何度も揉めて、その度に話し合ってきたW転勤族夫婦。全員納得を目指すためのルールとは? 青柳夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール
世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、スタートした企画。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。
ともにフルタイムで働きながら、5歳と4歳の兄妹を育児中の青柳夫婦。同じ会社に同期入社し、お互いの仕事のことはよくわかっている2人だが、問題は夫婦とも転勤が多いことだ。
遠距離交際、別居婚からスタート。それ以来、同居したのは10年間のうち合計たったの2、3年だという。
傍から見ると大変な転勤族生活だが、2人とも会社生活には満足しており、家族関係も円満だ。離れて暮らしていても、仕事も育児もあきらめない、青柳夫婦のセブンルールを聞いた。
■7ルール-1 家事は主担当が決めたルールを守る
お互い一人暮らし経験もあるため、家事は一人でできる。だから、同居している時期もあえて役割分担は決めず、できるほうがやるのが青柳家のルールだ。
ただし、自然とお互いに得意な家事を担うようになり、翔太さんが料理と家計管理、美紀さんが掃除洗濯の主担当となっている。
「実は、初めて一緒に住んだときに、夫婦でちょっと揉めたんです。それで1回、夫婦で長めの話し合いをして、それぞれが得意なことを担い、相手が代わりに行うときは『主担当が決めたルールを守る!』ということで落ち着きました」(美紀さん)
たとえば翔太さんにとって、料理は洗い物をしながら作り、最後にシンクをキレイにするまで。このルールを、美紀さんが料理するときもできるだけ守っている。
「掃除や洗濯では、僕が妻の決めたやり方やルールを守っています。そのほうが、揉めごとが少ないと気づいたんです」(翔太さん)
得意なほうに任せきりにするのではなく、たとえば洗濯物がたまっていて、2人とも手があいていれば、夫婦で好きな映画を観ながら一緒にたたむ。お互いにサポートすることを前提に、フレキシブルに家事を分担するスタイルが夫婦にもっとも合っている。
■7ルール-2 お金で解決できることに出費は惜しまない
1人目の妊娠・出産時は、産休育休に入った美紀さんが、当時翔太さんのいた札幌に引っ越したので夫婦で乗り切ることができた。その後、美紀さんも異動となり、札幌で復職している。だが、2人目の出産時は、産後1年ほどで翔太さんが東京に異動となり、2年半ほど美紀さんが1人で札幌に残って仕事と2人育児を両立させなければいけなかった。
「週末には夫も来てくれたのですが、それでも最初の半年はしんどかったですね。保育園が延長保育をお願いすれば夕食まで出してくれていたのと、札幌に住んでいる義母が手伝いに来てくれて、なんとかまわっていました」(美紀さん)
忙しすぎると、子どもたちについきつく当たってしまう。それなら、お金で解決できることは惜しまないほうがいい、と提案したのは翔太さんだ。
「お金で精神的な余裕を買えるのであれば、出費は惜しむべきではないと思うんです。なるべく自分たちがストレスを減らし、子どもと楽しく過ごせる環境にすることを心がけています」(翔太さん)
たとえば、自家用車。使うのは買い物に行くときくらいで、5年で1万キロも乗っていないが持っている。最寄り駅まで徒歩15分の道のりはがんばれば歩けなくもないが、子どもにおんぶをせがまれて疲弊してしまうくらいなら、と電動自転車も購入した。お掃除ロボットやドラム式の洗濯乾燥機などの家事ラク家電もフル装備だ。
「夫は会社でも家庭でも予算管理をしているので、夫が買っても大丈夫というなら大丈夫なんだろうと、安心して購入しています(笑)」(美紀さん)
翔太さんも、「一応、将来のためのお金は別に考えて、このくらいは使っていいお金、と考えながら使っています」と頼もしい。
■7ルール-3 とことん話をする時間を持つ
実際のところ、離れて暮らしていて、仕事も育児も、お互いに不満なく両立させるのは簡単なことではない。
「揉めることも、不満や不安を抱えることもあったんですよ。でも、話し合うことで何度も夫婦関係を持ち直してきました」と美紀さん。
夫婦家事の分担も、お金の使いどころについても、夫婦で話し合ってルールを決めてきた。札幌での同居時代は、お互いに週の半分ほどはテレワークだったため、仕事の合間にしょっちゅう会話をした。同居している間は、朝の保育園の送りは夫婦そろって行く、というルールを決めているのも、その10分が家族や夫婦の会話の時間になるためだ。
「実際、うちほど夫婦で会話をしているところも少ないんじゃないかな(笑)。テレワークと出社で入れ違いになって家に一緒にいる時間が少なくなると、お互いに不満や誤解が溜まっていくんですよね。だから、普段からささいな情報共有や他愛ない話をするのはもちろん、LINEや社内チャットも使って、積極的に会話をするようにしています」(翔太さん)
夫婦で話すことを大切にしているのは、翔太さんの実家の家族では、それがあたりまえだったからでもある。
「夫の家族はいつもすごく話をするんです。最初は驚いたんですけど、本当に家族で仲が良くて、ご両親もおしどり夫婦で。私たちもいつまでも仲良くありたいので、真似してみようと思いました」(美紀さん)
翔太さんの実家では、「夕食は必ず家族で一緒にとり、会話をする」というのがルールだった。しかし共働きのしかも転勤族では、それは難しい。だからこそ、スマホなどのツールも駆使しながら、改めて時間を作れなくても夫婦で会話ができるように、お互いに意識しているという。
■7ルール-4 「全員納得」を目指す
夫婦の前提にあるのは、まず子どもとパートナーを大切にすることだ。ただし、2人とも今の仕事にやりがいを持っている。
両立するにはどうしたらいいのか、何を最優先するべきか、これまで転勤のたびに、何度も夫婦で話し合ってきた。そして2人で出した答えが、「子どもを優先することで、夫婦のどちらかが我慢しなければいけないような選択はしない」ということだ。
「札幌にいた頃、夫がもっと上のキャリアを目指したい、そのために東京の本社に異動したいということに。でも、私は札幌での仕事が落ち着いていましたし、子どもたちは保育園にもすっかり慣れ親しんでいました。そのうえ義実家も近かったので、札幌で子育てがしたかったんです。そこで何カ月も話し合い、夫だけが東京に行くという道を選ぶことにしました」(美紀さん)
ひとりになれば仕事をセーブしなくてはいけないため、美紀さんにも「自分のキャリアはどうなるのか」という心配があったという。しかし、実際には、時短で働いたのも最初の半年ほどで、後はフレックスタイムとテレワークを使うことで、フルタイムで仕事ができたため、キャリアアップに遅れが生じることもなかった。
周囲の助けもあり、職場の理解もあったうえに、「何より当時はまだ小さい子どもたちがかわいくて、『今は夫をサポートして、子どもと一緒にいる時間を大切にするときだな』と納得できました」と美紀さん。
その後、会社でリモートキャリアが正式に導入され、札幌時代も後半は、翔太さんが2週間札幌でテレワークをし、2週間は東京出社という2拠点生活を実践できるようになったという。
「今年から私も東京に異動になって、家族みんなで暮らせるようになりました。そうしたらあるとき息子に、『ママ、東京に来てから優しくなったね』と言われたんです。やっぱり、ひとりでの育児は気を張っていたんでしょうね」(美紀さん)
今回の決断が、毎回踏襲されるとは限らない。そのときの仕事の状況や、子どもたちの状況によっても変わるからだ。
「お互い転勤族のため、どこで子育てをするのか、キャリアと家族同居、どちらを優先するかなど、常に考えていなければいけないんですよね。その時々で夫婦で話し合い、自分のキャリアと子どもの状況を踏まえて選択したいと思っています」(翔太さん)
たとえば今後、美紀さんが海外勤務になるということもあり得る。そんなときにも夫婦でじっくり話し合い、そのとき子どもがどこにいるのがベストなのか、2人で考えていきたいという。
「2人で決めたら、その選択肢が正解だったと思えるように、全力で努力していきたいですね。子どもにも、親が充実している姿を見せることで成長してもらいたいと思っています」(美紀さん)
■7ルール-5 子どもをひとりの人間として尊重する
青柳夫婦は、育児についてもよく話し合い、お互いの意見を共有する。まだ幼い子どもたちに対して2人で決めているのは、「子どもをひとりの人間として尊重する」という基本的な考え方だ。
「自分のことは自分でできる自立した人になってほしいことと、素直な気持ちを表現できるようになってほしい。だから、子どもの話を聞くこと、それぞれの意見を聞くことを意識しています」(美紀さん)
まずは、やりたいと思ったことをできるだけやらせてあげたい。そんな思いから、普通なら止めてしまいそうなことも、ぐっと我慢して見守っている。
「昨日も、夕食後に息子が、食器がたまったシンクでおままごとを始めたんです。当然、床も服もびしょ濡れ。でも水や本物のお皿の感触を楽しんでいるのかな、と思い、しばらく見守りました(笑)」(美紀さん)
翔太さんはどちらかというと管理したいタイプだが、一人目が産まれたときに美紀さんと話し合い、納得しているという。
「転勤で離れていることが多い分、甘えたり、癇癪を起されたりするのさえ、自分に心を開いてくれているのかな、と感じてうれしいんですよね。これからも自分の思いを伝えてもらって、子どもたちがやりたいと思うことをやらせてあげたいと思っています」(翔太さん)
■7ルール-6【夫】感謝を口に出す
そんな翔太さんが大切にしているのは、自分の気持ちもきちんと言葉にして伝えること。特に「ありがとう」は伝えるように心がけているそう。
「減るものじゃないし、もう『ありがとう』と『ごめんなさい』は口癖みたいなものですね。言葉にして言わないと気持ちは伝わらないですし、思っているだけでは意味がないかな、と」(翔太さん)
翔太さんの姿勢に美紀さんも、子どもたちもつられて、自然に「ありがとう」が行き交う家庭になっているそう。
夫婦や家族の会話を深めるにも、まずは感謝の気持ちを伝えることから。親しき中にも礼儀あり、を日頃から実践している。
■7ルール-7【妻】注意するときはスキンシップを取りながら
たとえば、忙しいのに危ないことをされたときや、わがままを言われたとき。特に自分ひとりで子ども2人を相手にしていると、ついイライラして怒ってしまうこともある。
「私はたぶん人よりも怒りっぽい方。でも、子どもと手をつないだり、ほっぺにチューしたり、抱っこしたりするとイライラが収まるので、できるだけ子どもの体に触れながら話をするようにしています。体を触りながら落ち着いて『これはやってほしくないんだよ』と言うと、子どもも聞いてくれるような気がします」(美紀さん)
特に2人目が産まれ、翔太さんが転勤してワンオペとなったときは、バタバタして子どもとゆっくり話す暇もなかったそう。
「寝かしつけで絵本を読むときに、やっと話せるくらい。だから、せめてスキンシップは積極的にとろう、と思いました」(美紀さん)
■彼らの7ルールを一言で言うと……?
夫婦ともに転勤族である青柳家ならではのルールは、正解をひとつに決めつけず、そのときどきに応じた最適解を夫婦で話し合って見つけること。そのうえで、「選んだ道を正解にする努力をする」ということだ。
キャリアも、育児も、決してあきらめない。そんな姿勢が、子どもたちや、おそらく2人が「理解のある職場」と口をそろえる会社にも伝わり、うまくいってきたのだろう。
そんな夫婦に育てられ、長男は「家族思いの優しい子」(美紀さん)に育っているという。美紀さんが大変そうなときはよく助け、「こうしたら良いんじゃない?」と意見もしてくれる。一方、妹ちゃんはいつも歌ったり踊ったりしてニコニコしている元気な子。同じ環境で育ってもタイプがまったく違う。
だから、休みの日には「何がしたい?」「どこに行きたい?」と家族それぞれに聞いて、相談して「今日はこれにしよう」と決めている。それは、それぞれの個性を尊重し、誰かが我慢するような選択はしない、という夫婦の基本的な考え方に通じている。
「人格形成の原型になるのが家族だと思うので、これからも子どもたちといっぱい話していきたいですね。もちろん、夫婦でも!」(翔太さん)
困難なことがあっても、家族でたくさん話をすれば解決できる。青柳夫婦からは、そんな前向きな自信が感じられた。
(取材・文:中島 理恵、撮影:梅沢 香織、イラスト:二階堂 ちはる)