【医師監修】逆子での帝王切開はいつ決まる? 自然分娩の可能性は?
赤ちゃんが逆子でも、多くは妊娠が進むとともに自然と正常な向きに落ち着いていきます。しかし逆子のままだと、帝王切開によるお産になることも。逆子で帝王切開になるかどうかはどのタイミングで決まり、手術はいつ行うのでしょうか。逆子でも自然分娩できるのかどうかなどと併せて解説します。
逆子は帝王切開のみ?自然分娩の可能性もあるの?
赤ちゃんが逆子の場合、日本では帝王切開での出産になる可能性が高いです。ただし、状況によっては経腟分娩が可能です。
逆子は基本的に帝王切開
「逆子」(さかご。専門的には「骨盤位」)とは、赤ちゃんがママのおなかの中で頭を上にし、お尻や足を下に向けた状態のことです。
逆子の状態で出産を迎えると、お産が始まる前の破水や、赤ちゃんより先にへその緒が子宮からはみ出してしまう「臍帯(さいたい)脱出」、「微弱陣痛」でお産が長引くといった事態が起こりやすくなります。
これらの状態になると赤ちゃんが弱ってしまう「胎児機能不全」が生じやすくなるので、逆子の場合は、帝王切開でのお産になる可能性が高いです。
自然分娩できることもあるが安全優先で決める
しかし逆子であっても、自然分娩(経腟分娩)での出産も可能です。
そのためには、逆子の経腟分娩を行うのに十分な技術や経験のあるスタッフが常駐している医療機関で、なおかつ逆子の赤ちゃんとして経腟分娩が可能な状態であることが必要です。また、妊婦さんが逆子を経腟分娩で出産することのリスクについて十分に理解し、同意していることも必須の条件です。
もちろん、こうした条件をクリア―して経腟分娩にトライしても、赤ちゃんの状態やお産の経過によっては緊急帝王切開に切り替わる可能性はあります。
逆子とは
ひとくちに「逆子」と言っても、実は細かい分類があり、出産時のリスクも違ってきます。
胎児の頭が上にあること
最初にも説明したように逆子とは、赤ちゃんがママのおなかの中で「頭を上にし、お尻や足を下に向けた姿勢をとっている状態」のことをいいます。逆子は一般的な呼び方で、専門用語では「骨盤位(こつばんい)」と言います。赤ちゃんが骨盤位かどうかは妊婦健診時、内診や超音波検査(エコー)などで確認します。
逆子にもいくつか種類がある
逆子(骨盤位)は、一番下になっている部位によって、さらに大きく3つに分類されます。
殿位(でんい)
赤ちゃんの「お尻」が一番下になっている状態です。逆子の中ではこの殿位の割合が最も多く(約75%)、分娩の際のリスクは比較的少ないとされています[*1]。殿位の中にも、お尻を下にして両足を上げた「単殿位」、膝を折り曲げている「全複殿位」、片足を曲げ、もう片方は上に向けて伸ばした「不全複殿位」があります。
膝位(しつい)
赤ちゃんの「膝」が一番下になっている状態です。逆子のうち約1%と比較的珍しく[*1]、両膝を曲げた「全膝位」、片膝だけを曲げ、もう一方の足は上に向けて伸ばした「不全膝位」の2つに分類されます。分娩時のリスクは殿位よりやや増える傾向にあります。経腟分娩は勧められません。
足位(そくい)
赤ちゃんの足先が一番下になっている状態です。骨盤位の約24%がこれに当たるといわれていて[*1]、両足ともが一番下にある「全足位」と片足の足先だけが下にある「不全足位」とに分かれます。経腟分娩時のリスクは最も大きくなります。経腟分娩は勧められません。
そのほか逆子とは少し違いますが、赤ちゃんが産道(腟)に対して水平になった「横位(おうい)」や斜めになった「斜位(しゃい)」という状態になることもあります。これらの胎位になった場合は、出産は帝王切開で行われます。
逆子になる原因と確率
逆子の原因は、多くの場合「不明」です。
原因の一部には、「子宮の形や胎盤の異常」「骨盤の狭さ」などがあると言われていますが、多くは原因不明です。
なお、妊娠初期や中期には逆子であっても、妊娠後期には多くの赤ちゃんが頭位、つまり頭を下にした状態に落ち着きます。最終的に、逆子の状態で出産を迎える赤ちゃんは全体の約5%[*1]といわれています。
逆子で帝王切開かどうか決まるのはいつ?流れは?
出産予定日が近づいてきても逆子のままの場合は、いつごろ出産方法を決めるのでしょう。
34、35週までに治らないと帝王切開を予定することが多い
妊娠30週ぐらいまでは、ママのおなかの中には赤ちゃんが動く余裕があるため、一時期、逆子であっても、自然に頭を下にした頭位に落ち着くことが多いです。しかし、そのまま様子を見ていても、逆子のまま変わらない場合は、帝王切開での出産準備をはじめることになります。施設にもよりますが、34~35週ころに帝王切開の予定を組む場合が多いようです。
帝王切開には、あらかじめ日程を決めて行う「予定帝王切開」と、妊娠中や分娩中に非常事態が起こった際に行う「緊急帝王切開」があります。
逆子により帝王切開を行う場合は、予定帝王切開の準備をすることになります。予定帝王切開は陣痛が始まる前に行う必要があるため、出産予定日よりもやや早い、妊娠38週頃をめどに手術する予定を立てます。もちろん、途中で逆子でなくなれば、キャンセルされます。帝王切開手術そのものの流れについては、後ほど詳しく説明します。
逆子が治ることもあるの?
「多くの赤ちゃんが、逆子であってもいつの間にか、自然に頭囲に落ち着く」とは言うものの、だいたいいつごろまでに治ることが多いのでしょうか。また逆子を治す方法はあるのでしょうか。
妊娠9ヶ月前半までは自然に治ることも
先ほど説明したように、だいたい妊娠30週過ぎまでは、赤ちゃんはママのおなかの中でくるくる回っているので、逆子は自然に治ることが多いです。33週ごろまでは4割くらいが頭位に戻るという報告もあります[*2]。そのため、妊娠9ヶ月くらいまでは様子を見るのが一般的です。
外回転術という方法も
それを過ぎても逆子のままという場合は、「外回転術」という方法を妊娠36週ごろに行うこともあります。
外回転術は、仰向けになった妊婦さんのおなかの外側から赤ちゃんのお尻を押し上げて、徐々に回転させ、頭位にする胎位矯正法です。おなかの張り止めの薬を使って子宮の筋肉をやわらげ、赤ちゃんを回転させやすくします。また、麻酔を併用することもあります。施術時間は長くても10分ほどで、成功率は60~70%ほどといわれています[*3]。
外回転術には帝王切開を回避できるというメリットがある一方で、まれに胎盤の早期剥離や赤ちゃんの心拍数の悪化などを引き起こし、緊急帝王切開になることもあります。外回転のリスクに納得できない場合や妊婦さんが帝王切開でも良いと考えている場合は実施しません。また、妊婦さんの体格、赤ちゃんの発育状況によっては、そもそも行わないほうがよいこともあります。
それぞれの妊婦さんの状況によって異なるので、医師から説明を聞いたうえでどうするのがよいか、よく考えることが大切です。
逆子体操は効果がない
ほかに逆子を治す方法として「逆子体操」と呼ばれる、妊婦さん自身が行う胎位矯正法もあります。しかし、行っても行わなくても結果に差がないことがわかったため、最近ではあまり勧められなくなっています。
帝王切開はどうやって行う?痛みはどのくらい?
