【医師監修】妊婦の便秘解消法 | 効果的な食べ物&運動について
「妊娠に便秘はつきもの」といえるほど、妊娠中は便秘に悩まされるものです。しかし、便秘を甘くみていると思わぬ事態を招くことも。 便は健康のバロメーター。マイナートラブルとあきらめず、できることを少しずつ試しながら、便秘予防をしていきましょう。
妊婦が便秘になりやすいのはなぜ?
便秘とは数日間排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態のことで、 一般に女性は男性よりも便秘になりやすいとされています。
理由としては、女性は腸のまわりの筋肉が男性よりも少なくて弱いことや、骨盤の形状の違い、月経周期によって分泌される女性ホルモンの影響など、さまざまな要因があげられます。
妊娠期間中は女性ホルモンの分泌が増えるため、特に便秘になりやすいとされていますが、妊娠後期になると子宮が大きくなることによって腸が圧迫されるという物理的な要因も加わるので、さらに便秘になりやすくなるといえるでしょう。
ホルモンバランスの変化が大きな要因
女性には月経周期をつかさどる女性ホルモンの分泌サイクルがありますが、妊娠により体内のホルモンバランスに大きな変化が起こります。
そのひとつが、プロゲステロンというホルモンの増加です。おもに卵巣にある黄体でつくられるので、黄体ホルモンとも呼ばれています。
まず、プロゲステロン は排卵後に増加し、子宮内膜を受精卵の着床に適した状態に変化 させるなどの妊娠準備を促します。
また、消化管の収縮を抑制する作用もあるため、プロゲステロンが増加する、排卵後から月経が始まるまでの1~2週間 も便秘になりやすい傾向があります。
排卵後、妊娠しなかった場合は次の排卵後までプロゲステロンはあまり分泌されませんが、 妊娠した場合は胎盤から 妊娠期間中に右肩上がりで分泌され続け 、さまざまな作用で妊娠の維持に役立ったり、妊娠中の排卵を防ぐ、産後のおっぱいの準備といった非常に重要な 働き を担っています。
プロゲステロンには、消化器の 筋肉や靱帯を緩めて子宮が大きくなることに備えるといった作用もありますが、この作用のために 「大腸平滑筋」とよばれる、大腸を動かすための筋肉まで緩んでしまいます。そのため妊娠中は腸のぜん動運動が弱まって便がなかなか排出されないようになり 、水分を吸収され過ぎてしまった便がどんどん硬くなるということが起こりやすくなります。
これにより排便回数が少なくなっていき、不快な便秘の症状が現れることになります。
この、大腸の動きが弱まって起こる便秘は「弛緩性便秘」とよばれ、妊娠初期から産後まで続くことが多いといわれています。
子宮が大きくなることによる腸の圧迫も要因に
妊娠後期になると、大きくなった子宮と胎児が腸を圧迫するため、いっそう動きの悪くなった腸内に便が滞留し留まりがちになり 、「おなかが張って苦しい」「便が硬くてなかなか出ない」といった不快や不安を訴える妊婦さんが増えていきます。
つわりや運動不足が原因になることも
プロゲステロンの増加は、食道下部の収縮も抑制するため嘔吐しやすくなり、「つわり」の一因となります。
つわりによって食事や水分の摂取が不十分になると「脱水」症状になり、このことも便秘を促進させます。
また、不規則な食生活や運動不足も大腸の運動を低下させ、便秘の要因となることがあります。
妊娠中の便秘を予防するには
大腸の動きがどうしても鈍くなりがちな妊娠中、どうすれば便秘を予防できるのでしょうか。
それには食生活や運動といった生活習慣を見直してみることが大切です。
水分と朝食をしっかり摂る
大腸の運動が弱いことで起こる便秘に対しては、食べたものが腸に長くとどまらりすぎないよう、十分な水分と食物繊維の摂取を心がけることが基本です。
起床時の水分摂取は、腸を刺激し便意を促す作用がありますので、コップ1杯の水分を摂る習慣をつけましょう。
また、朝食はなるべく同じ時間帯に十分な時間で摂るようにし、排便リズムを整える習慣をつけましょう。
食物繊維も十分に摂り腸内環境を整える
妊娠初期には、つわりによって食べられない時期があるかもしれません。
もちろん食べられない時期は無理する必要はありませんが、 腸のぜん動運動を促すためにも食物繊維を含む食品をできるだけ摂るようにしたいものです。
食物繊維が多く含まれる食品には、ごぼう、にんじん、れんこんなどの根菜類、大豆などの豆類、ひじきやわかめなどの海藻類、きのこ類、モロヘイヤやほうれん草などの青菜 などがあります。
いも類、豆類には、腸の中で発酵し、ガスを発生させてぜん動運動を促進させる働きもあります。
主食も、より食物繊維を多く含む七分づき米、胚芽米、玄米などを上手にとりいれてみましょう。
腸内環境を整えるため、ヨーグルトや、日本の伝統食である発酵食品(味噌、納豆、漬け物など)をとり入れた献立を考えるのも良いでしょう。
適度に脂質を摂ることも大切です。脂質に含まれる脂肪酸によって大腸を刺激しましょう。
自然な排便リズムを促すような規則正しい食生活、栄養バランスがとれた適量な食品の摂取を、いつも心がけて過ごしましょう。つわりの時期は、ゼリーなどさっぱりしたものを少量ずつでも摂り、水分や栄養が不足しないように気を 配りたいものです。
排便習慣をつけよう
たとえ便意がなくても、朝食後など決まった時刻での排便が定着するよう、トイレに行くことを習慣化させましょう。これにより自然な排便リズムがつくことがあります。
適度な運動で腸のぜん動運動を促そう
妊娠中は精神的に慎重になり、まったく運動しなくなってしまう妊婦さんも多いかもしれません。
また、身体的にもお腹をかばいながらのアンバランスな姿勢では、とかく運動不足になりがちです。
実際、子宮の増大に伴い体の重心は前方に移動して、逆に脊椎は後方へ反り返るような姿勢となっていくため、腰痛や下肢が痛むことも少なくなく、運動どころではないかもしれません。
しかし、安静にばかりしていては、運動不足となり、便秘を引き起こす原因にもなります。
気持ちをリラックスさせてのゆったりしたウォーキングや、腹式呼吸をしながらのゆっくりとした柔軟体操など、力まずにできてお腹の負担にならない運動を工夫して行ってみましょう 。
椅子に座って行う腹式呼吸
せり出してくるお腹を気遣いながらでも、家の中で安全に出来る便秘対策として、椅子に座って行う腹式呼吸を紹介します。
(1)まず椅子にゆったりと腰掛け、膝に手を置いてリラックスした姿勢をとります。
(2)次に少しずつ背中を丸めていきながら、息を口から少しずつゆっくりと、長い時間をかけて吐き出します。
(3)全部吐き出したら、今度は背筋をのばしながら、鼻から息を吸っていきます。
これを何度か繰り返してみましょう。
ストレスをためないようにしよう
便秘は、精神的な要因から影響を受けてなることもあります。
極度の緊張や恐怖、悲しみなどの強い感情は、腸を動かし過ぎすぎたり逆に動きを悪くするといったぜん動運動の異常を起こすことがあるからです。
副交感神経が優位な時には腸の運動が活発になる といわれていますので、好きな音楽を聴いたりして趣味の時間を楽しむなど、気持ちをリラックスさせてストレスをできるだけ減らし、落ち着いた生活を送れるよう自分なりに工夫してみましょう。
症状がひどいときは医師に相談を
ここまでで紹介したような生活上の注意を守っていても、便秘になってしまうことはあります。
便秘を甘くみて状態を放置すると腸内環境が悪化し、下腹部の不快感、膨満感、腹痛、悪心、嘔吐などの症状があらわれることもあります。
また、便秘が悪化すると、便秘の合併症といえる、「痔」の症状まで起こりやすくなってしまいます。便秘により便が硬くなると排便時にいきまなくてはならなくなり、肛門周囲の粘膜の下の部分がうっ血を起こし、「痔」になるのです。
痔には外痔核(いぼじ)や裂肛(きれじ)などの種類があり、いずれも痛みや腫れ出血を伴い辛いものですが、これが進行すると痔核がしだいに肛門の外に出たり(脱肛)、ひどくなると直腸の粘膜まで肛門外に押し出されてしまうことさえあります(直腸粘膜脱)。
このような便秘による悪循環を防ぐために、最近便通の調子がよくないなと感じたら、悪化する前に妊婦健診時などで相談するようにしましょう。
産婦人科では、「塩類下剤」(酸化マグネシウムなど)が処方されることが多いようですが、これは大腸内の水分を増やして便を柔らかくする、比較的穏やかな作用の下剤です。
なお、市販の便秘薬には、センナなど腸を刺激する「刺激性下剤」がありますが、これは子宮の収縮を誘発し切迫流産や早産につながる恐れがあるため、妊娠中に便秘薬を服用する際は、必ず医師(または薬剤師)に相談してからにしましょう。
まとめ
妊娠により全身に変化があらわれる中、これまで経験したことのない便秘の症状が出てくるようになった妊婦さんもいるかもしれません。
たかが便秘と甘くみずに、妊婦健診の時などに辛い症状について相談してみましょう。予防のためには、妊婦さんが便秘になりやすい原因をよく理解し、深刻な状況を招かないように生活習慣を見直してみることも必要です。
水分と食物繊維の摂取を心掛け、朝食をしっかり摂る、排便習慣をつけることで生活リズムを整えるよう努力しましょう。
また、緊張や疲れなどによるストレス、冷えなどは、胃腸の動きを乱す原因となります。できるだけリラックスした気持ちで過ごせるよう工夫してみましょう。家の中で安全に出来る腹式呼吸や体操で無理なく体を動かすのもおすすめです。
あまり神経質になり過ぎないように、できることから少しずつ試していき、スッキリした毎日を過ごしましょう。
(文:上口晴美/毎日新聞出版MMJ編集部、監修:星真一先生)
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます