【医師監修】妊娠検査薬で蒸発線の見分け方|後から線が出たら陰性?陽性?
妊娠の可能性があって妊娠検査薬を使ったけれど、判定窓に出た線がはっきりしない、ということもあるようです。判定線が薄い場合「蒸発線」と呼ばれる線のことがあります。今回は、妊娠検査薬の蒸発線とはどのようなものかを解説します。また、蒸発線と異所性妊娠・胞状奇胎にまつわる噂も検証します。
妊娠検査薬にあらわれる蒸発線ってどんなもの?
妊娠検査薬は、陽性の場合には通常、色のはっきりわかる判定線が現れますが、ときには「グレーっぽい色の薄い線」が出てきて、「これは妊娠なの?」と判断に迷うケースもあります。
こうした色の薄い線の場合も陽性なのでしょうか。また、いったいなぜこうした線は出るのでしょうか。
10分以上経ってからうっすら出るライン
各妊娠検査薬の説明書や注意書きを見ると、検査薬に尿をかけて判定するまでの時間は、「10分以内に」としているものが多いようです。
ところが、10分以上経ってから判定窓にうっすらとしたグレーなど、「陽性で出るとされるものとは異なる色の線」が現れることもあります。これが、「蒸発線」と呼ばれるものです。
蒸発線はなぜ出るの?
蒸発線は、薬剤が塗られた部分から尿の水分が蒸発し、尿に含まれる老廃物などの成分の濃度が上がったために、周囲より色が濃くなって出るものと考えられています。
妊娠検査薬の仕組み
妊娠初期、受精卵が子宮に着床すると、妊娠を維持するために「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンを分泌し始め、しばらくすると尿中にも出てくるようになります。妊娠検査薬は、尿の中のhCGを検出して妊娠の有無を判定する仕組みになっています。
通常の妊娠検査薬は、尿中のhCG濃度が「50IU/L以上」に達していれば妊娠しているとして、「陽性」の反応を示します。製品によって違いがありますが、陽性の場合には赤やピンク、青などの色の線が出ることになっています。一方、妊娠していなければhCGが検出されないので、こうした線は出ず「陰性」と判定されます。
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妊娠検査薬の正しい使い方について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
蒸発線は妊娠のサイン?
妊娠検査薬の判定窓に線が現れれば、どんな線でも「陽性!?」と思いたくなってしまいますね。蒸発線らしきものが出た場合は、どう判定すればよいのでしょうか。
蒸発線であれば陰性の判定
判定窓に出た線が蒸発線の場合は、hCGに反応して出た線ではないため、「陰性」と判定することになります。
蒸発線と陽性の見分け方
蒸発線はごく薄い線で、色もグレーっぽいなどはっきりしていないことがほとんどです。判定窓に出た線が赤やピンク、青のようにその製品で陽性の場合出る色ではないときは、蒸発線と思われるので「陰性」と考えましょう。
なお、蒸発線は、その製品で判定までに必要とされる時間を大幅に過ぎてから現れることがほとんどです。妊娠検査薬の各メーカーは、規定の時間を過ぎてから線が出てきた場合は「陰性」と判断するよう説明書などに記載していることが多いので、チェックしてみてくださいね。
妊娠検査薬は正しく使用すること
現在日本で市販されている妊娠検査薬は、正しく使用すれば99%以上ともいわれる高い精度で妊娠しているかどうかを調べることができます。
ただ、「適切な時期」に使用しなかったり、「使用期限を過ぎているもの」や「直射日光が当たる場所や冷蔵庫など不適切な場所で保管していたもの」「外箱や袋から出したままにしておいたもの」などを使った場合には正しく判定されない可能性もあります。
妊娠検査薬で正しい結果を得るためには、説明書をよく読んで適切に使用することが大切です。 妊娠検査薬を使う時期については以下の記事も参考にしてください。
気になる蒸発線の噂
蒸発線については、「異所性妊娠(子宮外妊娠)」や「胞状奇胎」などのサインと言われることもあるようです。これは本当なのでしょうか。
薄い線は異所性妊娠のサイン?
