【産婦人科医監修】臨月の吐き気は後期つわり?出産前の吐き気と陣痛の関係
臨月を含め、妊娠後期に吐き気が再発して、「つわりが戻ってきた!?」と思う妊婦さんは少なくありません。そのため「後期つわり」という言葉もあり、妊婦さんの間で知られています。その正体はなんなのでしょうか? 原因とケア方法を紹介します。
臨月の吐き気、後期つわりの原因は?
妊婦さんの間では「後期つわり」という通称が知られているので、ここでもそう呼びますが、医学的にはそのような表現は使いません。そして妊娠後期や臨月に起こる吐き気や嘔吐の背景に、まれに病気が隠れていることもあるので、“つわり”だから問題ない、などと考えるのはやめましょう。
臨月の吐き気が起こるしくみ
多くの場合、臨月の吐き気は妊娠と関係があり、病的な症状ではなく、生理的な症状です。臨月における吐き気の主な原因は、次の3つです。
・大きくなったお腹が胃を圧迫する
・ホルモン分泌の影響で食道と胃の境目にある「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)」という筋肉がゆるんでいる
・お腹が大きくなったことで、自然な寝返り運動が妨げられるなどして眠りが浅くなり、寝不足やストレスが強くなる
ただし、この3つのうち「下部食道括約筋」のゆるみが次に紹介する「見逃したくない吐き気を伴う病気」のひとつと関係していることがあります。
吐き気は「もうすぐ陣痛がくる」サイン?
臨月は様々な体調変化が現れますが、それらについて「もしかしたら出産が近い証拠かも」「これって陣痛の前触れ?」ときになる人も多いようです。では、臨月の吐き気についてはどうなのでしょうか。
陣痛が始まると吐き気をもよおす人も
妊娠初期に限らず、ホルモンの関係や大きくなる子宮の影響で、妊娠中は気持ち悪さを感じやすくなる人が少なくありません。特に妊娠後期にかけては赤ちゃんもぐんぐん育って、圧迫感から食欲不振や吐き気に悩む妊婦さんもいます。
その後、出産間近となり赤ちゃんの位置が下がってくると、胃の圧迫感から解放されて食欲が戻ってくることが多いです。
一方、陣痛が始まると吐き気を感じる妊婦さんもいます。
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陣痛の前兆について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
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後期つわりと間違えがちな「臨月の吐き気を伴う病気」
逆流性食道炎|胃液の逆流で吐き気など不快な症状が
先に紹介した「下部食道括約筋」のゆるみは、妊娠時に増えるプロゲステロン(黄体ホルモン)によって起こる症状なので、そのこと自体は病的な変化ではないのですが、「下部食道括約筋」がゆるんだことによって、胃酸を含む胃液が食道へ逆流する病気「逆流性食道炎」が起こることがあります。「逆流性食道炎」では吐き気のほかに、胸焼けや喉焼け、呑酸(どんさん:口や喉まで酸っぱい液がこみあげる感じ)が多くみられます。
妊娠高血圧症候群|血圧が高い人は要注意
血圧が高い場合、「妊娠高血圧症候群」のひとつの症状としてまれに吐き気や嘔吐が生じます。
「妊娠高血圧症候群」には、妊娠中に血圧が上がる「妊娠高血圧症」と、高血圧とタンパク尿、または腎臓などの機能障害や赤ちゃんの発育不良などが起こる「妊娠高血圧腎症」などがあります。
重症化した際には、けいれん発作や脳出血の他、まれに肝機能の障害と血液の異常を伴う病気「HELLP(ヘルプ)症候群」を起こすことがあります。HELLP症候群の場合、吐き気とともに、胃(お腹の上部)やみぞおちの痛み、嘔吐などの症状が出ます。
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妊娠高血圧症候群について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
関連記事 ▶︎妊娠高血圧症候群を予防!妊婦が血圧を下げる方法とは
その他|吐き気以外にも症状があれば受診を
吐き気とともに他の症状(発熱や腹部やみぞおちの痛み、頭痛など)があるときは、虫垂炎や脳血管障害(脳梗塞や脳出血)、髄膜炎(髄膜炎菌という細菌による感染症)などさまざまな病気の可能性も否定はできません。
こうした病気は、自己診断はできないので、次項を参考にして適切な医療機関で診察を受けましょう。
