
【医師監修】稽留流産したらつわりはなくなる? 流産した場合の悪阻の変化について
「稽留流産」は自覚症状のないことが多く、健診で病院に行ってはじめて発覚することが少なくありません。自覚症状がないということは、稽留流産になっても「つわり」は続くということなのでしょうか? ここでは、稽留流産が起こる理由とともに、つわりとの関係などを紹介します。
稽留流産したら、つわりはなくなる?
いったん妊娠を確認できたものの、残念ながら早い段階で赤ちゃんの成長が止まってしまうことを「流産」といいます[*1]。流産はその進行具合や子宮の状態などによっていくつかの呼び名があります。「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」も流産の状態をあらわす呼び名のひとつです。「成長の止まった赤ちゃんが子宮内にとどまる=稽留(けいりゅう)」してしまっている状態から、こう呼ばれています。出血や腹痛などの⾃覚症状がないことが多く、健診などの際に超⾳波検査で異常が発⾒され、診断されます。
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妊娠初期に起こる「つわり」。稽留流産をすると、それまであったつわりはなくなるのでしょうか。それともそのまま続くのでしょうか。
つわりが止まることもあれば続く可能性も


稽留流産によって、それまで感じていたつわりがなくなるのかどうかは、人それぞれなようです。逆に言えば、つわりの有無によって流産かどうかを判断することはできません。
・つわりの発生にはホルモンが関与している可能性
そもそも、つわりの原因は正確にはわかっていませんが、妊娠に伴うホルモン分泌の変化などによって起こるのではないかと考えられています。とくに、妊娠すると分泌されるようになる「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」というホルモンは、つわりの発症に深くかかわっているのではないかと推測されています。
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つわりは、個人差は大きいのですが、だいたい妊娠5~6週ごろに始まり、8~10週ごろにピークとなって、それ以降徐々に治まっていくことが多いと言われています。この症状の推移がhCGの分泌量の高まる時期とほぼ一致していること、hCGの分泌が過剰だとつわりの症状がひどくなる傾向にあることがその理由です[*2]。
このhCGは、胎盤にある「合胞体栄養膜細胞」から分泌され、妊娠初期には妊婦さんの卵巣に働きかけて、妊娠の維持に必要な女性ホルモンの分泌を促すなどの重要な役割を担っています。
・つわりに関わるホルモンが稽留流産後も分泌されることも
稽留流産になると、おなかの赤ちゃんの成長は止まってしまいます。それと同時に胎盤の働きがストップしてhCGが分泌されなくなることもあれば、胎盤の働きはある程度維持されたままでhCGが分泌され続けることもあります。そのため、稽留流産しているのにつわりが続く場合もあると考えられます。
稽留流産後、つわりが続くときの対処法
稽留流産と診断されたにもかかわらず、ひどいつわりが続いている場合は、自然排出を待たずに、早めに子宮内容除去術を行うことを担当医と話し合うのがよいかもしれません。つわりは子宮の内容物が排出されるまで続く可能性があります。
子宮内容除去手術と自然に排出されるのを待つ方法には、それぞれメリットとデメリットがあります。個々の状態によってもベストな方法は異なるので、医師に相談してみましょう。
つわりがつらいときは、通常のつわりと同様の対処を行いましょう。
・食べられるものが限られている人は、食べたいときに食べられる量を口にする
・脱水症状には注意して水分をこまめにとる
・環境を変えるなどして気分転換を図る
など、できる範囲で工夫をしましょう。ただし水も口にできないなど、日常生活に支障が生じるような場合は我慢せず、医師に相談してください。
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稽留流産と診断されたらどんな処置が必要になる?
稽留流産は超音波検査で赤ちゃんの成長に異常が見られた場合に診断されます。この異常とは、妊娠週数が進んでいるのに赤ちゃんの心拍(心臓の拍動)が確認できない場合や、予想される大きさに対して赤ちゃんが小さく、成長が止まっていることが疑われる場合です。
稽留流産と診断されたら、どのような対処が必要になるのでしょう。
「排出を待つ」「手術を行う」の2通りがある
稽留流産と診断された場合は、最終的には胎児と胎盤などの付属物を子宮内から完全に排出させる必要があります。それらをそのまま子宮の中にとどめておくと、感染症の原因になることもあるからです。
排出の方法は大きく2通りあります。ひとつは外来で経過を確認しながら自然に排出されるのを待つ方法、もうひとつは入院して子宮内容除去手術を行う方法です。どちらを選ぶかは、個々の状態を考慮して判断されます[*1]。
なお、どちらの方法を選択してもその後の妊娠率に影響を与えることはないといわれています 。
つわりが続いているのに……本当に稽留流産なの?
「もしかしたら診断が間違っているのでは? 本当は流産していないのでは?」という望みを抱いたり、そこからさらに「間違った診断をするなんて、あの医者はひどい!」といった怒りの感情を覚えたりすることも少なくありません。
たとえ初期であっても、妊娠がわかった時点で気持ちの上ではすでに芽生えていた母親の感覚。それが不可抗力とはいえ、ある日突然失われてしまったわけですから、その喪失感をなんとかしようとするあまり、現実を受け止め切れなかったり、周囲に攻撃的な感情を持ったりしてしまうことは決しておかしなことではありません 。むしろ、ごく自然なことといえるでしょう。
しかし、そうした悲しみや怒りの気持ちを抱き続けるのは、つらいことです。つらい気持ちは一人で抱えず、信頼のおける親しい人に話したり、カウンセラーの力を借りたりしながら少しずつ整理していきましょう。時間はかかるかもしれませんが、つらかった心が徐々に変わっていくはずです。

診断に納得できない場合には、手術を行わずに自然な経過を追っていくこともできます。
合理的な理由がなければ、納得できないまま手術を急いで行う必要はありません。自身の状況を医師によく聞いて理解し、対処方法についても納得したうえで処置を受けるようにしましょう。
(太田先生)
まとめ


妊娠中はさまざまな不安に苛まれるものです。
稽留流産を含めた妊娠初期の流産は、そのほとんどが思いがけない偶然の染色体異常によるもので、残念ながら予防法も治療法もありません。また自覚症状のないことが多いため、医師から突然に流産を告げられ、精神的に大きなダメージを受けることも少なくないでしょう。
しかし流産が起こるのは、誰のせいでもありません。受診して流産の診断を受けた場合も決して自分を責めず、まずは心と体を休めることに専念しましょう。
(文:山本尚恵/監修:太田寛先生)
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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