「ワンオペはしない・させない」が夫婦の合言葉! 目標を叶えるべく2人が取った行動とは? #男性育休取ったらどうなった?
育児休業を経験し、子育てに奮闘しているパパの声を聞いていくインタビュー連載・「男性育休取ったらどうなった?」。今回はお惣菜のデリバリーサービス「つくりおき.jp」を営むスタートアップ企業で働くパパと、IT企業の営業として奔走するパートナーのママにお話を聞きました。
パパが10カ月の育休を取得した小川さんファミリー
今回のパパ
小川未来さん/33歳/株式会社Antway 経営企画
●ご家族
妻:令奈さん/30歳/IT企業 営業
長女:1歳
●小川家のパパ育休
長女の誕生直後の2023年7月から、保育園の慣らし保育が終わる2024年4月終盤まで約10カ月の育児休業を取得した。
未来さんの現在のタイムスケジュール
「妻にワンオペをさせてはいけない!」
――未来さんは10カ月という長期の育児休業を取得されていますね。育児休業の取得に至った経緯を教えてもらえますか?
未来さん いちばんの理由は、娘の出産から保育園入園に至るまで、妻にワンオペを強いるのを避けたかったからです。女性のホルモンバランスの変化や、産後うつ問題、女性の夫への愛情曲線の回復に関する調査データ(※)などを事前に知っていたので、妻が心身に不調をきたすことにならないよう、夫婦がそろって家事・育児をしたいと考えました。
また、2つ目に「あらゆる家庭の義務をなくす」を企業ミッションとして掲げるAntwayの人事責任者(当時)としてマミートラックなど子持ち女性のキャリア環境に対する問題意識が自分の中にありました。これは仕事熱心な妻のパートナーとしても気にかけている点で、子どもがいることで妻が仕事で活躍できない状況に追い込まれるのは絶対嫌だと思ったんです。
3つ目は会社の人事責任者として、男性であっても長期間の育休を希望する人は、気兼ねなく取得できる機運を会社内に作りたいと考えたことです。“本当は育休を取得したいが会社の雰囲気のせいで取れない”、“マネジメント層が育休を取得することで、企業の育休取得が進む”といった調査データがあることを知っていたので、マネージャーである自分が率先して取得する意味は大きいのでは?と考えました。
――上司に伝えたのはいつごろでしたか?
未来さん 安定期に入ってからです。当時直属の上司だった社長に妻の妊娠の報告をするとともに育休を取得したいと伝えました。当時は在籍するオフィス社員の数が30名程度で、僕は「つくりおき.jp」の献立を考えるメニュー部門と人事部の両方のマネージャーを兼任していました。しかも、人事部は僕一人。長く休むと影響が確実に出る状況だったので、当然、周囲からの理解が得られないかもと思い、復帰後の役職には固執しないことや後継を全力で育成し引き継ぎすること、足りない人員は採用することを社長に宣言しました。
――相当な覚悟だったのですね。
未来さん はい。育休を長期で取得したいけど、僕のポジションをキープしてくださいなんて、それはわがまますぎるし、会社のためにもならないですから。
ただ、社長はお祝いムードでしたし、育休を快諾してくれました。もちろん仕事への影響を考えると、経営者としていろいろと検討することはあったかと思いますが、最初から取得するorしないの話ではなく、する方向ですべての話を進めさせてくれました。
※妻の夫に対する愛情が、どんどん低迷するケースといったん低迷しても回復するケースの違いは産後〜乳幼児期の夫の関わりにあるという調査。参考:東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス 研究部長 渥美由喜著「夫婦の愛情曲線の変遷」
日報、週報、WBSを使った育休プロジェクトを遂行!
――育休中はどのように過ごしていましたか?
未来さん 企業としてもほぼ初となる男性育休の取り組みだったので、テストモデルとして充実させたいという思いがあったんですね。そのため、育休を一つのプロジェクトと捉え、タスクを確認する朝の日報とKPTTをベースとした週報を導入しました。
――まるで会社の会議ですね!
未来さん そうですね。実際、朝の会議形式は弊社のプロジェクトでも実践していたやり方です。「昨日できたこと」「今日やること」「もやもや・相手のサポートが必要なこと」をプロジェクトメンバーがそれぞれ出してまとめるのですが、これをそのまま家庭内に転用しました。
KPTTは「KEEP(今後も継続したいこと、相手に継続してほしいこと)」「PROBLEM(解決したい問題)」「TRY(問題に対するアクション)」「THANKS(相手への感謝)」の4つの要素からなる、振り返りのフレームワーク。僕たち夫婦の間では結婚当初から導入していて、当時は年1回と、3カ月ごとの振り返りをするのが慣例だったんですけど、育休に入ってからは娘の成長や状況の変化が激しく、自分たちもそれに適応しないといけないので、週1スパンにしました。
ほかにもWBS(=Work Breakdown Structure、プロジェクトの細かいタスクを分解して構造化する手法)のフォーマットも用意したので、それをもとに毎日の行動を決めつつ、週報で振り返って、計画の修正を入れて…を繰り返していましたね。
令奈さん 彼はものすごい気合の入りようで……。育休に入ってすぐにこの大プロジェクトの計画を立てるべく共有フォーマットを作ってくれました。それを家のプロジェクターに写して発表してくれて。私は娘を小脇に抱えて授乳しながら、「今それどころじゃないんだけど」って感じで、最初は引いて見ていました(笑)。
ただ、彼の言う通り、育休の期間内にしたいことをあげて、逆算しながら1個1個タスクに落としこんでみると、意外と時間がないことに気づいたんですよ!
未来さん 例えば、育休中にやっておきたいことの一つに「旅行に3回行く」がありました。だけど、それをただ朝の家族会議で話しているだけでは、一向に進みません。「何月と何月と何月に行こう」と決めて、それに向けて「いついつまでに予約しないとね」とか、「赤ちゃん向けのホテルってどういったところがあるの?」とか、やるべきタスクをタイムスケジュールとともに洗い出していくんです。こうした大枠を先に作っておくと、タスクを眺めながら、「そうか来月くらいにはこれ決めておかないといけないか」と気づいて、進めることができます。
令奈さん タスクの進行役は私です。企画を立てるのは彼が得意で私は苦手。だけど私は営業なので決まったことを実行するのは彼より得意! なので予約の電話をしたり、「あれが手つかずだから、やんなきゃね」と彼のお尻を叩いたり。そういった仕事を主に私が担当していました。
育休中に徹底して行ったベビーシッター探し
――ほかにも育休中にやっておきたいことはありましたか?
未来さん 「住宅検討」とか「かかりつけの小児科医探し」とかいろいろありましたが、特に「信頼できるベビーシッターを見つける」ことや「ダイエットをして健康になる」ことは、実際にトライして達成感が強かったことですね。
――どちらのお話も聞きたいです。まずはベビーシッター探しについてお願いします。
令奈さん もともとはベビーシッターをお願いすることに対し、不安がありました。大事な娘を預けられるのかとか、人を家に入れて留守にできるのかとか、いろいろ心配していたんです。だけど、復職後のことを考えると、絶対に必要。娘が病気をしたときはもちろんですが、私たち夫婦は映画館で映画を観るのが好きなので、それができなくなるのはやっぱり悲しいし、よくないよねと……。親にお願いすると言っても、ずっと頼むわけにもいかないですし。そんな背景からベビーシッターさんをお願いすることに決め、自治体の補助が使えるサービスの中で、まずは10人ほどピックアップしました。
――10人! かなり多いですね!
未来さん 保活と似たような感じですよ。ベビーシッター活です(笑)!
令奈さん 実際お願いしたのは延べ7〜8人で、皆さん最初は3〜4時間ほど家に来てもらい、私たち親は別の部屋で休息しつつ、娘とどのように過ごしているかその様子をチェックしました。お試し期間は3カ月くらいかな? あえて毎週違う人を呼んでいたので、調整が忙しかったです。だけど、そうしたことでだいたい3人に絞れたので、あと残りの育休期間でその3人にお願いする機会を作り、娘のことをよく知ってもらいました。
たくさんの人に来てもらってわかったことですが、同じプラットフォームで、同じくらいの料金なのに、人によってやることが全然違うんですよ。ひたすら寝かしつけだけする方もいれば、ずっと喋りかけて遊んでくれる方もいて。娘は後者のほうが嬉しそうだったので、遊んでくれるかどうかは重視しましたね。今、メインでお願いしているシッターさんは本当に遊び方が上手ですし、レポートも分単位で細かく知らせてくれるので、安心。娘も大好きで、このシッターさんが来るのを楽しみにしています。
育休中に17kg減量。現在も週に3日は職場までランニング通勤!
――ダイエットのお話もお願いします!
未来さん 僕、食べることが大好きでもともと体重が90kg以上あったんです。それを育休中に17kg落としました。ダイエットって育児とは一見関係なさそうに見えますが、子どもという守らないといけない存在ができて、健康管理のモチベーションがすごく上がったんですね。
実は当初、育休中にやりたいことの中に「リスキリングする」みたいな目標もありました。でも、無理でしたね。僕は赤ちゃんが泣いてる中で本を読めないタイプだとわかりましたし、本に集中してしまうと、育児がおろそかになってしまう。それは本末転倒じゃないですか。
だけど、ダイエットは育児と両立しやすかった。育休中、エアロバイクを買ってよく漕いでいたのですが、これなら赤ちゃんの様子を見ながらでも、漕げますから。とくに生まれてしばらくは、赤ちゃんってほとんど動かないですしね。ほかにも食事を気にかけたり、育休後半は親が来てくれたときにランニングも取り入れたり。ランニングは今でも継続していて、復帰した今は週3で会社まで走って通勤をしています。
――なんてストイック!
令奈さん 保育園のお迎えに、汗だくで行くそうですよ(笑)。
未来さん やっぱり僕が仕事終わりに時間を作ってランニングしようとなると、その間は妻のワンオペになるわけじゃないですか。それは避けたい。かといって、睡眠時間を削るのも嫌ですし。だから、ランニング通勤です。マルチタスクって脳疲労がすごいらしいので、基本しなくていいことは自動化するなどして避けているのですが、通勤しながら走るみたいな脳を使わない体のマルチタスクはどんどんやっていきたいと考えていて。会社に行く時間の中で体力がつくし、痩せるし、メリットばかりなんですよ。
仕事と家庭のメリハリを効かせて、ヘルシーに!
――お二人は現在も育休中と同様、基本ワンオペの時間をお互いに作らないよう意識しているのですね。
令奈さん そうですね。育休中は「復帰後の生活に向けた基盤を作る」プロジェクトで動いていましたが、復帰した今は「日々のタスクをなるべく減らそうプロジェクト」で動いていて、お互いにフルタイムですが帰る時間はなるべく合わせて、夫婦で家事・育児に取り組んでいます。
未来さん やっぱり一人しかいないのと二人いるのって抱えるタスクがまったく違うじゃないですか。ワンオペは効率的でないし、メンタルにも影響しますしね。
令奈さん 保育園のお迎えに行くのは夫ですけど、二人が帰宅したときに私もいるっていう状態をベストとして動いています。どちらかが飲み会に行くときもいったん帰宅し、娘のお風呂やごはんを済ませ、寝かせてから出発。先日、私の復帰を祝ってくれる会社の飲み会があったのですが、20時開催にしてもらい、出席しました。
――ちなみに未来さんも令奈さんも基本的に出社ですか?
令奈さん 出社です。私の場合は、復帰していろいろわからないことだらけだったので、会社に行ったほうが人に聞けて勝手がわかることが多かったですし、行くとやっぱり会社の人間関係って家庭にはない楽しさだと感じたんですよ。それは仕事の醍醐味というか。だから仕事は会社でする!と決めて、メリハリをつけていますね。
未来さん 僕も出社しています。以前はほぼフルリモートでしたし、今もリモートは会社の制度でできるのですが、復帰後は基本出社です。というのも、メリハリをつけて自律神経を整えることが超大事だと思ったから。
以前はメリハリのない中で夫婦ともに仕事中心の生活を送っていたんです。仕事は充実していましたが、眼精疲労、肩こり、蕁麻疹、肥満など、いろいろ弊害がありました。我が社が大事にするバリューの一つに“HEALTHY”があるのですが、どの口が言ってるのかと思うほど自分自身はまったくヘルシーじゃなかった。
それが育休によって自律神経が整い、リセットされて、体調もよくなって。だから、あの頃の体に戻りたくないんです。僕たちの不調は娘にも影響がありますし、それに娘には夜更かしをさせたくない。こうして家庭全体でメリハリを効かせることが健康や仕事の効率、ひいては幸せにつながっていくと今は考えていますね。
だから、基本出社。僕の場合、子どものお迎えというお尻があることで、生産性が上がって、仕事の時間は圧倒的に短くできるようになりました。これこそヘルシー。会社のバリューに恥ずかしくないことができて、なおかつそれが娘のためになっていると思うので、こんなに嬉しいことはありません。
(取材・文:江原めぐみ、撮影:福冨ちはる、イラスト:ぺぷり)