字が汚い、雑……中学受験のためにはどこまできちんと書かせるべき?|低学年のための中学受験レッスン#39
うちの子、字が汚い!多くの保護者が、一度は悩んだことがあるのこの問題。答えが合っていても、テストで×にされるんじゃ……。親として心配になりますよね。過去にのべ7万人以上の小学生のノートを見てきた「アテナ進学塾」宮本毅先生に、中学受験を目指すなら、どこまでの字がOKでどこからがアウトなのかを徹底解説してもらいます。
記述問題では案外丁寧に読みとってくれる
あくまで中学受験を目標として考える場合、入試ではじかれない字を目指せばよいわけです。
ですから、硬筆コンクールに出品するような字をお子さんに書かせる必要はありません。
我が子の字が汚いからと、書道教室や硬筆教室に通わせる親御さんがいらっしゃいますが、「中学受験のため」という意味では、そこまでする必要はないように感じます。
では、一体どの程度の字の汚さなら許されるのでしょう。
私立中学の入試説明会に行くと、「子どもの字はどの程度読んでいただけるのでしょう?」というご質問が出ることがあります。
これに対して、多くの学校では「余程読めない字でない限りはきちんと読ませていただきます。しかし続き文字ではなくて一文字ずつ丁寧に書かせるようにしてください」などと回答することが多いようです。
すなわち、ある程度は頑張って読んでもらえるということでしょう。
「読める字」かどうかが、一つの判断基準となると思われます。
わが子の字が「読める」かどうか判断するために一番手っ取り早いのは、保護者の以外の大人に見てもらうことです。
親族以外の第三者が見て読めればギリセーフ。読めなければアウトと判断してよいでしょう。
私の塾の保護者からもときどきご相談をお受けするのですが、「うちの子、字が汚くて」とおっしゃる方のほとんどには「充分読めますので大丈夫です」とお伝えしています。
逆に、我が子の字に高すぎる理想を抱くのも考えものですよ。
子どもは親から認められることで自己肯定感を高めていきますので、「あんたは字が汚い」とネガティブな言葉をかけるよりも、「あなたの字は個性的ね」といって伸ばしてあげる方が、子どもは素直に伸びていくと思います。
国語の漢字や社会ではバツになる危険性もある
そうは言っても、国語の漢字書き取り問題や社会の漢字指定の問題では、ごちゃごちゃっと書いてあるものはバツになる可能性が高いとお考え下さい。
特に、漢字の書き取り問題では、「トメ・ハネ・ハライ」をかなり厳密に採点されるので、注意が必要です。
「トメ・ハネ・ハライ」をいい加減に書いている子どもに対し、親が厳しく採点すると、子どもは、自分の字の汚さを棚に上げて、「合ってるじゃん!」と食ってかかってきたりします。
しかし、ここは踏ん張りどころとお考えください。何回か折れずに厳しく採点していると、子どもの方でも「これは抵抗しても無駄だ」と思って改善していくようになります。
自分を律してルールを守るためには、精神面がある程度発達している必要があります。これは幼い子どもには難しいことですが、中学受験を目指す場合は、まさにその精神の発達こそが重要になってきます。
「トメ・ハネ・ハライ」を単に理解するだけでなく、しっかりと書くことは、ルールを守る実践にもなります。そのためには、大人も「ま、いっか」だなんて適当に済ませず、毅然とした姿勢をとる必要があるのです。
それにそもそも、漢字を覚えるときには、書き順やトメ・ハネを意識して一画一画きちんと書いた方が頭に入りやすいものです。一画一画を丁寧に覚えさせるにはやはり、「かきかた帳」が有効でしょう。
記事の最初のほうで申しあげたことと矛盾しますが、字をぐちゃぐちゃと乱雑に書く子には、書道教室なども選択肢に挙げてもよいかもしれません。
発達性の読み書き障がいについては注意が必要なことも
字が斜めに歪んでいたり、マス目におさまらず必要以上に大きな字を書いていたりする場合には、発達性の読み書き障がい(ディスクレシア)の可能性もないとはいえません。
厚生労働省のe-ヘルスネットによれば、発達性ディスレクシアの発生頻度はアルファベット語圏で3~12%[*1]。日本では2012年に小中学校教師を対象とした全国調査[*2]が行われ、学習面に著しい困難を示す児童生徒は4.5%存在すると示されています。
発達性の読み書き障がいの場合、残念ながら「もっと字をきれいに書きなさい」とか「字を丁寧に書きなさい」といった声掛けは無意味です。そもそも、その子には文字が歪んだり重なって見えたりしていることも。
ですから、精神論でゴリ押しされても、本人には改善のしようがありません。いっぽう、学齢期の初期に気づいて必要な対応をおこなうことで、症状が緩和されることもわかっているようです。
以前私の塾でも、発達性識字障がいを抱えるというお子さんをお預かりしたことがありました。その生徒には、線をまっすぐ書く特殊な訓練を受けさせたり、板書用ノートにはあらかじめお母様がガイドラインを引いておいたりするなど、書字支援が必要でした。
しかし、そうした訓練や支援の結果、最終的にはトップ校への合格を果たしました。いまでも読み書きには困難な部分もあるようですが、元気に学校生活を送っています。
私は、数は少なくともこうした事例があるという事実を、保護者の方や教育者がもっと知るべきだと考えています。そして「障がい」という呼び方ではなく、子どものひとつの特性として捉えるべきだと思います。
大人が正しい知識を持ち、正しい対処法を知って、そうした特性をもつ子に正しく対応することで、軽減される生きづらさが確かにあるのですから。
とはいえ基本は「読めればOK」
話を戻しますと、中学受験を目的として見る場合、基本的には、子どもの字は「読めればOK」くらいに思っておけばよいでしょう。
字のきれいさにばかり気を取られてお子さんを叱ってばかりいると、子どもが文章を書きたがらなくなってしまいます。
すると将来、記述問題を白紙にして出す生徒になってしまうことにもつながりかねません。
ある程度はおおらかにとらえていただき、文字の訓練は国語の学習とは別に設定するのがよいかと思います。
頑張ってくださいね。
[*1]厚生労働省e-ヘルスネット「学習障害(限局性学習症)」
[*2] 文部科学省「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」