「これって個性?」不安に揺れる保護者へ。増え続ける“発達のつまずき”と向き合うヒントを、人気児童精神科医が解説
近年、学校現場では発達の特性が注目され、通常学級においても支援を必要とする子どもが増え続けています。文部科学省が2022年(令和4年)に実施した全国調査では、知的発達に遅れはないものの、学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒が小中学校で推定8.8%に上ることが明らかになりました(※)。
約35人学級なら“3人に1人”が何らかのつまずきを抱える可能性がある計算で、これらの子どもたちが適切に支援される環境づくりは、今や社会全体の重要課題になっています。本記事では、児童精神科医・さわ先生が、発達特性の基本的な考え方や子どもとの向き合い方をわかりやすく解説します。
※ 「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)」
\子どもの“困った”行動に悩むすべてのママ・パパに/
YouTube登録者数10万人超、SNSでも注目を集める児童精神科医・さわ先生が、発達ユニークな子どもたちが感じている「困りごと」と、周囲の大人にできる関わり方をやさしく教えてくれる一冊です。
今回は、発達障害の基本的な考え方や捉え方について、書籍『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)から一部抜粋してお届けします。
発達障害って病気なの?
障害なの? 病気なの?
よく「発達障害って障害なんですか? 病気なんですか?」という質問をいただくことがあります。
この問いに明確な線を引くのは、じつはとても難しいことです。
国際的な診断基準であるWHO(世界保健機関)のICD(国際疾病分類)や、アメリカ精神医学会の「DSM‒5」の日本語訳では、「発達障害」という表現ではなく、「神経発達症」という言葉が用いられています。
その背景には、「障害」という言葉が否定的なイメージや差別意識につながる可能性があるとの指摘があり、日本の翻訳や医療現場では、「〇〇症」といった中立的な表現が選ばれるようになってきたという事情があります。
ただし、本書では「神経発達症」という言葉がまだ広く浸透していないことなどから、一般的にもなじみのある「発達障害」という表現を使用することにしています(この点について、ご理解いただければ幸いです)。
「障害」という表現を避け、「特性」「困りごと」などの言葉で伝えようとする動きが、医療や福祉、教育の現場で広がっています(一般的な呼び方としては、依然として「発達障害」という表現が用いられているのが現状です)。
「発達障害」とひと言で言っても、その困りごとや特性は人それぞれです。
その人ごとに、必要とする支援のかたちも異なります。診断を受けて医療や福祉の支援につながる方もいれば、診断がなくても家庭や学校でのサポートのみで安心してすごせる方もいます。
発達の過程には、大きな個人差があり、だれひとりとしてまったく同じ道をたどる人はいません。適切なサポートを受けて、落ち着いた生活を送る方もいれば、発達の特性によって日常生活や人間関係に困難を抱える方もいます。
なかには、明らかに支援が必要で、「障害認定」を受けることが適切なケースもあります。
実際、専門家の間でも意見は分かれており、「発達障害は多様性の一部である」とする考え方もあります。
ただし、「多様性だから病気ではない」という結論にすぐ飛びついてしまうのは、やや短絡的かもしれません。
たとえ“多様性のひとつ”であったとしても、それによって社会生活に困難が生じるのであれば、1人ひとりに合った環境の調整や、その特性への理解が必要です。
私は「発達障害は病気かどうか」と問われたとき、それは白黒つけられるような問いではなく、「どのように生きやすくなるか」を一緒に考えるべきテーマなのだと考えています。
「発達障害」はとらえ方でも変わってくる
発達の特性を「個性」としてとらえる向きもあります。
私もクリニックの診察室でそのように説明することがありますが、難しいのは「どこからどこまでがその人の個性で、どこからが発達障害の特性なのか」ということです。
私は、これは親御さんのとらえ方によっても変わってくると考えています。
わかりやすい例で言うと、よく走り回っている子どもの行動を「発達障害(ADHD)の特性」としてとらえるのか、「個性」としてとらえるのか。
この場合、親御さんがその行動を「個性」ととらえて、おだやかに子育てができていて、親も子も困っていないのであれば、「個性」としてとらえても問題ないと思います。
ですが、お子さんの言動に対して親御さんが困り果ててしまい、どう対処すればいいかわからない状況が続いていたり、日常的に怒ってしまったり、不安や危機感を抱えていたりする場合は、「発達の特性」ととらえて専門家に相談したほうがいいでしょう。
「グレーゾーン」という言葉もよく聞かれます。発達に特性があって診断基準であてはまる項目があるものの、確定した診断にはいたらない状態のことです。
ちなみに「グレーゾーン」は正式な診断名ではありません。しかし、発達障害の診断がついていなくても、特性を持っている子どもはいます。
そうした子どもにも、発達の特性に合わせた関わり方や対応をすることで、その子がより生活しやすくなるケースもあります。
ですので、グレーゾーンだから、うちの子は問題ない、特別なサポートはいらないと考えるのではなく、その子の特性に合わせた生活環境を整えたり、サポートをしたりすることで、子どもが「生きやすくなる」方法があるのだと理解してもらいたいのです。
ただし、一般的な「治る」という概念の病気とは異なり、発達の特性が「なくなる」ことをめざすものではありません。
たとえ対応や環境によって困りごとが減り、日常生活が少しずつスムーズになっていっても、特性そのものがなくなるわけではありません。
環境や人間関係の変化によって、また新たな困難を感じる場面が出てくることもあります。
大切なのは、発達のユニークさを持つ子の1人ひとりが、安心できる環境のなかで、無理をせず、その子らしく成長していけること。そして、どの子も「そのままで尊重される存在だ」と感じられることです。
そのため、本書では制度や支援との関係から「発達障害」という言葉を使用しつつも、「その人の特性(ユニークさ)を理解し、支え合う視点」を大切にしていきたいと考えています。
続きはぜひ書籍でご覧ください。
※本記事は、『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』<著:精神科医さわ/日本実業出版社>より抜粋・再編集して作成しました。
