【医師監修】妊娠初期にカフェインにはどんな影響が?コーヒーは我慢⁉︎
食後の1杯のコーヒーが習慣という人も少なくないと思いますが、そんな生活の中で妊娠に気がつくと、「妊娠に気づかずに飲んでいたもの、食べていたもの」が赤ちゃんに影響するのではないかと、心配になるかもしれません。妊娠初期のカフェインとの付き合い方と、妊娠中の食べ物・飲み物ルールをまとめます。
妊娠に気づかず飲んでいた“食後のコーヒー”に心配は無用
妊娠に気づくと、妊娠中の食事や生活上の注意点について調べることも多いことでしょう。そして、注意しなければならない成分の中に「カフェイン」があるとわかって、妊娠を知らずに飲んでいたコーヒーや、おやつで食べていたチョコレートを思い出して心配になる人もいるかもしれません。
結論から言うと、食後に1杯のコーヒーを飲んだり、おやつにつまむ程度のチョコレートならば、カフェインの影響を心配する必要はありません。妊娠期間中も、カフェインを含む食品などをまったくとってはいけないわけではないので、適量について知っておきましょう。
妊婦のカフェインとりすぎはなぜダメ?
妊娠中は、ママがとったカフェインが体に留まる時間が通常より長くなるため、体への影響が大きくなりやすく、赤ちゃんへの影響も懸念されています。
海外の研究で、妊娠中のカフェインの過剰摂取は胎児の発育遅延や出生児の低体重、流産と関連する可能性が示されているのです。
そこで海外の各機関は妊娠中のカフェイン摂取量の上限を1日当たり200~300mgにするよう勧めています。
ちなみに、カフェインが200mgとはマグカップ2 杯程度のコーヒーに含まれる量です(コーヒー100ml:60mgのカフェイン含有)。
日本は、カフェインに対する感受性は個人差が大きいので、健康への影響を一概に言えないとしてカフェインの摂取許容量を定めていません。しかし、厚生労働省や食品安全委員会は海外の研究や世界保健機関(WHO) の見解を示し、これらに準じて妊婦のカフェインのとりすぎに注意を促しています。
◆厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html
◆食品安全委員会「食品中のカフェイン」
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/caffeine.pdf
妊娠中の食べ物・飲み物ルール「お・か・し・す・き」
妊娠中に守りたい食生活のルールを覚えやすくラインアップしてみました。頭の隅に置いておき、安全でおいしく、楽しい食生活を続けてください!
「お」 お酒は我慢
妊娠中にアルコールを摂取することは、時期や量に関係なく、ママと赤ちゃん両方に悪影響が出る可能性があります。「何ml以下の飲酒量であれば胎児に影響がない」というような安全な量や時期はないので、妊娠に気づいたときからお酒はやめておきましょう。
「か」 カフェインはほどほどに
先に述べた通り、カフェイン摂取はほどほどに。コーヒーやお茶以外にも、エナジードリンクや栄養ドリンク、菓子など、カフェインを含むものは成分表示を確かめ、適量を超えないように注意しましょう。
なお、ほかにも“ほどほど”に気をつけたいものが2つあります。
ビタミンA
ビタミンAはおなかの赤ちゃんの発達にとっては必要な栄養素で、ママも赤ちゃんも体内で合成することができないため、ママが適切に食事から摂取する必要があります。
しかし、ビタミンAは肝臓などに蓄積され、とりすぎると過剰症になる可能性がある栄養素の1つです。過剰摂取による健康被害が報告されているのは、多くの場合サプリメントでの大量摂取などによるもの[*1]ですが、レバーなどのビタミンAを多量に含有する食品を摂りすぎると、過剰摂取になることがあります。
妊娠初期(特に妊娠3ヶ月以内)の妊婦が一日3,000μgRAEを超えて摂取した場合は、赤ちゃんに先天異常が起こる可能性があるという報告があります。18歳以上の女性の場合、耐用上限量(1日にこの値を超えて摂取すると、過剰症のリスクが発生する量)は2,700μgRAEなので、これを超えないようにしましょう。妊娠中は普段以上に気をつけてバランスのよい食事を心がけましょう。
なお、妊娠中に摂取が推奨される葉酸を総合ビタミン剤でとろうとすると、ビタミンAの過剰摂取になることもあるため、葉酸単体での摂取が推奨されています[*2]。
こういったリスクを避けるため、サプリメントの利用は医師または薬剤師に相談してからが安心です。
スナック菓子や菓子パン
食べすぎるとカロリー、糖分、塩分、油分のとりすぎになりやすい食品です。成分表示を確かめて、適度に楽しむようにしましょう。カロリーや栄養素などの摂取量については自分にとって望ましい量を主治医に聞き、妊娠期間中を通じて管理していきましょう。
「し」 しっかり洗う・加熱する
妊娠中は食中毒などにかかると、非妊娠時と比べて重症化する場合があり、原因となる菌や虫によっては赤ちゃんへの感染や健康被害・発達遅延、早産、死産などの影響が出る場合があります。食中毒を予防するための基本が「しっかり洗う・加熱する」の2点。特に次の3つの菌について知っておき、気をつけましょう。
厚生労働省が「これからママになるあなたへ~食べ物について知っておいてほしいこと~」として食中毒予防を呼びかけています。
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/dl/point.pdf
リステリア菌 [*3]
リステリア菌は4℃以下の低温や、12%の食塩濃度下でもゆっくりと増殖する菌です。つまり、冷蔵保存や塩漬けなど、食中毒の原因菌が増えにくいと思えるような状況下でも増える恐れがあるということ。
リステリア食中毒を起こすと、悪寒・発熱・筋肉痛などのインフルエンザのような症状が出て、重症化すると髄膜炎や敗血症を起こることもあります。また、妊娠中の感染では、流産・早産や出生児への影響のリスクが生じます。
原因となる主な食品は
生ハムやサラミなどの食肉加工品
未殺菌の牛乳やナチュラルチーズなどの乳製品(加熱処理されていないもの)
スモークサーモンやちくわ・かまぼこなどの魚介類加工品
生野菜サラダやコールスローサラダなど
冷蔵庫に長期間保存され、加熱せずにそのまま食べられる食品は原因になる可能性があるので注意が必要です。賞味期限を守り、食べる前に十分に加熱して食べましょう。
厚生労働省「これからママになるあなたへ~食べ物について知っておいてほしいこと~」リステリア菌について
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/dl/ninpu.pdf
トキソプラズマ [*4]
トキソプラズマという寄生虫による感染症です。
後天的に健康な大人や小児が感染しても発症しないことが多いとされますが、発症した場合は感染した時期やその人の状況により異なる多様な症状が出る可能性があるとされています。
ママが妊娠中に初めて感染すると、胎盤を通じて赤ちゃんに感染し「先天性トキソプラズマ症」となる可能性があります。赤ちゃんへの影響は一概に言えず、症状が現れない場合もあるものの、流産・死産につながることや、赤ちゃんの成長過程で遅れて発症するリスクもあるとされています。
トキソプラズマの感染経路は、次の3つが代表的です。
①感染している肉(豚、羊、山羊)を生または十分に加熱しないで食べる(加熱処理されていない生乳も)
②感染しているネコの糞に触れる
③素手で砂場遊びやガーデニングをして、汚染された土砂に触れる
妊娠中はこれらを避け、また、原因となる可能性のある食品を食べるときは、中心部までしっかりと火を通しましょう。生肉に触れた調理器具をよく洗うことも忘れずに!
参考:国立感染症研究所「妊婦さんおよび妊娠を希望されている方へ」先天性トキソプラズマ症
https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/2211-disease-based/ta/toxoplasma/para/3010-toxo-pregnant.html
サルモネラ菌 [*5]
動物の腸内など、自然界に広く分布し、乾燥にも強い菌です。
食中毒を起こすと腹痛、下痢、発熱、おう吐などの症状が出て、重症化すると意識障害やけいれん等の中枢神経症状、脱水症状が現れます。
感染経路は、食品としては卵とその加工品、食肉(特に内臓類)の生食、スッポン、うなぎ、珍味(イカ菓子)などで、一方でイヌ、ネコ、ミドリガメなどペットとの接触感染もあります。
予防のため、肉や卵は冷蔵庫で保存して新鮮なものを十分に加熱してから食べる、調理器具はしっかりと洗浄する、ペットに触れた後は十分に手洗いする、などを徹底して行いましょう。
「サルモネラ菌に関しては、ママへの感染が赤ちゃんに直接影響することはないと考えられています。しかし、ママの体調が著しく悪化することは、妊娠の経過などに悪い影響を及ぼす可能性があることなので、予防的な生活を続けてください」
「す」 水銀を含む魚類に注意
バランスのよい食生活のために欠かせない食材の1つが魚類ですが、魚類に蓄積された水銀を体に取り込む量が多すぎると、赤ちゃんに影響が出ることがあります。水銀が含まれる量は魚によって異なるので、妊娠中は食べる魚の種類と量に気をつける必要があります[*6]。
ツナ缶、サケ、アジ、サバ、イワシ、サンマ、タイ、ブリ、カツオなど、特に注意が必要ではない魚類もある一方、インドマグロ、マカジキ、メカジキ、メバチマグロ、クロマグロ(本マグロ)、キンメダイなど1週間のうちの摂取量を半人前から1人前に控える必要がある魚類も。
なお、妊娠初期に、妊娠に気づかず水銀に注意せず魚を食べていたとしても、問題ないと考えられています。妊娠に気づいた時点からでいいので、注意し始めましょう。
参考:厚生労働省「お魚について知っておいてほしいこと」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/100601-1.pdf
「き」 気になるときはまずは主治医に相談
食事の内容のほか、サプリメントや健康食品の利用などについて不明な点、不安なことがある場合は主治医に相談してアドバイスをもらいましょう。
まとめ
妊娠期間中も、とりすぎに注意しながらであれば、嗜好品を楽しむことはできます。ほかの点でも医学・科学的な根拠のある情報に基づいて、安全の目安を知り、安心な食生活を続けるために、主治医や助産師とコミュニケーションをとりながら、体調や生活上の疑問などを解消していきましょう。
(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)
※画像はイメージです
[*1] 日本人の食事摂取基準2020,p175,厚生労働省,2020.
[*2] 産婦人科診療ガイドライン―産科編, p91,日本産科婦人科学会, 2017.
[*3] 厚生労働省 リステリアによる食中毒
厚生労働省 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 乳肉水産食品部会資料
[*4] 国立感染症研究所「妊婦さんおよび妊娠を希望されている方へ」
国立感染症研究所「トキソプラズマ症とは」
食品安全委員会「寄生虫による食中毒にご注意ください」
[*5] 公社日本食品衛生協会「サルモネラ食中毒」
食品安全委員会「畜産物等食品を由来とする人獣共通感染症の発生に係る緊急事態に備えた食品の安全性の確保に関する調査」報告書
[*6]
厚生労働省「お魚について知っておいてほしいこと」
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます