「どうせ自分なんて」と思う子に知ってほしい、“悲しみ・怒り・不安”の感情の大切さ|加藤隆行さんインタビュー<前編>
私たちは我が子に、心穏やかにいつも笑顔でいてほしいと願い、怒りなどの負の感情は否定してしまいがちです。一方、「ぼくになんかできっこない」「どうせわたしなんて……」子どもからそんな自己否定の言葉がこぼれる時があります。自己肯定感の重要性が注目される昨今、実際にはどうやって自分を受け入れられるようになるのでしょうか。
今回は、『「どうせ自分なんて」と思う君に、知っておいてほしいこと』の著者で、自己肯定感の育て方に詳しい、心理カウンセラーの加藤隆行さんに「ネガティブな感情」について、お話をうかがいました。
子どものために そしてかつて子どもだった大人のために
ぼくは、ずっと「自分のことをもっと好きになれたらいいのに」「みんなのように自信が持てたらいいのに」という気持ちを持っていました。
自分が自分をきらいでいるのは、苦しいものです。
もしかするとみなさんも、同じような気持ちを持っているのかもしれませんね。
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『「どうせ自分なんて」と思う君に、知っておいてほしいこと』より
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――『「どうせ自分なんて」と思う君に、知っておいてほしいこと』は自分を好きになれない子どもに向けて書かれたとのこと。加藤さんは日頃から、大人の自己肯定感を育てるための活動をされていますが、今回はなぜ子どもに向けた本を書かれたのでしょうか?
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加藤隆行さん(以下、加藤) 僕が普段カウンセリングを行う自己否定が強く、しんどい思いを抱える大人の人たちは、子どものころに、「“自分は自分のままでいい”と思えなかった人」ばかりです。育った環境や家庭環境など、いろんなことが原因になって、子どものころに自己肯定感を育てることができなかったのです。そして、大人になった今、自己肯定感を育む練習をしています。
そんな方々を多く見てきて、子どものうちから「自分を受け入れ、自己肯定感を育てること」を知ってほしいと思ったのです。
悲しみや怒り、不安などのネガティブな感情は持っていいもの?
イヤな気持ちは、あなたを守ってくれる「防衛隊」のようなものです。
いつでもどこでも、大切なあなたを守もろうとしてくれます。
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『「どうせ自分なんて」と思う君に、知っておいてほしいこと』より
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――書籍の中で、ネガティブな感情について「防衛隊」という言葉で表されていますが、どのような意図があったのでしょうか。
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加藤 「防衛隊」という言葉を使ったのは、すべてのネガティブな感情は自分を守るためにある、大切な「自分の味方」だと、子どもたちに伝えるためです。
日本では自分を律したり、「弱いところを見せずに強くあれ」という考え方が強く、子どもたちは「悲しみや怒り、不安などのネガティブな感情は、悪いものだ」と、教えられていることが少なくありません。特に“怒り”は相手を攻撃することになるから良くない、と大人は考えがちです。
でもそれは、教育や文化による誤解です。
「怒りは悪いものだ」と思ったり、「不安になることは弱いことだ」と思っていると、「自分の中に悪いものがある」と考え、それは、大きな自己否定につながってしまいます。
感情は、自分の命を生かそうとするエネルギー
加藤 自分が安心できる状態であれば、ポジティブな感情が出てきますね。逆に、自分が困ったり危機的状況に陥ったりすると、不安や怒りの感情が湧いてきます。つまり、ネガティブな感情とは「自分が危険な状態の時に出てきて、自分の命を守ろうとするもの」なのです。
方向が違うだけで、ネガティブな感情もポジティブな感情も、自分の命を生かそうとするエネルギーだということは、誰も教えてくれません。
カウンセリング中に「怒っていいんですよ」って伝えると、とてもびっくりされることがあります。子どもの頃からずっと、ネガティブな感情は悪いことだと教育されているから、自分の心の中でもそう考えるようになっているんですね。
でも、そういう“自分の中のネガティブな感情”を認め、受け入れ、あっていいんだと思うことは、自己肯定感を育てる時にものすごく大事なんです。
自分を客観視するため、「感覚」に意識を向けてみよう
加藤 ネガティブな感情も大切だと言っても、すぐに受け入れることはなかなか難しいかもしれません。そんな時は、ネガティブな感情が起こった時の「感覚」に、意識を向けてみてください。
「腹が立ったら頭に血が上る」「不安になると心臓がドキドキする」というように、感情が起こると身体感覚も変わります。感情を「いいこと/悪いこと」と頭で判断するのはいったんやめて、その身体感覚に意識を向けてもらう。そうすると、感情を否定することなく、「今自分は怒ってるな」「不安なんだな」と客観的に見れるようになってきます。
客観的に見られるようになると、少しクールダウンして、感情の高ぶりも落ち着くようになります。「怒っちゃう時は怒っちゃうよね」「不安な時は不安だよね」と自分自身に共感できるようになったら、さらにクールダウンできます。
自己否定をやめるには、いま自己否定したと気づくのが大事
だれかと比べたり、何か失敗したりしたときに、「自分ってダメだな」「なんで自分はできないんだろう」と思ってしまうことは、だれにだってあります。でも、いつもそう思っているとしたら、それは少しやりすぎです。
(中略)
以前はぼくの中にも、ひどい言葉をかけてくる自分がいました。もし、あなたの中にもそんな自分がいることに気がついたら、まずは自分にひどいことを言うのはやめよう」と決めてみてほしいのです。
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『「どうせ自分なんて」と思う君に、知っておいてほしいこと』より
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――「『自分にひどいことを言うのはやめよう』と決めてみてほしい」という一節がありました。「なんとなくの自己否定」が癖のように習慣化している子どもや大人は、どうやって決まりを守っていけばいいのでしょうか?
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加藤 自己否定は長年続けてきたものですから、当然まだしてしまうことはあります。癖になっていると、やめようと思ってもなかなかやめられないものです。そして多くの人は「自分にひどいこと言うのはやめようって決めたのに……できなかった自分はダメだ」とまた自分を責めて、さらに自己否定を深めてしまうというバッドループに陥ってしまいます。
そんな悪循環に陥らないために、まずは「自分にひどいこと言っちゃう時もあるよね」とその状態をそのまま肯定してみましょう。その上で、自己否定している自分に気がついたら「あ、そういえば、やめるんだった」と自己否定を手放し、そこからまた淡々と自分を肯定することを始めてください。
自己否定しないこと以上に重要なのが、無意識に自己否定している状態から抜け出せるように「自分が自分自身にひどいことを言ってしまっているんだ」と “気づき”、そんな自分を受け入れていくことなのです。
(解説:加藤隆行、聞き手・構成:大崎典子)
書籍『「どうせ自分なんて」と思う君に、知っておいてほしいこと 』
「友だちと比べて○○ができない」
「先生に怒られてばかり」
「ダメな自分がイヤになる」
「どうせ私なんて……」
そんなふうに思う君に読んでほしい。
今回お話をうかがった加藤隆行さんが執筆し、精神科医・名越康文さんが監修した、自分を好きになれない小学生のための本です。子どもが自分自身で自己肯定感を育んでいくためのヒントが詰まっています。
●失敗したときは「よくがんばったね」
●“ダメなところ”は“いいところ”でもある!?
●ガマンするより「助けて」と言えるほうが大事
●嫌いな友だちは嫌いなままでいい!?
自信をなくしている子どもに寄り添う優しい文章は、子どもの心に小さな自信が芽生えるきっかけを与えてくれます。
自己肯定感の下がりやすい子どもたちへ、そして、親として子どもへの接し方の参考にも是非おすすめの1冊です!