逆子を帝王切開で出産する場合は、だいたい手術予定日の前日から入院し、お産に備えていきます。術後1週間くらいは痛みが出やすいですが、徐々に回復していきます。
流れ|予定帝王切開の場合の入院日〜当日
入院日(手術前日)
入院したら、手術部位の除毛や排便の調整などをして、手術の準備を整えます。
当日の流れ
手術当日は「麻酔⇒帝王切開」という流れでお産が進んでいきます。麻酔は通常、下半身麻酔を使います。そのため、赤ちゃんの声も聞けますし、医師と会話も可能です。
麻酔が効いたら、下腹部を切開して赤ちゃんと胎盤を取り出し、その後、切開した部分を縫合してお腹を閉じます。皮膚の切開の方法には、「横切り」と「縦切り」の2通りがあり、現在は傷あとが目立たない「横切り」が主流です。ただし、医師や施設の方針、赤ちゃんの状態によっては「縦切り」が選ばれることもあります。
通常、麻酔開始から30~60分ほどで手術は終了します。
痛み|術後3日目くらいまでは痛みが強い
痛みの感じ方には個人差がありますが、術後3日目くらいまでが、最も痛みが強い時期です。つらいときは産院のスタッフに伝えて、鎮痛剤などを出してもらいましょう。
なお、術後の経過に問題がなければ、手術の翌日から歩く練習が始まります。ほとんどの病院で、血栓の予防もかねて術後早期から体を動かすことを推奨しています。その後は、母児同室が始まったり、普通食が始まったりなどして徐々にできることが増えていき、退院の日を迎えます。
帝王切開での出産の場合、入院期間は経腟分娩よりも少し長く、10日前後のことが多いようです[*4]。
費用|自己負担は大幅には変わらないことが多い
手術を行うことや入院期間が長くなることから、帝王切開での出産は通常より費用がかさみそうな気がしますが、実際はどうなのでしょうか。
経腟分娩での出産の場合、費用は全額自己負担となり、その額は病院や入院する部屋の種類(個室なのか大部屋なのかなど)などによっても異なりますが、「だいたい40万~50万円」におさまることが多いようです。ただし、地域によって差が大きく、東京都内ではもっと高いです。
なお、健康保険は効きませんが、健康保険の被保険者、被扶養者は補助として「出産育児一時金」がおよそ40万円支給されます。
帝王切開では「手術費用や入院費など」が追加でかかる
帝王切開の場合は、経腟分娩での費用に「手術費用など」がプラスでかかります。手術費用は、予定帝王切開の場合は20万1,400円、緊急帝王切開の場合は22万2,000円です[*5]。ただ、帝王切開術は「医療行為」なので健康保険が適用され、手術費用の自己負担額はこのうちの3割、「およそ6万円強」です。
また、経腟分娩より入院期間が長くなる分、入院費、差額ベッド代、食事代が多めになります。診察代、薬代などが追加で必要になることもあります。これは医療機関や必要だった治療によって異なります。
帝王切開は高額療養費制度の対象!
とはいえ、帝王切開は「高額療養費制度」の対象となります。これは、ひと月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、「自己負担限度額を超えた分があとで払い戻される」という制度。自己負担限度額は、標準報酬月額が26万円以下なら「5万7,600円」、28~50万円なら「約8万円」です(被保険者が70歳未満の場合)[*6]。
よって、手術費用と入院費などで通常より自己負担分が大幅に増えたとしても、高額療養費の限度額を超えた分は後から払い戻してもらえます(事前に手続きすれば、退院時に限度額超過分だけ支払えばよい場合もあります)。ですから、帝王切開になったとしても、あまり大幅な出費を心配する必要はありません。
高額療養費制度の利用に必要な手続きは、健康保険の種類(健康保険組合、共済組合、協会けんぽ、国民健康保険など)によって異なります。誰にでも帝王切開になる可能性はありますから、必要な手続きはあらかじめ調べておきましょう。
民間の医療保険の中には帝王切開で保険金支払いのあるものも!
なお、民間の医療保険の中には、帝王切開を補償対象に含めているものもあり、その場合は妊娠前から加入していれば保険金が支払われます。加入している医療保険があれば、出産前に内容をもう一度確認しておくと安心です。
まとめ
逆子の場合、妊娠34~35週になっても治らなければ、予定帝王切開の準備を進めていきます。条件が合う妊婦さんでは外回転術を行うという選択肢もありますが、100%逆子が治るというわけではなく、リスクもあるので、実施する前にはよく考え十分に理解しておく必要があります。
ただ、一時期逆子であったとしてもそのまま出産を迎えるケースは少なく自然に治ることがほとんどなので、あまり心配しすぎないようにしてください。気になること、不安なことはかかりつけの医師に相談して気がかりを解消したうえで、出産の日を待ちましょう。
(文:山本尚恵/監修:太田寛 先生)
※画像はイメージです
[*1]『病気が見える 産科 Vol10』第3版 p280 メディックメディア
[*2]『母性衛生 (Japanese Journal of Maternal Health)』58巻 2号 371-379p, 2017「妊娠28週以降の骨盤位の頻度と自然回転率」
[*3]『病気が見える 産科 Vol10』第3版 p284 メディックメディア
[*4]『病気が見える 産科 Vol10』第3版 p371 メディックメディア
[*5]今日の臨床サポート 令和2年度 診療報酬点数 K898 帝王切開術
[*6]協会けんぽ 出産に伴う健康保険の給付について
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます