【医師監修】妊婦にローストビーフは何が危険なの?レアステーキや生ハム、サラミも要注意ってほんと!?
妊娠中、毎日の食の安全に気をつけている人が食べてもいいか、判断に迷うメニューもあります。その1つがローストビーフ。完全な生の肉ではありませんが、出産まで安全な食を守るためにどのように考えると良いのか、ヒントをまとめます。
妊娠中にローストビーフを食べてもいい?
ローストビーフはイギリスの伝統的な料理ですが、最近はレストランだけでなくスーパーのお惣菜売り場でも見かける、とても身近な肉料理です。
適切な方法で調理されたローストビーフはその名の通り「焼いた肉」で、焼き目のついていない部分にも火が通っている料理です。生肉ではないわけですが、妊娠中に気をつけたいトキソプラズマなど寄生虫感染や食中毒のリスクがないとはいい切れません。
なぜなら、日本の食品衛生法の加熱殺菌基準の分類でローストビーフは「特定加熱食肉製品」に当たり、「材料の肉塊の中心部を63℃で瞬時またはそれと同等以上の加熱する」など細かく基準が定められていて[*1]、肉の旨味や柔らかさを保つためにこれ以上の加熱は避けて調理されていることがあると考えられます。
しかし、食肉のトキソプラズマの感染する能力をなくす(不活化する)には、「中心部が67℃になるまでの加熱(あるいは中心が-12℃になるまでの凍結)」が必要とされ[*2]、加熱が不十分な場合や材料の牛肉が冷蔵処理されていた(冷凍されていない)場合、病原虫の感染能を排除できていない可能性があるのです。
「妊娠中に限っては、たくさんの肉料理の中であえてローストビーフを選ぶこともなく、避けるのが無難でしょう。また、家庭では加熱温度管理など適切な調理が難しい料理なので、自家製についてもNGと考えましょう。」
なお、先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」は「妊娠中の感染予防のための注意事項 – 11か条」内で「妊娠中に食べないよう勧める食品リスト」にローストビーフを加えています。
参考:トーチの会
「妊婦さんへ 妊娠中の母子感染を防ぐための11か条」
https://toxo-cmv.org/for_maternity/
トキソプラズマ症とは?
トキソプラズマ症はトキソプラズマという病原虫が原因の感染症です。感染経路としては主に、加熱処理が不十分な肉、土や猫のフンなどがあります。妊娠中の女性がトキソプラズマに初めて感染すると、トキソプラズマが胎盤を通じて赤ちゃんに感染し、先天性トキソプラズマ症になる可能性があります[*2]。その場合、流・死産につながることもあり、また、赤ちゃんの症状が現れないケースから重い症状が現れるケースまで、さまざまだとされています。
赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症となった場合、「水頭症」「視力障害」「脳内石灰化」「精神運動機能障害」が4大徴候と報告されていて、その他、リンパ節腫脹、肝機能障害等が見られることもあります。生まれてすぐは感染が分からなかった場合も、眼の病気などが成長過程で遅れて発症するリスクがあるとされます。
赤ちゃんへの感染率は妊娠後期になるほど高いですが、胎内感染が起きた場合の重症度は妊娠初期ほど高いので、妊娠全期間を通じて感染しないための注意が大切です。
トキソプラズマの検査があるの?
トキソプラズマが問題になるのは、「妊娠中に初めて感染した場合」。妊娠前にトキソプラズマに感染したことがなければ抗体を持っていることはなく、日本人の妊娠可能な年代の女性の場合、感染したことがない(抗体を持っていない)人がほとんどです[*3]。
トキソプラズマ抗体の有無は「トキソプラズマ抗体検査」を行えば、はっきりわかります。この検査は標準的な妊婦健診の検査項目ではないものの、希望すれば多くの産婦人科で受けることができます。予防的に抗体の有無を調べる場合、費用は自己負担となり1,000〜2,000円程度です。
検査を受けて「陰性(抗体がない)」の判定が出たら、トキソプラズマに感染したことがないということなので、妊娠中に感染しないよう予防に努めます。
トキソプラズマ感染を防ぐには、他の食中毒の予防と同様、①安全な食品・調理環境を選ぶ、②よく洗い、しっかり加熱して食べるといったことです。
参考:厚生労働省
「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/dl/point.pdf
一方、検査の結果「陽性(抗体がある)」の場合は、さらに感染時期の推定や赤ちゃんへの感染の有無についてより詳しい検査を行い、必要に応じて治療を行います。
トキソプラズマ抗体検査を希望する場合や、必要性について考えたいときは主治医に相談しましょう。
ほかの食中毒のリスクもある?
リステリア菌は4℃以下(つまり冷蔵庫の中)や12%の食塩濃度下でも増殖する菌で、過去には市販品のローストビーフからリステリア菌の汚染が報告されています[*4][*5]。
食中毒の中で「リステリア症」は比較的まれなものの、病死亡率が高いので予防が広く呼びかけられています。また妊娠中の女性は、その他の健康な成人と比べてリステリア症の感染率が20倍も高く、風邪のような症状だけで治ることもある一方、胎盤を経て赤ちゃんに感染した場合に影響が出ることもあります[*6]。
胎盤を経て赤ちゃんに感染した場合、早産や流・死産の原因になることがあるだけではなく、赤ちゃんが低出生体重児となる可能性や、髄膜炎や水頭症、敗血症、精神・運動障害などを起こす可能性が指摘されています[*5] [*7]。
レアステーキ、生ハム、サラミも危険?
まとめ
妊娠中には普段に増して食の安全に注意が必要です。ローストビーフだけでなく、安全を脅かす可能性が否定できない場合は、妊娠中に限って控えておくのが賢明でしょう。トキソプラズマをはじめ防ぎたい食中毒などについて疑問や検査の必要性については主治医と相談しながら、安全で、自分が安心できる備えをして、おいしく、健やかな食生活を続けてください。
(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)
※画像はイメージです
[*1]大阪検疫所食品監視課
[*2]国立感染症研究所
[*3]国立感染研究所「トキソプラズマの抗体検査」
[*4] リステリア症の発生状況と 国内の食品における汚染状況
[*5]厚生労働省「リステリアによる食中毒」
[*6]厚生労働省検疫所 リステリア症 (ファクトシート),2018
[*7]食品安全委員会 食品中のリステリア・モノサイトゲネス
※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます