
不登校の子の家庭学習のコツ。「子どもが勉強してくれずイライラ……」そんなときは?|植木和実さんインタビュー #2
今、増えている子どもの不登校。勉強が遅れることや、進路に影響することも心配ですね。不登校専門オンラインプロ家庭教師イエローシードラビー代表で『ずっと不登校でも1年で希望の高校に合格する方法』(日本実業出版社)著者の植木和実先生に不登校の子の勉強や進路、将来の考え方をうかがうインタビューの第2回。(全4回)
第1回では、不登校の子が「自分の人生を自分で幸せに創っていける力をつける」ための一つの方法として、中学校の勉強をマスターして高校入試に備えることをお話しいただきました。小学校高学年で不登校の場合、中学の先取り学習で自信をつけることで再登校のきっかけになる場合も。
勉強で自信をつけることが再登校のきっかけに!

――不登校による学習の遅れを取り戻すためではなく、先取り学習が重要なのですね。
植木 不登校の子に「学校に行ってないから、今学校でやっている/すでに終わった範囲の勉強をしよう」というと、なんだか負けた気になるようです。「自分は劣っているんだ」「みんなより遅れているんだ」という意識が働いて、気が重くなってしまう。けれど、中学の予習ならまだみんながやっていない範囲です。「本来はもっとお兄さん・お姉さんがやることだからできなくてもいい。もしできたら、すごいよね」と伝えると、目を輝かせる子が多いんです。中学の勉強の最初のところは実は簡単。だから実際にできてしまいます。
――全教科、簡単なのですか?
植木 そうですね。たとえば数学は、負の数が新しい概念として出てくるけれど、やることは足し算や引き算をはじめとした四則計算から入ります。小学校の復習も兼ねている範囲でもあります。英語も、そもそも本格的な英語の授業は中学からスタートします。英語の塾に小学校入学前から通う子もいますし、その意味で「小学生だから難しすぎて無理」ということはないと思います。英文法だけをまとめて学習すれば3ヶ月くらいで終わるので、入学前にマスターしておけば自信を持って授業に臨めます。そうすると、ちょっと学校に行ってもいいかな、と気持ちが変わることもあります。
どの教科も中学入試ほど難しいことはないです。「小学校の範囲が抜けていて大丈夫か」と心配になる方もいらっしゃると思うのですが、小学校の学習の多くは中学の学習範囲で復習しながら習得できる仕組みになっているので、大丈夫です。

――中学の先取り学習が登校のきっかけになることもあるのですね。
植木 不登校の子は周りの評価を気にする傾向が少し強いように感じてます。絵に描いたような良い子で、優しい分、なかなか自分に自信を持ちづらい子もいます。自分で自分を認められるのが一番ですが、自信がない分、先に進んでいることを確かめられたり、学校で褒められたり、周りにすごいと言われたりすると、安心して「行ってもいいかな」と思えるようになるようです。その自信の一端が学力にあるなら、予習しておいて損はないなと思っています。
みんなと合流したいという気持ちがある生徒なら、目標としては高校入学までに学校へ戻ることができればOKです。義務教育のうちに、どのくらいのペースなら通えるか、練習しておくことも良いと思います。全日制高校の場合、進級・卒業に必要な出席日数を3分の2以上と定めている学校が多いです。最初は、「定期テストを保健室に受けに行く」ところから、徐々に慣れていくのも良いと思います。
――勉強を武器に不登校を脱するというアプローチは考えてもみませんでした。
植木 私も生徒たちに教わりました。生徒たちは私たちが思っている以上に、勉強に価値を置いているようです。家庭教師をして、生徒が「わかった!できた!」となった日は、家でも言葉数が増えたり、いつもより大きな声で話す子も多いそうです。そして、成績が上がると、多くの生徒が再び登校し始めます。確かに、せっかく意を決して登校しても、授業が全然理解できなかったら、自己嫌悪が募り心が折れそうになるのかもしれません。
だんだん自信が溜まってくると、「本当はこの高校に行きたいんだけど……」という本音を聞かせてくれる子もいます。また、学校よりも先に勉強を進めておけば、ちょっと優越感も味わえます。テストだけでも受けに行って「学校ではまだこの単元をやっていた! 自分のほうが先に進めている」と自信につなげられたら大成功です。
不登校の子の家庭学習のコツは「子どもに合わせる」こと

――中学の先取り学習はどのように進めるとよいでしょうか。
植木 書籍『これだけで大丈夫! ずっと不登校でも1年で希望の高校に合格する方法』にも書いたのですが、英語は英文法から、数学は計算のカテゴリーから勉強を始めるといいと思います。今まで中学の先取り学習を教えた生徒たちは、中学の学習がある程度わかると、見通しが立って余裕ができるのか、自ら進んで「中学校入学までに、小学校の勉強も復習しておきたい」と言い出しました。私には、「勝てそうな試合に、勝ちに行く」ような姿勢に見え、頼もしかったです。もちろん、細かな進め方や教え方については、生徒の個性に合わせています。
――子どもの個性に合わせて教えていくのですね。植木先生はどのように教えているのでしょうか?
植木 自分で勉強したほうが理解できる子は、自分で学習を進めてもらって、わからないところを教えますが、基本的に「そもそもわからないところがわからない」子が多いです。予習型で最初から授業をして次回までに復習してもらい、その上で復習してわからなかったところをまた教える、という進め方です。けれども、なかにはこだわりが強くて家庭学習が難しい子もいます。その場合は割り切って、授業で全部教え切ることができるようにしています。
――家庭教師の時間の枠で教えきるのですね。しかし、家庭学習を一切しないとなると学習の定着が難しいように感じますが。
植木 勉強は「できなかったことを、できるようにすること」なので、授業で理解した内容を、家庭学習で「できるようにする」ことは大切です。でも、私の経験として、こだわりの強い子は少しでも勉強を面白いと思ったら学んだことを忘れません。それに、学習内容に興味を持てば自習してくれるようになります。そこに懸けて指導していますね。その意味でも、子どもの個性に合わせて指導することは大事だと感じています。
勉強中、子どもにイライラ……そんなときは?

――子どもに合わせたほうがいいとわかっていても、実際に親が我が子に勉強を教えるとなるとイライラすることもありそうです。
植木 そうですよね。親が子どもに勉強を教えると、子どもも甘えが出てしまい、イライラしてしまうこともあると思います。勉強については、特に小学校高学年以降は、周りのプロに任せて応援する側にまわるのも手かもしれません。その上で、もし、勉強を教える場合には、子どもが「どこまでわかっていて、どこからわかっていないのか」「どんな考え方をするのか」観察するとよいようです。
また、子どもが勉強をしていないと叱りたくなってしまうのですが、叱ると子どもたちは「怒られた」という気持ちが大きくなって、さらにできなくなってしまうという二次被害が発生することがあります。「好ましくないことはスルー、好ましいことは褒める」ことを徹底するとよいでしょう。

――こちらが合わせるしかないと割り切れば、寄り添うことができそうです。そもそも勉強しないようなときは、どうすればいいでしょうか。
植木 私は、子どもがダウン症であったこともあり、早期教育や障害児教育といわれるものから、家庭教師としての小2から高3、自分の年齢より上の方への指導もしてきました。子どもの学習への取り組みについては、年齢や、一人ひとりの成長の早さや個性によっても、ステージが異なります。
小学校低学年であれば、遊びの延長線上に勉強を置き、保護者も一緒に取り組むのが早いのかもしれません。隣に座って、仕事をするのでも良いです。本を読むのでも、脳トレをするのでもOK。「勉強ごっこです。ママはこれをします。◯◯さんはこれをしましょう。」「終わったら、◯◯さんが先生になってママに教えてください」みたいにすると楽しいかもしれません。勉強は特別なものではなく日常の一部と捉えられるようになると、スムーズかなと思います。
子どもの勉強については、年齢や成長によってさまざまなステージがあり、各ステージに適した声がけの方法がありますが、高校生を教えていも、わかれば楽しそうな顔をしたり、できれば嬉しそうな笑顔になったりします。そこを大事にしていきたいと、いつも思っています。
インタビュー第3回では、不登校の子の受験準備や、不登校の時期にぜひやっておきたいことなどをうかがいます。
(取材・文:佐藤華奈子/編集:マイナビ子育て編集部)
植木先生の著書『これだけで大丈夫! ずっと不登校でも1年で希望の高校に合格する方法』では、不登校から高校合格までの具体的な方法がわかりやすく解説されています。
具体的な学習の進め方や教科別の学習ポイントなど、詳しく知りたい方はぜひ手にとってみてください。
