【理学療法士解説】産後の運動はいつから? 体力向上・ダイエット向きのエクササイズ
出産後、赤ちゃんのお世話にも慣れてくると、妊娠中に増えた体重が気になってくる人も多いのでは。でも、産後はいつから運動しても良いのでしょうか。理学療法士の近藤先生に、産後におすすめの運動のやり方とともに解説してもらうので、参考にしてくださいね。
- <アンケート>産後の運動|いつからどんなものを始めた?
- <体験談>産後はいつ・どんな運動から始めましたか?
- 産後はいつから運動していいの? タイミングは?
- 産後3ヶ月は激しい運動は控えて
- それ以降も軽い運動で徐々に体を慣らす
- 帝王切開の場合は?
- 産後すぐ~3ヶ月ごろまでおすすめの運動
- 産後1、2週間|妊娠で伸ばされた部分を取り戻す運動
- 1ヶ月健診まで|育児の合間に無理なくできる運動
- 1ヶ月健診〜産後3ヶ月|徐々に体を起こして行う
- 産後3ヶ月以降|動きを伴う運動
- 気になる箇所別!産後におすすめの運動3選
- ぽっこりお腹を引き締める運動|インナーマッスルの運動と姿勢
- 妊娠前のズボンを履くために | お尻の運動
- 尿もれ予防にいい運動|骨盤底筋の運動
- 産後に運動するときの注意点
- くれぐれも無理しない!
- 順番を間違えると他の部分に負担が
- 出血や腰痛など異常を感じたらすぐに中止。必要に応じて受診を
- まとめ
<アンケート>産後の運動|いつからどんなものを始めた?
先輩ママに、産後、いつごろからどんな運動を始めたか聞きました。
<体験談>産後はいつ・どんな運動から始めましたか?
※マイナビ子育て調べ 調査期間:2020年9月16日~2021年10月4日 調査人数:147人(21歳~40歳以上の女性)の回答から抜粋 ※ここで紹介した方法と結果は、個人の体験によるものです。記載の方法を推奨したり、結果を保証するものではありません。
産後はいつから運動していいの? タイミングは?
産後は体型などが気になって、すぐにでもジョギングや腹筋などを始めたくなりますが、実はママの体はまだまだとてもデリケートな時期です。
いきなり激しい運動をすることで起こり得る弊害もあるので、始める時期と内容は少し考える必要があります。まずは運動を始めるタイミングとどんな内容で進めていくかについて解説していきます。
産後3ヶ月は激しい運動は控えて
産後6〜8週間くらいは「産褥期」と言われ、体が徐々に妊娠前の状態に戻ってくる期間です。この時期は、妊娠中のホルモン変動の影響も少し残っている状態で、関節のなかで骨と骨とを繋いでいる靭帯などもまだ柔らかい時期です。
また、妊娠中に大きくなった子宮の影響で、お腹の「腹横筋」や「骨盤底筋」といったインナーマッスルは伸ばされた状態になります。産後はこれらの筋肉の長さが戻るのにも数ヶ月かかるため、しばらくは自力で良い姿勢を保つことさえも難しい状態です。
この状態で、「ジョギングやなわとびなどの上下に激しく動くような運動」や「頭を起こしたり両足を持ち上げたりするような負荷の強い腹筋運動」を行うと、骨盤底筋にとってはかなり負担が大きく、「尿もれ」や「子宮脱」などのトラブルにも繋がりかねません。
また靭帯が柔らかい時期でもあるため関節にとっても負担となり、「膝」「股関節」「足首」「腰」「肘」「肩」などに痛みが出やすくなってしまいます。
それ以降も軽い運動で徐々に体を慣らす
インナーマッスル(腹横筋や骨盤底筋など)がうまく使えていない状態のまま負荷の強い運動を行うと、姿勢がうまく保てないため、本来使いたい筋肉をうまく使うことができません。腹筋運動で有名な「プランク」も、産後すぐではその姿勢を保てないので、腰や股関節など別の場所に過剰に負荷がかかり、痛みを起こす原因にもなります。
産後は、まず「仰向けの状態でゆっくり深呼吸をする」形での腹横筋のエクササイズや、「骨盤底筋を単独で動かす練習」からスタートし、徐々に座った状態や立った状態でもできるようにすすめていきましょう。
立った状態でも腹横筋や骨盤底筋を働かせることができるようになってから、いろんな種類の運動を無理のない範囲で行っていくと、体にとって負担も少なく、また効率よく体力や筋力UPが期待できます。
帝王切開の場合は?
帝王切開でのお産だった場合でも、「骨盤底筋のエクササイズ」や、「痛みのない範囲での深呼吸を用いたインナーマッスルのエクササイズ」などは体を動かさずにできるため、産後すぐから可能です。
動きを伴うような運動に関しては自己判断で始めず、必ず傷の状態を1ヶ月健診などで医師に確認してから行うようにしましょう。
また、傷が治癒する産後6週間くらいまでは、腹部に圧をかけないようにするために、赤ちゃんより重たいものを持ち上げるのは避けるように生活の中で気をつけておくことも大切です。
産後すぐ~3ヶ月ごろまでおすすめの運動
「妊娠中に伸ばされてしまった筋肉」や「妊娠中に姿勢の変化に伴って使わなくなり弱ってしまっている筋肉」などを使う運動、そして「産後の育児の中で徐々に負担がかかりやすい部分」を動かすようにしていくと、体への負担やトラブルを予防しながら効率よくすすめることができます。
ここからは、産後の時期別におすすめの運動を紹介します。
産後1、2週間|妊娠で伸ばされた部分を取り戻す運動
骨盤底筋のエクササイズ
1. 膝を立てて仰向けになります
2.「腰骨と恥骨を結んだ面」が床と平行になるようにします
3. お腹や足には力が入らないよう気をつけながら、「腟」を「おへそ」の方に引き上げるようなイメージで締めていきます
※わかりづらい場合は、「尾骨(尾てい骨)」と「恥骨」を近づけるイメージで。
※産後3ヶ月間は継続して行うのがおすすめです。
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インナーマッスルのエクササイズ
1. 膝を立てて仰向けになります
2.「腰骨と恥骨を結んだ面」が床と平行になるようにします
3. みぞおちやお腹に力を入れないように気をつけて、「はぁ〜」っと息を吐いていきます
※呼吸の音が聞こえるくらいで、のどを締めないように気をつけながら吐きます
4. 吐ききったら力を抜いて自然に息を吸います
※1回当たり10分くらいから少しずつ始めていきましょう
※お腹で押し出すように吐いたり、息を吐きながらお腹が徐々に膨らんでくるのは間違い。息を吐くと”自然に”お腹が凹んで行くのを感じてみてください
※産後3ヶ月間は継続して行うのがおすすめです
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1ヶ月健診まで|育児の合間に無理なくできる運動
肩周りのエクササイズ(授乳のあとに)
1. 座って胸の前で手を合わせます
2. 手を合わせたまま、肘が顔の正面に来るくらいまで手を上に動かします
3. 肘が顔の正面に来たら肘を開きます
4. 開いたまま、ゆっくり肘をおろしていきます
※イスでも床でも可能です。
※「背中がそらないよう」に気をつけながら行ってください。
※授乳のあとに行うと、肩こりの予防にもなります。
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インナーマッスルと骨盤底筋のエクササイズ
1. 膝を立てて仰向けになります
2. お腹に力が入らないようにしながら、「腟を少し引き上げる」ように意識します
3. 腟を引き上げる際にみぞおちに力が入らないように気をつけ、お腹で押し出さないようにしながら、「はぁ〜」っと息を吐ききります
4. 息を吐ききったら、力を抜いて自然に息を吸います
※産後1、2週間のインナーマッスルエクササイズとの違いは、2.で「腟を少し引き上げるように意識する」ことです
※「笑った時」や「咳・くしゃみの時」にお腹が膨らんで来ないようになるまで練習しましょう。
1ヶ月健診〜産後3ヶ月|徐々に体を起こして行う
お尻のエクササイズ(妊娠前のズボンが入らないお悩みに)
1. 立った姿勢で行います
2.「お尻の少しくぼんだ部分」に手を当てます
3. 手の部分が内側に寄るように「お尻に5秒」、力を入れます
※しっかり5秒力が入るようになったら、力が抜けないように10セットできるのを目標に行いましょう。
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座った姿勢でインナーマッスルのエクササイズ
1. お尻の骨の後側にタオルを置きあぐらで座ります
このとき骨盤は立てるようにします
2. あごが上がらないように後頭部を壁につけます。
このとき腟を少し意識します
3. 後頭部は壁につけたまま、お腹に力が入らないようにしながら「はぁ~」と息を吐きます
4. 吐ききったら自然に息を吸います
※息を吐くときに猫背にならないように気をつけてください
※吐いてもあまりお腹の動きが感じられない場合は、口を「イ〜」とし、歯の隙間から「シュー」っと息を吐くようにするとお腹の動きを感じられる人もいるので、試してみてください
※できるようになってきたら、徐々に壁から離れ、自分で姿勢を保ちながら行えるように練習していきましょう
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産後3ヶ月以降|動きを伴う運動
お尻上げ
※産後の時期に関わらず、上記のお尻のエクササイズで5秒×10回が可能になってから行います。
1. 膝を立てて仰向けに寝ます
2.「尾骨を丸め込む」ように、まず骨盤を後傾にします
3. 骨盤の角度を保ったまま、息を吐きながらお尻をゆっくり持ち上げます
4. 順番に「腰→背中」をもちあげ、「肩から膝までが一直線」になるようにして一呼吸します
5. 息を吐きながら「背中→腰」の順にゆっくりおろし、最後に骨盤を床につけます
※太ももの裏を使わず、お尻の力を使っていることを常に確認しながら行います。
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イスを使ったスクワット
1. イスに座った姿勢から始めます
2. 腟を意識して息を吐き、インナーマッスルを使いながら体を前に倒します。
この時、「腰骨を太ももに近づける」イメージで、骨盤ごと前に倒します
3. 息を吐きながらゆっくり立ち上がり、息を吸います
4. 腟を意識して息を吐きながら、腰骨を太ももに近づけるように体を倒し、坐骨の間を広げるように意識しながらゆっくりとイスにお尻をおろしていきます
※動作の間は息を吐いてインナーマッスルを常に使う意識で行います。
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気になる箇所別!産後におすすめの運動3選
産後は体型や尿もれなど、気になるところが色々出てきますよね。でも、通常の時期とは異なり、この時期のこうしたトラブルは妊娠期からの身体の大きな変化によって起こった結果なので、改善していくにしてもその点を踏まえてエクササイズすることが大切です。
産後のデリケートな体を気づかいながら取り組んでいくことで、安全に健康に「キレイ」を取り戻していきましょう。
ぽっこりお腹を引き締める運動|インナーマッスルの運動と姿勢
産後のぽっこりお腹は、気にしている方がとても多いですよね。これは、腹筋の中でも、内臓を支えたり、体幹を支えて姿勢を保つ役割の「腹横筋」というインナーマッスルが、妊娠中に大きくなった子宮で数ヶ月かけて内側から伸ばされてしまっているために起こっています。
伸ばされた筋肉は出産してもすぐには戻らず徐々に元の状態へと戻っていくので、産後もすぐにはお腹はぺたんこになりません。この腹横筋は、いわゆる頭を起こして鍛える腹筋運動では使うことができません。さきほど紹介したインナーマッスルのエクササイズを徐々に行っていくことで、お腹を引き締めることができます。
なお、ぽっこりお腹の改善には普段の姿勢も大切です。立っている時にお腹を突き出すような姿勢は、ぽっこりお腹をより目立たせてしまいます。
「ぽっこりお腹」を目立たせない普段の姿勢のコツ
1. 膝を伸び切らせずに立ちます
2. 骨盤が足のくるぶしの上に来るようにし、
3. 胸の位置をその上に持ってくるようにして、
4. 上に伸びるように姿勢をとると、お腹を使って立つことができます
妊娠前のズボンを履くために | お尻の運動
産後、お尻が大きくなってしまった、形が変わってしまった、広がってしまったなどのお悩みも多く聞かれます。
妊娠中に姿勢が変化することで、人によってはお尻の筋肉(大殿筋)を使わずに歩いていることがあり、そのために筋力が弱ってしまい、お尻の形が変わったように見えることがあります。
そんなときは、ここまでに紹介したお尻のエクササイズに加え、片足立ちの運動もオススメです。
片足立ちの運動
1. 立った状態から右のお尻に力を入れて
2. 左足をあげます
3. 右のお尻の力が抜けないように片足立ちをキープします
4. 左右をかえて交互に行います
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尿もれ予防にいい運動|骨盤底筋の運動
産後は尿もれが気になる方も多いです。尿もれの予防や改善に効果的なのが「骨盤底筋を鍛える」こと。適切に骨盤底筋を使えるようにしていきましょう。
骨盤底筋のエクササイズでは、これを動かそうとして腹筋に力を入れてしまっている方が多く見られます。これでは逆に腹圧によって尿もれを助長しやすいので、まずは骨盤底筋のみを正しく動かす練習がとても大切です。
詳しいやり方は最初に紹介した「骨盤底筋のエクササイズ」を参照してください。
なお、骨盤底筋は人によっては部分的に硬くなっていることもあります。硬い部分があると、うまく動かすことができず、動かした感覚が掴みづらいため、お腹や足に力が入ってしまうことがあります。自分でやっていてもなかなか動きがわからない場合は、専門家に相談をしてみましょう。
産後に運動するときの注意点
産後に運動するのは心身にとって、とても良いことなのですが、産後は身体の変化が大きい時期なので、下記の部分に注意しながら行ってください。
くれぐれも無理しない!
お産のときに会陰を縫った方や帝王切開など外科的な処置があった方は、寝て行う以外の運動を始める前に、必ず傷の治癒の状態を医師に確認してから行うようにしましょう。
また、急に激しいエクササイズを行うと体に対して負荷がかかりすぎるため、自分の体の声を聞きながら1ステップずつ徐々にすすめていくことがとても大切です。
順番を間違えると他の部分に負担が
「妊娠中に大きくなった子宮によって伸ばされた」「妊娠中に使わずに弱ってしまった」など、産後の身体は部分的に使いづらくなっている箇所があります。まずはその部分を戻すためのエクササイズから行っていくことが大切です。
また、産後は関節をとりまく靭帯などの組織もまだ柔らかい時期。弱っている部分を戻す前に負荷の強い運動を行ってしまうと、体のあちこちに過度な負担をかけ、かえって痛みなどのトラブルを招くことにもなりかねません。産後の運動は、弱い部分を整える所から始めていくことを意識しましょう。
出血や腰痛など異常を感じたらすぐに中止。必要に応じて受診を
・傷の痛みがある
・腟からの出血がある
・内臓の下垂感がある
・動くたびに尿もれがある
などの場合は、運動は一旦中止し、産婦人科や場合によっては泌尿器科で一度確認をしてもらいましょう。
また、「ベッドから一歩も動くことができない」ような腰痛がある場合、ごくまれにですが「妊娠後骨粗鬆症」という病態による骨折の可能性もあります。この場合は、強く体を捻ったり曲げたりしないように気をつけながら、速やかに整形外科を受診しましょう。
まとめ
産後に運動を開始しても良い時期、時期別におすすめの運動、産後に気になるお悩み別におすすめの運動、産後に運動する際の注意点を解説しました。
産後は、妊娠によって大きく変化した体が、徐々に回復し元の状態に戻っていく時期です。ただし、まだまだ妊娠・出産という大仕事による影響は大きく、あまり無理をするとかえって回復を妨げる事態も招きかねません。
体型や尿もれなどのトラブルは気になりますが、まずは軽い運動からゆっくり体の調子を整えていきましょう。
(文・撮影:近藤可那先生/構成:マイナビ子育て編集部)
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます