仲良し夫婦に産後ガルガル期の危機! それでもクライシスに至らなかった納得の理由 木村夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
壮太さん30歳、雅さん29歳のときにマッチングアプリで出会い、1年間の同棲を経て結婚した木村さん夫婦。
雅さんは交際中から、「子どもはあなたが(家事育児を)全力でサポートしないなら産まない」と宣言していたそう。子どもを望んでいた壮太さんは了承し、現在は夫婦で協力しながら1歳の娘さんを共働きで育てている。
壮太さんが育休を取得するのも、雅さんが出産する条件だった。「新生児の育児を一緒にスタートしたからこそ、今も育児に関してはどちらが主体ということはなく、夫婦でフォローし合えています」と雅さん。
合理的なところが、お互いに似ていると話す木村夫婦。「誰も犠牲にしない」ことをキーワードに、家族の誰もが自分らしく生きるためのセブンルールを聞いた。
■7ルール-1 夫も育休を取得する
出産前の約束通り、産後は半年間の育休を取得した壮太さん。雅さんはもともと「子どもは産んでも産まなくてもどちらでも良い」というスタンスだったが、「産んでみたら本当にかわいくて。夫と2人だったので初めての育児でも楽しむことができています」と笑顔で話す。
夫の育休がなかったり、あっても短期間だったりすると、どうしても妻が育児を担うことが多くなる。すると夫にはできない育児のタスクができたり、子どもが「ママがいい」と主張したりして、育児の分担はどんどん差が開いてしまう。
その点、木村夫婦は2人で育児を始められたから、育児に関して同程度の分担が実現できている。
「夫は子どもをかわいがるだけじゃなく、ちゃんと一緒に育てているので、育児では常に積極的に動いてくれています。子どものほうも『パパ大好き!』なのは、育休の期間に濃密な時間を共有したからだと思いますよ」(雅さん)
娘さんからの愛情は壮太さんもしっかり受け取っているようで、「先日、妻が2泊3日で友人と韓国旅行に出かけたのですが、その間、娘は一度も『ママ、ママ』と寂しがることはなかったですね」と、うれしそうだ。
結婚後、2人でいる時間が欲しくて、雅さんが早く帰宅できる仕事に転職したほど仲睦まじい木村さん夫婦。育休中は「子どもが寝ている間に、2人で海外ドラマの『ウォーキング・デッド』を観たり、マーベルの全シリーズを観たりと、夫婦の時間を取れたのも良かったです」(雅さん)とのろけるが、産後特有の“ガルガル期”も経験したそう。
「ホルモンバランスのせいだと思うのですが、産後すぐは夫が隣にいるだけでイライラしたんですよね。夫がすること、すべてが嫌でした(笑)」(雅さん)
壮太さんは何かあればすぐに検索して調べる性格で、妻の態度が産後すぐの女性によくあることだと理解したため「『おお、これがいわゆるガルガル期か』と思って受け流していました」と言う。
この「受け流す姿勢」は大事だ。産後のホルモンバランスの急激な変化は、母親本人にもどうしようもないからだ。
その後、しばらくしてガルガル期が落ち着き、一緒に育児をしたり、ドラマを観たりして過ごす中で、出産前の仲の良さを取り戻した。
「もし夫が育休を取っていなかったら、『なんで私だけ』と不満がつのり、ガルガル期のまま夫を嫌いになっていたかもしれません」(雅さん)
雅さんの言葉を聞いて、「うわ、怖いですね」と笑う壮太さん。「2人目ができたら、また育休をしっかり取らないといけないですね。というか、むしろ絶対取りたいですね」。
■7ルール-2 ルールで縛りすぎない
いくら気の合う夫婦でも、育児に関しては考え方や感覚にズレが生じることがある。それを放置していると、気づかないうちに夫婦の溝が広がってしまうこともあるだろう。木村さん夫婦の場合、壮太さんが育休を取得したおかげで、溝が小さいうちにお互いの考えをすり合わせることができたという。
「私は最初、『19時には寝かせないといけない』とか、『ミルクは何時に何ミリリットル飲まないといけない』とか、いろんなルールを作っていました。しかし夫はそれを、必要以上に無理していると感じたようです。確かに私自身、ルールを守り続けるのが苦しくなっていたんですよね。それで、あるときから思い切ってやめました」(雅さん)
無理して食事を作っても、子どもは食べられなくて残すことも多いから、ベビーフードでOK。規則正しい生活が良いのはわかっているけれど、子どもがどうしても寝たがらないなら、たまには夜更かししても大丈夫。
「そんなふうにゆるく考えたら、ルールを作ってもそれに従わない夫にイライラすることもなくなりました」(雅さん)
無理に添い寝で寝かしつけることもせず、眠くなったらリビングのベビーベッドで寝かせるという暮らしを続けた。その結果、現在1歳になった娘さんは、寝る支度が済んで眠くなったら、自分で子ども部屋のベッドに行って寝てくれるという。
そのほかの子育てのルールも、やめて特段困ったことはない。
「意味があるルールなら従いますが、そう思えないものであれば、自分たちの首を絞めるだけ。理にかなっていないと感じた子育てのルールは、できるだけやめました」(壮太さん)
とはいえ、もし妻ひとりで育児の大半を担っていたら、夫から一方的に「そんなの意味ないんじゃないの」と否定されたら腹が立ってしまうだろう。育休中に一緒に子どもに向き合い、一緒に考えられたからこそ、功を奏したのは間違いない。
■7ルール-3 子どもの養育費は夫が負担
育児に関しては2人で協力してきたが、家事については日々の料理や掃除が雅さん、土日の掃除や洗濯物を畳むのが壮太さんと、6対4程度で雅さんのほうが多く負担しているという。そのため、雅さんは産後、退職してひとり会社の経営者となり、働き方を変えることで時間を作ってきた。
壮太さんは新卒で入社した会社を3年ほどで退職し、起業。だが娘さんが生まれたあとに、かねてから希望していた仕事に就けることになり、会社員に戻っている。
「お互い、好きな仕事をしながら家事・育児と両立して、財布は別々で管理しています。ただ、妊娠・出産によって、女性はどうしても仕事にもプライベートにも制限が多くかかるので、その分はお金でフォローしてもらっています」(雅さん)
たとえば、妊娠・出産できない分、壮太さんが出産費用と養育費を負担する。一方で、日常的に必要ではない、子どものおしゃれ着などのちょっと特別なものを購入するときには、子どものものでも雅さんが支払うそう。
「教育費も夫が負担することになっていますが、私は私立の小学校に入れたいと思っていて、夫は必要ないと思っています。そういうときは、私が学費の差分を払うことになるでしょう。意見が合わないときは、意志を通したいほうがお金の負担をすることで解決しています」(雅さん)
お金で解決、というと聞こえは良くないかもしれないが、木村夫婦にとっては理にかなっているようだ。
■7ルール-4 家族ぐるみの交際費は誘ったほうが全額支払う
お金についてはもうひとつルールを設けている。お互いのコミュニティの交際費は、そのコミュニティに所属しているほうが支払う。たとえば、壮太さんが自分の友人と家族ぐるみで旅行しようというときは、壮太さんが雅さんと娘さんの分も支払う、ということだ。
「お互いに『タダで旅行できるなら』という意識が働くので、お互いのコミュニティへの参加が億劫にならずに済んでいます。私は実家が九州なので、家族で帰省するときの費用はすべて私が支払います」(雅さん)
これも、ドライなようで合理的だと感じた。パートナーの実家への帰省費用は、遠方であれば10万円を超えることもあるため、最初は良くても年数を経るほど正直なところ、億劫になる。そんな気持ちも、金銭的な負担がないのであれば軽減されることだろう。
■7ルール-5 予定はGoogleカレンダーで共有
週末の過ごし方はお互いアクティブだ。雅さんはフラワーアレンジメントの習い事に出かけたり、友人と飲みに行ったり。壮太さんはバドミントンサークルの練習や飲み会に参加している。
そんなお互いの予定は、Googleカレンダーで共有している。週末の用事を入れるのは、早い者勝ちだ。
「夫の予定はだいたい週末の夕方からなので、今のところ早い者勝ちでも不公平感はないですね。出かけるほうは、子どものお風呂を済ませておくなど、できることをしてから出かけています」(雅さん)
2人とも予定がないときは、娘さんと3人で公園や買い物に出かけることが多いそう。
「交際中から同じような感じで、お互いに予定がなければ2人で過ごしていました。それをそのまま続けています」(壮太さん)
■7ルール-6【夫】言いたいことを我慢しない
ルール5の早い者勝ちの予定でも、どちらかの飲み会が続けば「ちょっと続いてない?」と口に出して言う。
「言いたいことはため込まないで、思ったときにすぐ伝えるようにしています。我慢して、積もり積もってから爆発してしまうほうが怖いですし、ストレスになりますよね」(壮太さん)
交際中もずっとそうしてきたから、結婚して、子どもができても変えることはない。
「私が飲み会帰りで夜中にテンション高く話しかけると、『うるさい』って結構辛らつに言うよね(笑)」(雅さん)
もちろん、言われることでムッとすることもなくはないが、「ため込むよりずっとマシ」というのが木村夫婦の共通認識だ。
言いたいことを言い合って、お金が関係する問題であればお金で解決する。2人の価値観が一致していることがよくわかる。
■7ルール-7【妻】やりたいことを我慢しない
雅さんのマイルールも、壮太さんのルールとよく似ている。
「家庭ファーストは前提にしつつ、自分がやりたいことは我慢したくないと思っています。だから、友人とはもちろん、ひとり飲みにも行きますし、ほしい服があれば買う。財布が別々で、老後資金も別で考えているので、お金も気兼ねなく使えています」(雅さん)
■彼らの7ルールを一言で言うと……?
木村夫婦のルールに共通する考え方は「個の尊重」だ。
家族を大切に考えつつ、そのために誰の「個」も犠牲にしない。己の時間、己のお金を持ち、お互いを尊重している。
家族の時間、個の時間と同様に、夫婦の時間を大切にしていることも印象的だった。2人とも自宅勤務が多いため、時間があえばランチを一緒に食べに行く。子どもが寝た後、夫婦で同じテレビ番組を見る時間も楽しんでいる。
「2人とも合理的だから、今のルールが心地良いですね」と雅さんが言えば、
「今のまま、平和な日々を続けていきたいです」と壮太さん。
財布が別であることも、それぞれに予定を入れることも、異論がある人はいるかもしれないが、木村夫婦にとっては「今」が最も心地良い。
「2人目を産んだら、もっと時間がなくなると思いますが、そのときはまたお互い助け合っていきたいですね」と雅さん。
この夫婦なら、きっと家族が増えて、状況が変わっても、お互いに心地良いルールを見つけて補い合っていくのだろう。どことなく笑顔も似ている2人を見て、そう思った。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)