床が絵の具で汚れてもOK! 子どもの個性を伸ばすための斎藤夫妻のルール #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
詩織さん18歳、裕人さん22歳のとき、バイト先で出会ったふたり。詩織さんが24歳、裕人さんが28歳のときに結婚し、現在は共働きで保育園に通う長女を育てている。
フリーランスで広告や商品のデザインを手掛ける詩織さんと、整備士として深夜勤務を含む交替勤務で勤める裕人さんは、生活リズムこそ合わないことが多い。だが、ふたりとも精力的に働き、人に頼めることは頼みながら、のびのびと娘さんの育児を楽しんでいるという。
そんなふたりに感じたのは、周りの意見に振り回されない、夫婦ならではの共通認識に基づいたルールがあること。毎日バタバタと忙しいけれど、家族の笑顔は絶えない、斎藤夫婦のセブンルールを聞いた。
■7ルール-1 ⾃分ができることは⾃分でする
⽣活リズムが異なるため、各自ができるときにできることをする、というのが斎藤家のスタイル。裕人さんは、夜勤のときには会社の洗濯機で洗濯をし、家にいるときは自分で朝食の準備もする。朝の保育園の送りはほぼ詩織さんだが、夕方に裕人さんが家にいるときは裕人さんがお迎えに行っている。
食器洗いは「女性は手荒れしてしまって大変だから」という理由で、基本的に裕人さんの担当だ。そのほかは、ゴミ捨て、洗濯、風呂掃除や部屋の掃除など。土日に休みが重なった日は、娘さんを連れて電車で出かけ、児童館や公園で遊ばせることもあるという。
「以前はあまり家事をしないほうだったのですが、家を買ってから意識が変わり、気がついたときにこまめに掃除機をかけるようになりました」(裕人さん)
詩織さんは裕人さんがいないときの家事・育児の全般を担う。仕事が順調で忙しいため、時間に追われてはいるが、それほどストレスは感じていないという。夫婦お互いに、自分でできることは積極的に自分でしているため「なんで自分だけ」という不満がたまりにくいのだ。
「忙しいときは、娘と机を並べて仕事しています。娘は隣で絵を描いたりしているのですが、私もデザインの仕事でお絵描きと似たようなことをしているので、特に仕事がはかどらないということもないですね」(詩織さん)
一緒に暮らしつつ、裕人さんと詩織さんだけでなく、娘さんも自分のできることを自分でしている。斎藤家にとって、それが一番、心地良いのだ。
■7ルール-2 お⾦は夫婦それぞれで管理する
「お互いにいくら貯金しているか知りません。家のローンは夫、それ以外の日常の支払いは私と⽀払いの役割分担をして、それ以外は⾃由に使えるようにしています」(詩織さん)
家を購入したとき、裕人さんが「住宅ローン返済はなんとかするから、他はお願いね」と話したのが始まりで、今もこのルールが続いている。
別々の管理だからこそ、どうやりくりするかは個々の自由だ。
「デザイナーとしては今が働きどきだと思うので、子どもはまだ小さいですが仕事をセーブする気はありません。どんどん請けて、稼いだ分、他の人に任せられることはお金を使ってお願いするようにしています」と詩織さん。
食事の準備では、数ヶ月前から家事代行を活用しているそう。
「月に1度、家事代行の方に来てもらって、1週間分ほど作ってもらっています。タッパーに詰めてもらって、冷凍できるものはして。4時間で依頼して、買い物から料理、片付けまでをお願いしています。6品くらいを頼んだら、同じ時間で20品作ってくれたんですよ。すごいですよね!」(詩織さん)
野菜をあまり食べない娘さんが、家事代行で頼んだサラダや夏野菜カレーならたくさん食べてくれるというあたり、まさにプロの仕事。「大根の葉とかも、全部使って作ってくれるので感心しています。自分では作らないものを作ってくれるので、食事が楽しくなりました」と詩織さん。プロの仕事っぷりに味をしめ、年末の大掃除も依頼を検討中だそうだ。
■7ルール-3 お互いプライベートの時間を作る
詩織さんはしばしば会食の予定があったりイベントに招待されたりして、夜に家をあけることがある。そういうときは、裕人さんが娘さんのお世話をしている。
逆に裕人さんにひとり時間ができると、ジムに行ったり好きなラーメンを食べに行ったりと、自由な時間を満喫しているそうだ。
「どちらかに用事があるときは、どちらかが柔軟に子どもの⾯倒を⾒ながら⽣活しています。先日は夫が家にいられるときを狙って、友人と旅行に行きました」(詩織さん)
子どものことは最優先にしつつ、それぞれのひとり時間も楽しむ。特に話し合って決めたわけではないそうだが、この暗黙のルールのもと、夫婦がフォローし合うことで、健やかな心の自由を保っているという。
■7ルール-4 ⼦どものやりたいことを⽌めない
娘さんは工作が大好き。切った紙や作品を部屋いっぱいに散らかしてよく没頭しているそう。
「私もデザイナーの仕事でイメージを膨らませるとき、写真やイラストなどのアイデアを机の上にバーッと広げることが多くて。だからというわけではないですが、娘にとっても散らかすことは大事なことかもしれないなと思えるんです。なので、本人が満足するまで続けさせています。子育てに関してはあまり細かくルールを作っていないのですが、『子どもがやりたいことは危険がない限りは止めない』だけは夫婦の共通認識になっていますね」(詩織さん)
裕人さんも、「黙々と作業を続ける娘を見ていると『この子はハサミで何かを作るのが本当に好きなんだな』とわかるので、それなら止めずに見ていよう、という気になりました」とうなずく。
娘さんは2歳のころに初めてハサミを使い始めてからどんどん好きになり、今ではかなり器用にハサミを使って作品作りに熱中するようになったとか。
将来は詩織さんのようなデザイナーかアーティストになるのかも……⁉ と期待してしまうが、それには「やりたいことを止めない」夫婦のルールが影響していることは間違いないだろう。
■7ルール-5 写真アプリで⼦供の成⻑記録を保存
斎藤夫婦はふたりともひとり親で、特に裕人さんの実家は東北と遠いため、なかなか会うことができない。詩織さんのお母さんも現役で働いているため、子どもを預けるということもない。
そこで、家族向け写真・動画共有サービスの『家族アルバム みてね』を使って子どもの成⻑を記録し、離れて暮らす親御さんにも共有している。
「妊娠中に産婦人科のお医者様に、こういったサービスを使うとエコー写真や動画を保存できるよ、と教えてもらったのがきっかけです。今では娘が、自分がお腹にいるときのエコーの記録を見て、ケラケラ笑っています(笑)。あとから簡単に見返せるので、保存しておいてよかったですね」(詩織さん)
今でも、出かけたときにはなるべく多くの写真を撮るように⼼がけているそう。家族の楽しいひとときを、一緒に見返すことでまた楽しみが増えるという。
■7ルール-6【夫】⼦どもに⽶粒を最後まできれいに⾷べさせる
裕人さんの実家は兼業農家で、米作りをしていた。
「僕が上京してからも実家から作った米を送ってもらっていたので、ありがたみがあるんですよね。でも、娘は少食なので、よく食べ残してしまって。それが気になって、いつからかご飯だけは最後の一粒まで残さず食べさせるようになりました」(裕人さん)
ほかのことでは、たとえば娘さんが制作中に床に絵の具をこぼしてしまっても、注意はしつつのびのび育てている。だが、ご飯を残さず食べさせることだけは徹底しているそう。
裕人さんは「細かいですが」と笑うが、食事のマナーはもちろん、相手の気持ちを思いやることや、食べ物を大切にすることも学べるだろう。
■7ルール-7【妻】⼦どもの話をよく聞く
どんなに多忙でも、詩織さんが「これだけは」と大切にしているのがこのルールだ。
「まだ自分の気持ちや出来事を正確に話せる年ではないので、詳しく聞いてみるようにしています。じっくり聞くと楽しかったことだけじゃなく、保育園で友だちにされて嫌だったことも話してくれるんです。そういうときは、まずは話を聞いて、次に同じことがあったらどうするか、どうしたら解決できるか娘と話し合っています」(詩織さん)
もちろん、仕事で手が離せず、「ちょっと待ってね」と言ってしまうこともある。それでも、あとから「何の話だった?」と確認することで、なるべく聞きこぼしのないようにしているという。
■彼らの7ルールを一言で言うと……?
斎藤家のルールに共通しているのは、「個々を大切に、家族それぞれが自立できるように」ということだ。
家族を大切にしながら、ひとりでも生きていけるように、自分のことは自分でする。もちろん、その考え方は育児にも言えることで、娘さんには「自立して生きていける大人になってほしい」(詩織さん)と言う。
そのために、自分らしく好きな仕事ができるよう、やりたいことは止めずに伸ばす。夫婦が男女の差なく仕事をし、家事や育児を担うのが当たり前だということも、自分たちの生活を通して伝えている。
子育てをするから仕事をセーブするのか、夫婦で補い合って仕事も全力でするのか、正解はないけれど、斎藤家は後者だ。
「フリーランスなので、仕事はあるうちが幸せ! 体調も悪くないので、今は全力でやりきりたいですね」(詩織さん)
そのために家事代行など人の手は借りるが、子どもの話はじっくり聞く。フリーランスとしての自分の仕事と、子どもに向き合うことは、他の人にはできないためだ。
裕人さんは「僕としては、妻にはもう少し仕事の余裕を持ってもいいんじゃないかなとは思いますが……」と苦笑しつつ、口を出すことはしない。家族といえどもひとりの時間も楽しみ、個々を大切にすることが、共通認識としてあるからだ。
「お互いに我慢せず、個々を大切にした結果、家族が元気で仲良く、平和に過ごせればいいと思っています」(裕人さん)
皆がハッピーなら、床が散らかろうが絵の具で汚れようが、大したことはない!
そのおおらかさが、家族の笑顔を生んでいる。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)