
【医師監修】妊婦の足がつる原因は? 妊婦のこむら返り予防と対処法
夜の就寝中にふくらはぎの痛みで夢から覚めたり、朝目覚めて体を伸ばした瞬間に痛みが走ったり……突然、足の筋肉が痙攣(けいれん)する「足がつる」「腓返り(こむらがえり)」という症状。ビックリしますね。もちろん痛さも相当で不快なものです。この「足がつる」という症状は、妊娠に関係して起きやすくなることがあるようです。
妊娠すると足がつりやすくなる理由

妊婦した女性の40~60%が足がつりやすくなると言われています[*1]。 その頻度は、妊娠の初期や中期は比較的まだ少なく、妊娠後期、週数が進むにつれて多くなります。そして出産後の産褥期には、足がつる頻度がふだんと同程度に戻ります。
では、妊婦さんはなぜ足がつりやすくなるのでしょうか。その原因は実はまだよくわかっていません。現在のところ、以下に挙げる複数の事柄が関係しているのではないかと推測されています。
お腹が大きくなることによる負担増や疲れ
妊娠中、とくに妊娠後期の週数が進むほど足がつりやすくなると言われており、その原因としてお腹が大きくなることが関係していると考えられます。
妊娠8ヶ月から10ヶ月にかけては胎児の体重がほぼ2倍に急成長します。お腹が大きくなって体の重心が傾きやすくなるために足に負担がかかりやすくなり、筋肉の疲労を増やすと考えられます。
足の血流の悪化
筋肉が痙攣する原因としては、激しい運動のほか、筋肉に血液が滞ることが関係していると言われています。実際、妊娠後期になると大きくなった子宮によって足の静脈が圧迫され、足の静脈の血流量が約2.5倍に増加すると言われます[*2] 。
また、妊娠に伴いホルモンの分泌が大きく変わることも、血流の悪化の一因になります。妊娠によって増加するプロゲステロンという女性ホルモンには、静脈血管壁の緊張を低下させる働きがあり、そのために静脈が拡張しやすくなります。
血液が薄まる
妊娠が進むにつれて、赤ちゃんに必要な酸素や栄養を送り届けるため血液の量は増えるのですが、それに伴って血液が少し薄くなってきます。血液が薄くなると浸透圧の低下という現象が起き、それが筋肉の痙攣を起きやすくする可能性もあります。
カルシウム、ビタミンDの不足
足がつると訴える妊婦さんにカルシウムを処方したら足がつりにくくなった、という報告があり、足がつる原因としてカルシウム欠乏が関係しているという説もあります。
病気が原因のことも
注意が必要なのは、足のつりが「何らかの体の異常や病気の影響」で起きている場合です。
例えば、脱水、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、不安発作、血行の障害、あるいは子癇(しかん)などです。自分では原因はわからないので、足がしょちゅうつる人やひどく痛む場合は、医師に相談することが安心への近道です。
足がつりやすい妊婦の特徴


全ての妊婦さんが足がつりやすいわけではありません。足がつりやすい人の共通する傾向についてみていきましょう。
体重が急に増加した人
足がつりやすくなったと訴える妊婦さんに多く見られる特徴として、妊娠に伴う体重増加が大きく、特に妊娠中期後半~後期に急速に体重が増えたケースがあります。体重増加が足の筋肉への負担を大きくしていることが関係していると考えられます。
赤ちゃんが大きい
前記の体重が増えることにも関係しますが、妊娠中に足がよくつる妊婦さんは、妊娠中期では腹囲が、末期では赤ちゃんの頭の大きさ(BPD。児頭大横径)が大きいことや、実際に生まれた赤ちゃんの体重が大きいことが報告されています[*2]。
運動量が少ない
また、妊娠中の運動量が少ない人で足がつるという訴えが多いことも報告されています[*2]。運動量が少ないと、足の血流が滞りがちになることが関係していると考えられます。
足がつったときの対処と予防法


では、いざ足がつった! というときはどうすればいいのでしょう。
対処:爪先を上に向けてふくらはぎを伸ばす
効果的なのは、痙攣している筋肉を伸ばすことです。
例えば、爪先を上に向けてふくらはぎを伸ばすといいでしょう。その時、手で足の指を持ち上げるのも効果的です。または、膝がしらを押し下げるように、膝から下を手で後ろに押し曲げてもいいです。
寝ている時につった場合、これらの動作を寝たままではなく、立ち上がってやった方が治まりやすいこともあります。一度試してみてください。
足がつるのをできるだけ予防するには?


足がつりやすいという場合、その原因として前に挙げたような異常や病気の可能性がないとわかっていれば、基本的には治療を必要とするものではありません。
とはいっても不快のものですから、少しでも減らしたいものですね。足がつりやすくなる原因の1つ1つに対応し、次のような方法が予防につながると言えます。
予防法(1):体重増加に少し注意する
恐らく、体重管理が最も重要と考えられます。妊娠中の適切な体重管理で、足の筋肉への負担を減らしましょう。
予防法(2):適度な運動をする
適度な運動によって、足の筋肉の血流がよくなります。 妊婦体操をするときには特に足や爪先に時間をかけるようにしましょう 。逆に、長時間の歩行などは筋肉の疲労につながり、足がつりやすくなってしまいかねませんので、疲れの残らない程度にしてください。
予防法(3):履きやすい靴を履く
足の負担を軽くするため、ヒールが高すぎず低すぎない、ちょうどよい履きやすい靴を選んで履きましょう。 妊娠中の履物選びは、転倒防止のためにも大切です。
予防法(4):食事でビタミン・ミネラルを摂る
ビタミンB1、ビタミンD、カルシウム、マグネシウムなどが不足しないように気をつけてください。
反対に、カルシウムの排泄を促進してしまうリン酸を含んだ食物は控えたほうがいいかもしれません。リン酸はハムなどの加工品や食品添加物として使われています。
予防法(5):足の血行をよくする
血行がよくなるように入浴などで足を温め、マッサージをしてみてください。寝る前にふくらはぎを伸ばすようなストレッチをするのもいいでしょう。 弾性ストッキングを試してみてもいいかもしれません。
予防法(6):水分を十分に摂る
水分不足だと筋肉が痙攣しやすくなります。その予防のため、水分を十分に補給してください 。ただ、冷たい飲み物は体を冷やして筋肉を硬くしたり血液の流れを悪くしたりしかねないので、控えめにした方がいいかもしれません。
予防法(7):十分に睡眠をとる、疲れをためない
足がつる原因として疲れの影響が考えられるので、十分に睡眠をとって、疲れを解消してください。
医師に相談のうえ漢方薬を試すのもあり
漢方薬の中で、「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」の有効性の報告があります 。試す前には医師に相談してください。
まとめ


お腹が大きくなるとその分足の筋肉に負担がかかるため、特に妊娠中期・後期には足がつりやすくなります。また、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルが不足することも足がつる要因に。できるだけ症状を予防するためにも長時間の立ち仕事などは避けて筋肉の負担を減らすよう努め、また水分やミネラルが不足しないよう心がけましょう。
どうしても頻繁に足がつって困っているときは、かかりつけの産婦人科医に相談してみましょう。
(文:久保秀実/監修:浅野仁覚先生)
※画像はイメージです
[*1]ペリネイタルケア(メディカ出版)26(6),p582,2007
[*2]母性衛生(日本母性衛生学会)42(4),p693.2001
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます