- 掲載
- 2026年08月20日 11:01
「叱るとは説明すること」尾木ママが語った、子どもの自己肯定感を育てる親の習慣【鯖江市ドリーム・チャレンジ2026】
「褒めるべき? 叱るべき?」「子どもに夢を持たせたほうがいい?」
AIの進化が加速するなか、子育てに不安や迷いを感じる保護者も少なくありません。
そんななか、福井県鯖江市で開催された「ドリーム・チャレンジ2026 キックオフイベント」に、「尾木ママ」こと教育評論家の尾木直樹さんが登壇。AI時代に求められる力や、子どもの自己肯定感を育む親の関わり方について語りました。
AIが急速に普及するこれからの時代、私たちは子どもの「夢」とどう向き合い、どんな力を育んでいけばいいのでしょうか。熱気に包まれた会場の様子をレポートします。
尾木ママ「AI時代に一番大事なのは笑顔」
講演の冒頭、尾木さんは「AI時代だからこそ、人間にしかできない力が重要になる」と話しました。
「AI時代に一番大事なのは、AIが持っていない力です。第一は笑顔の力。口角を上げるだけでドーパミンや、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが出て、リラックスし、挑戦する力が湧いてきます。心が何重にも穏やかになるんですよ」
会場には自然と笑顔が広がります。
さらに尾木さんは、「笑顔の多い人に囲まれている環境も大事なんです。親や先生がニコニコしていると、子どもも安心して心を開いてくれます」と続けました。
また、かつては理数系の能力が重視されていた一方で、いま世界の名門大学では創造性や芸術的な感性への関心が高まっていると紹介。
「ハーバード大学やスタンフォード大学では、学内でコンサートを開催したり、アートの力を伸ばすための取り組みが増えています。これこそ人間ならではの力。AIは画像生成こそできますが、創造性を育むのは人間なんです」
と話しました。
「先生に叱られても『僕は自分が好き』と思える子に」
尾木さんが特に強調したのが、子どもの自己肯定感(ウェルビーイング)のあり方です。
「親御さんがやりがちなのは、誰かと比べたり、何かを達成したときばかり褒める、いわゆる社会的自己肯定感ばかり育ててしまうこと」
一方で、最も大切なのは「絶対的自己肯定感」だといいます。
「誰かと比べて優れている、と思うのではなく、先生に叱られても、忘れ物が多くても、『僕は自分のことが好きだ!』と思える力です。これさえあれば、子どもは決して変な方向には行かず、伸びていきます」
尾木さんは、かつて東京大学で教鞭をとっていたころ、学生から受け取ったレポート課題を「寂しくなる内容だった」と振り返りました。
「『なぜ勉強ができるようになったのか』について書いてもらったら、『先生にできる子だと思われたい一心で勉強した』『親が喜ぶから勉強した』という内容が多かったんです」
周囲からの評価を求める気持ちは原動力になる一方で、それだけでは主体性が育ちにくいと指摘します。
「理解できた!という喜びで勉強できるようになれば、継続して勉強できるんです。これは現代の教育が抱える課題でもあります」
尾木さんは、周囲の評価に依存する「社会的自己肯定感」ではなく、ありのままの自分を認める力が、困難に立ち向かう「レジリエンス(しなやかな回復力)」の土台になると話しました。
「叱るとは説明すること」褒められない日は認めるだけでいい
子どもとの接し方についても、具体的なアドバイスがありました。
「叱るというのは、説明すること。大きな声を上げたり、暴力を振るうことではありません。なぜいけないのかを言葉で説明することなんです。私の父は絶対に殴らなかったけれど、叱る時は『直樹、火鉢の横に座れ』と言い、なぜいけないのかを静かに説明してくれました」
さらに、
「褒めるのが難しい時は、認めるだけでもいいんです」
と続けます。
「昼過ぎに起きてきても、『起きられたね』『歯も磨けたね』と伝えてあげる。声に出すことが重要なんです。これだけで子どもは、自分の存在を肯定されていると感じられますから」
「夢は安心感の中で育つ」
イベント第2部では、「ドリーム・チャレンジ2026」の総合プロデューサーを務める、福井県鯖江市出身の書家でプレゼンテーションクリエイターの前田鎌利さんと尾木さんの対談も。
前田さんは、「鯖江の子どもたちは夢を語ることにとても前向き」と話し、鯖江ならではの空気感を紹介。
夢を持つ意味について尋ねられた尾木さんは、
「夢を持つと、それについて家族で話し合ったり励まし合ったりする機会が増えるでしょう。家族の絆が深まるきっかけにもなるんです」
「挑戦する心が育まれ、それを大人がサポートすることで、一人では形成できない『耐える力』も育ちます」
と語りました。
また前田さんが、「夢を語ることを強要される“夢ハラ”という言葉もあります。どうすれば自然に夢を持てるのでしょうか」と問いかけると、尾木さんは「家庭や学校で認められ、期待されているという安心感の中でこそ、夢は育つんです」と応じました。
イベントでは参加した子どもたちが将来の夢を発表する場面もあり、
「駄菓子屋さんになりたい!」
「スクールカウンセラーになりたい。自分が助けてもらったことがあるから、自分が大人になった時に子どもたちに安心して学校に来てもらいたい」
「バレーボール選手になりたい。今は練習がすごく楽しい。いつかかっこいい選手になりたい!」
次々と飛び出す夢のひとつひとつに、尾木さんは丁寧に耳を傾け、
「いい夢! 応援するわ!」
と笑顔でエールを送りました。
子どもの夢を地域で応援する「ドリーム・チャレンジ」
今回の講演会は、鯖江市が取り組む「ドリーム・チャレンジ2026」のキックオフイベントとして開催されました。
「ドリーム・チャレンジ」は、市内の小中学生が自分の夢をプレゼンし、その実現に向けて行政や企業、地域の大人たちが協力して応援するプロジェクトです。
最大の特徴は、市が民間企業や団体など多岐にわたるつながりを生かし、子どもたちの夢を叶えるプラットフォームになること。
これまでに、
子ども考案のスイーツを販売する1日限定ショップ
種子島でのロケット打ち上げ見学
テーマパークでの職場体験
などが実現してきました。
子どもたちはプレゼン研修を受けたうえでコンテストに挑戦し、自分の夢を発表。選ばれた夢には地域全体で伴走し、実現に向けて支援します。
尾木さんはこの取り組みを、「講演会やプレゼン講習、コンテストまであるのは全国でも珍しい。子どもが育つ仕組みができている、尊敬すべき取り組みですね」と評価しました。
また、本プロジェクトを初年度から支える前田鎌利さんは、「鯖江には夢を面白がる大人がいる。その安心感が、子どもたちをオープンにさせています」と語りました。
講演後、来場した保護者はこう話します。
「今日は息子の新しい夢を聞けて良かったです。聞くたびにコロコロ変わるのですが、それでいいと思っています。夢を語ることにプレッシャーを感じてほしくないですから。大きな夢も大事ですが、小さな夢をコツコツ叶えていってほしいですね」
AIが進化しても、人が人を認め、応援し、寄り添うことの価値は変わりません。
尾木さんが語った「笑顔」「自己肯定感」「安心感」は、子どもが夢へ向かうための土台そのものなのかもしれません。
尾木 直樹(尾木ママ)
教育評論家、法政大学名誉教授。滋賀県出身、早稲田大学卒業。メディアでは「尾木ママ」として絶大な人気を誇り、NHK『ウワサの保護者会』のMCやSNS発信など幅広く活動。現在は臨床教育研究所「虹」の所長を務める傍ら、鯖江市の私設図書館「つぐみ」の本棚オーナーを務める。
前田 鎌利
福井県鯖江市出身。書家、アーティスト、プレゼンテーションクリエイター。株式会社固代表取締役、一般社団法人継未 代表理事。一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事。めがねのまち さばえPR大使。ドリームチャレンジ総合プロデューサー。尾木氏とは子どもたちの事業提案を審査する「スタートアップJr.アワード」の審査員を共に務めるなど親交も深い。
ドリーム・チャレンジ2026とは?
鯖江市に在住する小学生・中学生の「夢」を応援するプロジェクト「ドリチャレ」。
https://katamari.co.jp/sabae-dreamchallenge2026
◆2026スケジュール
①叶えたい「夢」を伝えるプレゼン研修会(要申込)
日時:2026年8月11日(火祝)9時~11時
場所:鯖江市役所 4階多目的ホール
講師:株式会社固 代表取締役 前田鎌利さん/キッズプレゼンテーション講師 橋本緑さん
申込期間:7月19日(日)~8月9日(日)
参加費無料
②動画審査(予選)
9月10日(木)までに提出された動画を審査し、
小学低学年部門3チーム程度、小学高学年以上部門7チーム程度を選出
③叶えたい「夢」プレゼンコンテスト(本選)
5分間のプレゼンおよび審査委員との質疑応答の内容を総合的に判断し、
応援する「夢」を決定
日時:2026年10月18日(日)13時~15時
場所:鯖江市高年大学
④「夢」の応援
応援する「夢」に選ばれた個人またはチームに対して、
11月以降に叶えたい「夢」の実現に向けた「学び」や「体験」などをプレゼントします。
・コンテストエントリー資格
次のすべてを満たす個人またはチーム(3名以内)であること
1)鯖江市内に在住する小学生または中学生であること
2)叶えたい「夢」があること
3)叶えたい「夢」プレゼンコンテスト(10/18午後)に出場ができること
・コンテストエントリー方法
8月11日(火)から9月10日(木)までに申込
▼詳細は下記にてご確認ください
https://www.city.sabae.fukui.jp/about_city/kekaku_torikumi/dream_challenge2026.html
鯖江で見つけた、夢を叶える街づくり
今回の取材を通じて感じたのは、鯖江市という街全体が、子どもたちの「やってみたい」を自然に支える伴走者になっていること。「子どもの頃、夢を応援してもらった」という記憶が、自己肯定感を支える礎になることが伝わりました。時代が変わっても、自立して歩んでいける最強の武器になるはずです。AI時代だからこそ、人と人が手を取り合い、夢を語り合う。そんな希望に満ちていました。
(取材・文・写真 米田ゆきほ)
