「中高生の子供に恋人ができて心配…」そう思ったときに保護者が取るべき態度&伝えるべき言葉とは?|岡田百合香先生インタビュー#4
泌尿器科医・岡田百合香先生のインタビュー第4弾は、「思春期を迎えた子供に、性のことをどう伝えるか」。『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書』(誠文堂新光社)の著者でもある先生は、高校で性教育の授業をされているそう。その授業で教えられていることとは?
お話をしてくださった方
岡田 百合香 先生
(泌尿器科医)
■日本の性教育は遅れている⁉︎
――よく「日本は性教育が遅れている」と聞きますが、本当でしょうか?
岡田百合香先生(以下、岡田)残念ながらその通りで、ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の学習目標と照らし合わせてみるとよくわかります。
――学校では、なかなか具体的には教えてくれないと聞きます。
岡田 日本では性教育というと性交渉に関することだけだと思われ、「子供にそんなことを教えるなんてとんでもない。早すぎる」などと否定的な反応が起こりがちです。だから、たまたま身近に正しい知識を伝えようとする先生または保護者がいる場合だけ知識を得ることができるのが現状です。
――家庭環境こそバラバラですから、あらゆる子供が自分の身を守れるようにするためには、学校で性に関して教えてもらえるといいですよね。
岡田 そう思います。保健体育などの授業で教えるのはもちろん、例えば子供たちが下ネタ話を大声でしたり、おちんちんのつかみ合いをしたりなど学校は性教育的な介入が必要な事例の宝庫です。同年齢の子どもたち同士で一緒に考え意見を交わすというのも家庭ではできない非常に有意義な性教育の機会になります。
「保護者からのクレーム」を恐れて性教育に消極的な学校もあるため、「もっと学校で性について伝えてほしいです」という要望を伝えることは、大切なアクションだと思います。
■本当に大事なのは「しないようにさせる」ではない
――岡田先生は、高校で性教育の授業をされているとお聞きしました。どんなことを教えられているんですか?
岡田 性教育は非常に幅広いジャンルを扱うわけですが、時間も限られますので「性行為」についての知識・情報をお伝えすることをメインにしています。私は、高校生でも性行為の実態があるという前提でお話しています。性行為自体は本来悪いことではありませんが、妊娠や感染症、暴力などのリスクが伴う。これらを避けるためにはどうしたらいいのか、ということを具体的に教えています。
性行為の先にあるリスクまで見据えての教育
――具体的に教えることに抵抗のある学校、家庭もありそうです。
岡田 先生に「性行為をしない方向に生徒たちを誘導してほしい」と言われることもあります。でも、子どもたちを脅かして性行為から遠ざけることを目的とした話の展開はしません。性行為のメリット、デメリット、リスクとその回避方法について事実を伝え、そのうえで性行為をするかしないか、タイミングはどうするのかの判断材料となるような情報を伝えるのが私の役割だと思っています。
――正しい知識を伝え、当事者である子供が適切に判断できるようにするわけですね。
岡田 例えば、自動車の運転は行動範囲が広がるというメリットがありますが、一方で交通事故で誰かを傷つけるリスクが伴います。なので免許制度があり、自動車学校で、どうしたら事故を避けられるか、そして事故が起こってしまったらどうするか――警察を呼ぶ、被害者がいたら応急処置をしたり救急車を呼ぶなど――について学びますよね。運転するのなら「事故を起こさないようにする方法」と「起こしてしまったときにどうするか」は必要不可欠な知識とスキルです。
子どもに性の知識とスキルを伝えずに、大人になったら「お好きにどうぞ」という現状は、無免許運転させることと同じくらい危険で無責任だと思います。
■息子に「彼女いるの?」がダメな理由
――学校で性教育を受ける機会がない場合、家庭でどんな風に教えたらいいでしょうか。
岡田 上から目線で知識や考えを押し付けるのではなく、子供を一人の人間として尊重し、「こういうことは親から聞きたくないかもしれないけど、あなたを守るために知っておいてほしい」と話すのはどうでしょうか。性交渉には様々なリスクがあること、その予防の仕方、もしも困ったときの対処法などを具体的に伝えてみてください。家庭内ですべてを伝えるのは難しいでしょうから、性教育の本やWEBサイトを見せてもいいと思います。
子供の恋人、親として気になったら
――特に子供に恋人がいる場合、気になる保護者も多いかもしれません。
岡田 そういう場合、決して「彼女/彼氏いるの?」「変なこと(性交渉)してないでしょうね?」などとは聞かないほうがいいでしょう。そもそも「彼女いるの?」と聞くと、子供のセクシャリティを決めつけていることにもなります。
――不用意に聞くと、「ウザ!」「キモい!」とかって言われてしまいそうですね。
岡田 言われるかもしれません(笑)。思春期以降は特に、親子であっても距離感が大切です。普段から、子供が自室や脱衣所にいるときはノックして許可があってから入る、失礼なことを言わない、頭ごなしに否定しない、自分の価値観を押し付けない、秘密を守る、からかわない……といった他人に対して当たり前のようにしている配慮やマナーをわが子に対しても忘れずに。そうすれば、信頼関係を築きやすくなるはずです。
――子供から信頼されていれば、性について知りたいことがあるとき、恋人とのことで悩んだとき、話してくれるかもしれませんね。
岡田 はい。「この人は自分のことを否定せずに話を聞いてくれる」と思える相手にしか、「性」の話はなかなかできません。性に限らず、普段から子どもの話をしっかり聞いているか、自分の考えを押し付けていないか、振り返ってみたいですね。
親子の関係性も性格も価値観もそれぞれ違いますから、自分たちなりのよりよいかたちを試行錯誤しながら見つけてみてください。そして、その時もっとも大事なのは「不安なことがあれば、いつでも頼ってほしい」と子供に伝えることです。思春期の親御さんは過干渉になるのではなく、「あなたの味方だよ、必要があれば全力で助けるよ」という姿勢でいてほしいですね。
(解説:岡田百合香、取材・文:大西まお)