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2024年02月14日 07:07 更新

嬉しいと思えず、怖かった妊娠中…出産の日、生まれてきた赤ちゃんに「おかえり」と言ったわけ|usaoさんインタビュー#2

妊娠・出産は人生がガラリと変わるぐらいの大きな“イベント”。だからこそ、今まで当たり前に思っていたことや気づかなかったことが、180度別な姿で見えてくることがあります。

2022年から妊娠と出産、子育ての日常を漫画にしてSNSに掲載してきたusaoさん。昨年2月に出産後、10月には『はじめましてあかちゃん 赤ちゃんより泣いちゃう母親の絵日記』(幻冬舎コミックス)を出版しました。

前回に続き、インタビュー連載(全3回)の第2回となる本記事では、usaoさんに「妊娠・出産して変化したこと」についてお伺いしました。

Lazy dummy

お話をしてくださった方
usaoさん(漫画家)

つらさ、喜び……妊娠・出産で思ったさまざまなこと

――コミックエッセイ『はじめましてあかちゃん』ではお子さんのことだけでなく、妊娠がわかってから出産までの期間のさまざまなエピソードも描かれています。大変だったこと・嬉しかったことなど、印象に残っているのはどんなことでしょう?

usaoさん(以下、usao) 妊娠中でいうと、まず思い浮かぶのが、うつ伏せで眠れなかったことです。お腹に赤ちゃんがいるから、うつ伏せになると潰してしまいそうで、自由に寝る姿勢が取れなくて。1人の体じゃないとこんなに大変なんだなって。

あとは、同じ妊婦さんでも、お腹が大きかったら皆さん席を譲ってくれるけど、お腹が目立たないうちはマタニティマークをつけててもなかなか席を譲ってもらえないことも多く……妊娠初期も意外と大変なんですね。

『はじめましてあかちゃん 赤ちゃんより泣いちゃう母親の絵日記』より

usao 道を歩いていても、妊娠中は横断歩道を素早くは渡れないし、ちょっとどいてって言われても身軽な動きはできない。でも相手は「こいつ動きが遅いな」とか思ってるかもしれない。

以前の私だと、運転中、横断歩道を歩いてる歩行者に対し「早く渡ってほしいな」などと思うことがあったかもしれません。でも、もしかしたらその人は妊婦だったかもしれない、それ以外の理由で早く歩けないかもしれない。普段は意識しないけれど、周囲にはいろんな背景のある人がいるんだなって妊娠してみて気づかされました。

生まれてきた子に言った「おかえり」の意味

――妊娠中のしんどさを経験して、視野が広がったのですね。嬉しかったこともありますか?

usao 嬉しかったことは「産んだこと」ですね。人間が生まれた、っていうことにびっくりしました。すごい不思議な感覚でしたね。

生まれてくるまでは、ほんとに人間が入ってるのかな? ぐらいに思ってたんです。エコーの時もモノクロの画面の中で何かが動いてるだけで、顔も見えないし、出産直前まで性別もわからなかった。3Dエコーもしたけど、やっぱりよくわかんなかったです。それもあって、妊娠中も嬉しいと感じられず、怖くて怖くて……。

そして出産し、その“白黒の何か”が、産んだとたんに急に“カラフルな赤ちゃん”になったから、「本物の人間だ!」って思わず言っちゃったんですよ。

それから赤ちゃんになんて声をかけようか考えて、「おかえり」って言ったんです。お腹の中からお母さんの胸の上に来て受け止めてもらえたんだから、家に帰ってきたようなものだ、じゃあ「おかえり」だなって思って。自分もとりあえず産んだ! ってことでほっとしました。

『はじめましてあかちゃん 赤ちゃんより泣いちゃう母親の絵日記』より

――出産するまでの間、赤ちゃんを直接見られるわけではないので、どうしても不安な気持ちになりますよね。

usao だから、産婦人科の先生や看護師さんが「大丈夫だよ」「赤ちゃん幸せだよ」って慰めてくれたのは嬉しかったです。言葉をかけてもらえるって、ほんとに嬉しいことなんだなって改めて感じました。ポロッと言われた一言は、今でも自分の中で力になってます。

赤ちゃんが生まれて、周りに頼ること、いい意味であきらめることが上手に

――赤ちゃんが生まれてから、こんなに変わるの!? っていうぐらい生活が変化したと思いますが、気持ちにも変化はありましたか?

usao ありました。
アンパンマンじゃないけど、ずっと「自分が身を削っていけば、誰かを幸せにできて自分は成長できる」と思っていたのが、それは間違いだったってやっとわかりました。周りに頼らないと人は生きていけない、今まで人に上手に頼ってこなかったな、って。

自分の性格上、申し訳ないと思っちゃって上手に頼れないんですよね。でも、1人の子どもを育てるのは大変で、周りに頼らないと育てられない。赤ちゃんが教えてくれたんですね。「お前は1人で生きていくな」「頼ることも大切だよ」って。

――『はじめましてあかちゃん』の赤ちゃんに初めてミルクをあげた時のお話でも、「(良い意味で)あきらめ記念日(あきらめた日)」と描かれていますね。

usao そうですね。
最初は「はい、何時になったからミルク」「はい、泣いてるから抱っこ」と仕事みたいに思っていたんですが、子育てって仕事じゃないし、自分も親から仕事をこなすように育てられたわけじゃないよなって気づいたんです。

『はじめましてあかちゃん』より
『はじめましてあかちゃん 赤ちゃんより泣いちゃう母親の絵日記』より

usao 「母親という仕事」を完璧にこなすんじゃなくて、もっと自由に人間として接すればいいのかな、って思ったら、自分なりに諦めたり人に頼るのがだんだんうまくなってきたんです。特に旦那にわがままを言えるようになって、だんだん尻に敷くのが上手になってきたと思います。旦那は嫌かもしれないけど(笑)。

――パートナーの“K氏”、とっても優しくて思いやりのある方だなあと思いました。usaoさんから見たいつものK氏はどんな人、夫、パパですか?

usao すごくいい人です。そのままでいいんだよ、無理しなくていいよ、って言ってくれて、私を自由にさせてくれる。私が自分らしくいることを応援してくれる人。いつもありがとうって言いたいですね。

今は1年間育休を取ってて、私と2人で赤ちゃんの成長ぶりを見てます。毎日とっても楽しそうです。

『はじめましてあかちゃん』より
『はじめましてあかちゃん 赤ちゃんより泣いちゃう母親の絵日記』より

――子育てをしていく上で「頼ることができる」ことは大切ですね。パパ以外にも頼れる相手はいましたか?

usao 頼れる人をひたすら探しました。市役所の子育て支援課に行ったり、産婦人科に電話で相談したり、友だちを頼ったり。今まで「頼る」ってことをしてなかったけど、頼れるところは頼ってみようって思って。すごい勇気がいりましたけど、そこは自分なりにがんばりました。

そうやって、たとえば「市役所って頼っていい場所なんだ」と初めて知って、「これはみんなに伝えないと」と思い、漫画にしてSNSにアップしました。それを見て「市役所へ行ってみようかな」と思ってくれる人たちがいて、そうすると市役所が担っていることが広まって役所の人のためにもなるかもしれない。そんなふうに自分の経験が、漫画を通じて巡り巡って誰かの力になったらいいですよね。

(話:usao、取材・文:大崎典子)

『はじめましてあかちゃん 赤ちゃんより泣いちゃう母親の絵日記』の漫画を5話分まとめ読みはこちらから

次回(2024/02/15 07:07配信)は学校のこと、そして著書についてお聞きします。

©usao/幻冬舎コミックス

コミックエッセイ『はじめましてあかちゃん 赤ちゃんより泣いちゃう母親の絵日記』

はじめましてあかちゃん
『はじめましてあかちゃん 赤ちゃんより泣いちゃう母親の絵日記』(幻冬舎コミックス)
定価1,430円(本体 1,300円+税)

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