臨月に吐き気を感じた場合の対応
妊婦健診で、妊娠高血圧症候群など「妊娠合併症」をチェックする検査を受け、主治医と十分なコミュニケーションをとることがいちばんの予防法です。
臨月に入っても、定期的な血圧測定も続けましょう。
そして吐き気だけではなく、ほかにも生活に支障をきたす不快な症状があるときは以下を参考に受診して、原因を確かめてください。
①吐き気に「発熱や頭痛」を伴うとき
かかりつけ産科に電話をして、主治医に症状を伝え、どのような対応をすべきか指示を受けましょう。発熱の際は、産科より先に内科を受診するのが賢明な場合があります。
②吐き気に「かつてないほどの激しい頭痛」を伴うとき
「くも膜下出血」など、早急に脳神経外科での診断、治療が必要な脳血管障害の可能性があります。躊躇せずにすぐ病院を受診しましょう。
③吐き気に「腹痛(みぞおち痛・胃痛)」を伴うとき
まずは産科を受診しましょう。なお、妊婦さんの虫垂炎は痛むポイントが一般の人とは違い、位置がズレていて判断が難しいことがあります。
④吐き気に「胸焼けや呑酸」を伴うとき
「逆流性食道炎」の可能性が高いので、産科か、妊娠している旨を告げて消化器内科・胃腸科を受診しましょう。
臨月の吐き気・後期つわりを防ぐポイント
臨月に起こりやすい吐き気に関して、食べるものと食べ方に気をつけて、吐き気を軽減する工夫をご紹介します。手軽にできることから試してみましょう。
1. 胃酸過多にはご用心
「逆流性食道炎」でなくても、胃酸が増えると吐き気が出やすくなります。胃酸を増やす甘いもの、脂っこいものを食べすぎないようにします。
また、炭酸飲料は逆流を起こしやすいので、吐き気の症状があるときはやめておきましょう。
こんな食べ方はNG
「お腹いっぱい!」となるまで食べると、胃が膨れた分、圧迫感が強く、胃酸の分泌も増えます。1回で食べる量は腹7分・腹8分に抑え、満足できないなら、回数を増やす「分割食」スタイルにしてみましょう。
やり方としては、「1日3回×1人前」を、「1日4または5回×半人前〜0.7人前程度(控えめ)」と1回の食事量を減らして回数を多くします。分割食は、食欲がなく食べられないときの食事量確保にも有効な食べ方です。
ゆっくり、よく噛んで食事をし、なるべく「上の子の面倒を見ながら」「スマホを見ながら」「テレビを見ながら」といった“ながら食べ”をやめて、食事に集中することを心がけてください。
2. 寝不足を解消する
睡眠やその他のストレスが自律神経に作用し、消化器の不調などをまねくことは妊娠していない人にも多くみられる症状です。
自律神経のバランスが乱れるのは、ストレスが脳を疲労させるために起こるもので、脳の研究では、脳のいちばんの疲労回復策は睡眠と分かっています。つまり寝不足は誰にとっても大変重いストレスになるのです。
臨月には寝返りさえも大変で、良質な眠りを得るにも工夫が必要かもしれません。赤ちゃんとママ、2人にとって大切な健康のために、なるべくよく眠れる環境を整えましょう。
手軽にできる方法としては、光と室温・湿度の調整です。
①夕方以降は照明をコントロール
夕方以降、戸外が暗くなるのに合わせて室内の照明も暖色系に変え、食後は明るさを一段落とすと、自然な眠気をもよおしやすいとされています。間接照明などを利用して、灯りの調整をしてみましょう。
②睡眠前はブルーライトから離れてリラックス
その後は覚醒刺激が強いブルーライトを発するテレビやスマホから離れ、家族としゃべる、ペットと遊ぶ、趣味やリクリエーションを楽しむ、スキンケア・ボディケアの時間に当てるなど、暖色系の照明の下でのんびりすると、ストレス緩和とリフレッシュになります。
③室温を少し低めにして快適に
そして一般的に眠りに適した温度は、夏:25〜28℃、冬:15〜18℃とされます。とくに夏に室温が29℃以上あると、体の深部の温度(深部体温)が下がりにくく、寝つきを妨げます。
快眠湿度は通年40〜60%なので、寝室は、夏は除湿、冬は加湿をしましょう。
まとめ
臨月になったら、つらかったつわりがまたぶり返してしまった! 吐き気のつらい症状にショックを受ける妊婦さんが少なくないかもしれません。症状が吐き気だけの場合は、多くは生理的なものなので心配しすぎず、食事やストレスケアであと少しの妊娠期間をなるべく快適に過ごしましょう。
(文・構成:下平貴子/日本医療企画、監修:松峯美貴先生)
※画像はイメージです
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます