【医師監修】妊娠中に咳が止まらない原因は?胎児への影響と対処法
咳はありふれた症状の1つ。ふだんなら特に気にとめないという人も多いのでは? でも、妊娠中となると話は別です。ママ本人の病気も心配ですし、咳が出ることでお腹の赤ちゃんに負担がかからないかという心配も。流産や早産への影響もあるの? そんな疑問にお答えします。
妊娠中に咳が出た。妊娠と関係あるの?
「妊娠したら咳が出やすくなった」という人、実は結構いるようです 。そこで最初に妊娠と咳の関係をまとめておきましょう。
妊娠した時に出る咳には、「妊娠したことで新たに起きてくるケース」と、「妊娠前から咳が出やすい状態だったのが、妊娠によってより症状が顕著になるケース」、そして「妊娠とは関係なくたまたま妊娠した時期に重なって起きるケース」があります。
妊娠の経過によって現れる場合もある咳
・つわりの影響
妊娠初期のつわりで吐き気を生じることはよくあります。その時、吐き気とともに胃酸が喉の方まで逆流してくるために咳き込むことがあります。 また、つわりでにおいに敏感になることがあり ますが、においの刺激のために咳が引き起こされることも。こうした つわりが原因の咳は、辛いつわりの時期が過ぎれば落ち着きます。
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つわりの症状については、詳しくは以下の記事で解説しています。
▶︎つわりの症状、どんなふうに始まった?
・逆流性食道炎
とくに妊娠中期以降などには、大きくなったお腹に胃が圧迫されて胃酸が逆流し、逆流性食道炎(胃食道逆流症)になりやすくなります。逆流性食道炎の症状として咳が現れることがあります。
逆流性食道炎は胃酸分泌を抑える薬で治療可能です。逆流性食道炎が治まれば咳もでなくなります。
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逆流性食道炎については、詳しくは以下の記事で解説しています。
▶︎逆流性食道炎とは? 妊娠中のつわりとの違いや症状・対策など
・水分不足
妊娠が進むにつれて、羊水の量や赤ちゃんに栄養などを届けるために必要な妊婦さんの血液量が増え、普段より多くの水分を必要とするようになります。また、つわりにより吐いてしまえば、その分、水分は失われます。そのため、妊婦さんは非妊娠時同様の水分摂取量では体内の水分が不足がちになり、喉が乾燥することがあります。その結果、咳が出やすくなることもあるでしょう。
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妊娠中の水分摂取については、詳しくは以下の記事で解説しています。
▶︎妊娠中に必要とされる水分の量 妊婦はどうして喉が乾くの?
妊娠前からの病気が妊娠によって重くなって起きる咳
・妊娠による喘息の症状の変化
妊娠とともに咳の症状が変化することがある病気として喘息が挙げられます。米国では妊婦の3.7~8.4%が喘息を持っているというデータも あります[*1]。
喘息の女性が妊娠すると、症状が軽くなる場合と悪化する場合、および変わらない場合があり 、妊娠する前の喘息のコントロール状態がよくなかった場合には、妊娠によって悪化することが多い傾向が あります。
・妊娠中の喘息の治療
妊娠中の喘息の管理は妊娠していない時と何ら変わりありません。喘息の治療薬はいずれも妊娠中に使用しても安全と考えられています 。むしろ、妊娠しているとわかった時に、妊婦さんが「妊娠中の薬はダメ」と思い、自己判断で使用を中止してしまうことのほうが問題です。お母さんが喘息をうまくコントロールできないと、お腹の赤ちゃんが低酸素状態になってしまうからです。
なお、喘息治療の原則であり、妊娠中の注意事項として、「パートナーを含めての禁煙が大切」であることは言うまでもありません。
・喘息による影響
妊娠中に強い喘息発作が起きるとお腹の赤ちゃんが酸素不足になり、悪影響が及ぶ懸念があります。実際、喘息のコントロールが不十分な場合、周産期死亡率(妊娠22週以降の死産と生後1週未満の新生児死亡をあわせたもの)の増加や妊娠高血圧症、早産、低出生体重児といった妊娠合併症のリスクが増加するとされています。
繰り返しになりますが、喘息治療薬は妊娠中でも安全に使用できることがわかっている ので、妊娠中も医師の指示通りに薬による治療を行い、しっかり病気をコントロールしましょう。
その他の原因で妊娠中に起きる咳
特に妊娠中は、感染症にかかりやすい傾向があるとされており、また、重症化リスクも高い場合があります。感染症の中には、咳の症状が現れるものがあります。
・咳が主症状として現れる病気
咳が主症状の感染症には、風邪、マイコプラズマ肺炎、百日咳、結核などがあります。
とくに「結核」には少し注意が必要かもしれません。昔の日本で流行していた病気のように感じるかもしれませんが、実は現在でも先進国の中では日本における結核の罹患率は高く、2018年では人口10万人に対する新規患者数(10万対罹患率)は12.3人で、米国(2.7)の5倍近くに上ったとされています[*2]。
2週間以上、たんのからむ咳や微熱が続いているようであれば、結核が疑われます。できるだけ早めに呼吸器内科を受診すると良いでしょう。産婦人科から紹介してもらうこともできます。
なお、感染症以外には、ペットなどに対するアレルギーでも咳(咳喘息)が出ることがあります。
関連記事 ▶︎妊娠中はくしゃみが出る⁉腹痛・尿もれ、赤ちゃんへの影響は?
咳が止まらないことによる影響はあるの?
ここまでは妊娠中の咳の原因となる病気や状態と、その対処・治療法を解説してきました。ここからは、もう1つの心配のタネである「妊娠中、咳をすること自体が問題にならないか?」という点について考えてみましょう。
咳で体力を消耗する
「ゴホン」と1回咳をすると、2kcalを消費すると言われています[*4]。 仮に咳が止まらず1日100回咳をしたとすると、それだけで200kcal。平均的な成人女性の1日の摂取エネルギー量の1割近くを咳で消費してしまう ことになります。咳が長引けば当然、体力を消耗し、治る病気も治りにくくなってしまいます。
妊娠・出産にはふだんよりもエネルギーを使います。妊娠継続に必要な体力を養うためにも、咳にきちんと対応しましょう。
咳とともに尿漏れが起きることも
咳の原因が妊娠に伴う腹圧の上昇による場合は、咳と同時に尿漏れが起きてしまうこともあります。その場合は尿漏れパッドなどを使いましょう。
くれぐれも尿漏れが心配だからといって、 水分摂取量を減らさないようにしてください。脱水状態になるとただでさえ血が固まりやすくなっている妊婦さんでは危険な状態を招きかねませんし、 膀胱炎を予防するためにも水分を十分摂ることは大切です。また 、水分不足が原因でのどや口が乾燥し、そのためにかえって咳が長引くという悪循環を引き起こすことも考えられます。
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妊婦の尿漏れ対策については、詳しくは以下の記事で解説しています。
▶︎骨盤底筋を鍛えて尿もれを予防「ケーゲル体操」
赤ちゃんは大丈夫?
咳をする時にかかる腹圧で、流産や早産になるのではないかと影響を心配する妊婦さんがいます。しかし赤ちゃんは子宮と羊水で守られているので、大きな影響は受けないと考えられます。 何よりも咳の原因を明らかにして、きちんと対処・治療することが大切です。
その他、咳によってお腹が張りやすくなったり、夜間咳が出ることで、睡眠不足になることも。通常の風邪ならば内服薬は必ずしも必要ではありませんが、こういった症状が辛い場合には受診して、症状を緩和する薬を処方してもらうようにするのが良いでしょう。
妊娠中の咳に対する咳止めの正しい対処法
妊娠中、咳に悩まされたら、どのように対処すれば良いのでしょうか。
早めに医師に相談を
症状として咳が現れる病気は数多くあり、自己判断は禁物。他の症状などもあわせて総合的に診断し治療法を決める必要があるので、医療機関を受診して医師にしっかり診てもらうのが一番です。受診の際には妊娠中であることを必ず伝えてください。
自己判断では薬を飲まない
妊娠中(特に妊娠初期の器官形成期)に不用意に薬を飲むと、赤ちゃんに影響を及ぼすことがあります。それを防ぐためにも、妊娠中は自己判断で薬を飲むことは控え、早めに医師に相談するようにしましょう。
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妊娠中の服薬については、詳しくは以下の記事で解説しています。
▶︎妊娠中の服薬の基本薬は絶対NG?
咳のセルフケア
喘息や 乾燥による咳や喉の気になる症状には、飴を舐めたり、こまめに水分を補給したり、室内を加湿したりして、喉に潤いを与えましょう。マスクを試すのもよいでしょう。
まとめ
咳の原因は非常に幅広いものです。それほど問題ないこともあれば、治療が必要な病気の症状である可能性も。いずれにしても、お腹に赤ちゃんのいる妊娠中はとくに、症状が長引く場合や辛い場合は無理せず医師に診てもらうことが肝心です。適切に対処・治療したうえで、安心して出産を迎えてください。
(文:久保秀実/監修:直林奈月先生)
※画像はイメージです
[*1]Kwon HL, Belanger K, Bracken MB: Asthma prevalence among pregnant and childbearing-aged women in the United States: estimates from national health surveys, Ann Epidemiol. 2003 May;13(5):317-24.
[*2]公益財団法人 結核予防会 結核研究所 入国前結核健診に関するセミナー「世界の結核、日本の結核」
[*3]日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ6/せきとたん」
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます