産婦人科医が「HPVワクチン」の疑問に回答! 2価・4価って何? いつどこで接種すべき? 男の子にも必要?
HPVワクチンが子宮頸がんや中咽頭がんなどの病気を防ぐことは知っていても、我が子のワクチン接種をいつどこでしたらいいのか、よくわからないという保護者の方も少なくありません。そこで、産婦人科医の宋美玄先生にHPVワクチンについて詳しく聞きました。
子宮頸がんの大きなリスクとなるHPV
HPVワクチンは、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染症を防ぐためのワクチンです。HPVは、性的接触のある女性の50〜80%が生涯に一度は感染するといわれるほど一般的なウイルス。もちろん、男性も性交渉をする年齢になれば、かなり多くの人が感染します。そのため性的接触によって感染が広まってしまうのです。
このHPVが子宮頸部に感染すると、一部の女性は数年〜数十年後に、感染した細胞が異常な形に変化する「前がん病変」を発症します。ちなみに「前がん病変」になっても自覚症状はないため、早期に発見するためには20歳以降の定期的な「子宮頸がん検診」が必要です。
ただ、前がん病変が見つかっても特別な治療法はないため、経過を観察するしかありません。子宮頸がん検診は絶対必要だけれども、検診さえ受ければ安心というわけではないのは、このためです。経過観察中に前がん病変が消失する場合もありますが、「軽度異形成」から「高度異形成」へと進行した場合は、子宮頸部を円錐型に切除する「子宮頸部円錐切除術」などの治療が必要になります。
さらにHPVに持続感染した人の約100人に1人は、前がん病変が悪化して子宮頸がんを発症します。その場合には、がんの進行度に応じて、子宮頸部円錐切除術、子宮全体や周囲まで摘出する根治手術、放射線治療や抗がん剤治療などが行われることになります。
子宮頸がんは年間約1万人の女性がかかり、そのうちの約2800人が亡くなるほど、恐ろしい病気です。妊娠時に病気がわかって中絶を余儀なくされたり、子宮頸部円錐切除術によって早産しやすくなったり、子宮摘出によって妊娠できなくなったり、排尿障害に苦しんだりすることもあります。だからこそ、HPVワクチンで予防することがとても大切なのです。
初めての性的接触の前にHPVワクチンを
HPVワクチンは、できるだけ初めての性的接触を行う前に接種することが重要です。いつ、誰がHPVに感染するかわからないからです。日本では小学校6年生〜高校1年生の女の子がHPVワクチンの定期接種の対象となっていて、無料で接種できます。昨年、厚生労働省による予防接種の積極的な勧奨が再開しており、定期接種対象者へは個別通知による接種勧奨が行われます。
現在、定期接種できるHPVワクチンには、2価HPVワクチンの「サーバリックス®️」、4価HPVワクチンの「ガーダシル®️」があります。サーバリックスは、1カ月間隔で2回接種した後、初回から6カ月の間隔を開けて1回接種するのが一般的です。一方のガーダシルは通常、2カ月の間隔を置いて2回接種した後、初回から6カ月の間隔を開けて1回接種します。
2価HPVワクチンというのは、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型の2つの型に対するワクチン。一方、4価HPVワクチンというのはHPV16型と18型と、良性の尖圭コンジローマの原因となる6型と11型の4つの型に対応するワクチンです。いずれも接種することで、子宮頸がんの原因の50〜70%を防ぐことができます。
このほか、2021年2月より日本でも9価HPVワクチン「シルガード9®️」が販売されていますが、まだ定期接種ではなく、9歳以上の女性のみの任意接種(自費)です。たまに9価の定期接種化を待ったほうがいいかどうかを聞かれることがありますが、私はなるべく早めに接種したほうがいいと思います。
保護者の目線で見ると「うちの子はまだ幼いし、性的接触はしないだろう」と思ったとしても、意外と早く体験する子もいるものです。9価HPVワクチンの定期接種化を待っている間にHPVに感染してしまっては、元も子もありません。HPVワクチンには予防効果はありますが、感染してからの接種には発症を防ぐ効果はないのです。
自費になるけれど男の子も接種したほうがいい
HPVワクチンは、男の子も接種する意義が高いワクチンです。アメリカやカナダ、イギリス、オーストラリアなどでは、すでに国が女性だけでなく男性へのHPVワクチンの接種を推奨しています。
これは性的接触によって女性をHPVに感染させないためだけでなく、男性も自身の中咽頭がんや肛門がん、尖圭コンジローマなどを防ぐことができるため。日本で現在、定期接種の対象が女性だけなのは、コストとワクチン供給量に限りがあるためだろうと思われます。
そのため、現在、日本で男の子にHPVワクチンを接種する場合は任意です。つまり自費になってしまうのですが、2020年12月に4価HPVワクチンの「ガーダシル」が9歳以上の男子にも適応となっているので、接種後に有害事象が発生した場合には公的な救済制度の検討対象になります。
接種時期は、女の子と同様に小学校6年生〜高校1年生までの早めがおすすめです。女の子と同じく小児科や内科、産婦人科などで接種でき、費用はガーダシルの場合、全3回で合計5〜6万円ほどだと思いますが、詳しくは問い合わせてみてください。
以前、HPVワクチンは安全性が不安視され、一時的に積極的な推奨を差し控えられていました。しかし、ワクチン接種と因果関係があるかどうかわからない場合や短期間で回復した場合を含めて、副反応として何らかの報告があったのは接種1万人あたり約10人です。現在も安全性は常に確かめられています。
ですから、ぜひ多くの人にHPVワクチンを接種してほしいと思います。
キャッチアップ接種をお見逃しなく
平成9年度~平成17年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)で、過去にHPVワクチンを合計3回接種していない女性は、令和4(2022)年4月~令和7(2025)年3月の3年間、HPVワクチンを公費で接種できます。
以下の厚生労働省のリーフレットをみてください。
▶︎厚生労働省「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~」
さらに詳しく知りたい人は、宋美玄先生も運営メンバーである「みんパピ!」のウェブサイトをぜひご覧ください。
▶︎みんパピ!〜みんなで知ろうHPVプロジェクト
(解説:宋美玄 先生、聞き手・構成:大西まお)
※写真はイメージです
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます