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2020年12月22日 19:01 更新

【弁護士監修】妊娠中でも離婚はできる? 知っておくべき法律とお金のハナシ。

妊娠中でもやむをえない事情で離婚を考えることもあるでしょう。妊娠中に離婚する場合のメリットとデメリット、生まれてくる赤ちゃんの戸籍、親権、養育費がどうなるのかなど、数多くの女性の離婚相談に応えてきた、弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の代表弁護士、中里妃沙子先生に、法律、制度、お金について教えてもらいました。

妊娠中ですが離婚すべき? 法律事務所にくる相談の事例いろいろ

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夫の浮気が発覚……! こんな場合でも、妊娠中だからと離婚を諦める必要はありませんし、離婚を急ぐのも考えもの。冷静に証拠は押さえつつ、あなたとおなかの赤ちゃんにとって一番いい方法を考えましょう。

妊娠中であることを理由に法的に離婚が制限されることはありません。夫からの暴力など、できるだけ早く離婚したほうがいい状況では、出産を待たずに離婚に向けて行動するべきケースもあります。

一方、子どもが生まれる前の方が離婚しやすいといいきることもできません。本当に離婚する必要があるのか、時間をかけて考えなおしたほうがよいケースもあります。

つらいことですが、妊娠中に、浮気をした夫からいきなり離婚を求められることもあります。その場合、浮気の証拠をがっちり押さえたうえで、離婚に対してはいったん「NO」というべき。将来的に離婚するにしても、その前に、あなたと生まれてくる子どもが当然得るべき権利を手に入れるための準備期間が必要だからです。

実際にあった法律相談の事例を見ながら、離婚すべきかどうかを考えてみましょう。

DV、暴力から逃げだしてスピード離婚が成立!

由香里さん(仮名、28歳)は妊娠5ヶ月。つわりがひどく家事を満足にできなくなったことをきっかけに、夫の暴言がひどくなりました。体調がすぐれないことを話しても鼻で笑われ、やっとの思いで食事を用意しても食べてくれません。

先日は掃除が行き届いていないと掃除機を投げつけられ、命の危険を感じた由香里さん。離婚しようと、法律相談に訪れました。

由香里さんの夫は典型的なモラハラ夫。さらに暴力もふるうようになっており、これは立派なDVです。由香里さんはすぐに家を出て実家に戻りました。

出産後もそのまま実家にとどまり、夫に子どもの顔を一度も見せることなく、離婚することに。夫は子どもに執着することもなく、意外とすんなり別れることができました。

妊娠中に浮気した夫! それでも離婚を急がない方がいい理由とは?

妊娠7ヶ月の弥生さん(仮名、29歳)は夫から離婚を切り出され、どうしていいかわからず、法律事務所に相談に訪れました。どうやら夫は妊娠初期に弥生さんが入院したのをきっかけに浮気をし、その女性と一緒になろうとしているようです。

弥生さん自身に落ち度はなく、離婚をすすめられるかと思っていましたが、意外なことに、弁護士からは、すぐには離婚に応じないほうがいいとアドバイスされました。

弥生さんは、すぐにでも離婚したい気持ちを抑えて、まずは夫の浮気の証拠集めをスタート。弁護士から探偵も紹介してもらい、浮気の確実な証拠を手に入れた時点で、実家に戻り別居をスタートしました。

夫からは「別居しているから夫婦の実態がない」と、重ねて離婚を求められましたが、「別居の原因は夫の浮気によるやむをえないもの」としてこれを拒否。無事に実家で出産し、今は夫から「婚姻費用」を受け取りながら、離婚の準備と、働いて自活する準備を、じっくりと進めています。

生まれる子どもをめぐってトラブルに! 親権のためには早く離婚すべき?

離婚に向けて調停中の和香子さん(仮名、35歳)は妊娠5ヶ月。夫も和香子さんも親権者になることを強く主張しており、なかなか決着がつきそうにありません。

妊娠中に離婚が成立すれば、生まれてくる子どもの親権者は自動的に和香子さんになるため、和香子さんは早く離婚を成立させたいし、夫はこれを阻止するために時間のかかる裁判に持ち込み、出産後まで離婚成立を引っ張る考えです。

一時は、「子どもは絶対渡せない、お金も何もいらないから今すぐ離婚届にハンコを」と焦っていた和香子さんですが、弁護士のアドバイスを受けて、長期戦に切り替えることを決意。

弁護士を通じて夫との離婚交渉を継続しながら、里帰りして子どもを出産。そのまま実家で子どもを育てたことで、親権だけでなく、将来にわたっての養育費までしっかり取り決めた上で、離婚を成立させることができました。

妊娠中に離婚を考える理由! マタニティカップルの危うい現実

生まれてくる子どものためにもハッピーな気持ちで暮らしたいのに……。妊娠中、夫との離婚を考えたという女性は、決して少なくありません。

もちろん、暴力をふるってくるなど、妊娠中であるなしにかかわらず、すぐに距離をとるべきケースもあります。しかし、そこまでではない場合でも、この時期、どうして離婚なんて考えてしまうのでしょうか?

ホルモンバランスのせい?~マタニティブルー

妊娠中はホルモンバランスが大きく変化するため、妊婦は精神が不安定になるもの。ちょっとしたことで涙が流れたり、夫のニオイに耐えられなくなったり、夫に体を触られるのがイヤになる人もいます。

こういった変化は一時的なものであり、気がついたらもとに戻っているということも。「あれ?」と思うことはあるでしょうが、あまりこの時期の自分の変化を「もう夫への愛情がなくなったのでは?」などと、突き詰めて考えないことも大切です。

夫婦の絆が試されるとき~言ってくれなきゃわかんない!

つわり、貧血、むくみ、腰痛など、妊娠により身体がどんどん変わっていく妻に対し、夫自身には何の変化もない妊娠期間中。夫婦間の意識のズレやすれ違いが起きやすい時期でもあります。

つわりのつらさなど、「言わなくても夫にだけは察してほしい」と思う気持ちももっともですが、なかなか難しいのも現実です。思っていること、感じていることは、言葉にしてきちんと伝える努力を忘れないで。

妊娠中は、よりダメージが大きい夫の浮気

悲しいことに、妻の妊娠が夫の浮気のきっかけになったというケースはあります。とくに切迫流産などのトラブルで医師から夫婦生活を控えるように言われた結果、夫が浮気に走ってしまった場合などでは、妻が受ける精神的ダメージは大きく、信頼や愛情を回復するのが難しいケースも。

妊娠中に浮気する夫が悪いのはもちろんのことです。ただ、もしあなたが、夫に浮気されるような妻になりたくない、なにかできることはと探しているのであれば、妊娠中はいつも以上に意識して、お互いを思いやりやる言動やスキンシップをこころがけてみて。

生まれる子どもの【親権】はどうなる? 離婚前の出産なら妻のものだが……

妊娠中に離婚した場合、生まれた子どもの親権者は原則として母親になります。民法では、次のように定められています。

民法819条3項
子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる

夫側が、どうしても親権をとりたい妻の心理につけこみ、離婚の時期を遅らせることをちらつかせて、妻に不利な条件をのませようとすることがあります。

しかし、日本では離婚後であっても母親に親権を認めるケースが多いのです。親権のために離婚を焦る必要はない、ということを知っておきましょう。

【面会交流】とは? 離婚後、夫には子どもを会わせたくないけど……

子どもの健やかな成長のため、離婚後、親権のない親も子どもと会ったり交流したりできるのが「面会交流」です。妊娠中に離婚し、離婚後に出産した場合、ママの想いは複雑なようです。

民法では次のように定められています。

民法766条
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない

2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める

正当な理由がないのに面会交流を拒否することはできない

妊娠中の離婚の場合、とくに、子どもを別れた夫に一切会わせたくないと思う妻が多いです。

しかし、面会交流は親が子どもと面会する権利と考えられており、正当な理由なく、元夫が子どもと面会することを拒否することはできません。

妊娠中の離婚、その後。面会交流の実態は?

ただし、妊娠中の離婚が成立した夫婦の実態としては、子どもの顔を一回も見ないまま離婚に至り、夫には子どもに対する執着もなく、そのまま会わずじまいというケースも少なくないようです。

子どもの顔を一度も見ていないと、父親側でも気持ちも切り替えやすいのかもしれません。

再婚~子どもに新しく父親ができたとき

一人で小さい子どもを育てているシングルマザーは意外に男性にもてるとか。子どもが小さいほうが違和感なく新しい夫に慣れることもあり、再婚のハードルも低いようです。

たとえば、妻が再婚して新しい家庭を築き、子どもが新しい夫を父親として円満に成長し始めている、別れた父親と会うことは混乱を招き、子どもにとってマイナスである……。このように評価されるような場合には、面会交流が認められない場合もありえます。

離婚後に生まれた子どもの【戸籍】はどうなる? 離婚から「300日」が分岐点!

離婚を決めてから妊娠がわかったようなケースでは、生まれる子どもが父親の子どもということになるのかどうか、迷ってしまうこともあるでしょう。

法律では原則、「離婚した日」と「生まれた日」の関係で、父親の子どもになるかどうかを決めていきます。

民法772条
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する

法律上では、結婚している男女の間に生まれた子どもを「嫡出子」、結婚していない男女の間に生まれた子を「非嫡出子」といいます。整理して考えましょう。

嫡出子~婚姻中に妊娠していたことがわかっている場合、離婚届の受理から300日以内に生まれた子

・嫡出子として父親の戸籍に入る。
・離婚後、親権をもつ母親が再婚しても、手続きしなければ、戸籍上子どもの父親は元夫のまま。
・子どもは、父親の姓を名乗る。
・子どもに母親の姓を名乗らせたい、子どもを母親の戸籍に入れたい場合、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立て、許可を受けた後に、市区町村役場に届け出をする必要がある。

非嫡出子~離婚届の受理から300日を過ぎてから生まれた子

・非嫡出子として母親の戸籍に入る。
・子どもは、母親の姓を名乗る。
・非嫡出子でも、父親に認知をされれば、父親とは法律上の親子関係になる。
・認知されないと父親とは法律上の親子関係がないため…
  子どもが戸籍の父親欄が空欄になる
  子どもは父親の相続人になれない
  子どもは父親の姓を名乗れない
  子どもは父親から養育費をもらえない

元夫以外の男性との間にできた子の場合

離婚後300日以内に出産した子どもは、実際には元夫以外の男性との間の子どもであっても、原則として夫の子と推定され、嫡出子として元夫の戸籍に入ります。

この場合、元夫が家庭裁判所に「嫡出否認の調停」を申し立て、調停が成立することで、この子は元夫の戸籍から外れることができます。その場合、DNA鑑定を行い、家庭裁判所で子どもと元夫とは親子関係がないことを確定しなければなりません。

【養育費、慰謝料、財産分与】妊娠中の離婚とお金のこと

妊娠中に離婚する人の多くにとって、お金のことは切実な問題。子どもの養育費は離婚後も請求できますが、離婚成立前(別居中など)にもらえる生活費(婚姻費用)は、離婚してしまえば請求できません。

養育費だけでなく、慰謝料や財産分与など、もらえる可能性のあるお金をすべて洗い出し、これからの生活の経済的な不安を少しでも減らしておきましょう。

慰謝料

離婚の原因が明確に夫にあるケースでは、慰謝料の請求が可能です。次のような、離婚の原因を証明する証拠が必要です。
 ・夫が不倫している
 ・夫からのDVがあった
 ・夫が生活費をくれなかった
 ・夫に家を追い出された

養育費

生まれてくる子どもが元夫の子ならば、養育費の支払いを求めることができます。弁護士等に相談し、合意内容についてはきちんと書面を作成しておきましょう。

協議離婚の場合には、「公正証書(公証人法に基づき、法務大臣に任命された公証人が作成する公文書)」にしておくと、未払いの際に強制執行手続きを取ることが容易となり、取りはぐれる心配がありません。

財産分与

たとえあなたが専業主婦であったとしても、元夫が仕事に専念できたのは、あなたの支えがあったからこそ。婚姻期間中に夫婦で築き上げた財産は、半分に分割して受け取る権利があります。

働くために、子どもの預け先や仕事の確保も始めておいて

いくら夫から受け取ることのできるお金があるとはいっても、妊娠中に離婚して、経済面で不安がない人はほとんどいないでしょう。働いている人は、なるべく仕事を辞めないで続けることをおすすめします。離婚の事実も正直に勤務先に話し、必要な手続きを行いましょう。保育園探しも、就業証明があるほうが有利です。

今は職についていない場合でも、産後落ち着いたら働くことを見越して、妊娠中、あるいは産後、出歩けるようになったら、早めに市区町村の窓口に保育園事情を聞きに行ったり、実際に見学に行ったりできるといいでしょう。

また、頼れる実家がある人は、虚勢を張らずに素直に実家に頼りましょう。

シングルマザーが受けられる公的支援も積極的に利用を。内容や手続きは、市区町村によって異なります。離婚後生活する市区町村に問い合わせ、確認しておきましょう。

妊娠中に離婚して【再婚】するには制限がある!

男性は離婚後すぐに再婚できますが、女性には「再婚禁止期間」が定められており、原則として、離婚から100日経過したあとでなければ再婚できません。

民法733条
女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合

これは、女性が離婚後すぐに再婚し、出産した場合に、その子の父親がわからなくなることによって起きるトラブルを防ぐために設けられた決まりです。

そのため、離婚時に妊娠していない場合、離婚後に出産した場合は、100日経過する前でも再婚することができます。

妊娠中の離婚を考えている人へ、弁護士からのアドバイス

この記事の執筆にあたり取材・監修に協力いただき、これまで多くの女性からの離婚相談にあたってきた中里弁護士から、妊娠中の離婚を考えている女性に向けて、アドバイスをいただきました。

まとめ

妊娠中だからといって、離婚できないということはありませんが、デメリットもあります。また、一人で子どもを育てていくことは、簡単なことではありません。

実家、公的支援、専門家、法律、使えるものは何でも使って、あなたと子どもの道を切り開いていきましょう。

※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、弁護士に取材、および、その監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものです。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

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