「産後の恨みは一生」なら「産後の感謝も一生」。管理職だからこそ残業しないパパの働き方 #男性育休取ったらどうなった?
育児休業を経験し、子育てに奮闘しているパパの声を聞いていくインタビュー連載・「男性育休取ったらどうなった?」。今回は会社独自の先進的な育休支援制度を設ける企業で、ともに働くご夫婦にお話を聞きました。
パパが1カ月の育休を取得した佐野さんファミリー
今回のパパ
佐野夕祈(ゆうき)さん/34歳/株式会社CHINTAI勤務・管理職
●ご家族
妻:佳奈さん/31歳/株式会社CHINTAI勤務
長女:美有希ちゃん/4歳 次女:凛夏ちゃん/2歳
※お子さんの名前は仮名です。
●佐野家のパパ育休
2022年9月に次女が誕生。会社の期初となる11月1日から1カ月の育児休業を取得した。なお、取得にあたって勤務先のCHINTAIが独自に定める育児休業支援制度の「ファミリーエクスペリエンス制度」を夫婦で利用した。
夕祈さんのある日のタイムスケジュール(現在)
■会社が新たに導入した育休の支援制度を夫婦で利用!
――夕祈さんが育休を取得した経緯を教えてください。
夕祈さん 今回、第二子が生まれて2カ月のタイミングで男性育休を取得したんですが、もともと2020年に第一子が生まれたときも興味があって、取ってみたいと思っていました。ただ、当時は自分が管理職に上がったばかりで、かなりバタバタしていたので、自らの判断で取得しませんでした。
次女が生まれたのは2022年。ちょうどこの年に育児・介護休業法の改正の施行が行われ、国としても男性育休を推進する動きが高まりました。そしてこの時期に合わせて会社が新たに「ファミリーエクスペリエンス制度」という男性育休を取得した際に支援金を支給する独自の制度を新設したんです。
それもあって、会社の役員から「育休を取得しなよ」と声をかけられたことが取得のきっかけに。自分としても長女が生まれたときの状況とは異なり、仕事に慣れていたこともあって、初めての育休取得を決断することができました。
――そうだったんですね。ファミリーエクスペリエンス制度とは具体的にどういった制度ですか?
夕祈さん CHINTAIに勤務する男性社員もしくは女性社員のパートナーが育休を取得した際に、2週間以上1カ月未満の場合だと5万円、1カ月以上取得で20万円が支給されます。女性社員のパートナーは弊社以外の企業に勤務していてももらえる決まりです。我が家の場合は夫婦でCHINTAIに勤務しているので、合計40万円支給されました。
――それは助かりますね!
佳奈さん 本当に。実はこの制度、自分も仕事と子育てを両立している女性の人事担当者の発案で導入されたものなんです。彼女自身、パートナーが育休を取れず、大変な思いをした経験があり……。
男性はどうして育休を取らないんだろう?と、彼女は弊社の男性社員にインタビューして回ったそうです。すると、理由として多かったのが「休んだ分の収入面(の減少)が不安」というものでした。彼女自身、自分の立場に当てはめて考えると、夫が休みを取れたとしてもお金の面はかなり心配だっただろう……と納得したといいます。そうした現場の声や自らの経験を踏まえ、社員に家族との時間をより豊かに過ごしてほしいと思ってできたのがファミリーエクスペリエンス制度だったんです。
実はその人事担当の女性社員は私と年齢が同じで、上の子も同い年。社内のママ友として、仲良くお昼ご飯に行きながら「どんな制度があったらもっと働きやすくなるかな?」みたいな話をしていたので、彼女の案が実現したことはとてもうれしかったです。そのうえ私たちも恩恵に預かることができてありがたかったですね。
――社員の思いを実際の制度にして取り入れるスピード感から、柔軟な社風を感じました。
佳奈さん そういう新たな制度を柔軟に取り入れる寛容さは、社風としてあると思いますね。また弊社は企業文化として女性の活躍を大事にしており、女性管理職の比率も比較的高いんです。実は先ほど話した女性社員だけではなく、人事の管理職や管掌役員も女性です。なので、女性が育休中に感じる子育ての大変さや、夫が家にいることでどれだけ助かるかなどもイメージを共有しやすかったのではないでしょうか。
■管理職の自分が不在の間、部下たちが大きく成長!
――役員にすすめられて夕祈さんが育休を取得されたと聞きましたが、ということは、会社でも歓迎ムードだったわけですね?
夕祈さん そうですね。今お話したように法改正の施行とファミリーエクスペリエンス制度が新設されたタイミングだったので、社内の男性育休取得についての機運が高まっていました。先ほどの人事の役員からは「育休取るでしょ?」と顔を合わせる度にプレッシャーをかけられる程でしたから(笑)。
――それでも、何か心配することはありましたか?
夕祈さん ありました。当時、東京の本社営業部という首都圏エリアの営業部門の部長を務めていたのですが、1カ月も不在にすることで部署の売上が落ち込んでしまうのではないかと危惧していたんです。
営業をしていると、毎月解約するクライアントは必ず出てきます。所属部署の売上目標を達成しようとすると、解約以上に新規の契約を取ってこないといけません。私は解約を防ぐ、新規契約を取ることがともに得意で、 営業スタイル的にも部署のメンバーに付いて現場に出ることが多くて。その自分がいないとなると、それ相応の影響が出て、部署の売上が落ち込むかも……そんな心配をしていました。実際、部下からも「不安です」という言葉をもらっていましたし、中には心配しすぎて会社を辞めそうくらいのテンションの部下もいましたから。
――それは気になってしまいますよね。いざ育休に入ってみてどうでしたか。
夕祈さん 想定外のことがありました。管理職の私がいない間にみんながすごく大きく成長をしてくれたんです。自分の懸念に反して、実際は「上司不在だからこそ頑張る」というモチベーションで案件を進めてくれていたようです。蓋を開けてみると、部署の解約率も少なかったです。
育休に入る前、「わからないことはLINEでもチャットでも対応するからなんでも聞いて」と伝えておいたので、最初はちょこちょこ連絡が来ていました。ただ、それも1週間くらい。あとは自走してくれましたね。
――部長の不在が、若手社員たちの成長につながったのですね。
夕祈さん ほかにも例えば、大手で今まで一度も契約が取れたことのない企業があって。それまで私が個人的に進めていた案件で、一応、育休に際して担当者を置きましたが、あまり期待をしていなかったんです。なのに、復帰後「今度ちょっとアポ取って一緒に行こう」とその担当社員に話かけると、「私もう仲良しなんで、いつでもアポ取れますよ」と言われてびっくり。こんな感じで、たった1カ月でここまで変わるのかと部下の変化に驚くことばかりでした。
実は育休に入る前に辞令が出ていて、私は現在は大阪の関西支社にいます。育休を取得した際は誰にも言えませんでしたが、すでに大阪に行くこと自体は決まっていて、復帰して数カ月後には異動となりました。結果的に、育休を取得した1カ月は、当時の部下にとっては私に頼らず仕事を進める予行演習の機会になったかなと思っています。
■管理職だからこそ残業しない働き方を
――現在、夕祈さんが大阪にいらっしゃるということで、佳奈さんも同じく異動されたのでしょうか?
佳奈さん 家族で引っ越しをして大阪にはいるのですが、実は東京本社のWEB関連の部門に在籍しており、普段はフルリモートの在宅勤務で東京のメンバーと仕事をしています。
――多様な働き方を実現されていますね。
佳奈さん はい。私の場合は事情もあって少し特殊ですが、会社的にはリモートの在宅と出社を併用する社員が多いです。
夕祈さん 私は営業なので外回りしていることが多く、在宅勤務はだいたい週1〜2ですね。ただ、会議は事務所にいても基本オンラインです。
――育休は取れても復帰後は残業が多くて大変、という方も中にはいらっしゃいますが、夕祈さんはいかがですか?
夕祈さん 残業するのは月に10時間ほどですね。早く帰宅した分、家で持ち帰りの仕事をするなんてこともほとんどありません。仕事自体を早く終わらせるように効率や生産性を意識して業務を進めています。
――お子さんが生まれてからそうなったのですか?
夕祈さん 子どものこともありますが、管理職に上がったことが大きなきっかけでした。入社後3年目くらいまでは、残業も頑張るような働き方をしていたんですが、管理職に上がってからは、自分が長く残業してしまうと、 下のメンバーに対してもあまりいい影響を与えないと思ったので、意図的にやらないようになりました。
――いい上司ですね!
夕折さん いや、日頃、部下がともに頑張ってくれているおかげです(笑)。
――ちなみにお子さんが急病のときはどうされていますか?
佳奈さん 夫は営業職なので、取引先のアポが入っていることも多く、私が対応することが多いです。ただ、もちろん、夫が休むときもあります。ほかにも2人とも在宅で出勤しつつ、時間差でメインの看病役を交代することも。10時から12時は私が看るから、12時から14時はそっちでお願いねみたいな形です。こういうときは、パズルみたいにお互いの時間を調整して当てはめながら、対応しています。
――在宅勤務はやはり子育てとの相性がいいですかね?
佳奈さん はい。弊社の場合、裁量労働制を導入していて、何時から何時まで働くのかは社員の裁量に委ねられているので、合間に夕食の下ごしらえをしたりもしています。おかげで子どもたちをお迎えに行って帰ってきてからも、待たせることなく食事の用意ができていますし、子どもたちの寝る時間も遅くならずに済んでいるかなと思います。
■妻が2カ月の入院、突如ワンオペで上の子と生活することになり…
――育児と仕事を両立されているお2人ですが、夕祈さんが育児に対して自信があると言えることはどんなことですか?
夕祈さん ワンオペで家事・育児をこなせることでしょうか。実は妻は第二子の出産前に2カ月間の入院期間があったんです。その間、一人で上の子と生活したことは、とても大きな自信となりました。
――入院は大変でしたね。
佳奈さん はい。まだ出産までかなりある時期に、定期的に受けていた妊婦健診で「子宮口が開いてきている、切迫早産です」と診断を受けました。おなかの張りを抑える薬を24時間点滴で打たなきゃいけないので、即入院となりました。上の子はちょうど1歳半くらいでしたが、夫に急遽すべてをお願いすることに。もちろん、私は仕事もお休みすることになりました。
――夕祈さんは2カ月間、完全にワンオペに?
夕祈さん 妻のお義母さんを頼ることはありましたが、それも本当に外せない用事があるときに見てもらうくらいで、基本はワンオペでした。意外と何とかなりましたね。
私自身、10年ほど一人暮らしの経験があって、家事は一通りできますし、料理も得意です。また、育児も普段からかかわっていたので、娘も妻がいなければいないで大丈夫でした。早い時期から娘が一人で寝るのを習慣にしていたこともよかったと思います。娘も頑張ってくれましたね。
会社のほうは普段からあまり残業をしないようにしていましたし、時差出勤も利用しました。その期間は出勤時間を1時間早めて、その分、退勤時間も1時間早くして、保育園に娘を迎えに行っていました。
――佳奈さんは夕折さんにおまかせすることに不安はありましたか?
佳奈さん なかったです。家事も育児もできるというのは、普段の生活から知っていたので、安心してまかせていました。ただ、寂しかったですね。当時はコロナ禍で入院先も面会が厳しかったので、2人に会えなくて。毎夜、子どもと夫とLINEビデオで繋ぎながらお互いの報告をしていました。
夕折さん ちょうど入院の2カ月間の間に娘がおしゃぶりを卒業できたんですよ。それがすごくうれしくて、妻に報告したことを覚えています。
■産後の夫に対する感謝の気持ちは、一生心に残り続ける
――最後にこれから赤ちゃんを迎えるママ・パパにメッセージをお願いします。
夕祈さん 男性育休取得については、迷っているご家庭も多いかと思います。しかし、子どもにとっても家族にとっても大事な時期なので、ぜひ挑戦してみてほしいです。
不安はたくさん出てくると思いますが、夫婦が一緒にいて話をするだけでも、解消されるケースはたくさんあるはず。仕事に穴をあけることを心配する人もいるでしょうが、結局、誰が抜けたって仕事は回っていきます。それに私のように部下の成長が見られるなど思わぬ収穫もあるかもしれません。なので、気にせず、育休取得に踏み切ってみてほしいです。
――ありがとうございます。佳奈さんからはいかがですか?
佳奈さん 私も男性の育休は気軽に取るといいんじゃないかと思います。子どもの小さくて、成長の目まぐるしい時期を夫婦一緒に過ごせるだけで、その後の夫婦のあり方も変わってくると思うからです。
よく「産後の恨みは一生」と言われますよね。いま振り返れば産後の大変な期間ってほんの一瞬だと思いますが、その一瞬の間に「手伝ってくれなかった、嫌だった」ってことが、一生女性側の心に残ってしまいます。
それって裏を返すと、 いろいろやってくれたなぁ、ありがたかったなぁって、そうした夫に対する感謝の気持ちも一生、妻の中で残り続けるということ。そうした視点も踏まえつつ、男性育休の取得を検討してもらえたら。取得する人が増えることは、とても素敵なことだと思います。
夕祈さん 男性の皆さん、夫の育休は一生恨まれないためのリスクヘッジですよ!
佳奈さん あはは。そういうことですね!(笑)
(取材・文:江原めぐみ、イラスト:ぺぷり)