一部のネット記事や掲示板などには、 「妊娠検査薬の判定線が薄い場合は、異所性(子宮外)妊娠」などと書かれていることもあります。でも、これは正確な情報ではありません。
「異所性妊娠」とは、受精卵が子宮の適切な位置以外に着床することですが、受精卵の着床は起こっているのでhCGは分泌されます。そのため、異所性妊娠でも着床後、hCGが十分分泌されるようになったら、妊娠検査薬は通常の妊娠と同じく陽性反応を示します。
ただ、赤ちゃんが正常に成長する妊娠であれば、hCGがいったん分泌されるようになるとその後は2日間に1.5~2倍のペースで分泌量が増えていくことが多い一方で、異所性妊娠の場合は、その「増加速度が比較的ゆっくり」であったり、一度hCGが分泌されるようになったあとで「hCGの分泌量が減っていく」人もなかにはいることがわかっています[*1]。
そのため、通常であれば妊娠検査薬がはっきり反応する時期であっても、異所性妊娠のためにhCGの量が少なくて検査薬の判定線が薄くなることもありえます。
関連記事 ▶︎子宮外妊娠(異所性妊娠)とは
薄い線が出るのは正常な妊娠でも起こること
とはいえ、hCGの量が少なすぎて妊娠検査薬の反応が薄くなるのは、「正常な妊娠の場合でもよく起こる」ことです。
妊娠検査薬は生理予定日の1週間後からの使用が推奨されていますが、女性の生理周期はちょっとしたことで変動するので、予定より排卵が遅くなれば生理予定日の翌週に検査したつもりが「実はそれよりも早い時期だった」ということもあるからです。この場合も、hCGがまだ十分に分泌されていないので、陽性は出ても判定線の色は薄くなる可能性があります。
詳しくはこちら▶︎妊娠検査薬ってフライングで使ってもOK?
異所性妊娠の心配がある場合は、受診して子宮の適切な箇所に赤ちゃんが着床しているか確認してもらってください。異所性妊娠は自然妊娠の1~2%で起こると言われていますが[*2]、妊娠検査薬が陽性でも正常妊娠か異所性妊娠かは、産婦人科で超音波検査(エコー検査)をしないとわかりません。妊娠検査薬の結果だけでは異所性妊娠かどうかはわからないことを、知っておきましょう。
薄い線は胞状奇胎のサイン?
妊娠検査薬の判定線が薄い場合、「胞状奇胎」が疑われるとして心配する人もいるようです。胞状奇胎は、胎盤を作る絨毛細胞が異常に増殖し、水ぶくれのように変化して子宮内がいっぱいになってしまう異常妊娠のことです。
妊娠検査薬は、さきほども触れたように使用のタイミングが早すぎるフライング検査をした場合などでhCGの分泌量が少ないと、正確な反応が得られないことがあります。一方、「hCGが多過ぎる場合」にも正しい判定ができないことがあるのです。
実は胞状奇胎の場合、hCGの分泌量は多くなる傾向があり、妊娠検査薬を使用することが多い妊娠5週ごろで比べると、正常妊娠の約5~10倍ほども分泌されるとも言われています[*3]。このように検査薬の限度を超えて大量に分泌されていると、hCGは存在しても陰性と判定されたり、 薄い線が出てしまう可能性もまたあります。
ただ胞状奇胎も異所性妊娠同様、受診して超音波検査やhCGの測定などを受けないとはっきりした診断はつきません。
なお、双子妊娠の場合でも正しい判定結果が出ない場合があります。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
結果に疑問・不安を持ったら病院へ!
市販の妊娠検査薬は、使用期限内のものをメーカーの推奨する時期に正しく使用すれば、高確率で正確な結果を得ることができます。
普段から基礎体温をつけており生理周期の誤解が少ないと思われる人で予定通り生理が来ず、適切な時期に妊娠検査薬を使用したものの判定線がはっきりしないときには、産婦人科の受診をおすすめします。
まとめ
妊娠を心待ちにして妊娠検査薬を使ったとき、「蒸発線」のような線が出てはっきりした判断ができないと、モヤモヤした気分になったり、異常妊娠を疑ったりしてしまうかもしれませんね。
ここで解説したとおり、「判定線が期待されるものと違ったり、薄かったりする=異常妊娠」ではありません。また、はっきりした陽性が出た場合でも、正常な妊娠とは限りません。
妊娠検査薬を適切な時期に使用して陽性と判定されたら、産婦人科を受診して何か気になる点がないか調べてもらう必要があります。また、検査薬の結果に疑問を持ったり不安になったりしたときも、あまり放っておかずに受診して医師に相談しましょう。
(文:村田弥生/監修:窪麻由美 先生)
※画像はイメージです
[*1]First Trimester Pregnancy Emergencies: Recognition and Management, Emerg Med Pract. 2019 Jan 1;21(Suppl 1):1-2.
[*2]病気が見えるvol.10産科 第4版,メディックメディア, 2018. [*3]病気が見えるvol.9婦人科・乳腺外科 第4版,メディックメディア, 2018.
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます