- 掲載
- 2026年08月19日 10:11
実は「掃除しなさい」はNGだった。教育評論家 親野智可等先生がすすめる、夏休みの「親子大そうじ」が子どもを伸ばす理由
いま、夏の大そうじが増えている理由
2026年4月、気象庁は1日の最高気温が40度以上になる日として「酷暑日」を制定しました。実際に最高気温が40度を記録する地域もあり、令和の夏は猛暑・酷暑が当たり前になりつつあります。本来ならば小さな子どもには外遊びをさせたり、小学生には「動画ばっかり見てないで、公園で遊んできなさい!」と外出させたりしたいところですが、危険な暑さゆえにそうも言っていられません。せっかくの夏休み。子どもたちに家の中でも有意義な時間を過ごしてもらうには、どうしたらいいのでしょうか。
そんな子育て家庭に向けて、数多くのホームケア用品を手がける花王が提案しているのが、「夏休みの親子大そうじ」です。
<夏の大そうじとは?>
猛暑・酷暑で在宅時間が長くなり、家の汚れが気になりやすい夏に行う新しい大そうじのスタイル。子どもが家にいる時間の長い夏休みに家族みんなで取り組むことで、家事シェア・子どものそうじ習慣づくりや親子コミュニケーションの向上につなげることを目的のひとつとしている。
実際、夏に大そうじをする人は増加中。花王の調査によると、2025年の夏の大そうじ実施率は2023年と比べて大きく上昇しています。気温が高いので「乾きやすい」「油汚れが落ちやすい」など、夏ならではのそうじのしやすさも、その背景にあるようです。
特に共働き家庭では、普段のそうじを週末にまとめて行うことも少なくありません。夫婦のどちらかが子どもを公園へ連れ出している間に、もう一方が手早くそうじを済ませる。そんな家庭も多いのではないでしょうか。
その一方で、花王によると、子どもの「年末大そうじ」参加率は10年前より低下しているといいます。子どもがそうじに関わる機会が減っているいま、家庭でそうじ習慣を身につけてもらうのは簡単ではなさそうです。
そこで花王が着目したのが、子どもが家で過ごす時間の長い夏休み。家族で一緒にそうじに取り組む機会を自然につくりやすいことから、「夏休みの親子大そうじ」を提案しているのです。
しかも、子どもにとって、そうじは単なる家事ではありません。親子でコミュニケーションを取りながらそうじをすることは、親子関係の向上につながる可能性があるだけでなく、子どもの成長に欠かせない「非認知能力」を育む機会にもなります。
そこで今回は、子育てやしつけ、親子関係、家庭教育に詳しい教育評論家の親野智可等(おやの ちから)先生に、子どものそうじのお手伝いについて話を聞きました。
親が見落としがち! 子どもにお手伝いをしてもらう”本当の意味”
話を聞いたのは……
教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、家庭教育について具体的に提案。人気漫画『ドラゴン桜』の指南役としても著名。『親の言葉100』『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』などベストセラー多数。
そうじのお手伝いの目的は「しつけ」や「自立」ではない
ーー親野さんは以前から「お手伝いは子どもの成長につながる」ことを発信されていますよね。
親野智可等さん(以下、親野) まずそもそも、なんのために子どもにお手伝いをさせるか、ということを考えてほしいんですが、どう思われますか?
ーーしつけや自立を促すため、でしょうか?
親野 いや、ちがうんです。自立やしつけは、もうちょっとあとの話だと思います。最優先すべきは、親子関係を良くして、子どもの自己肯定感を高める。これがお手伝いの目的です。
親野 自立やしつけ、生活習慣にアプローチする、というのは、「能力をつけよう」というベクトルじゃないですか。そうすると、叱る回数が増えてしまうんですよ。これを理解していない親御さんが非常に多いように感じます。
ーーたしかに、「ちゃんとやりなさい」と叱りたくなってしまいます。
親野 そうなんです。「なんでやらないの!?」「もっとうまくやりなさい!」「何度言ってもできないね」……こんな言葉が出てきてしまう。
ーーしつけや自立が目的ではない、ということがよくわかりました。
親野 「親子関係を良くして自己肯定感を高めるためのお手伝い」という発想を前提にすると、褒めることが増えるんです。「◯◯をしてくれて助かったよ。ありがとう」「疲れていたから、洗濯物を取り込んでくれて本当にうれしい。大好き!」とかね。
ーーたしかに、そういった接し方をしたほうが、良好な親子関係を築くことができますね。
親野 これを理解しておけば、叱るなんてナンセンスだってわかるはず。ムリヤリお手伝いをやらせたり、失敗を叱ったり、自己肯定感を下げるようなことは起こらないと思います。
人生の土台となる「非認知能力」の重要性とは
ーーそういった前提がある上でお聞きしたいのですが、そうじのお手伝いにはどんな教育的価値があるのでしょうか。
親野 まず、人間には「認知能力」と「非認知能力」というものがあります。最近は中学受験者数も増加していますし、「とにかく勉強させて成績を上げる」を第一に考える親御さんも多いかと思います。「認知能力」はそうした場面で重視される学力やIQなど、知的な情報処理を伴う能力です。
対する「非認知能力」は、知的な情報操作以外にかかわる能力のことですね。たとえば、自分が定めた目的のために、どうしたら達成できるか試行錯誤しながらやり遂げる能力「グリット」や、失敗したあとに自分を肯定しながら復活してがんばる能力「レジリエンス」などです。こういった、数値化できないけれどすごく大事な能力を、まとめて「非認知能力」と言います。
親野 あるアメリカの研究によると、この「非認知能力」が学力の土台になるとわかっており、ひいては人生の土台だと言っても過言ではありません。
ーーこうした「非認知能力」は、そうじのお手伝いによって身につくことが期待できるんですね。
親野 そうですね。ほかには、家族が「あなたがそうじしてくれたから、お風呂に気持ちよく入れたよ。ありがとう」など感謝してくれる。すると「自分はみんなの役に立てるんだ。成し遂げられるんだ」と自己効力感が高まります。
それに、手順を一度インプットしてから行動に移すための力、ワーキングメモリーが鍛えられます。そうやって五感と体を使うことで、「感覚統合」を促すという側面もありますね。
あとは責任感や自己管理力も高まります。「今日は面倒くさいな。休みたいな」と思っても「でも、きれいにしないとみんながお風呂に入れないしな」とやり遂げる力ですね。
ーー家族みんなの顔が思い浮かぶのは、責任感の表れですね。
親野 そして家族との共同作業によりコミュニケーション能力も高まります。
ーー生きていく上でとても大切な能力ばかりです。ぜひ子どもにやってほしいと思いますが、どのように促せばいいですか? 子どもの重い腰を上げさせるのが一番難しいと思うのですが……。
親野 やっぱり最初の投げかけ方が大事だと思います。「やりなさい!」だと、当然子どものモチベーションは上がらないですよね。
子どものやる気ってジェットコースターみたいなもので、最初に高い所に上げてそこから位置エネルギーを利用して突っ走られるようにすることが大事なんです。低い位置からスタートするとすぐ止まってしまいます。
ーーなるほど。日常的に、お手伝いを促す前にやる気を高めておくんですね。
親野 そうですね。たとえば子どもがなにかをやってくれたときに「ありがとう! 助かったよ!」とものすごく感謝したり、勉強をがんばっているならそのつどそれを褒めたりすると、やる気が高まります。
それが下手な親御さんになると、「いつもお父さんとお母さんがやってるんだから、夏休みくらいお手伝いしなさい!」。これでやる気が上がる子っていないと思うんですよ。
ーー位置エネルギーが低い場所から始まるから、まったく続かないんですね。
親野 そうなんですよ。しつけだからと上から目線で指示や命令を出して、やらないと罰を与える。それではムリです。褒めることで、いい雰囲気を作っておくことが大事ですね。
夏の大そうじを習慣化する秘訣
ーー事前にやる気を高めることのほかに、どんな手立てがありますか?
親野 ゲーム性を取り入れるのも効果的ですよね。床掃除用のフローリングワイパーを持たせて、「どっちが多くゴミを取れるか競争だ!」という方法もありますね。
自由研究の題材にするのもおもしろいと思います。リビング、玄関、和室など、それぞれをフローリングワイパーでそうじして、ついたゴミを簡易顕微鏡で覗いてみるんです。そうすると、一種類だけではないさまざまなゴミがついていることや、部屋によってゴミの種類が違うのがわかって、十分に研究になり得るんです。
ーーそうじだけではなく、ほかの目的をプラスするのはいいですね!
親野 「こんなにたくさんゴミがある場所に住むのはうれしくないよね。どうしたらきれいになるか、一緒に考えよう」とそうじのお手伝いに結びつけていく、という側面もあります。
ほかに、節目に家族みんなで抱負を言い合う機会を設けるのもいいですよね。たとえばお父さんが、「今年は必ずゴミ出しをする」と抱負を立てると、「お父さんも家族のためになにかやるなら、自分もやってみよう」という気になるかもしれません。
ーーとなると、節目として夏休みは絶好の機会ですね。今回の夏の大そうじがきっかけで、そうじのお手伝いが習慣化するのが理想的だなと思いますが、習慣化に報酬は効果的ですか?
親野 基本的にはおすすめしません。私の教え子で、運動会のときに「クラスの子を応援しよう」と声をかけたら、「応援したらいくらくれる?」と返す子がいたんです。それは何に対してもで、友だちにも言っていたようです。のちに「勉強をがんばったら100円、テスト90点以上で100円」ということをやっているご家庭だとわかりました。
お手伝いというのはそもそも、家族が一緒に暮らしているなかで「自分もなにかしらみんなの役に立ちたい」からやるものですよね。そうなると報酬はちょっと違うのかなと思います。
ーーでは、どうすれば習慣化につながりますか?
親野 当たり前になるまでなかなか難しいんですが、「何をやらせるか」というのはすごく大事ですね。子どもによって、生まれつきの資質や能力って全然違うんですよ。はっきり言うと、お手伝いに向いている子と向いていない子がいるわけです。手作業が好きな子はどんなそうじも好きだけど、手作業が好きじゃない子もいるわけです。
ーー大人でも、家事の得手不得手はあります。子どもならより顕著に表れそうです。
親野 料理が好きな子、計算が好きな子、ボールを使って走り回りたい子、ダンスが好きな子、本を読んで物語に没頭したい子、人形遊びが好きな子……それぞれ、生まれ持った資質なんです。
そんなふうに生まれつきのものがあるから、親が期待するようなお手伝いには向かない子もいる。そういう子には、単純な作業を振る。「玄関の靴を揃える」とか、複雑なことを要求しない方がいいと思います。
お手伝いに期限を設けたほうが、子どもの成長につながる!?
ーー親からすると、靴を揃えるのはやって当たり前で、お手伝いの範疇ではないと思ってしまいそうです。
親野 そうではないんですよ。あまり高望みはしないようにしたほうがいいですね。向いていないことをやらせようとすると、叱る材料が増えてしまいます。
ーーたしかに、そうするとそもそものお手伝いの意義から反れてしまいますね。
親野 もうひとつ、習慣化に大事なのは、親が必ず見届けることです。たとえば9月は、新学期が始まる節目ですよね。「二学期は玄関そうじをする」と決めたとする。子どもは最初の2、3日ははりきるし、親も見届けて褒めるんです。でも、だんだんと子どものやる気がなくなっていくし、親も見届けなくなり、2週間もするとお互いにすっかり忘れてしまいます。なのに、必ず親が先に思い出すんです。それで「やってないじゃん!」「サボってる!」となる。親は自分も忘れていたのに、叱るんです。
ーーありがちですね、すみません……。
親野 続かない原因は、親が見届けを忘れるからなんです。見届けて感謝したり褒めたりする。もし忘れていたらやらせて、あるいは一緒にやって、それから褒める。これを親が続けることができれば、子どもも続きます。
親野 もうひとつ、期限がエンドレスだと難しいんです。「2週間やろうね」と期限をつけて、やり遂げたら褒める。それで終わりにしてもいい。終わりにしても、子どもは「やり遂げた」という達成感を持つことができますから。失敗の一因は、親が期限を設けず始めさせることにもあるんですよ。
ーーそういった意味でも、夏休みは期限が設けやすく、そうじのお手伝いを始めるのは相性がいいですね。
親野 そうですね。「お手伝いの目的は親子関係を良くして自己肯定感を高めること」「子どもの得意・不得意を見極めて、やってもらうお手伝いを考えること」、この2つを意識してほしいですね。「高学年にはこのお手伝いが最適!」など、年齢などで区切るやり方もありますが、あれは一応の目安にはなるけれど、あまりこだわらないほうがいいと思います。年齢差や学年差より、個人差・生まれつきの資質によるものが大きいので。
ーー鵜呑みにしすぎると「低学年ができることを、高学年のあなたがなんでできないの?」と叱る材料になってしまいそうです。
親野 そうなんです。逆効果なんです。だから、とらわれすぎず、子どもに合った方法でやってみてくださいね。
子どももできる! お手伝いTips
【1】フローリングワイパーの柄を子どもの身長に合わせて短くする
柄の長さを調節することができるフローリングワイパーなら、子どもの身長に合わせて使用すると◎。自分仕様の″マイワイパー”でお手伝いを始めれば、扱いやすく、楽しくお手伝いができそう!
【2】拭きそうじは「直角拭き」で!
お手伝いの第一歩には、食後のテーブルや勉強した机を拭いてもらう「1ヶ所おまかせ」スタイルがおすすめ。その際、上手な拭き方として「ヨコ・タテ・ヨコ・タテ」と直角を意識して拭く″直角拭き”だと拭きムラを防げます。
【3】お風呂そうじは「考える力」が鍛えられる
洗う箇所が多く、段取りが必要になるお風呂そうじは、どこから洗うと効率的なのかを考える力が養える。夏場は水がぬるく濡れることへのハードルも下がりやすい。そうじが複雑でスペースが広い分、そうじが終わったあとの達成感もひとしお! ただし、小さい子どもの場合、浴槽に残った水が原因で溺れたり、浴槽や浴室内の滑りやすい床で転倒したりする危険があります。小さい子にはやらせない、必ず浴槽の水を抜いたり床に滑り止めシートやマットを敷く、などの安全対策をしましょう。
はじめよう!夏の大そうじ/花王
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(取材・文:有山千春、撮影:佐藤登志雄、構成・編集:マイナビ子育て編集部、取材協力:花王)
