「人生の主人公はあくまで自分」親も子も主体性を重視する北見夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
同じシェアハウスの住人として出会い、香枝さん33歳、貴志さん36歳で結婚した北見さん夫妻。共働きをしながら、2歳の双子の男の子を育てている。
「双子とわかったときには、健診台から落っこちそうなくらいびっくりしました(笑)」と香枝さん。20代は国際協力の仕事で海外勤務をし、なんでも自分でこなすタイプだったが、双子が生まれて2日目くらいで、「私だけではこの子たちを死なせてしまう」と察したという。それから、貴志さんはもちろん、両親など周りの人の手を借りながら、必死の思いで子育てをしてきた。
今は1日中2人で遊んでいるという子どもたちの言動に、夫婦とも笑わされてばかりの楽しい日々だ。それぞれのキャリアも大切にしながら、笑顔で育児を楽しむ北見夫婦のセブンルールを聞いた。
7ルール-1 週1日、家族お休みDAYをつくる
双子の妊娠は、病院ではハイリスクとして扱われる。貴志さんも毎週の健診につきそい、1ヶ月間に及んだ入院中は毎週末に荷物を届けに行くなど、気を抜けない日々が続いた。
産後直後は、NICUに入院中の双子に搾乳したミルクを母親自身が届けなければならず、「心身ともにボロボロでした」と香枝さん。双子が退院してからは、産後4ヶ月まで近所に住む香枝さんの実家の世話になり、貴志さんも日々、家族の洗濯物を持ち帰って洗ったり、子どもたちの沐浴をさせたりと奮闘した。
「コロナ禍でリモートワークが始まったタイミングだったのは助かりましたが、この先も仕事の仕方を考えないとどうにもならないな、と思いました」(貴志さん)
香枝さんは結婚と同時期に大学の研究職に転職。現在はほぼ自宅勤務で、裁量労働制を活かして育児をしながらフルタイムで働いている。
貴志さんは総合電機メーカー勤務の後、スタートアップ企業に転職。現在は正社員として週3日間在宅勤務し、残りの時間に個人事業主として仕事を請け負う日々だ。
夫婦とも家にいられる時間が長い働き方を選択し、双子育児とキャリアを両立しているが、忙しいことには変わらない。土日もどちらかが仕事をしていることが多く、生後9ヶ月で子どもたちを保育園に預けるようになってから「週に1日は、家族のお休みDAYを作ろう」と決め、夫婦のスケジュールを合わせるようになった。
「育児と自宅勤務でずっと家にいるので、外の空気を吸いたいというのもあって。その日だけは、家族で一緒に外出することにしています。動物園や水族館に科学館、アスレチックのある公園など、いろいろ行きましたね」(香枝さん)
家族の休日を意識的に確保することで、忙しくても家族で過ごす時間が増えたそう。反対にこの1日があることで、他の日に思い切り仕事に打ち込めるようになったという。
7ルール-2 ママが楽になるための投資は全部やる
「私は動き続けてしまうタイプなので、つい無理してしまわないよう、いろいろ試してきました。家事代行や宅食サービス、電動歯ブラシの導入とか……。夫は、基本的にすべて了承してくれます」(香枝さん)
産後は、産後訪問ケアサポート「リラコム」を利用し、掃除や料理などの家事のほか、助産師による育児相談や理学療法士によるママの体のケアなどのサポートを受けたという。
「これはすごく良かったですね。最近はこういうサービスが増えているようです。産後、大変な思いをされているご家庭も多いと思うので、ぜひ広まってほしいですね」(香枝さん)
その後、一般の家事代行サービスも依頼。5、6人に依頼したものの、なかなか相性の良い人に出会えなかったという。
「私は薄味の和食が好きなんですよね。でも、そこをうまく伝えられなかったり、食材が少しずつ残っているのが気になってしまったりして……。快適に家事代行を利用している方もたくさんいると思うのですが、私たちの場合は、だんだん新しい方を探すのが億劫になってしまいました」(香枝さん)
その代わり、定着しているのが宅食サービスの「つくりおき.jp」だ。
「LINEで簡単に注文できて、おいしくて手作り感のあるお惣菜が冷蔵で届くんです。月に1回は必ず注文しています」(香枝さん)
人に任せられることは任せて、夫婦は決めた時間内でできることをする。たとえば掃除は朝の準備時間内にすることにし、日替わりの掃除箇所を決めている。
「いろんなサービスを使ったり、私や夫の両親にも頼ったりして、私たちは本当に最低限の食事と衛生環境を整えているだけです。最初から周りに頼っているので、家のことや育児を人にお願いすることにはまったく抵抗がないですね。双子を私たちだけで育てていると思うこと自体、おこがましいというか。周りには本当に感謝しています」(香枝さん)
