
『古事記』の「黄泉の国」は意外とスリリング!子どもがわくわくする話し方をして楽しんで!
親子で楽しみたい物語をご紹介している本連載「親子のためのものがたり」。今回は『古事記』の中から、イザナギとイザナミのお話として、「黄泉の国」を取り上げます。実は子どもが聞いても面白い物語なんですよ。子どもにわかりやすく伝えるためのポイントもあるので、参考にしてくださいね。

「黄泉の国」を子どもに聞かせよう!

古くに書かれた『古事記』は話が難しそうなイメージもあるかもしれませんが、そんなことはありません。意外にも親しみやすい物語として楽しむことができます。「黄泉の国」のお話は何となく知っている人も多いでしょう。物語の要点を押さえれば、子どもにも簡単に話して聞かせることができます。
「黄泉の国」のあらすじ
『古事記』に登場する神々の中でも、イザナギとイザナミは有名ですよね。この二人の神にまつわるお話の1つが「黄泉の国」。
男の神であるイザナギと女の神であるイザナミは夫婦であり、二人から多くの神が生まれたのですが、イザナミは火の神を生むときに負ったやけどのせいで死んでしまいます。「黄泉の国」のお話は、イザナミが死んだあとに続く物語です。
妻に会いに黄泉の国へ行くイザナギ
妻、イザナミを失い悲しんだイザナギは、イザナミに会いたいという思いがつのり、イザナミがいるという黄泉の国へ行くことを決意します。黄泉の国とは日本神話における死者の世界、いわゆる「あの世」のことです。
イザナギは、黄泉の国へと通じる黄泉比良坂(よもつひらさか)を訪れ、そのまま黄泉の国に入っていきました。イザナギがやってきたことを知り、イザナミは戸口まで出向きますが、なぜか扉を開けようとはしません。
イザナギは戸口に近づき、その扉の向こうにいるイザナミにその熱い思いを伝えます。「愛しい人よ。もう一度、力を合わせて国造りに励もう。帰ってきておくれ。」
しかし、イザナミは、すでに黄泉の国の物を食べてしまったため、元の国には帰ることができない体となっていました。「もっと早く迎えに来てくれたらよかったのに……。」
それでもせっかく迎えに来てくれたイザナギの思いを受けたイザナミは、「私もあなたと帰りたいです。黄泉の国の神に相談してみるので、少し待っていてください。」とイザナギに伝えます。そしてもう1つ、最後に「待っている間、私の姿をけっして見ないでくださいね。」と言い残し、イザナミはその場を離れました。
\ココがポイント/
✅イザナギはイザナミを追って死者の国へ行く
✅イザナミは「戻ってくるまで私の姿を見ないように」とイザナギに言う
イザナミの変わり果てた姿

そうしてイザナミを待っていたイザナギですが、いくら待ってもイザナミは戻ってきません。しびれを切らせたイザナギはついに、扉を開き中へ入っていきました。あたりが真っ暗のため、イザナギは髪に差していた櫛を1本抜いて火を灯し、奥へ進んでいきます。そうして目にしたのは、なんとウジ虫がたかっているイザナミの姿でした。
さすがのイザナギも、妻の恐ろしい姿を目の当たりにし、一目散に逃げ出します。するとイザナミは約束を破った夫に対して、「見ないでと言ったのに……! よくも私に恥をかかせましたね!」と言って怒り、黄泉の国の女たちに命じてあとを追わせました。
イザナギは身につけていた髪飾りや櫛を投げ捨てて時間をかせぎ、なんとか逃げます。髪飾りが落ちたところにはブドウの実が現れ、櫛の落ちたところにはタケノコが生えてきたので、追手はそちらに気をとられたのです。
しかし、それでもしつこく新たな追手が大挙して迫ってきます。そこでイザナギは十挙剣(とつかのつるぎ)をふりかざし、さらに逃げ続けました。
\ココがポイント/
✅イザナギは待てずにイザナミを追って中へ入ってしまう
✅死者であるイザナミはウジ虫にむしばまれていた
✅イザナギは恐ろしくなり黄泉の国を脱出しようと逃げる
黄泉の国からの脱出

イザナギはついに、黄泉の国とこの世との境界である黄泉平坂(よもつひらさか)までやって来ました。そして、そこに生えていた桃の木から実を3つ取って黄泉の国の軍勢に投げつけます。すると敵は逃げていきました。
しかしこれで終わりではありません。最後にイザナミ自身が追ってきました。それに気づいたイザナギは、千人がかりでやっと動かせるような大きな岩で、坂の入り口をふさぎました。
行く手をふさがれたイザナミは、「あなたがこんなことをするなら、この世の人間を一日で千人殺してやる!」と言い放ちます。するとイザナギの方は「それなら私は、一日に千五百人の人間を生もう」と言い返しました。
これによって人類は増え、繁栄することになったということです。
(おわり)
\ココがポイント/
✅最後にイザナギを追ってイザナミがやってくる
✅イザナギが黄泉の国の出入り口を岩でふさぎ、イザナミは黄泉の国にとどまる
子どもと「黄泉の国」を楽しむには?
このお話で外せないのは、イザナギがイザナミの言葉を守らず、その姿を見てしまうことでしょう。お子さんに話をする時には
・自分なら待ち切れずに覗いてしまうかどうか
・イザナミから逃げるイザナギをどう思うか
・自分の大好きな人が怖い姿に変わってしまっていても、会いたいと思うか
など、聞いてみてはいかがでしょうか。
また、死者の国という異世界に行くという点では冒険の要素があります。暗い黄泉の国をイザナギが進んでいく場面や、追手から何とか逃れる場面は、話し方のアレンジや工夫次第でスリリングにもできそうですね。
難しい単語は適宜、簡略にして、なるべく簡単な言葉でお話ししてあげましょう。
まとめ
『古事記』の中でも有名な「黄泉の国」のお話をご紹介しました。こうした、死者に会いに行くというお話は日本だけでなく世界にもあり、たとえば、ギリシャ神話には、オルフェウスの冥界下りというそっくりなお話があります。不思議な共通性ですね。また、タブーを犯すということでは、「鶴の恩返し」や「雪女」なども同系統といえるでしょう。禁じられると破りたくなってしまう人間の性が古来より人々の関心にあったのかもしれませんね。
(文:千羽智美)
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