【医師監修】寝過ぎると胎児に悪影響? 妊婦の理想的な睡眠時間とは
夜しっかり眠っても、日中とても眠くなることがある妊娠中。休養は大切ですが、寝過ぎることで胎児に悪影響はないのでしょうか。ここではママの睡眠が胎児に及ぼす影響や、妊婦さんに必要な睡眠時間、睡眠の質を高めるためにできることを紹介します。
妊婦の睡眠時間と胎児の関係
どうしようもなく眠くてつい寝すぎてしまうと、もしかして赤ちゃんに何か影響があるのかもと心配になるかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか。
胎児へ悪影響なのは「睡眠不足」
胎児への悪影響が心配されるのは、寝過ぎよりもむしろ「睡眠不足」です。
妊娠中のママが睡眠不足になると、生まれた赤ちゃんの肥満のリスクを上げたり、高血圧の原因のひとつとなる可能性があります。
また、早産や産後うつ病、妊娠中の過剰な体重増加のリスクが高くなることもわかっています[*1]。妊娠中の睡眠不足は、お腹の赤ちゃんだけでなく、ママ自身にも悪い影響を及ぼす可能性があるのです。
妊娠初期に眠くなるのは自然なこと
妊娠初期に眠くなるのはよくあることで、おもに妊娠を維持するホルモン「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の影響と考えられています。
体温上昇で夜間寝つきにくくなる
このプロゲステロンには「体温を上昇させる作用」があります。眠気は脳の温度が下がるときに起こりやすいのですが、プロゲステロンによって体温が上昇していると、脳の温度がうまく下がらず、夜間に眠気がなかなか訪れないので睡眠不足になりがちです。そうなると、日中眠くて仕方がなくなってしまいます。
眠気を起こすメラトニンが減る可能性も
また、プロゲステロン含め女性ホルモンの変化は、睡眠リズムを調整し催眠作用がある「メラトニン」の分泌にも影響を与える可能性があると言われています[*2]。
実際、健康な女性で調べたところ、プロゲステロンの増える「黄体期(排卵後~生理が起こるまで)」には、「卵胞期(生理中~排卵前まで)」に比べ、1日に分泌されるメラトニンの量が少なかったと報告している研究もあります[*3]。メラトニン不足で夜間の寝つきが悪くなると、やはり日中は眠くなってしまいます。
また、プロゲステロンには体温上昇だけでなく、これ自体が脳の神経伝達物質「GABA」に働きかけて眠気を起こす可能性もあると言われています。そのために日中過度に眠くなる可能性もあります。
妊娠初期と後期はとくに眠くなりやすい
プロゲステロンは、妊娠が成立してすぐから増加しはじめ、出産まで右肩上がりに増加していきます。妊娠初期はおもにプロゲステロンの催眠作用や体温上昇作用によって、昼夜問わず眠気が強くなりますが、妊娠中期にはプロゲステロンの分泌場所が変わるために体温上昇は治まってくるので、比較的落ち着いてくることが多いようです。
妊娠後期になると、今度は大きくなったお腹や、子宮の収縮や胎動による違和感、頻尿、腰痛などにより夜中に何度も起きたりして、眠りが浅くなってしまいます。そのため、また昼間に眠くなってしまう傾向があります。
胎児にも早寝早起きのリズムをつけよう
おもにホルモンバランスが変化することによる影響で、妊娠中のママは睡眠の不調を感じることが多いのですが、実は、お腹の中では赤ちゃんも自分の睡眠リズムを整えようと頑張っているところです。
胎児も昼夜の違いを感じている
真っ暗な子宮のなかで、胎児に昼夜の区別を教えるのは母体から運ばれてくるホルモンです。さきほども触れた「メラトニン」というホルモンは夜間に分泌され、昼間はほとんど分泌されません。胎児は胎盤を通して母親からメラトニンを受け取ることで、昼夜の違いを感じていると考えられています。
また、胎児の眼球は妊娠14週ごろから動き始めることがわかっています。はじめは不規則で散発的ですが、やがて頻繁に動くようになり、妊娠30週ころには動いている時間と動かない時間がはっきり分かれるようになります。これは睡眠と覚醒のリズムができつつあることを示していて、妊娠35週ごろの胎児は新生児がノンレム睡眠のときに口を動かすのと同じような動きもするようになります[*4]。
妊娠中の生活リズムは赤ちゃんの睡眠に関係する
そのため、「妊娠中のママの生活リズムを整える」ことは、胎児の時期だけでなく生まれたあとの赤ちゃんの健やかな成長のためにも大切だとする専門家もいます。実際、妊娠後期に早く就寝し十分な睡眠をとっていた妊婦さんから生まれた新生児は、夜間より多く眠っていたと報告している研究もあります[*5]。
妊娠中、とても眠いからと昼間ずっと寝ているよりは、日中はできるだけ活動し、就寝時間はあまり遅くならないようにして、生活リズムを整えていきたいですね。
妊婦に必要な睡眠時間
妊婦だからこのくらいの睡眠時間が必要、という明確な基準はありません。次のことを参考に自分にベストな睡眠時間を見つけましょう。
理想的な睡眠時間は7~9時間以上
米国の国立睡眠財団(National Sleep Foundation)は18~64歳の推奨睡眠時間を「7~9時間」としています[*6]。これは健康な大人に推奨される範囲で、状況に応じてこの範囲より1時間増減してもいいとしています。
ただし、女性の場合は、女性ホルモンの影響で睡眠のサイクルが乱れがちで不眠症になる人も多いので、男性よりさらに長い睡眠時間が必要な場合もあると言われています。
「短時間の昼寝」は昼間の眠気軽減に有効
昼間の眠気をどうにかしたいときには「昼寝」をするのもおすすめです。ただ、長時間の昼寝をすると夜の寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりしてよく眠れず、翌日の昼もまた眠くなる悪循環になってしまうので注意が必要です。
心身を回復させるために短すぎず、昼寝のあとにかえって眠気を起こさない理想的な昼寝時間は「10~20分」程度と言われています[*7]。長くても30分以内にしましょう。さらに午後3時までにとるようにして、目が覚めたらすぐに起きて、だらだら寝続けないようにします。
睡眠時間を確保しつつ質も高める工夫を
充分な睡眠時間を確保すると同時に、睡眠の質を高めることも大切です。大人の睡眠には90分ごとのリズムがあり、寝ついてすぐに深い眠りに入り、朝方になると浅くなってきます。
眠り始めの深い眠りをしっかりとると、すっきり目覚めることができます。次で紹介することも参考に、できるだけ睡眠の質を高める工夫もしてみましょう。
妊娠中に睡眠の質を高めるためにできること
ホルモンの影響や大きくなったお腹に圧迫されること、マイナートラブルなどさまざまな原因で妊娠中は眠りが浅くなりがちです。睡眠の質を高めて、日中の眠気を防ぐためにできることを紹介します。
寝る前にスマホやテレビを見ない
寝る前にスマホやテレビを見ると、ブルーライトの刺激で脳が昼間と勘違いをして、眠気を誘うメラトニンの分泌が抑えられてしまいます。「就寝の30分以上前」からスマホやテレビ、パソコンの液晶画面は見ないようにしてください。
夜はリラックスタイムに
睡眠には自律神経も大きく関わっています。緊張したときや活動しているときに優位になるのが交感神経。リラックスすることで優位になるのが副交感神経です。
寝る前に緊張や興奮、不安があると、交感神経が優位になって体が活動する状態になるので、なかなか寝入ることができません。逆に眠気を感じるタイミングから副交感神経が優位になっていると、血圧や脈拍数が下がり、呼吸も緩やかになって眠りにつきやすくなります。夜にリラックスする時間を作ると、副交感神経を優位に切り替えてくれます。
お風呂にゆっくり入るなど夜はゆったり過ごすことを心がけ、特に寝る1時間前はリラックスタイムに。お茶を飲むことでもリラックスできますが、カフェインを含むお茶やコーヒーは夕方以降控えましょう。また、食事や運動は寝る2時間前までにすませておきましょう。
部屋の明るさ・温度・湿度を整える
液晶画面だけでなく、強い照明の光を浴びると、メラトニンの分泌量が低下することもわかっています。寝室はもちろん、夕食後に過ごす部屋の照明は明るすぎないようにしましょう。また寝室の温度や湿度は、エアコンも使用して快適に保ちます。
抱き枕を使用する
お腹が大きくなったら、仰向けより横向きで膝を曲げた姿勢の方が快適に眠れます。特に左を下に横向きになると、心臓や胎児、子宮、腎臓への血流を増やすことができると考えられています。
そのため、妊婦の睡眠時の姿勢として勧められているのが「シムス位」(左側を下にして寝て、左脚は伸ばし、右脚は膝を曲げて前に出す)という姿勢です。抱き枕があるとこの体勢がとりやすいので、上手く利用して体を支えましょう。
寝る3時間ほど前に軽い運動をする
「就寝の3時間くらい前」の夕方から夜の運動は、睡眠の質を高めるのに効果的と言われています[*8]。このタイミングで運動することで、就寝前に一時的に脳の温度が上がり、ベッドに入るころに運動しない場合よりも脳の温度が大きく下がるので、寝つきやすくなります。
ただ、就寝「直前」に運動をすると体が興奮して逆に寝つきにくくなるので注意してください。
妊婦さんにもおすすめの運動には、散歩や妊婦体操、ヨガなどがあります。好きな運動を夕方から夜の習慣にできるとよいですね。
朝日を浴びて朝食をとる
快眠を手に入れるには、朝の過ごし方も大切。産休に入っても朝は決まった時間に起きましょう。目が覚めたらすぐ起き上がって太陽の光を浴びます。朝一番に日光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜の決まった時間に自然に眠くなるようになり、寝つきが安定します。
起きる時間がバラバラになると、体内時計のリズムも定まらないので、毎日決まった時間に起きることがポイントです。簡単なもので構わないので、脳のエネルギーを補給し日中活発に活動できるよう「朝食」も欠かさずとるようにしましょう。
まとめ
妊娠中の眠気は多くの妊婦さんが悩まされることです。妊婦さんが眠くなりがちなのは自然なことなので、あまり心配しないで大丈夫。基本的には、夜できるだけ十分に深く眠れるよう工夫するとともに、日中に眠い場合は短時間の昼寝をとることで対策しましょう。夜はなるべく早く寝て睡眠時間を確保し、朝は決まった時間に起きます。昼寝は夜の睡眠に響かないよう、午後3時までに、長くても30分以内で切り上げるよう心がけて。ここで解説したように、ママの生活リズムはお腹の赤ちゃんにも伝わっています。無理する必要はありませんが、できるだけ規則正しく生活して、お腹の中にいるときから赤ちゃんにも健康的な生活リズムを教えてあげたいですね。
(文:佐藤華奈子/監修:直林奈月先生)
※画像はイメージです
[*1]米睡眠財団:「How Can You Sleep Better During Pregnancy?」
[*2]米睡眠財団:PMSと不眠症
[*3]Shibui K et al.: Diurnal fluctuation of sleep propensity and hormonal secretion across the menstrual cycle, Biol Psychiatry. 2000 Dec 1;48(11):1062-8.
[*4]赤ちゃん&子育てインフォ 6.おなかの赤ちゃんの睡眠
[*5]小児保健研究「妊娠末期から産後の母親の生活リズムと乳児の睡眠覚醒リズムとの関連」
[*6]米睡眠財団:「How Much Sleep Do We Really Need?」
[*7]米睡眠財団:昼寝
[*8]e-ヘルスネット:快眠と生活習慣
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます