「母親」から「選手」の時間へ! 息子を保育園に預けるということ|ぼくのママはプロサッカー選手 #4
子どもを保育園に預けるタイミングは悩みどころ。不安や迷い、葛藤を感じるママは少なくないでしょう。
妊娠・出産=現役引退……そんな女子サッカー界の常識を覆し、WEリーグ初の「ママプロサッカー選手」として活躍する元なでしこジャパンの岩清水梓選手。そんな岩清水選手による出産・子育てエッセイ『ぼくのママはプロサッカー選手』(小学館クリエイティブ)より一部抜粋して、連載(全5回)でお届けします。
第4回となる本記事のテーマは岩清水選手にとっての保育園の存在について。
生後4ヶ月頃から週に数回の通園生活がスタート。登園初日はギャン泣きだった息子さんも今では……
子どもを預ける
自分の性格はポジティブか? ネガティブか? そう聞かれたら、私はどちらかというとポジティブ側かもしれない。ハッピーオーラを周りに振りまくような、キラキラしたポジティブではないけれど、基本的には何事もいい方向に捉えたいタイプ。まぁ、試合に負けたときだけは、そううまくはいかないのだけど。
息子が生まれる前から、子どもを保育園に預けるのはどのタイミングからになるんだろうな? と、たまに考えていた。いずれ復帰をするのならば、そこは避けては通れない道だから。
本当のことを言えば、私の描いていた理想的なスケジュールでは、産後2カ月目には復帰トレーニングを開始し、3カ月目くらいにはチームの全体練習に合流。遅くても6カ月後には公式戦のピッチに立っているはずだった。今になって思うと、そんなことは夢のまた夢。絶対無理!
もちろん、思いがけない恥骨骨折も影響して、痛みでなかなかトレーニングが進まなかったことも、復帰までに時間がかかった原因ではあった。それでも、そういうイレギュラーを含めて、出産とはどれだけ予習をしていても、思うようにはいかないものだな、と改めて思い知らされたのだった。
私が初めて息子を保育園に預けたのは、生後4カ月のころだった。まだそのときは、私のトレーニングはチームとは別で、産後の体をアスリート仕様に戻していくリハビリのような段階。そのためクラブハウスに行く頻度も少なかったので、慣らし保育も兼ねて、週に数回通園する形でスタートした。
初登園の日は、預けるときも、お迎えのときも、環境の変化にビックリしたのか、ギャン泣きだった。でもその後は泣かれることはほとんどないまま、今に至る。
よく捉えれば、物心もちゃんとついていない、わけのわからない時期に預けることによって、わけのわからないうちに慣れてくれたのだと思う。まだ「ママがいい!」と認識できる段階ではないからか、離れたくなくて泣いたりはしなかった。それはそれでちょっと寂しかったのだけど。
のちのち私がチームに合流し、本格的にアスリートとして以前のようなスケジュールで連日トレーニングするようになるころには、もう彼にとって通園は慣れたものだった。保育園に行くことは、彼のなかでは当たり前。送りの際の切ないお別れなどは一切なく、今でも、こちらへの「バイバイ」もなしにサッサと園に入って行く後ろ姿に、こちらが一方的に手を振って見送っている。もはやその背中には頼もしさすら感じる。
子どもを預ける年齢には、いろいろな意見がある。たとえば「0歳児はまだ早いんじゃないか」とか「一番かわいい時期なんだから一緒にいられるうちは〜」とか。実際に、私も母にそれっぽいことを言われたことがある。母は一度仕事を辞めて育児をした人だったのもあって、「自分で見られるだけ、見たほうがいいんじゃない?」と。たしかに、できるだけそばにいて、成長を一つも逃さず見ておきたい、という気持ちもなくはない。でも特に仕事をしている人にとっては、そうもいかなかったりする。これは世のお母さんたちにとっては、本当に悩ましい案件だと思う。
私はといえば、やっぱり選手としてピッチに戻りたい気持ちが強かった。だから早い段階で保育園にお世話になることは決めていた。でも、それは結果的にすごくよかったと思っている。
なんというか、メリハリがつく気がするのだ。誤解を恐れずに言うならば、「本来の自分に戻れる」というか。息子を保育園に預けている間だけ、一瞬、ママの看板が下ろせる、というほうが正しいかもしれない。
トレーニングを再開して、グラウンドに出るようになったとき、その時間だけ「母親」ではなくて「選手」の時間になったのが、ちょっとうれしかった。何十年もピッチに立ってきた私にとっては、まさに「戻ってきた」という感覚。子どもは本当にかわいいし、優先順位の一番はなにを差し置いても子どもだけれど、一方で、グラウンドでは「選手」として存在していたい。それを我慢せずに、ポジティブに解決できるのは保育園にお世話になることだと思った。
息子を預けて離れている間、彼は彼で遊んで、眠って、好きな時間を過ごす。私は私で大好きな仕事をする。お互いに好きな時間を過ごした後、お迎えに行って再会して、お互いの1日について話をする。これが毎回すごく楽しみなのだ。朝に一度、お別れをしているから、お迎えで「また会える!」と思うとたまらない。だから、いつもお迎えに行くときはルンルンしている自分がいて、その瞬間は本当に幸せな時間だ。
お迎えで、先生の話を聞くのも楽しみの一つ。「そんなことするんだ!」みたいな知らない一面を教えてもらえたり、「これを覚えましたよ」と聞いていたことがいつ披露されるのかな、とワクワクしたり。
なんか、園で再会して家に一緒に帰るたびに、すべてがまたさらに愛おしくなっているのがわかる。それは多分、自分が充実しているからそう思えるのかな? 私はそう思っている。これが、自分の好きなことをなにかずっと我慢していたり、自分が充実していなかったりしたら、もしかすると子どもに優しくできないときもあるかもしれない。だから私にとって、子どもを預けることは、お互いが充実した時間を過ごして、また愛情の再確認ができる、前向きになれる大切なプロセスなのだ。
著:岩清水 梓『ぼくのママはプロサッカー選手』(小学館クリエイティブ)より再編集/マイナビ子育て編集部