中学受験に向け、今のうちに定着させておきたい常識 |低学年のための中学受験レッスン#21
内容が理解できているのに誤解している箇所がわかならい。そんな時原因が「常識でつまづいてしまった」ということがあります。そこで本記事では、ベテラン中学受験指導家・宮本毅先生が「中学受験に向けて定着させておきたい常識」について解説します。
子どもは案外「常識」が入っていない
上の例以外にも、子どもと話していて「常識が入っていないなぁ」と感じるシーンは、実は少なくありません。
【理科】たんぱく質の熱変性と不可逆反応
たとえば、ある生徒は「生卵をゆでて、ゆで卵にしたのち、冷蔵庫に入れて冷やすと、生卵に戻る」と本気で信じていました。
たんぱく質が熱変性によって元のかたちには戻らないことを「不可逆反応」と言います。でんぷんとだ液を反応させる「人体」という単元の学習では、この理解が欠かせないものとなります。
「ゆで卵を冷やすと生卵に戻る」と考えている生徒にとっては、「人体」の単元の理解が進まないといったことも起こり得てしまうのです。
【理科】昆虫の生態
虫についての知識も、よく欠けている常識のひとつ。
最近は、虫が嫌いな保護者の方が増えてしまったせいで、昆虫の生態について体験的に知っている生徒は少なくなりました。
私の塾では、昔は理科の公開授業でカブトムシの幼虫を配っていたのですが、今では「触れない」生徒が増えてしまったため、すっかりやらなくなりました。
昆虫の身体が「頭・胸・腹」に分かれていることは、昔の子ども達にとっては常識でしたが、今ではテストでも答えられない子が数多くいます。
昆虫の足はすべて胸についているとか、羽も胸についているといったことを、経験的に知らない子は、すべて「テキストで暗記」しなければなりません。
そのため、現代の子達は膨大な量の暗記をせねばならず、それが中学受験生や保護者の皆さんを精神的に追い込んでいるとも言えます。
【社会】都道府県の位置関係と名前
社会でも「常識」として知っておかねばならないことはたくさんあります。
たとえば都道府県の位置関係と名前くらいは、たとえ漢字で書けなくとも覚えておきたいところです。
都道府県になじみがないと、小学4年生になっていきなり「名前」も「場所」も「県庁所在地名」まで、しかも漢字で覚えなさいと言われることになります。これで、みな一気に地理が嫌いになってしまうわけです。
鉄道好きの子どもは地理が得意なことが多いです。
お勉強として頭に入っていなくとも、多くの地名を駅名や路線名としてすでに知っているので、得意になるのも当然のことです。
中学受験に役立つ「常識」は理科・社会だけではない
常識は理科・社会といった暗記科目のお勉強を助けてくれるだけではありません。
【算数】掛け算の順序と意味の感覚
「1個80円のリンゴを3個買うと代金はいくら?」
このような算数の問題を解くときに、お子さんはどのような式を立てるでしょう?
「80×3=240」?それとも「3×80=240」?
どっちも同じ答えになるんだからどっちでもいいじゃない、と思った方も多いと思いますが、算数的な考え方としては「80×3=240」が正しいのです。
なぜならば「80円のリンゴを買ったときの代金」は「80円の3倍」であって「3個の80倍」ではないからです。
「3×80=240」の意味するところは「3個の80倍は240個」です。このように書くと、代金を聞かれているのに答が個数になってしまうのはちょっとおかしいということが、わかっていただけるのではないでしょうか。
式を逆に書いていても、答えは正しくなります。しかし、掛け算の意味がわかっているほうが、算数という科目を深く理解できおり、得意科目にしやすいということは言えるでしょう。
「数感」あるいは「量感」ともいうべき感覚が身についているため、問題を見て、式を迷わずに立てることができるわけです。
こうした「算数的な常識」を早い段階で身につけていると、小4や小5で中学受験の算数の学習が本格化したときに、「割合」や「比」や「速さ」や「濃度」といった単元を理解するスピードが段違いです。
低学年のうちにこの感覚を身に着けておけば、中学受験の後半戦で楽ができることは間違いありません。
是非こうした「算数の常識」は、保護者の方もおろそかにしないでいただきたいです。
【算数】時間の単位換算
「3.25時間」は何時間何分?と問われて正しく答えが導き出せるお子さんはどのくらいいるでしょうか。
先日、私の教え子の6年生がこれを「3時間25分」と答えていて愕然としたのですが、受験直前期でもこうした「算数の常識」が身についていない生徒は案外少なくありません。
時間の単位は60進法なので、単純に「0.25時間」が「25分」とはならないことは大人ならば明らかですが、「算数の常識」がきちんと身についていない子にとっては、確かに少々わかりにくいかもしれません。
これを小学校高学年になってから身につけるのでは、正直遅すぎます。
何としても低学年のうちにマスターさせておきたいところですね。
「日本語」という常識が足りていないと読解問題に苦労する
まずは次の文章を読んでみてください。
現代社会においては、かつて見られたような厳しい社会規範による個人の抑圧は存在せず、多くの人が自由に生きる条件を手にしている。しかし、それにもかかわらず、人々は自己を抑制して周囲の人間に同調しているため、自由を実感することができないでいる。社会のルールや価値観からは解放されても、身近な人間関係の目に見えない縛りに、それと気づかないまま繋がれているからだ。(『「認められたい」の正体 承認不安の時代』山竹伸二著)
いかがですか。難しいですよねぇ。
これ、実際に私立中学の国語の入試問題でも出題されたものなのです。
「規範」「抑圧」「同調」「繋がれて」…たった数行の文章の中だけでもこんなにたくさんの「難しい言葉」が出てくるのです。問題文はさらに長大なので、一体いくつ難語が出てくるのでしょう。
【国語】絶対に必要な日本語力・語彙力
中学受験における国語の文章読解は、「教科書レベル」という制約がない(他の科目は教科書に掲載されている以上の内容を出題することには制約がある)ため、いくらでも難しくできるのです。「言葉を知らない? なら、仕方ないですね」というわけです。無慈悲で非情なように見えますが、これは入学してからその生徒が困らないようにするための配慮とも言えます。
「うちの中学ではこれくらいのレベルの書籍を読んで考察していただきます。レベルに達していない状態で入学しますと、授業について行けなくなります」というわけです。
これはいよいよ低学年で「日本語力」を鍛えておかないと、将来まずいことになりそうですね。
私立中学ではとにかくたくさん本を読ませます。「読書」というと一般的には「小説を読む」ということを思い浮かべますが、私立中学における「本を読む」ことは柳田邦男やレイチェル・カーソンや井伏鱒二や開高健なのです(ちょっと古い?笑)。
そうした本を中学生が読むためには、やはり相当の語彙力が必要であり、それを小学校時代に蓄積しておかねばなりません。
そのためにも、低学年のうちから「読書」習慣は身につけておきたいもの。ただし、いきなり背伸びする必要はありません。カッコつけの読書はむしろ子どもの読解力を阻害します。現時点で身の丈に合った読書をおススメします。
まとめ
中学受験の学習で困らないためにも、お子さんにはぜひとも様々な「常識力」を身につけさせてくださいね。
とはいっても何からやれば、という保護者の方も多いと思いますので、具体的な例をいくつかあげましたが、実際は内容なんてなんでもいいんです。
「太陽って東から昇って西に沈むよね」
「公務員っていうのはみんなの税金からお給料が支払われてる人たちのことなんだよ」
「時速40㎞で3時間走ったら120㎞先まで行けるね」
「人に会うと被害に遭うだと使う漢字が違うんだよね」などなど。
お子さんとたくさん会話をしてください。
たとえば「今日小学校であったこと」だけでなく、社会の動きや世界の成り立ちに興味をもち、積極的にいろいろなこと話題にしてください。
思いついたときがお子さんに伝えるときです。受験勉強として机に向かう前にそうやって積み重ねたものは、必ず近い将来、お子さんを支えてくれますよ。
※中学受験ナビの連載『低学年のための中学受験レッスン』の記事を、マイナビ子育て編集部が再編集のうえで掲載しています。元の記事はコチラ。