題があれば、心からリラックスして会話ができそうだ。
■7ルール-5「転ばぬ先の杖」ではなく「転んだときにどうするか」を教える
5つ目のルールは、「ルール1」でも触れた子どもの自立を促す接し方についてだ。
「よっぽど大きな障害物以外は、親のほうから先回りしてどけるようなことはしません。万が一転んだときも、よっぽど重傷ではなければ、子ども本人が言いに来るまでは親からは駆け寄りません」とウィリアムさん。
たとえば公園でお友だちと遊んでいて転んだとき、子どもはちらっと親を見てくるけれど、親が何も言わなければそのまま我慢して遊ぶ。だが、親が「大丈夫⁉」と駆け寄れば、子どもはその場で立ち止まって泣いてしまい、お友だちとの遊びも中断してしまう。公園などではよく見かける光景だ。
「もちろん、ケガをしているようならちょっと手伝って水道で洗ったりはしますが、自分でなんとかできる範囲は自分で乗り越えられるし、本当につらければ子どもから親に伝えてくれると信じています。だからこそ、子どもから親を求めてきたときには全力で受け止めるようにしています」(ウィリアムさん)
大事な我が子がケガしないように、と先回りするのは簡単だが、それでは子ども自身が将来困ることになる。
「うちの子たちはハーフ(※)ですし、これからの人生で嫌なこともたくさんあると思うんです。何かあったときにはまず自分で対処して、助けてもらいたいときには自分から言える人に育ってほしいと思っています」(亜美さん)
※編集部注:近年では「ミックス」「ダブル」という言葉を使うこともあります
子どもたちの間でも、上の子が下の子を必要以上に先回りして助けないように気を付けているそう。
「下の子が何でも『ン、ン!』で通そうとしていた時期があったんです。私たちは『ちゃんと言わなきゃわからないよ』と言うのですが、お兄ちゃんは『どうしたの? これ? 違う? じゃあこれ?』と聞いてしまう。それはそれでやさしさですが、お兄ちゃんに『それでは次男君のためにならないよ』と私たちの考えを伝えました。それ以降お兄ちゃんも変わったし、下の子もきちんと言葉で言うようになりました」(ウィリアムさん)
これには、ハッとするところがあった。我が家では末っ子が『ン、ン!』タイプで、長らく悩まされた。うちでも、お姉ちゃんが何でも聞いてあげていた。
「ウィリアムは私以上に徹底していますが、そうやって子どもを子ども扱いしないで育ててきたから、3人小さくて共働きでもそれほど大変に感じていないのかもしれません」(亜美さん)
子育てのしかたは家庭それぞれだが、子どもは自立でき、両親はつらくならないのであれば、スミス家では理にかなっていると言えるだろう。
■7ルール-6 【夫】 子どもたちのためにも家族に近いコミュニティを作る
「自分が幼いころに何が楽しかったかといえば、兄弟だけでなく、いとこたちも一緒に過ごしたこと。いとこたちがうちで食事をすることもよくありました。カメルーンではそれが普通で、近所の人たちもみんなフレンドリーだから、みんなにかわいがってもらっていました」(ウィリアムさん)
子どもたちにもそういう楽しさを知ってほしいと、月に1回は日本に住むウィリアムさんの弟一家や亜美さんの家族と会うようにしているそう。弟さんにも2人の子どもがいるため、子どもが総勢5人となるとにぎやかになる。
「私の両親や祖父母も、夫のことが大好きです。彼がいつもオープンで、私の家族も大事にしてくれるからだと思います」と亜美さん。
これには、「オープンで、フレンドリーでいたほうが、人生は楽しいと思うんです」とウィリアムさん。
「子どもたちにもそういう人に育ってほしいので、子どもたちのためにも、親戚以外のコミュニティも作るように意識しています。ご近所さんや友人家族の夫婦と私たち夫婦の4人でLINEグループを作って、近くの公園に行ったり、遊園地に行ったり。月に1回くらいは家に来てもらってホームパーティーをしています」(ウィリアムさん)
「もちろん、相手に強要はしません。誘って無理でも気にしませんし、自然に仲良くなる人もいれば、なんとなく疎遠になる人もいます。そこはお互いに無理しないようにしています」(亜美さん)
それにしても、共働きで未就学児を3人育児中で、さらに毎月ホームパーティーをするとなれば料理の準備もそれなりに大変なはず……。
「タフだね、とはよく言われます(笑)」(亜美さん)
やっぱり、もともとタフな人でもあるようだ。
■7ルール-7【妻】寝て起きたら嫌なことは全部忘れる
ウィリアムさんとともに、タフで明るい家庭を築いている亜美さんだが、実は「もともとは嫌なことがあると、ずっとそればかり考えてしまうタイプ」だという。
「夫とケンカしたり、子どもを叱りすぎてしまったり、自己嫌悪に陥ることもたくさんあります。でも、私が自分のルールにしているのは、寝て起きたら全部リセットするということ。引きずっても良いことはないので、パソコンの強制終了のイメージで、起きたら爽やかに『おはよう』と言い、家族全員にハグ&キスして一日を始めるように心がけています」(亜美さん)
円満に見える家族でも、何もないことはありえない。だが、お互いに言いたいことを言い合って、朝になればリセットすることで、即座に解決はしなくても、徐々に改善されていくこともある。
同じように、仕事でトラブルがあったときにも、できるだけ家庭内で引きずらないようにしているという。
「子ども3人を保育園に預けて、フルタイムで働きたいと思っているのは自分なので。どうしても引きずってしまうことはありますが、朝になればリセットです」と亜美さん。そんな、ちょっとつらくなりそうな日を救っているのが、夫婦のムービーナイトだったりするのかな、と思った。
■彼らの7ルールを一言で言うと……?
スミス家では、未就学児の子どもも、妻も、夫もひとりの人間として尊重している。だからこそ、互いに気持ちを伝え合うことで、お互いが心地良い環境をつくれるよう努力している。
「子どもを子ども扱いしないのは、結果的に自分たちがラクになるためでもあると思います。家事もがんばり過ぎないで、家庭も仕事も、家族や友人たちとのつきあいも楽しみたいですね」とスミスさん夫婦。
3人の子どもたちも、誰とでも打ち解けやすい子にすくすくと育っているようだ。
特に、「相手を変えるのは難しい。でも、お互いに気持ちを伝え合い、オープンに、柔軟に生きることはできる」という考え方が印象的だった。パートナーが外国籍であるかどうかにかかわらず、夫婦として長く暮らしていく上で大切なことを教わった気がした。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)