7ルール-3 記憶に頼らず記録に頼る
周りに頼るためにも、産後直後から意識しているのがこのルールだ。
双子といえども、授乳のタイミングや量がそれぞれ違った。1日中どちらかに授乳して、おむつを替え、あやしているような状態になるため、次何をしなければいけないか、常に手書きの育児記録で確認していたという。
「書いておけば、夫や母に後を任せたいときにも、引き継ぎがラクですよね。だから、子どもたちが1歳半くらいまでは育児記録を書いていました。その後も、育児の疲労と加齢で記憶力があてにならないので、記録するようにしています」(香枝さん)
今記録しているのは主にスケジュールだ。「Googleカレンダー」で、夫婦共通の予定、それぞれの予定、子どもたちの予定と3つ表示されるようにしている。
「あとは、家計については家計管理アプリの『Zaim』、写真は写真共有アプリの『みてね』を使っています。写真は両親が子どもたちを見てくれているときに撮ることもあるので、誰でもアップロードできるようにしています」(貴志さん)
仕事と双子育児で疲労はたまっているが、記録しておけば夫婦間はもちろん、周りを巻き込むことができ、負担を減らすことにもつながる。「記憶に頼らない」ことは、忙しい共働き夫婦こそ必要かもしれない。
7ルール-4 お金の管理、日用品の管理はパパが担当
日用品のストックを把握し、足りないものを買い足すのは貴志さんだ。
「彼は本当に、管理能力に長けているんですよね。私はお金をもらっても無理というくらい、そういうところが欠落しているので、本当に助かっています」(香枝さん)
「お昼に食事をとりに外に出たときに、近くのドラッグストアでティッシュやトイレットペーパーとか、気がついたものを買い込んでいるだけですけどね」(貴志さん)
お金の管理も貴志さんの担当だ。共働き世帯では、家賃がどちらで、食事がどちら、と項目別に支払っている家庭もあるが、北見家では少し違う。
「月1回いくらずつと決めて共通の口座に入れ、それぞれが使った分を会社の経費のように精算して、引き出すようにしています。あとは家計管理アプリの『Zaim』で何にいくらくらい使っているか確認するくらい。ジュニアNISAなどもしていたので、資産管理については気が向いたときに洗い出し、夫婦で話すようにしています」(貴志さん)
家族で旅行に行くときも、細かいことを管理するのは貴志さんだ。
「旅行で持って行かなきゃいけないものを、私がバーッと出して、スプレッドシートで共有したら、彼が色分けされたチェックボックスつきのリストにきれいにまとめてくれたりします。めちゃめちゃ優秀なプロジェクトマネージャーですね」(香枝さん)
最近は家族で宮古島旅行を楽しんだ。
「子連れでは初めての飛行機でしたが、なんとかなりました。いつもは新幹線を使うことが多いですが、たとえば東海道新幹線だと、双子用の横型ベビーカーは11号車の入り口からしか出入りができないんですよね。そこだけは、車椅子の方も入れるようになっているので、出入り口が広いんです」(貴志さん)
なるほど、双子用の大きなベビーカーだと、そういうこともあるのか。どの家庭でも子どもを育てることは大変だと思うが、貴志さんの話を聞いて改めて双子育児の苦労を垣間見た気がした。
7ルール-5 双子だからといって一括りにしない
家族以外には「双子ちゃん」と括られ、名前すら呼んでもらえないこともあるという子どもたち。「だからこそ、それぞれの性格、得意なこと、好きなことに目を向けて大切にすることを心掛けています」と貴志さんは言う。
北見家の双子は、兄が1,400g、弟が1,800gで生まれ、弟のほうが大きかったが、性格は兄のほうが勝気で強い。声も大きく、アピール力があるため、兄弟喧嘩ではのんびり屋でやさしい弟が負けることが多いという。
「好きなものも得意なことも違うので、それぞれを観察して、興味を持ったものは可能な限り早く用意してあげるようにしています」(香枝さん)
たとえば、保育園の先生から弟は歌が好きだと聞いたら、キーボードを用意する。兄がある日「飛行機」と口にしたら、図書館で飛行機の絵本を借りてくる。
「私自身、育児をしていても頭の中では常に自分の人生をどうしていけばいいのか考えているんですよね。だから子どもたちも、主体的に人生を生きてほしい。そのためにも好きなこと、気になったことを伸ばせるよう手助けできたらと思っています」(香枝さん)
北見家では誰もが平等に、個性を尊重されて生活しているのだ。
7ルール-6 【夫】 家族との時間を増やすために働き方、業務量を調整する
貴志さんは週3日正社員として在宅で働き、残りは自宅でできる個人事業主として働いている。家にいられる働き方を選んだだけでなく、業務量の調整もしているという。
「以前は月160時間の勤務時間を標準としていたのですが、今はもう少し減らして、月128時間を目安にしています。それくらいなら、子どもたちが病気にかかって、1~2日仕事ができなくなってもなんとかなりますからね」(貴志さん)
正社員で勤務する会社は週の契約時間が決まっているため、自営の仕事を「ちょっとがんばればできるくらいではなく、何も起こらなければやや暇になるぐらいの業務量に合わせています」と貴志さん。
私も自営業なのでわかるが、なかなかできることではない。潔い選択といえるだろう。
「去年、本当に大変なことがあって。地獄を見たから、今のように調整することにしたんですよ」と貴志さん。
「コロナ禍が一旦収束して人が動き始めたら、いろんな感染症が増えたじゃないですか。そのときに子どもたちが胃腸炎やらヘルパンギーナやら、いろんなウイルスに断続的にかかって、中耳炎にもなってしまって。中耳炎になると週に1回はフォローアップで耳鼻科に行かなくちゃいけなかったのですが、カウントしたら1ヶ月で19日も病院に連れて行っていたんですよね。私も疲れ切り、肺炎になってしまって……」(香枝さん)
この経験を経て、貴志さんが仕事量を調節するようになったというわけだ。
香枝さんの仕事は裁量労働制なので、時間で管理されないことで助かっているという。「大事な打ち合わせに出て、納期に間に合えばいいので、調整はしやすいですね。肺炎になる直前は、39度の熱が出て寝込んでいましたが、大事なプレゼンだけがんばって、また寝込むようなこともしていました……」(香枝さん)。
貴志さんは、少なくとも幼児育児中は、今の仕事量を保つことを考えているという。いざというときに備えて、余裕のある仕事量を。育児中の共働き夫婦には、重要なポイントだろう。
7ルール-7【妻】 自分の機嫌は自分でとる
「私が健康で笑っていることが、家族の笑顔や健康につながるんですよね。だから、家族のためにも、自分の心身を整えることを心掛けています」と香枝さん。
予防医学を学んだバックグラウンドがあることもあり、「食べて、動いて、寝る」ことは大切にしているという。香枝さんはヨガのインストラクターの資格も持っているので、1日10分のヨガと瞑想も日課にしている。
「自分の人生なので、自分の感情の持ち方次第で変わることも多いと思うんです。育児では、感情のままに子どもにイラっとするのではなく、『今はこの月齢だからしかたないよね』と、いったん受け止めることで、気持ちが落ち着きます。家事でも、あれもこれも『やらなきゃいけない』と思い込むと、自分で自分を苦しめたり、傷つけたりして、負の感情が家族にも伝染してしまう。それはすごくもったいないと思うんですよね」(香枝さん)
考え方を変えることで、自分の機嫌は自分でとる。「仕事が落ち着いているときは、ちょっと気分を変えたいときに、あてもなく外出することもあります。瞑想でも、自分がどうしたいのか、どう生きていきたいのかを考えていますね。時間的には育児の配分が中心ですが、頭の中は自分本位に生きていると思います」と香枝さん。
そのうえで、家族の健康維持のために、和食中心の食事や部屋の加湿・保温、子どもの睡眠時間の確保など、健康に暮らす努力を何より優先させているという。
彼らの7ルールを一言で言うと……?
北見夫婦は、親であっても自分の人生を大切にし、家族の人生も大切にしている。
家族それぞれが自立して、自分の幸せを追求することで、家族みんなが幸せになる。だからこそ、双子も一人ひとりの個性を大切に、自分らしく成長できることが重視されている。
「産後直後のボロボロのときや、子どもたちも私も病気にかかって大変だったこともありますが、基本的には毎日、家族でずっと笑っています。双子が面白すぎて、夫婦の間でも笑いが絶えないんですよ」と香枝さん。
子どもたちが健やかであるためにも、ママやパパが笑っていられるのが何よりだ。その方法を探った結果が、今の7ルールなのだろう。
夫婦や家族のあり方は人によって違うから、7ルールに正解はない。ただ、北見家では、今の家族に合ったルールを見つけられているようだ。夫婦の明るい笑顔を見て、そう感じた。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)